著者
荒谷 徹 上林 憲行 横山 峰明 稲垣 政富
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.248-261, 1990-07-16

本論文では,汎用プログラミング言語における,英語,日本語,韓国語等の多種類の文字を扱うための文字処理機能のあるべき姿と,そのSmalltalk-80上での実現方式について述べる.汎用プログラミング言語における日本語文字処理機能は,処理の効率,既存のプログラムとの互換性を維持するため,従来の8ビット/文字の文字型に加えて16ビット/文字の文字型を追加したものが多い.しかし,2種類の文字型を持ち,文字データの処理を統一的に記述できない文字処理機能は,アプリケーションプログラムを複雑にし,その開発を困難にする.また,使用する文字が異なる環境の間でのアプリケーションプログラムの流通に対する大きな障害でもある.我々は,多種類の文字を効率良く,しかも統一的に操作する機能(多言語機能)をSmalltalk-80上に実現するために,Smalltalk-80のオブジェクト指向機能を用いて,さまざまな内部表現の文字列を統一的に扱う枠組みを実現し,Smalltalk-80上で,いずれの内部表現を持つ文字列も,区別なく,文字単位で操作することを可能にした.これにより,同一のプログラムで任意の文字を処理する,国際的なSmalltalk-80アプリケーションを開発することが可能になった.また,Smalltalk-80のオブジェクト指向メカニズムを利用して,多言語機能そのものを明確に表現し,かつ拡張性に富む実装を実現している.
著者
大野 豊
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.2-5, 1984-04-13

日本ソフトウェア科学会が昨年10月8日に発足して以来,ほぼ半年の準備でようやく学会誌の創刊号を発行できたことは,関係者にとって大変よろこばしいことである.本学会が何とかここまでたどりつけたのは,高橋秀俊先生をはじめとする準備委員会の方々の大変なお骨折りと発起人諸兄の絶大な御支援があったからに外ならない.厚く感謝致します.また,会長メッセージを寄せられて激励いただいた情報処理学会および祝電をいただいた電子通信学会,認知科学会には,会員一同に代り,ここにあらためて深く謝意を表します.本学会は発足後日も浅いため,学会発足の背景やねらいについて,各方面から充分理解されているとはいえない.本創刊号の発行にあたり,これらのことを含めわれわれの意図するところを説明することにしたい.
著者
吉田 展子
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.303-326, 1996-07-15
被引用文献数
1

本稿では,名前通信並行プロセス計算のコンビネータ理論を提案する.関数型コンビネータが有限の組み合わせで計算可能な高階関数を表現する新たな基盤を与えたように,この並行コンビネータも非同期名前通信を細密に分解することによって導出され,その有限個の並行合成と相互作用計算で名前通信プロセス計算と同等の計算を表現するという新たな枠組みを提供する.まず本稿では,非同期名前通信計算の7つのコンビネータとそれら2者間の相互作用則を定義し,動作意味論を等式理論を基盤に展開する.次に,それらの並行合成と名前制限のみで名前通信計算のプレフィックスが動作的に表現できることを述べ,さらにこの結果の拡張として同期名前通信,多引数名前通信,分岐構造が表現できることを示す.最終的には本稿の並行コンビネータ系と非同期名前通信プロセス計算の一対一対応が示されることにより,この理論体系が名前通信プロセス計算族における結果を引き継ぐことを示す.
著者
小林 隆志 佐伯 元司
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.60-75, 2004-01-27

本稿では, Gang-of-Four(GoF)デザインパターンのようなソフトウェアパターンを使用したソフトウェア開発を支援するために, パターンのモデルとその利用法に関して議論する. 我々はパターンを使用した開発の問題点は, 開発者によるパターンの持つメカニズムを壊す変更であると捉え, パターンとその正しい使用過程のオブジェクト指向モデルを提案する. 本モデルでは, パターンには変更可能な箇所と, パターンの持つメカニズムのために変更すべきではない箇所がある点に着目しパターンの構造情報と, 変更可能な構造をどのように変更するべきかの操作情報を保存する. また本稿では, モデルを記述する言語としてJavaを選択し実際にGoFパターンのうち22個を記述する. また, その記述を利用し開発者を支援するツールを提案する.

