著者
大村 纂
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.311-317, 2014

The cause for the global temperature change of the last one hundred years is investigated in light of the earth's energy balance. The material used for the present paper is mostly observed at the earth's surface or from the space. While the enhanced greenhouse effect steadily increased,the aerosol effect fluctuated as a result of the decadal variation in aerosol emission. A cooling period witnessed for 30 years in the middle of the 20th Century is considered to have been caused by aerosol effect that surpassed the enhanced greenhouse effect. This cooling episode coincided with the period of declining surface global solar radiation,which was subsequently coined as the Global Dimming. The Mie-scattering theory can however explain only half of the decrease. The remaining half is considered due to the increase in cloud, which has been confirmed by the observations at the surface and from the space. Thus the ongoing climate warming is caused by a delicate imbalance between the increasing rates of greenhouse gases and of aerosol. The turning point of the total radiation from the negative to the positive phases is estimated to have happened sometime in the 1970s, which corresponds to the end of the cooling period and the beginning of the unprecedented warming. In the near future it is possible that the temperature trend may turn negative, if the aerosol effect overtakes the greenhouse effect. The currently observed slowing down of the warming after 2005 may well be the result of the increasing aerosol.二十世紀初頭以来の百余年間は人為的温室効果による温暖化の時代と言われる. たしかに1900年以来全球平均でほぼ1℃昇温した. しかし, 温度変化を注意して見ると単調増加ではない. 1910年から30年間昇温した後, 1940年から1970年までの30年間昇温が停まっただけでなく, 0.1℃強寒冷化した. その後再び昇温に転じ1970年からの40年間だけで0.9℃温暖化した. これは全球平均の話で, この通りの変化を示した地域はないが, 二十世紀初期の温暖化と, それに続く寒冷化そして最近の顕著な温暖化という三相変化は位相をわずかに異にしてほぼ全球で見られる. 従って, 二十世紀中葉に現れた寒冷化は全球的現象であった. この30年にわたる全球規模での温暖化トレンドからの逸出はENSOやその他多く知られている振動現象では説明できない. この寒冷化の原因が分からなければ二十世紀全般にわたる温度変化の原因も正確には理解できないことになり, 又将来の予測もおぼつかないことになる. したがって, 本論文では, 二相の温暖化に挟まれた寒冷化の原因を極める. そのために, 本論文では甚だ基礎的になるが気候システムにおける温度生成過程を熱力学第一法則に基づいて考える. 地球表面の温度生成における放射の占める役割を認識し, 二十世紀初頭以来観測された全天太陽放射, 直達放射と大気の透過度を分析する. 全天太陽放射の経年変化から二十世紀初頭から1950年にかけての第一次グローバル・ブライトニング(全天太陽放射の増加期),1950年代から80年代にかけてのグローバル・デイミング(全天太陽放射の減少期), 更に80年代から2005年にかけての第二次グローバル・ブライトニングの3時代が認識される. その間に観測されたデイミングとブライトニング間の大気の透過度の変化は0.05であった. この透過度の変化に相当するエアロゾルの直接効果(ミー散乱)だけでは全天放射の変動量の約50%しか再現できないことが判り, 残りの50%はエアロゾルの間接効果,即ち雲の経年変化に帰着される. エアロゾルによる光学行程と雲量の相関はきわめて高く, この時期のエアロゾル間接効果と思われる雲の変動は全雲量で4%, 日照時間では日に0.4時間に相当する. この雲量の変動は地上と衛星から観測された結果である. グローバル・デイミングの続いていた期間は全天太陽放射の減少率が長波放射の増加率を上回り全放射率が減少していたことが判明し, これが気温低下を引き起こしたと考えられる. 続く1980年代からの第二次グローバル・ブライトニング期では増加に転じた全天太陽放射と既に増加傾向にあった長波放射が相まって全放射の増加率は6.6Wm-2/decadeとなり, 年間0.035℃となる観測時代最大の気温上昇率をもたらす結果となる. このように現在進行中の温暖化は温室効果ガスの増加率とエアロゾルの増加率のバランスの微妙な崩れの結果であり, 近い将来においてもエアロゾルの増加率がある程度大きくなり温室効果の上昇率を越すことが生じれば, 寒冷化が起こりえる. 現に2000年代に入ってから温暖化が鈍っているのは, 決して温室効果が減少したためではなく, エアロゾルの効果が増加している結果である可能性が高い.
著者
荒川 政彦
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.113-121, 2008-03-31

