著者
伏見 清秀
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.211-222, 2010-10-29 (Released:2010-10-27)
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

限られた医療資源を適切に配置して,医療の質と地域住民のアクセスの確保のバランスのとれた医療提供体制を構築することが求められている。従来は,基本的に二次医療圏で完結する医療が想定されていたが,二次医療圏外の遠方の病院へ入院する患者が相当数いる事が明らかとなり,患者の病院選択に影響を与える要因の分析が必要となっている。本研究では,既存データを活用して,二次医療圏外の病院へ入院する要因を明らかとすることを目的とした。平成20年度の厚生労働省患者調査病院退院票とDPC調査様式1を結合して,患者の病態,詳細な診療明細,入退院経路,患者住所地の情報を含むデータベースを構築し,データの整合性を確認するとともに,二次医療圏外の病院への入院と関連する要因を分析した。患者調査退院票とDPC調査様式1の傷病名情報の整合性は一部の疾患を除いて高かった。二次医療圏外の入院では,ケースミックス係数が低く,ケースミックス補正在院日数は短かった。多変量解析により,高齢者(オッズ比0.762),男性(1.067),救急車の利用(1.064),紹介患者(1.158),転院(1.268),感染症(1.486),眼科(1.276),乳腺外科(1.239),循環器科(1.218),患者数の多い病院(1.571),教育病院(2.318)などが二次医療圏外への入院と関連する主な要因であった。本研究により,患者の病態と病院特性が患者の病院選択に影響を与えることが明らかとなった。専門病院の空間的配置を含む医療連携体制の構築において,考慮する必要があると考えられた。
著者
大須賀 穣 秋山 紗弥子 村田 達教 木戸口 結子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.295-311, 2019
被引用文献数
3

<p>【目的・背景】</p><p>予定外妊娠とは妊娠の希望の有無にかかわらず予期せず妊娠することであり,その後の社会生活に影響を及ぼす可能性がある。本研究では予定外妊娠数および予定外妊娠によって生じる医療経済的影響について推計を行った。</p><p>【方法】</p><p>先行研究において用いられた分析モデルを利用し,予定外妊娠数および予定外妊娠によって生じる医療経済的負担について推計を行った。また,経口避妊薬および子宮内避妊用具が避妊法として選択される機会が増加した場合の影響についても各避妊法の避妊失敗率から算出した予定外妊娠数の変化量から,増加前後を比較することで評価した。</p><p>【結果】</p><p>年間推定予定外妊娠数は約61万件となり,年間予定外妊娠費用および年間避妊費用はそれぞれ約2,520億円,373億円となった。経口避妊薬および子宮内避妊用具が選択される機会が増加した場合における予定外妊娠への影響を推計した結果,年間避妊費用は増加したが,年間予定外妊娠数が減少したことによる予定外妊娠費用が大きく削減されたため,予定外妊娠関連費用の総額は増加前より削減された。</p><p>【考察】</p><p>避妊失敗率の低い避妊法の利用が増加することにより経済的な効果が期待されるが,若年層にとっては継続的に服用する必要のある経口避妊薬の費用は大きな負担となるため,避妊薬等の利用について何らかの補助が実施されれば,予定外妊娠による経済的および社会的負担は大きく軽減されると考えられる。</p>
著者
中島 信久
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.43-51, 2020