2 0 0 0 OA POPL'94報告

著者
Garrigue Jacques
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.11, no.5, pp.432-436, 1994-09-16
著者
吉田 隆一 所 真理雄
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.23-33, 1987-01-14
被引用文献数
2

待ち行列モデルに代表される離散事象モデルのシミュレーションを,マルチ・プロセッサまたは分散システムを用いて並列処理する際のシミュレーション時刻の分散管理法を提案する. モデル化の手法としては,待ち行列網をフロー・グラフに表現する方法を採る.そして,グラフのノードを並列処理の単位となるプロセスとし,客のノ一ドへの到着をメッセージの受信により表現する.各ノードはそれぞれのシミュレーション時計を持ち,これらの時計の同期はノード間のメッセージ交換により局所的にとられる. 提案したアルゴリズムはオブジェクト指向言語を用いて実装された.オブジェクト指向モデルによるオブジェクトを単位とした並行記述により,離散事象モデルに存在する並列性を陽に表現することが容易に行なえた.また,これまでに提案されたシミュレーション時刻の分散管理法に比べて同期のためのメッセージ量が大幅に減少することが確かめられた.
著者
番原 睦則 田村 直之 井上 克巳
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.75-86, 2007-07-26
被引用文献数
1

本論文では,PrologからJavaへのトランスレータ処理系Prolog Cafeについて述べる.本システムでは,Prologプログラムは,WAMを介して,Javaプログラムに変換され,既存のJava処理系を用いてコンパイル・実行される.つまりProlog Cafeでは,項,述語などPrologの構成要素のすべてがJavaに変換される.このため,PrologCafeはJavaとの連携,拡張性に優れたProlog処理系となっている.Prolog Cafeはマルチスレッドによる並列実行をサポートしており,スレッド間の通信は共有Javaオブジェクトにより実現される.また任意のJavaオブジェクトをPrologの項として取り扱う機能を有しており,Prologからメソッド呼び出し,フィールドへのアクセスも行える.最後にProlog Cafeの応用として,複数SATソルバの並列実行システムMultisatについて述べる.
著者
佐伯 胖
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.100-109, 1991-03-15

本チュートリアルでは,具体的な対象システムの如何にかかわらず成り立つと考えられる,ヒューマンインタフェース研究の一般的な枠組みを明らかにする.このような一般的な研究の枠組みを提唱している研究として,まず,Normanの「認知工学」の概念における「行為の7段階」に基づくインタフェース分析を解説した.ここで,Normanの分析が,ユーザの観点からのものに限られているという点を明らかにし,むしろ,インタフェース問題は,ユーザ,デザイナー,さらに外界世界の三つの世界の相互作用を最適化することをめざすべきであるとの観点にたち,そのための道具のあり方を探るため,それら相互の「接面構造」の分析を示し,道具(システム)と人間との,多様な相互作用の全体システムを吟味する研究の枠組みを提唱した.
著者
小野 諭 小川 瑞史
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.115-130, 1996-03-15
被引用文献数
2

抽象実行とは,プログラムの様々な性質を解析するために提案された理論的なフレームワークである.これは,プログラムのデータ領域や計算動作などの意味を抽象化した有限抽象領域を設計し,その上でプログラムを不動点計算と呼ばれる手法で「実行」することにより,プログラムの性質を求める. そこで,本チュートリアルでは,プログラム解析のごく初歩的な知識を持つ読者を対象にして,抽象実行の基本概念,分類,具体的設計法、仕様記述への展望などを説明する.対象言語としては,遅延評価型の関数型言語を取り上げる.ただし仕様記述への展望は,手続き型言語における様相論理や時相論理による仕様記述をベースに説明する.
著者
村田 真 川口 耕介
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.472-481, 2004-11-25

形式言語理論を用いて,XMLとスキーマ言語を解説する.また,スキーマに基づくXML技術(とくに検証と静的型検査)について概観する.
著者
渡辺 原田 康徳 三谷 和史 宮本 衛市 Shin-ya Watanabe Yasunori Harada Kazufumi Mitani Eiichi Miyamoto 北海道大学工学部情報工学科 北海道大学工学部情報工学科 北海道大学工学部情報工学科 北海道大学工学部情報工学科
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.41-55, 1989
被引用文献数
7