氷衛星上の衝突クレーターや外惑星領域における惑星・衛星の衝突集積過程に関連して,氷を用いた高速度衝突実験が行われている.氷の衝突実験は融けやすい氷の取り扱いに問題が生じ精度の高い実験をすることが難しかったが,衝突実験装置自体を大型の低温室に設置することによりその問題が解 決され,研究が飛躍的に進歩した.特に氷中を伝播する衝撃波や破壊素過程の理解が進み,さらに弾丸にも氷を用いた高速度衝突実験が衝突速度700m/sまで可能となった.その結果,氷クレーターの形態変化やスケール則及び氷の衝突破壊強度が明らかになった.
著者
草原 和弥
出版者
低温科学第76巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.33-42, 2018-03-31

棚氷とは,氷床の末端で海に浮遊している部分である.南極棚氷の底面融解は南極氷床の質量収支を考える上で重要な消耗過程である.南極棚氷底面融解は南極沿岸大陸棚上の三つ水塊によって引き起こされる.一つ目は南極沿岸ポリニヤで形成される高密度陸棚水.二つ目は南極周極流域から大陸棚上に流入する周極深層水.三つ目は夏季海氷融解によって形成される表層水である.この概説では,これらの水塊が棚氷底面融解を引き起こすプロセスを説明し,さらに観測データと数値モデル結果から,南極棚氷毎にその底面融解の熱源が大きく異なることを示す.
著者
中路 達郎
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.497-506, 2009-03-31

本節では,植物葉を対象とした分光特性研究の基礎的な知見と,野外における基本的な計測手法について解説し,葉内色素や光合成活性と関連した研究で用いられる評価指標(分光植生指標)について紹介する.
著者
石塚 量見 池内 昌彦
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.355-358, 2009-03-31

フィコビリンはシアノバクテリアや灰色藻,紅藻,クリプト藻などの真核藻類における主要な光合成の集光色素であり,タンパク質と共有結合している.本項では光合成色素としてのフィコビリンの性質,分析・単離法およびフィコビリタンパク質について述べる.
著者
横山 亜希子 滝 玲加 大鐘 由加子
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.70, pp.67-73, 2012

尾瀬ヶ原にて5月の融雪時に雪の表面が赤褐色化する現象を地元の人はアカシボと呼んでいる. 尾瀬ヶ原は泥炭質で, 鉄はフミン質などと錯体を形成し, 地下水に溶存態鉄として豊富に含まれている. この溶存態鉄が酸化され懸濁態鉄になる過程がアカシボ現象に作用していると考えられる. このアカシボ現象を鉄・マンガン酸化細菌の面から解明することを目的とした. 室内実験にて, 鉄酸化細菌を20℃, 4℃, 0℃で培養し, 溶存態鉄の減少に伴い懸濁態鉄の増加, 溶存性有機物減少, 細菌数増加の経日変化がみられた. このことから雪や融雪中の低温環境においても鉄酸化細菌は強い酸化力をみせ, アカシボ現象の要因の一つであることが考えられた.Akashibo is a name people in the area use to describe a phenomenon by which the surface of snow acquires a reddish-brown-black color in the snowmelt in May of every year. People in the area call it Akashibo. Dissolved iron is richly contained in the groundwater of Ozegahara. Our objective was to explain this Akashibophenomenon by the contribution of the iron and manganese oxidation bacteria. From our laboratory experiments, iron oxdation bacteria were cultivated at 20 ℃, 4 ℃, and 0 ℃. As a result, the particulate iron and bacteria increased and the dissolved iron decreased with the decrease of the dissolved organic carbon. The Akashibo phenomenon is regarded as dependent on the involvement of the bacteria by which iron oxidation is actively carried out even at low temperatures.
著者
及川 真平
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.103-112, 2009-03-31

群落の構造(器官のサイズや位置)は群落内の環境(特に光強度)に強い影響を及ぼし,よって群落の生産を規定している.一方で,群落の構造は生産の影響を受ける.本稿では,こうした植物群落の構造と群落内部の光環境の関係を解析する手法を概説する.
著者
早坂 忠裕
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.145-150, 2014-03-31