<p>「尊厳と安心のある社会に向けた緩和ケアと地域づくり」を目指すとき,コミュニケーションの視点から取り組むことは大切である。緩和ケアにおけるコミュニケーションは,患者-家族間,医療者間,患者・家族-医療者間の3つに大別される。このうちの2つ目,すなわち医療者間コミュニケーションに焦点を当てて論じる。医療者間のコミュニケーションを考える場合,「連携」がキーワードになる。この「連携」には「他の職種との連携(多職種連携)」,「診療科間の連携」,「専門家とジェネラリスト(一般臨床家)との連携」「病診連携・病病連携」などといった様々なかたちがある。</p><p>がん対策基本法の制定,PEACE研修会の開催,緩和ケア病棟や在宅緩和ケアの充実などにより,近年,わが国の緩和ケアの質は向上した。その一方で,地域間で提供される緩和ケアやがん医療の質に差異があることも事実である。われわれが沖縄で行っている4つの柱からなる包括的なプラン(「緩和ケアを『広める』『高める』『深める』『繋げる』ための取り組み)が,こうした問題を改善し「地域づくり」に役立つと思われるので紹介する。具体的には,①県全体への基本的緩和ケアの普及(=広める)とともに②地域緩和ケアの中核を担う医療者のレベルアップ(=高める)を図り,さらには③がん治療と緩和ケアの統合の実践(=深める)を専門レベルで行う。①,②,③に取り組みながら④多職種連携・地域連携を進める(=繋げる)ことが,質・量両面で充実したコミュニケーションに基づいた「尊厳と安心のある社会に向けた緩和ケアと地域づくり」の発展につながると期待される。</p>
著者
松下 綾
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.107-118, 2019-05-24 (Released:2019-06-05)
参考文献数
19

少子高齢化が進み,医療需要の増大やそれに伴う医師不足が顕著化する我が国では,多職種が協働する医療で地域医療を支えることが求められている。最近では,個々の医療従事者の業務負担を最適化しつつ,医療の質を確保する方法の一つとして,これまでのチーム医療を発展させる形でタスクシフティング(業務の移管)/タスクシェアリング(業務の共同化)を有効活用すべきという考え方が広まってきている。このような状況の中,地域の薬剤師は住民から症状を聞き適切な対応を提案できること,処方箋に基づく調剤をした際に,必要に応じて患者の体調変化などの情報を収集し,医師に情報提供することなどで,地域包括ケアに加わることが新たな役割の一つとして求められている。これを実現するには地域の住民から症状を訴えられた時に病歴情報を収集するスキルが薬剤師にも必要と考えられるが,薬剤師にはこのスキルが不足していると指摘されている。そこで我々は,薬剤師向けの臨床推論,行動変容,コミュニケーション技法などの教育プログラムの開発と検証を行った。また,薬剤師が現場で患者から病歴聴取情報を収集することを支援するために,医師と薬剤師の協働の下,病歴情報の収集を補助するツールの開発を行った。これらを通して,地域包括ケアにおいて,医薬品に限らず健康問題全般のサポート機能を発揮できる「かかりつけ薬剤師」の養成に取り組んでいる。今後も医療需要は増大すると見込まれており,このような状況の中で地域医療を維持していくには従来の医薬の職域を超えた連携業務を担うことができる「かかりつけ薬剤師」が必須であると考えている。
著者
橋本 栄里子 東山 朋子 高橋 裕子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.39-59, 2000-12-15 (Released:2012-11-27)
参考文献数
47
被引用文献数
3 1

インターネットの普及に伴い,コンピュータを介したコミュニケーション・コミュニティ(CMCC)が急速に人々の生活に浸透している。本研究は,コミュニケーション論の立場からインターネット上で実施された禁煙プログラムの事例を取り上げる。期間中にメーリングリストを介してやり取りされた電子メールのログを定量的に分析した結果,禁煙指導における電子メディアコミュニティの活用は,禁煙開始後の継続的・個別対応的なフォローアップの実施に有効であることが明らかになった。また,先輩禁煙成功者ボランティアが大きな役割を担っており,医師等の負担を軽減するばかりでなく,後輩を継続的に支援することで自らの禁煙を維持するうえでも貢献していることが示唆された。
著者
大豆生田 啓友
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.89-97, 2017-05-25 (Released:2017-06-13)
参考文献数
12

