著者
福野 梓 鶴 浩幸 生島 美紀 山田 潤
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.628-635, 2006-08-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
15

【目的】置鍼刺激は仮性近視や眼精疲労の改善に有用であり、毛様体筋緊張低下、縮瞳、脈絡膜血流増加などの作用を有する。今回、置鍼刺激が網膜感度閾値に及ぼす影響について検討した。【方法】屈折異常以外に眼科的疾患を有しない健康成人11例11眼 (平均年齢27.8歳±7.1、平均±標準偏差) を対象とした。鍼刺激は仰臥位にて両側の合谷、太陽、上晴明穴に10分間の置鍼術を行った。鍼刺激前後における網膜感度閾値をハンフリー視野計のBlue on Yellow視野プログラムを用いて測定し、感度低下の際に指標となるMean deviation (MD) 値と中心窩閾値とについて比較検討した。また、視野測定時間の変化を評価した。同一症例における10分間の安静仰臥位を対照とし同検討を行った。【結果】鍼刺激前後、安静前後におけるMD値や中心窩閾値に変化はなく、両群間にも有意な差は検出できなかった。しかし、安静仰臥位後の視野測定時間は有意に延長したが (14.9±20.1秒, p<0.05) 、鍼刺激後では有意な変化がみられず、逆に3.6±56.9秒短縮した。測定時間が5秒以上短縮した被験者は鍼刺激群に有意に多かった (p<0.05) 。【考察】健康成人に対する鍼刺激ではハンフリー視野計で検出できる程度の網膜感度閾値変化はみられなかった。測定時間延長には感度測定時のばらつきに対する閾値再測定や固視不良が密接に関連しており、鍼刺激による網膜感度の維持、眼精疲労の減少、集中力の持続などが示唆された。
著者
王 財源 遠藤 宏 豊田 住江 河内 明 北出 利勝 兵頭 正義
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.319-322, 1992-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
5

中国の鍼灸補瀉手技のひとつに「透天涼」と呼ぶ鍼技法がある。古くから伝えられて来た刺入方法で, 涼しいような, 冷たい, あるいは寒いといった寒冷感覚が局所に引き起こされる。今回, 腰痛患者5例を対象として, 局所と遠位の皮膚温度および深部温度を測定した結果, 局所より遠位部において, 温度が下降していくような現象が認められた。また, 患者自身の自覚症状においても「冷たくなるような」,「足が冷えて急にトイレへ行きたくなった」などの感覚が引き起こされた。特に炎症症状のある急性期の腰痛患者では,「大変に気持ちが良い」とのことであった。統計学的にも有意な差が認められた。
著者
上島 幸枝 北村 清一郎 巽 哲男 合田 光男 尾崎 朋文 森 俊豪 松岡 憲二 金田 正徳 竹下 イキ子 西崎 泰清 熊本 賢三
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.317-328, 1994-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
13

13遺体の26側を用い, 鎖骨, 胸鎖乳突筋, および前頸部下半の4経穴 (気舎, 欠盆, 水突, 天鼎) と, 胸膜頂の体表投影部位との関連を明確にした。胸膜頂の上端は鎖骨より上方 (頭方) に突出した。上端は, 内外方向には胸鎖乳突筋胸骨頭起始部の外側端(CL3)と鎖骨頭起始部外側端(CL5)の間にあり, 上下方向には水突穴より下方 (尾方) で鎖骨頭起始部内側端(CL4)より上方 (頭方) に位置した。胸膜頂の外側端は鎖骨上縁より下方 (尾方) にあった。外側端は, 内外方向にはCL4と欠盆穴の間にあり, 上下方向にはCL5より下方 (尾方) で鎖骨胸骨端上端(CL2)より上方 (頭方) に位置した。胸膜頂の内側端は, 両方向ともにCL2と胸骨上点の間に位置した。一方, 鎖骨より上方 (頭方) に突出する胸膜頂の体表投影域は, 全例で水突穴, 水突穴からおろした垂線と正中線との交点, 胸骨上点, 鎖骨の半肩幅内側1/3 (CL5にほぼ対応) の4点をつなぐ四角領域に含まれた。
著者
上島 幸枝 北村 清一郎 巽 哲男 合田 光男 永瀬 佳孝 尾崎 朋文 森 俊豪 松岡 憲二 金田 正徳 竹下 イキ子 西崎 泰清 堺 章
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.212-220, 1989-06-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
14