雲の放射特性の基本的な要素について概要を解説する. 雲微物理特性と放射特性を結びつけるものは, 水や氷の複素屈折率と雲粒の粒径分布である. 水も氷も可視域においては光をほとんど吸収しない. その結果, 短波放射は, 雲が厚くなっても透過する. 一方, 赤外域においては吸収が強く, 雲水(氷)量が増加すると雲は黒体に近い振る舞いをする. これらの違いが温室効果あるいは日傘効果を卓越させる. 地球上の雲は,温室効果と日傘効果を合わせた結果として地表面を冷却するが, 大気による短波放射の吸収には,それほど寄与しない. また, 雲の形成・維持・消滅過程においては, 特に雲頂における長波放射の射出による冷却が重要である.
著者
蓮沼 誠久 原田 和生 三宅 親弘 福崎 英一郎
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.169-174, 2009-03-31

生体試料に含まれる代謝産物の量的情報をMSやNMRを利用して網羅的に解析する代謝プロファイリング技術は,微量な中間代謝物質を含む多様な化合物の一斉分析を可能にしたが,ここで得られる情報は代謝物質を抽出した時点での蓄積量のスナップショットであった.生体内で代謝物質が動的定常状態にある時,総量は変わらずに一定の同じ速度で分解と合成が行われて入れ替わっており,新規合成される物質の存在比率を知るためには安定同位体を用いたin vivo標識が必須である.代謝プロファイリングと安定同位体標識法の組合せを利用した「動的代謝プロファイリング」は,代謝産物の量的変動を網羅的に観測することを可能にする.植物の環境変化やストレスに対する応答はシステマティックな代謝変動に基づくことが予想され,「動的代謝プロファイリング」はこうした複雑な応答機構の解明に寄与することが期待できる.
著者
中塚 武
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.49-56, 2007-03-23

近年、分析技術の発達により、樹木年輪に含まれるセルロースの酸素同位体比を古気候復元に利用する取り組みが進められている。酸素同位体比は、年輪幅や年輪の炭素同位体比と異なり、樹木自身の生理生態学因子の影響をほとんど受けず、もっぱら降水の酸素同位体比と相対湿度のみに依存して変化するため、日本のように降水量が多く森林内の樹木密度が高い地域においても、過去の水循環変動の復元等に利用できる。また、年層内の酸素同位体比の季節変動を詳細に測定することで、樹木から過去の月単位の古気候情報を取得することも可能になりつつある。
著者
岩井 優和 皆川 純
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.385-386, 2009-03-31

光合成反応は,光化学系I,光化学系IIを始め,いくつものタンパク質複合体,あるいはタンパク質超複合体によって行われる.「ショ糖密度勾配超遠心法」は,これらの複合体を大きさによって分画する場合に広く用いられている.本項では,緑藻クラミドモナスの葉緑体上の光化学系複合体を例に取り,ショ糖密度勾配超遠心法のプロトコルを紹介する.
著者
岩渕 弘信
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.151-157, 2014

不均質な雲場における放射フラックスの空間分布は, 平行平板大気の放射フラックスの分布とは大きく異なる. 不均質雲場の放射の分布は, 雲が水平不均質であることによる影響と, 不均質媒体中での3次元放射伝達の影響を受ける. 本稿では, これらの効果について, これまでの研究からわかったことを概説する. 50~200kmの水平スケールの領域平均放射フラックスについては, 水平不均質性の効果を考えることで精度よく計算が可能となる. より小さい水平スケールでは放射の水平収束・発散が顕著になり, 局所的な放射フラックスは, 近傍の雲水の配置に強く影響されることが示される.Radiative flux distribution in inhomogeneous cloud field is largely different from that in the plane-parallel atmosphere. Horizontal inhomogeneity and three-dimensional radiative transfer in the inhomogeneous media affect radiation in inhomogeneous cloud field. In this review, current understandings about these effects are presented. Domain-average radiative fluxes over an area of 50-200 km horizontal scale can be accurately calculated by incorporating the effect of horizontal inhomogeneity in radiation scheme. On smaller horizontal scale, horizontal radiative convergence/divergence is apparent, and nearby spatial arrangement of cloud water should influence local radiative fluxes.
著者
岩渕 弘信
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.151-157, 2014-03-31

