著者
白鳥 令
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.64-67, 2020-07-10 (Released:2020-07-10)

本書は,大学教育において正規のカリキュラムにシミュレーション&ゲーミングを取り入れている立命館大学に関係する研究者たちが,シミュレーション&ゲーミングを大学教育に取り入れた自己の体験を詳細に記述し,評価し,振り返って見た報告である.実施されたシミュレーション&ゲーミングは,徳川鎖国政策を学ぶゲームから,地震の際の防災ゲーム,地方自治のゲーム,国際交渉における合意形成のゲーム,さらには,地球社会全体のグローバル・シミュレーション・ゲームまで,非常に多彩である.自己の体験を振り返って,著者のひとりは「発想」が重要だと言い,別の著者は大学教育にシミュレーション&ゲーミングを取り入れる際は「Simple, Smart, Soft」が眼目だと結論づけている.
著者
山本 喜晴
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.12-23, 2018

<p>本研究では投影法心理検査の中からロールシャッハ・テストおよび箱庭を用いて,コンピュータゲームに対する親和性とパーソナリティとの関連を調べた.質問紙法調査によって,コンピュータゲーム親和性尺度を作成し,ロールシャッハ・テストの各スコアについて,コンピュータゲーム親和性尺度の高群・低群間の有意差を調べたところ,高群は色彩を伴いかつ形の明確な反応の数が有意に高く,血液反応の数が有意に低かった.このことから,コンピュータゲームへの親和性が高い人は,色彩を手掛かりにイメージを投影する傾向があり,外界に対する情緒的反応が程よい傾向にあることが考えられた.一方で,据え置き型ゲーム機を長時間プレイする人は,現実検討力に課題を抱えやすい傾向も示された.箱庭の結果からは,個性的な創造性に結びついた箱庭はコンピュータゲーム親和性の高群と低群の両方に確認できたが,特に,コンピュータゲーム親和性の高い人が創造性を発揮する際には,退行が生じやすい可能性が示唆された.</p>
著者
横山 実紀 大沼 進 広瀬 幸雄
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.21-32, 2017-11-30 (Released:2019-09-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究は指定廃棄物の長期管理施設の問題を模した指定廃棄物処分立地ゲーム(広瀬 2015)を基に,無知のヴェールがNIMBY問題の合意形成を促進する可能性を検討した.当該ゲームでは,利害を知る当事者(“市長”)が議論する段階と自分の利害関係について無知だが潜在的に当事者となり得る状況(無知のヴェール)下にあるプレーヤー(“市民”)が議論する段階があり,最終決定は後者に委ねられる.この状況で最終決定者は公正な決定を行えるか,決定に関与できない利害当事者が受容できるかを検討した.研究1では不公正な決定が8グループ中3つでみられ,利害当事者の受容も高まらなかった.研究2では,全員が利害当事者となって議論し,それでは合意に至らないという経験を経てから同様の段階的意思決定を行ったところ,不公正な決定はみられず,利害当事者の受容の割合が増えた.以上より,単に無知のヴェールによる決定だけでは不十分で,利害当事者だけによる議論では合意形成が困難であるという経験の必要性が示唆された.
著者
坂元 章
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.56-67, 2003-06-25 (Released:2020-11-02)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本論文では,日本において見られてきた,暴力性に関するテレビゲーム悪影響論と,それに対する社会心理学的研究の内容と経緯が解説された.テレビゲームの悪影響論は,5年程度のサイクルで盛んになっており,これは,テレビゲーム業界,司法,行政に対して大きな社会的影響力を持ってきたことか紹介された.また,悪影響論の中でも,暴力に関するものはもっとも盛んに出されてきたが,それについての研究は1997年までは少なく,それ以降になって急増したことが指摘された.そうした研究では,暴力的テレビゲーム使用が人々の暴力性を高めるとする結果がしばしば得られており,現在では,テレビゲームの悪影響を支持する方向に研究者の意見が傾いているとされた.また,最近になって,影響がよく検出される傾向があり,これは,ゲームソフトの現実性が高まったために,テレビゲーム使用の影響力が強まっていることを反映しているのではないかと述べられた.本論文ではまた,将来における悪影響論や研究の状況や課題についても論じられた.今後は,研究が量的にも質的にも充実し,テレビゲームと暴力の問題に関する多くの問いに答えられることが必要であること,そのためには,異なる分野を含む,研究者や実務者などの間の連携が重要であることが指摘された.最後に,こうした研究において日本が一定の役割を果たすべきであることが強調された.
著者
Toshiyuki Kaneda
出版者
Japan Association of Simulation And Gaming
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.22, no.SPECIAL, pp.5-15, 2012 (Released:2020-06-08)
参考文献数
29

System formalization serves as a common basis for modeling gaming simulation as well as agent-based social simulation. This article introduces a series of system concepts related to agent-based social systems so as to provide a ‘modeling literacy’ firmly based on formal system theory to young researchers and designers. Firstly the basic concepts of systems are introduced, and then the term agent is defined as a goal-seeking system. Followed by explanations of two different classes of agent concept—an agent (rational agent) and a cognitive agent (bounded rational agent). Several kinds of social systems consisting of these two kinds of agent are shown as examples, such as theoretical games, hierarchy systems, hypergames and poly-agent systems.
著者
藤原 正仁
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.2-11, 2018-11-30 (Released:2019-06-17)
参考文献数
17