17遺体を用い, 天突穴, あるいは天突―肩峰間線を基準にした胸膜頂の体表投影部位を調べた。天突―肩峰間線の実長は左右共に平均185mm, 上方への角度は右22度, 左23度, 後方への角度は右が23度, 左が25度であった。右側胸膜頂は, 天突穴を通る前額面上で, 最大限には天突穴の外方0~58mm, 上方へは44mmより下方に存在した。左側ではこれらの値は各々5~58mmおよび49mmであった。一方, 天突―肩峰間線を基準にすると, 胸膜頂はその内側約1/3の範囲に含まれ, 上端は天突穴から約1/4離れた位置で, 最大限にはその上方35 (右) または32mm (左) の高さにあった。
著者
水上 まゆみ 矢野 忠 山田 潤
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.616-625, 2008 (Released:2008-11-21)
参考文献数
15

【目的】眼症状に用いる遠隔部経穴の眼循環に及ぼす影響について検討した。 【方法】非喫煙健常者を対象とした。 安静時の経時的変化を観察し (実験1、 対照群n=65)、 次に鍼刺激による眼循環への影響を観察した (実験2、 刺激群n=118)。 刺激群は風池群、 合谷群、 肝兪群、 光明群、 曲池群に割り付けた。 網膜中心動脈の血流速と血管抵抗指数 (以下、 PI) を、 超音波カラードプラ診断装置で測定した。 鍼刺激は15分間置鍼とした。 安静坐位姿勢で7分30秒毎に計7回、 45分間にわたって測定した。 【結果】対照群では、 血流速およびPIに有意な経時的変化は認められなかった。 刺激群では、 血流速の有意な増加とPIの有意な低下が認められた。 2群とも血圧・心拍数はほとんど変化しなかった。 【結論】遠隔部経穴への鍼で眼循環動態が変化することが示唆された。 効果は光明、 合谷への鍼刺激で大きく、 風池では比較的小さいことが示唆された。
著者
沢崎 健太 木下 藤寿 平野 修 末藤 俊寿 本田 達朗 茂原 治 向野 義人
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.492-499, 2001-08-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
5
被引用文献数
3 5

企業内労働者における運動器症状への経絡テストを用いた鍼治療の効果と医療費との関連性があるかを鉄材の移動、組立、溶接作業などの動作を繰り返し行う肉体労働職を主体とした有痛者117名を対象として検討した。8週間の治療で痛みが半減した者は頚肩部痛で83%、腰痛で77%、膝痛で88%に達した。心理検査 (POMS) では緊張、抑鬱、怒り、疲労、情緒混乱のスコアが有意に減少した。鍼治療期には運動器疾患の受診は半減し、その健康保険医療費は約1/3となった。終了後も医療費減少は持続し、経絡テストを用いた鍼治療は健康づくりならびに医療費削減に有用と考えられた。
著者
石丸 圭荘 関戸 玲奈 咲田 雅一
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.184-189, 2003-05-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
16

これまでの鍼通電鎮痛 (electro-acupuncuture analgesia : EAA) に関する研究から、低頻度EAAでは中枢神経系を介する下行性抑制系や内因性鎮痛系が賦活され鎮痛が発現することが報告されている1-7) 。しかし、その鎮痛効果と経絡との関連は未だ明確にはされていない。また、Farberらにより合谷鍼通電によってその所属経絡である手陽明大腸経上に顕著な鎮痛効果が発現することが報告されているが、その機序は不明である8) 。そこで我々は、刺激経絡上で特異的に痛覚閾値が変化するのか否かを知る目的で合谷EAAにおける、合谷の所属経絡 (手陽明大腸経) と他経絡上 (手太陰肺経) および前額、腹部、下腿部の経穴上での痛覚閾値の変動を比較した。また、同時に血漿β-endorphin濃度を測定し、合谷EAA発現における内因性鎮痛物質と経絡との関係について検討した。
著者
〓 基湖 徐 延徹 李 源哲 金 甲成
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.601-609, 2002-11-01
参考文献数
5
被引用文献数
3 1