並列性が内在する問題を計算機上で表現する時,1対1の通信を基礎とするモデルでは不自然な表現を強いられる場合が存在する.そこで,オブジェクト同士が制限付きブレードキャストによって相互作用を行う並列計算モデルを提案し,そのモデルによる同期や相互排除の表現について論じる.また,分散協調型問題解決システムを構築する道具として本モデルを適用した場合の有効性に関しても述べている.
著者
稲葉 雅幸 岡田 慧 水内 郁夫 稲邑 哲也
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.45-61, 2006-04-26
被引用文献数
4

ロボットは身体ハードウェアが決まればその身体にとっての認識と行動のソフトウェアをプログラミングする対象である.近年のロボットは人間のような姿形に近づいたヒューマノイドロボットの研究が進んでいる.本稿では,幾何モデルを搭載したオブジェクト指向言語Euslispにより,人間型のロボットを対象に小型から等身大,筋駆動型ヒューマノイドのロボットプログラミング環境を実装している研究をとりあげ,身体ハードウェアが進化してもソフトウェアの継承を行いながら発展させてきている環境を紹介する.
著者
野田 夏子 岸 知二
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.3-17, 2013-07-25
参考文献数
52

ソフトウェアプロダクトライン開発は,ビジネス目的を共有し,また技術的にも類似性を持ったプロダクト群を全体最適の視点から体系的に開発するものである.資産の体系的な再利用が行われることから,ソフトウェアの構築の効率化を図ることができる.一方でソフトウェア開発においては構築より検証に多大なコストがかかる場合も多い.さらに,プロダクトライン開発においては資産から構築しうる膨大なプロダクトをどのように検証するのか,また資産そのものをどのように検証するのかなど,従来のソフトウェアの検証の課題に加えて特有の課題を持つ.本稿では,プロダクトライン開発において検証をどのように行えば良いのか,現時点の技術動向を紹介する.
著者
阿部 洋丈 Hirotaka Abe 科学技術振興機構 CREST JST CREST
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-14, 2006-01-26
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿では,近年注目を集めているpeer-to-peer型分散システムを構築するための基盤技術,分散ハッシュテーブル(Distributed Hash Table; DHT)についての入門的な解説を行う.分散ハッシュテーブル技術は,システム全体を管理する中央サーバを持たないようなpeer-to-peerシステム(pure peer-to-peerシステム)において,効率的なオブジェクト発見の実現を可能にする.
著者
品川 高廣 河野 健二 益田 隆司 Takahiro Shinagawa Kenji Kono Takashi Masuda 東京農工大学工学部情報コミュニケーション工学科 電気通信大学情報工学科:科学技術振興事業団さきがけ21 電気通信大学情報工学科 Department of Computer Information and Communication Sciences Faculty of Engineering Tokyo University of Agriculture & Technology Department of Computer Science University of Electro-Communications:PRESTO Japan Science and Technology Corporation Department of Computer Science University of Electro-Communications
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.107-113, 2004-03-25
参考文献数
11
被引用文献数
1

本論文では,UNIXシステムにおけるsetuidプログラムのバグを利用したroot権限の不正取得に対処するために,setuidプログラム中のroot権限で動作するコードを最小化する手法について述べる.この手法では,我々が提案している細粒度保護ドメインを利用することでsetuidプログラム中の最小限必要なコードのみをroot権限で動作させ,root権限が不要なコードに含まれるバグによるroot権限の不正取得を防止することができる.
著者
相場 亮
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.9, no.6, pp.461-473, 1992-11-16
被引用文献数
1

本稿の目的は,制約論理プログラミングシステムに関して,概観を与えることにある.制約論理プログラミングは,新しいプログラミング・パラダイムとして,近年,注目を集めているものであり,問題のとらえかた,記述方法において,従来のパラダイムとは一線を画すると共に,論理プログラミングという土台の上に展開されていることで,問題解決における新しい展開を期待させるものである. 本稿においては,論理プログラミングの初歩的知識を前提として,制約論理プログラミングについて,実際の処理系を簡単に紹介しながら解説を行う.