不均質な雲場における放射フラックスの空間分布は, 平行平板大気の放射フラックスの分布とは大きく異なる. 不均質雲場の放射の分布は, 雲が水平不均質であることによる影響と, 不均質媒体中での3次元放射伝達の影響を受ける. 本稿では, これらの効果について, これまでの研究からわかったことを概説する. 50~200kmの水平スケールの領域平均放射フラックスについては, 水平不均質性の効果を考えることで精度よく計算が可能となる. より小さい水平スケールでは放射の水平収束・発散が顕著になり, 局所的な放射フラックスは, 近傍の雲水の配置に強く影響されることが示される.
著者
中村 晃三
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.241-248, 2014

大気境界層内にできる層状雲は,長期間, 広い領域を覆うため, 地球の放射過程に大きな影響を及ぼす. そのような層状雲の生成, 維持, 消滅過程について, いくつかの興味深い研究について簡単に紹介する. 特に, エアロゾルは, 雲の生成過程において雲粒数密度など, そのミクロな特性に影響を与えるが, 雨への変換などその成長過程を通じ, 雲全体の光学的厚さ, 雲量, アルベドなど, そのマクロな特性にも大きな影響を与える. このとき, 条件によってエアロゾルの影響が異なった形で表れるというのが興味深い結果である. さらに, 消滅過程においても,エアロゾルの影響が関係していると考えられている. これらの研究について, 簡単に紹介した.The boundary layer clouds have large effects on the Earth radiation budget through their high reflection of solar radiation with significant and long coverage. This paper introduces some interesting studies about the formation, maintenance, and dissipation process of the boundary layer clouds. Especially, the impacts of aerosol on the formation process of the boundary layer clouds through the microphysical process are important. Its effects on the macroscopic characteristics of clouds, such as optical thickness, cloud amount and albedo, through the conversion process from cloud droplets to rain drops are large. One of the interesting results of the studies is that the increasing effect of aerosol number density on the macroscopic feature changes its sign by the condition of the rainfall. The aerosol has impacts not only on the formation process of the boundary layer clouds but also the dissipating process of the clouds.
著者
早坂 忠裕
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.145-150, 2014-03-31

雲の放射特性の基本的な要素について概要を解説する. 雲微物理特性と放射特性を結びつけるものは, 水や氷の複素屈折率と雲粒の粒径分布である. 水も氷も可視域においては光をほとんど吸収しない. その結果, 短波放射は, 雲が厚くなっても透過する. 一方, 赤外域においては吸収が強く, 雲水(氷)量が増加すると雲は黒体に近い振る舞いをする. これらの違いが温室効果あるいは日傘効果を卓越させる. 地球上の雲は,温室効果と日傘効果を合わせた結果として地表面を冷却するが, 大気による短波放射の吸収には,それほど寄与しない. また, 雲の形成・維持・消滅過程においては, 特に雲頂における長波放射の射出による冷却が重要である. The basic radiative properties are described in this paper. Refractive index of water and ice, and droplet size distribution play important roles in the relationship between microphysics and radiative properties of cloud. Water and ice are almost transparent for the radiation in visible region, and thus cloud transmits shortwave radiation even in a thick cloud. On the other hand, cloud easily becomes blackbody with increase in cloud water or ice content because of large absorptance of infrared radiation. These properties cause greenhouse effect and parasol effect, and cool the Earth’s surface as a result. However, cloud does not largely affect the absorption of shortwave radiation. Moreover, the longwave radiation at the cloud top is important for formation, maintenance, and dissipation od cloud.
著者
民秋 均 溝口 正
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.339-346, 2009-03-31

バクテリオクロロフィルは,光合成アンテナや反応中心において,光収穫・エネルギー伝達や電子移動を行う光応答性の色素分子である.本章では酸素非発生型光合成細菌からのバクテリオクロロフィルの抽出・分析方法について紹介する.
著者
園池 公毅
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.507-524, 2009-03-31

クロロフィル蛍光はその起源となる光化学系の種類や量,そしてエネルギー移動を反映するため,光化学系の量比やステート遷移に関する情報をそこから得ることができる.また,室温での蛍光測定にパルス変調測定法を適用することにより,植物の光合成の状態を非破壊的に測定することができる.この場合,クロロフィル蛍光自体は光化学系IIから発光するが,電子伝達の相互作用を通して,系II以外の光合成の状態に関する情報を蛍光から得ることもできる.本稿では,クロロフィル蛍光測定の原理と,測定結果を定量化する方法,そして結果として得られたパラメーターの解釈の方法について解説し,さらにパルス変調法の吸収測定への応用についても触れる.
著者
上村 佳孝 三本 博之
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.39-50, 2011