韓国の伝統医学は「韓医学」と呼ばれており、特に韓国では韓医学の中でも漢方薬より鍼灸術に大いに期待しているのが現状である。韓国の医療体系は西洋医学と東洋医学の二本立て体制で、鍼灸士だけを養成する鍼灸 (専門) 大学はなく、韓医師と大学の韓医学部で漢方薬と鍼灸術に対して独占的な地位を占めている。韓医学では西洋医学と同様に6年間の大学教育と4年間の研修医制度をとり、世界唯一の鍼灸専門医制度を持っている。学会は大韓韓医学会が代表的な存在として最高上級機関であり、その傘下に鍼灸関連学会の大韓鍼灸学会、大韓薬鍼学会、大韓経絡経穴学会がある。最近、韓国と日本の問での鍼灸学術交流は国際東洋医学会の国際東洋医学学術大会、世界鍼灸学会連合の世界鍼灸学術大会などを通じて盛んに行われている。
著者
高士 将典
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.574-583, 2005-08-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
17
被引用文献数
1

【はじめに】われわれは、鍼灸医療の役割として1) 西洋医学各科との連携治療、2) 未病に対する治療、3) 緩和ケアの3つを実践してきた。今回、川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター・緩和ケア病棟 (以下PCUと略す) において「緩和ケアにおける鍼灸医療を実践する前段階の試み」として東洋医学的「証」に基づいた温熱療法を行った。【対象】1999年6月から2001年3月までに、PCUに入院したがん患者74名を対象症例とした。その内訳は、男性36例女性38例で、平均年齢63.9±11.8歳であった。【方法】治療は、電子温灸器CS-2000 (以下電灸器と略す) を用いた。治療の実際は、弁証によって選択した配穴の指示に従い担当看護師が施行した。【結果】全症例74例の治療結果は、有効以上が51.3% (38例) であった。「痛み」を訴える対象例が多く58例で、その治療効果は、有効以上が55.2% (32例) であった。有効以上を示した表現は、「ドーンとした鈍い痛み」が多く「重いだるい痛み」「ズキーンと重い痛み」「脹った痛み」「刺す痛み」の順であった。【考察】電灸器治療に期待される痛みは、1) 鎮痛剤でコントロールできない痛み、2) 担がん状態 (がんによる2次的なもの) や闘病生活による痛み、3) がんに関係ない痛みと推測される。またこれらの痛みは鈍い痛み (表現しづらい痛み) と考えられる。またデータ的には現れないが、患者との一定空間時間の共有からスピリチュアル的なケアも行なえることや患者とのコミュニケーションから、いままで語らなかった話しを聞くことができケアに役立つ情報を看護師および医師にフィードバックできる、チーム医療としての一つの役割もあることが考えられた。【まとめ】今回緩和ケアに参加することで、全人的苦痛の一つである身体的苦痛 (痛みや他の症状) のケアに貢献できることが示唆された。その中でも痛みに対して有用な結果が得られた。
著者
宮崎 彰吾
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.40-44, 2021 (Released:2021-10-28)
参考文献数
5

【目的】「あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復業」 へのCOVID-19の短期的影響について報告する。 【方法】2015年第1四半期(1~3月平均)から2020年第2四半期(4~6月平均)までの1世帯(二人以上の世帯)当たりの「あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復業への支出金額」を家計調査から得て、COVID-19の蔓延による緊急事態措置の実施期間を含む2020年第2四半期について、前期、前年同期と比較した。また、同じ療術業ではあるが休業要請対象となった「法的な資格制度がない、その他の療術業(整体、カイロプラクティック、リフレクソロジー、骨盤矯正、など)への支出金額」を比較対照とした。 【結果】2020年第2四半期において、「あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復業」への1世帯当たりの平均支出金額は前期より9%、前年同期より13%減少した。一方、「法的な資格制度がない、その他の療術業」への1世帯当たりの平均支出金額は前期より46%、前年同期より41%減少した。 【結論】「あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう、柔道整復業」へのCOVID-19の短期的影響として、前年同期より売上高が13%減少したと考えられる一方、「法的な資格制度がない、その他の療術業」よりも減少幅が小さく抑えられたことから、需要の底堅さをうかがい知ることになった。
著者
河瀬 美之 石神 龍代 堀 茂 中村 弘典 服部 輝男 田中 法一 絹田 章 平松 英敬 皆川 宗徳 黒野 保三
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.185-189, 2000-05-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

