著者
高岡 健 岡田 俊
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.208-220, 2018-04-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
37

“child”の訳語としての「児童」と「小児」について,その異同を検討した。年齢が幼いという意味では両方の使用が可能であるが,心理・社会・法などを含む広い概念としては「児童」を用いるべきであり,身体との結びつきに重点が置かれる場合には「小児」を用いるべきである。和語である「子ども(期)」「子供(期)」「こども(期)」は,一般の人々向けに平易さを強調する場合に限って用いるべきであり,漢語である「青年(期)」「思春期」とは対応しない。「児童(期)」には「青年(期)」が対応し,「小児期」には「思春期」が対応する。
著者
関根 正 森 千鶴
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.70-85, 2018-02-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
41

青年期以降の自閉スペクトラム症を持つ人が治療を受けるきっかけは二次障害であり,根底には自分に対する意識が希薄という特徴がある。治療として,二次障害に対する薬物療法だけでは長期的な社会適応やQOLの改善は見込めず,心理社会的介入は必須である。しかし,看護師による確立された心理社会的介入は認められず,自閉スペクトラム症を持つ人の特徴を踏まえて実践できる介入プログラムが必要と考えた。そこで,リフレクション支援,自己説明支援,外化支援を介入技法とし,認知的介入と行動的介入から構造化した全10回の個人面接とする看護介入プログラムを作成し,有用性の検討を目的とした。評価は,認知行動的セルフモニタリング尺度,私的自意識尺度,SRS-Ⅱ(self-report),SRS-Ⅱ(others-report)を使用し,実施前後の比較をWilcoxon符号付順位検定,尺度の関連の検討を重回帰分析で行った。また,自分に対する意識の変化を質的帰納的に分析した。自閉スペクトラム症を持つ人16名に実施した結果,認知行動的セルフモニタリング尺度,私的自意識尺度は実施後の方が高く,SRS-Ⅱ(others-report)で実施後の方が低かった。また,行動モニタリングが私的自意識尺度に影響を与えていた。自分に対する認識の変化から,【自分の内面を意識できるようになった】,【対人関係を意識できるようになった】のカテゴリが生成された。これらの結果から,自分に対する意識が高まったと考えられ,看護介入プログラムは自閉スペクトラム症を持つ人に有用と考えられた。
著者
松本 俊彦
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.158-168, 2019

<p>非自殺性自傷とは,感情的苦痛の緩和や他者に対する意思伝達や操作などの,自殺以外の意図からなされる,故意の身体表層に対する直接的損傷行為を指す。この行動は,DSM-Ⅳ-TRの時代までは,境界性パーソナリティ障害の一症候としてのみ認識されてきたが,DSM-5では,この行動は境界性パーソナリティ障害とは独立した診断カテゴリーとなった。このことは,従来の,自傷を限界設定の対象と見なす考え方から,自傷それ自体を治療の対象とする考え方と,治療理念の変化が生じたことを意味する。</p><p>本稿では,まず非自殺性自傷に関する臨床概念の歴史的変遷を振り返り,今日における非自殺性自傷の捉え方へと至る過程を確認したうえで,物質使用障害などの嗜癖,ならびに自殺との異同を論じ,最後に,DSM-5における非自殺性自傷の診断カテゴリーの意義と課題について筆者の私見を述べた。</p>
著者
藤田 純一 青山 久美 戸代原 奈央
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.147-157, 2019-04-01 (Released:2020-02-28)
参考文献数
25

インターネット依存の概念が登場してからすでに20年以上が経過しているものの,果たしてこれが一つの社会現象なのか,治療的介入が妥当な医療対象となる疾患概念なのか迷う点が多かった。しかしながら,近年操作的診断基準が改訂される中で,インターネット・ゲーム依存の概念はますます医学的興味関心を集めるようになった。本稿ではそれを踏まえ,大学病院におけるインターネット・ゲーム依存に関する実態調査と事例報告を行った。都市部の大学病院において,インターネットの使用目的を主にゲームとする患者のうち約25%は問題使用群に,約8%は病的使用群に該当した。問題使用群や病的使用群に該当する患者には,不安・抑うつ症状,不登校,被虐待体験,喫煙や飲酒などの心理社会的背景をもつものが比較的高い割合で存在していた。また病的使用群は正常使用群と比較すると一日を通した日常生活機能全般と放課後の友人関係の問題が存在することが示唆された。このように,インターネット・ゲーム依存傾向のある患者は治療・支援にあたるべき心理社会的要素を抱えているが,治療・支援の実際としては患者や家族がもつ個々の特性に応じて地道に診療にあたることが現実的だと考えられ,本稿では大学病院での診療の実際を一部紹介した。