動物の交尾器, 特にオス交尾器の形態は, 他の形態形質よりも進化・多様化が速い傾向にあり, その機構について議論が続いている. 本稿では, モデル生物であるキイロショウジョウバエを含むキイロショウジョウバエ種群について, 交尾器形態の機能とその進化に関わる研究についてレビューした. オス交尾器による創傷行動の発見により, 従来の研究では見出されてこなかった, オス交尾器に対応した多様性がメス交尾器の側にも同定されるようになった. しかし, メス交尾器の多様性は, 柔軟な膜質構造の形態変化によるものが多い. 交尾時の雌雄交尾器の対応関係の把握は, そのような旧来の手法では観察の難しい構造の特定を容易にし, 種間比較や操作実験による機能の研究に足がかりを与える. そのため手法の一つとして, 交尾中ペアを透明化する技術を紹介し, 本種群が交尾器研究のモデル系となる可能性を示す.Animal genitalia, especially those of males, generally evolve more rapidly compared to other morphological traits. The driving forces underlying such evolutionary trends are much debated. In the present article, we review evolutionary and functional studies on the genitalia of drosophilid flies (Diptera) belonging to the Drosophila melanogaster species group. Despite that the male genitalia of this group show astonishing diversity, previous studies failed to detect any species-specific differences in female morphology that corresponded to interspecific differences in the male genital morphology. However, recent discovery of copulatory wounding behavior, that is, the phenomenon that male genitalia inflict wounds on the genitalia of the mate,enabled us to identify counter-evolutions in the female genitalia. Such diversification in the female genitalia is mainly represented as modifications in the soft membraneous regions. With description of a newly developed transparentizing technique of mating pairs, we discuss the potential of this species group to be a model research system of genital evolution.生物進化研究のモデル生物群としてのショウジョウバエ. 北海道大学低温科学研究所編
著者
植松 光夫
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.49-52, 2010

西部北太平洋亜寒帯域は霧の多発する海域である. 海霧のpHは2.8-5.5と酸性を示し, 粒径分布は陸上の霧の一山型とは異なり, 霧粒の直径は7.0μmと27.5μmにピークを持つ二山型であった. エアロゾルと海霧のイオン成分の比較から, 硝酸イオンを含む粗大粒子が, 霧によって選択的に除去される事を明らかにした. これは大気経由の人為起源窒素化合物が海霧により海洋へ供給され, 海洋生態系へ影響を与えていることを示唆する.Chemical and physical properties of sea fog over the sub-arctic North Pacific regions were determined. The mean size distribution of liquid water content (LWC) of sea fog indicated two peaks, which was different from the common single modal spectra of terrestrial fog. The mean pH values of fog water ranged from 2.8 to 5.5 over the investigated regions. Nitrate existed as coarse particles acts as condensation nuclei (CN) of sea fog droplets. These results suggest that sea fog over the subarctic North Pacific is one of important scavengers of natural and anthropogenic substances transported from the Asian continent and atmospheric nitrogen deposition to the marine environment may stimulate phytoplankton growth.大気圏と生物圏の相互利用. 北海道大学低温科学研究所編
著者
野原 精一
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.70, pp.9-20, 2012

尾瀬地域は檜枝岐村, 片品村, 魚沼市の3市町村に位置し, 標高2,000m 級の山々に囲まれた盆地状をなしている. 尾瀬ヶ原は本州最大の泥炭地・高層湿原である. 尾瀬沼は自然湖沼である. 尾瀬地域の地形, 地質, 尾瀬山ノ鼻地区の気象, 尾瀬地域の気象, 尾瀬の水文・水質, 尾瀬地域の植物相, 尾瀬地域の外来種, 尾瀬沼の水生植物, 尾瀬の動物相等についての自然環境の概要をまとめた.Oze region located in Hinoemata Village, Katashina Village and Uonuma City and the amphitheater surrounded by high mountains of 2,000m. Ozegahara mire is the largest high moor and peatland in the mainland of Japan. Oze Lake is a natural lake in those area. This report is given a broad overview of natural environment such as the landscape and geological formation of Oze region, meteorological phenomenon of Yamanohana and Oze region,the hydrology and water quality,flora and fauna of Oze region from the existing literature.