足三里穴の降圧効果を検討する目的で、封筒法による鍼治療の多施設臨床比較試験を行った。高血圧状態の患者に対し、足三里穴を使用する群と使用しない群に分けて血圧値の推移を検討した結果、両群の群間には有意な差はなく、足三里穴の有効性までは認められなかった。
著者
高梨 知揚 西村 桂一 辻内 琢也
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.196-203, 2014 (Released:2015-08-06)
参考文献数
12
被引用文献数
1

【目的】本研究は、 在宅療養支援診療所の医師を対象として、 在宅緩和ケア領域における鍼灸師との連携の実態を明らかにすることを目的とする。 【方法】在宅でのがん緩和ケア実績のある在宅療養支援診療所 297 施設を対象とした。 郵送法による自記式質問紙調査を行い、 回答は診療所所属の医師に依頼した。 質問紙は、 鍼灸師と連携をして在宅緩和ケアを実践している施設数、 連携の現状、 および情報共有の実態と方法を把握する内容とした。 【結果】294 施設中 98 施設から回答を得た (回答率 33.3%)。 現在鍼灸師と連携して末期がん患者のケアを実践しているのが 14 施設 (14.3%)、 過去に連携をしたことがあるのが 9 施設 (9.2%) であった。 鍼灸師と連携してケアする患者の症状は、 疼痛、 吃逆、 浮腫、 腹水、 便秘等が挙げられていた。 鍼灸師と連携することによるメリットについては、 「症状の緩和」、 「患者の満足度の向上」、 「患者のモチベーションの向上」 などの記述が見られた。 鍼灸師との情報共有の有無について、 「必ず共有する」 が 7 施設 (50%)、 「状況に応じて共有する」 が 7 施設 (50%) で、 「情報共有しない」 施設は無かった。 今後の在宅緩和ケアにおける鍼灸師との連携についての考えを尋ねたところ、 全体のうち 「積極的に連携したい」 が 9 施設 (9.2%)、 「状況によっては連携を考える」 が 65 施設 (66.3%) であった。 【結論】本研究より、 在宅緩和ケア領域において、 在宅療養支援診療所医師と鍼灸師とが連携している施設が 14.3%存在することが判明した。 また、 連携により症状緩和だけではない患者ケアが実践できる可能性が示唆された。 一方で、 鍼灸師が在宅緩和ケアの現場に関わるためには、 患者情報やチームとして行われているケアの状況を適切に把握する必要があり、 医師をはじめとした他職種と連携を図り情報共有する為の環境整備を推進すべきであると考えられた。
著者
松下 嘉一
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.568-580, 2004-08-01 (Released:2011-03-18)

六世紀に仏経経典と共に中国医学が日本に紹介されて以来、日本の医学は中国医学をべ-スとして独自の発展を遂げてきました。従って、飛鳥時代から明治時代にいたる1300年間、日本の医学の中心は漢方・鍼灸でした。しかしながら、明治時代になり、当時の政府により西洋医学が制度化してからは、漢方・鍼灸は人為的に衰滅せしめられ、「時代後れ」あるいは「非科学的」という印象を与えられてしまいました。ところが、今日、漢方・鍼灸は諸外国の学者や国内の研究者により科学的な裏付けがなされ、次第に見直されつつあります。このように-旦衰退したかに見えた漢方・鍼灸は、現在再び新たな発展を遂げつつありますが、こうした東洋医学の復興の過程における千葉県の先達の貢献・業績は誠に多大なものがあります。本稿ではその先達の業績を思い起こしてみたいと思います。東洋医学の普及と研究は、今後、益々盛んになってくるものと期待されますが、私達はこうした先達の業績を忘れず、常に基礎を大切にして、互いに切磋琢磨していくことが必要です。
著者
梶間 育郎 森 和 矢野 忠 国安 則光 原田 拡
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.308-318, 1992-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
19