本稿では,台湾のゲームレーティングについて紹介し,他国・地域のレーティングシステムと比較しながら,その特徴を整理した.2011年,「デジタルゲームレーティング委員会」が発足し,ゲームのコンテンツに対して,業界団体や学者,保護者団体など,さまざまな意見が反映されるようになった.2012年,「コンピュータソフトウェアレーティング規制」から「ゲームソフトウェアレーティング管理規制」へ修整され,普遍級,保護級,輔導級,限制級の4区分から,普遍級,保護級,輔12級,輔15級,限制級の5区分に変更された.台湾のゲームレーティングでは,遊技測試員がゲームを実際にプレイして審査書類が作成されている.また,「ゲームソフト評価基準表」は,年齢別レーティングの根拠となる性,暴力と恐怖,麻薬,タバコとアルコール,不適切な言葉,恋愛,反社会性という項目について明文化され,Webサイトで公開されており,透明性と客観性がある程度担保されている.審査員は,学者,有識者,保護者団体,教師団体などのメンバーで構成されており,ゲーム業界と利害関係のない独立した組織として機能している.
著者
杉浦 淳吉
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.3-13, 2003-06-25 (Released:2020-11-02)
参考文献数
14
被引用文献数
6

本論文では「説得納得ゲーム」という教育ゲームについて検討した.このゲームは,環境教育のツールとして開発・実践・改良された.このゲームの概略は以下のとおりである.1)プレーヤーは環境に配慮した消費行動を「アイディアカード」に書き出し,そのアイディアの内容を他のプレーヤーに説明し,さらに実行の「難易度」と多くの消費者が実行した場合の環境配慮の「社会的効果」をプレーヤー同士で評価する.2)プレーヤーを「説得する役割」と「説得される役割」に分け,説得する側は,説得される側に対して,アイディアカードに書かれた内容を実行するように説得する.説得される側は,理由をつけて断る.相手の説得に納得したら,カードに実行を約束する署名をする.3)一定時間で区切り,説得する側と説得される側の役割を交替する.それぞれの役割を2回ずつ経験し,最終的に獲得された署名の数に応じて得点を競う.以上のような説得的コミュニケーションに関わる諸要素を取り込んだこのゲームは,環境配慮行動の普及をテーマに設定された大学の授業および市民ワークショップにおける6つの運用事例における検討から,ゲームのバリエーションの設定により数人から数十人の単位での教育場面に適用可能であることが示された.また,環境教育に限らず,コミュニケーション教育や専門家教育のためのゲーミングとしての可能性や,研究ツールとしての可能性についても論じられた.
著者
前田 洋枝 杉浦 淳吉 安藤 香織
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.12-23, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
34

環境政策に関する科目において,Covid-19の流行により2020・2021年度に説得納得ゲームをZoomのブレイクアウトルームを使用してオンラインで実践し,2019年度の対面授業での実践と比較した.2020年度は説得納得ゲーム相互観察版を参考にしつつ,独自の改変点として説得者が被説得者に説得を行う説得セッションと観察者が説得者・被説得者に対して気づいた点をフィードバックするフィードバックセッションを交互に行うなどした.2021年度は説得者1名・被説得者2~3名とし,説得者が複数の被説得者に説得できるようにするなどした.最後にオンラインでの実践の成果・長所と課題・展望について,2021年度のゲーム後のアンケートの結果も提示しながら,参加者はオンラインでのゲーム体験からも説得が成功した時の喜びや達成感を感じ,環境配慮行動への理解を深めたことや,ブレイクアウトルームの自動割当機能を使用する利点やアイデアカードの活用について論じた.
著者
中野 健次 寺野 隆雄
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.13-27, 2006
被引用文献数
2

<p>本論文では,ケースとゲーミングシミュレーションを統合した新たなゲーム構造モデルを提案する.研究の目的は,企業経営者の意思決定領域を構造化することでビジネスゲームとして実装可能なフレームワークを構築し,併せて中期的な経営方針と短期的な事業推進の企業構造を定量化して表現することである.また提案したモデルをベースに,"アサヒスーパードライ"の新ビール開発および新市場創出のケースをシミュレートしたビジネスゲームを開発する.これにより,従来の数値ベースの事業領域に加えて定性的な企業の意思決定も扱える点を示す.さらに開発した学習システムの有用性を検証するために,経営学を学ぶ学部学生,大学院生を被験者とする評価実験を実施する.その結果に基づき,"ケースとビジネスゲームの融合"がもたらすビジネス教育に対する有用性を定量的に評価する.</p>
著者
盛川 仁 松田 稔樹 高砂 早織
出版者
NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会
雑誌
シミュレーション&ゲーミング (ISSN:13451499)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.17-28, 2009

<p>要約</p><p>平成15年度から採択された東京工業大学の21世紀COEプログラム「都市地震工学の展開と体系化」および,平成20年度から採択されたグローバルCOEプログラム「震災メガリスク軽減の都市地震工学国際拠点」において推進された,および継続中の多数の研究課題の中からシミュレーション&ゲーミングに関係が深く,かつ筆者らがかかわってきた取り組みのいくつかを紹介する.その際,研究のプロセスを「モデル化」「検証」「応用」という3段階に分け,自然科学,工学,社会科学からの地震防災へのアプローチがこれらの各段階にどのように対応するか,をシミュレーション&ゲーミングを通して考察することにより,共通の視点で整理することを試みる.</p>