脱毛症の成因については皮膚科学に於いても明確な説明が得られていない。我々は鍼灸治療の種々の脱毛症に対する有効性を検討し, その治療方針を考案するために従来の成因に関する諸説, 及び鍼灸による治験報告を再考すると共に、その成因を多角的視野で検討するために脱毛症患者534名を対象として, 頭皮所見と脱毛症に伴う身体症状の調査を行った。休止期毛性脱毛症群では頭皮の血行不良と身体的過緊張に深い関係がみられた。成長期毛性脱毛症群では自律神経系の変調を想起させる症状が頭皮と身体の双方に高率に認められた。よって脱毛症は頭皮のみの疾患ではなく, 全身的機能変調の表出と考えられる。
著者
渡辺 勝久 北出 利勝 廖 登稔 佐々木 和郎 北小路 博司 石丸 圭荘 大山 良樹 木下 緑 岩 昌宏 山際 賢 大藪 秀昭
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.154-159, 1993-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

顎関節症は開口障害, 顎関節の疼痛, 関節雑音を主症状とする疾患で, 近年, 若年者を中心に増加の傾向にある。顎関節症は髄伴症状として, 鍼灸治療の適応である頭痛, 頸肩部の凝りなどの不定愁訴を有している場合が多い。そこで, 顎関節症に対する認識をより深め, 具体的な鍼灸治療の方法について, ビデオ教材を作成した。ビデオ教材の内容は, 前半は顎関節の解剖, 顎関節症の病態と分類などを解説し, さらに, 顎関節のMRI画像を紹介した。後半は診察の手順と治療を解説した。鍼灸治療は, 局所的常用穴を述べ手技の実際を紹介した。
著者
川喜田 健司 藤木 実 小川 卓良 木戸 正雄 丸山 満也 智原 栄一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.110-123, 2007-05-01 (Released:2008-05-23)
参考文献数
25

本シンポジウムでは、手首の橈骨動脈の脈状から内臓臓器の機能を知るということは可能かという設問に対して、さまざまな立場の専門家が見解を述べた。小川は脈診の臨床的意義を明らかにするためには、脈診の診断法としての再現性と、その証に基づく治療が臨床医学的観点からより有効であることの証明が必要とした。木戸は脈診トレーニング法を紹介し、それに基づく臨床試験の試みから、脈診の診断・治療上の意義を明らかにした。丸山は、圧センサを用いた脈波情報の計測と数値モデル解析による脈診の客観化の試みを紹介し、その限界とともに将来の客観化の可能性に言及した。智原は、脈診で用いられる橈骨動脈で検出される圧脈波のもつ意味について、病態生理学的観点を交えてさまざまな可能性を示し、その情報が全身状態を反映する可能性を認めながらも、その対応は1 : 1ではないことを指摘した。最後に脈診に関する実験的検討の必要性が確認された。
著者
坂本 裕和 藤井 亮輔 光岡 裕一 坂井 友実 秋田 恵一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.197-208, 2010 (Released:2010-08-10)
参考文献数
30

【目的】骨盤内臓の疾患に対する重要な治療点としての八リョウ穴と骨盤神経叢の構成および臓側枝との位置関係を検討した。 【方法】東京医科歯科大学大学院臨床解剖学分野所蔵の実習体5体を使用し、 実体顕微鏡下で、 骨盤神経叢の構成および臓側枝の分岐形態と八リョウ穴との位置関係を精査した。 【結果】1. 骨盤神経叢を構成する交感神経成分の下腹神経は第2および第3腰内臓神経が恒常的に参加する上下腹神経叢から起こり、 骨盤神経叢の後上角に入る。 副交感神経成分の骨盤内臓神経は第2~第4仙骨神経前枝から起始し、 骨盤神経叢の後下角に入る。 陰部神経および肛門挙筋神経とは共通幹を形成する傾向が強い。 2. 骨盤神経叢から起こり骨盤内臓に分布する臓側枝は均一に起始するのではなく、 I~IV群に分かれる傾向が強い。 特に、 III群は排尿・性機能に深い関わりを持つ。 【結論】1. 八リョウ穴への刺鍼では、 骨盤内臓神経が恒常的に起こる第3および第4仙骨神経前枝に直接刺激が可能である中リョウ (BL33) および下リョウ (BL34) が骨盤内臓の機能に影響を及ぼすことが示唆される。 2. 八リョウ穴への深鍼では、 刺入鍼は直腸の側縁に達するため正中方向への刺鍼には注意を要する。