本論文では,子ども子育て支援新制度以降の自治体において取り組まれている子育て支援および保育の動向から,その意義と課題について考察した。1では,子ども・子育て支援新制度の目的を概説し,地方版の子ども・子育て会議を置くことを努力義務として位置付けられていることが,各自治体が独自の子育て支援の事業計画を作るチャンスであることを述べた。自治体の取り組みの調査では,その会議において,子育て当事者などの委員が意見を出しやすい雰囲気があることや,専門部会やワーキンググループを設置することなど市民参画が重要な傾向としてあげられたことを紹介した。2では,先進自治体の事例を紹介した。東京都墨田区では,委員による話し合いによる合意形成を行う取り組みや,幼稚園および保育所が協働した保育の質の向上の取り組みについて取り上げた。東京都世田谷区では,区の住民が主体的に行う子ども・子育て会議の取り組みと,保育ガイドライン作成について取り上げた。埼玉県和光市は,妊娠や出産からの切れ目のない子育て支援を行う「ネウボラ」の実践について取り上げた。神奈川県・横浜市では,利用者支援事業の取り組みと,幼保小の取り組みおよび保育の質向上の実践について取り上げた。3では,2での先進自治体の取り組みを通して,今後の自治体の取り組みのポイントとして,3点について考察した。第一は,市民の参画による自治体力の育成について考察した。第二は,産前から産後までの切れ目のない包括的な支援体制について考察した。第三には,乳幼児期の教育・保育の質向上の体制づくりについて考察した。
著者
中根 允文 田崎 美弥子 宮岡 悦良
出版者
医療と社会
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.123-131, 1999
被引用文献数
25

生活の質(Quality of life,QOL)を測る尺度が近年数多く開発されてきている。それらの被験者となる人たちを特定のグループ(ある疾病に罹患した患者におけるなど)に限定するか,全般的なものに限定するかによって,その尺度のあり方は変わってくる。われわれは,健康に関連したQOLを広く測定できるものとして開発されたWHOQOL短縮版(26項目版)についていくつかの状態について検討してきたが,今回多数の一般住民におけるQOLスコア値を把握する調査を行ったので報告する。対象は東京都・大阪府・長崎市の住民1,410人(男性679人,女性731人)で,彼らの平均QOL値は3.29(男性3,24,女性3,34)であった。調査地域による差はなく,性差も有意なものではなかった。年齢群で見ると,60歳以上の高齢者が30歳代より有意に高いQOL値を示した。同時に行った全般健康調査票(GHQ)の結果と比較対照したとき,精神身体的健康度が低下するとQOL値も低下していた。<BR>多数の一般住民における平均的なQOL値を評価しておくことは,さまざまな負荷のもとにある対象のQOL値の問題を探る上で必須である。今回の資料を前提にして,これから各種の状態,例えば慢性疾患の患者,長期的な障害に悩む人たち,あるいは彼らの介助者などにおけるQOLの実状が明らかにされ,より適切な対応が図られるようになることを期待したい。
著者
印南 一路 堀 真奈美
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.33-68, 1999

わが国の急速な高齢化の進行に伴い,寝たきり老入の介護問題は,解決を要すべき緊急課題の一つと認識されている。しかし, 寝たきり老人に関しては, 全国レベルでの大まかな推計, 医学的な原因分析や,現場からの現状報告があるものの,全国の市町村レベルにまで踏み込んで,寝たきり老人の実態を把握し,寝たきり老人発現の地域格差や環境要因を追究した研究報告は,これまで存在しない。<BR>そこで本研究は, 平成5 年度以降策定された「老人保健福祉計画書」にある市町村別在宅寝たきり老人数のデータを用いて,まず年齢階層別の在宅寝たきり老人の発現率の地域格差を検証した。次に,全国市町村の医療福祉サービスデータ,地域特性データ(自然環境,人間環境,経済環境,医療福祉環境,文化環境)を用いて,在宅寝たきり老人発現の要因構造モデルを構築し,さまざまな要因が発現率に与える影響と要因間の影響を定量的に測定した。なお,特別養護老人ホーム(以下,特養と略す)のある地域では,在宅寝たきり老人が施設に入所している可能性があるため,環境要因構造モデルは,総合モデル,特養なしモデル,特養ありモデルの三つに分け分析した。その結果,以下が明らかになった。<BR>(1)年齢構造を考慮しても,在宅寝たきり老人の発現率には大きな地域格差が存在し,高年齢階層ほど発現率の地域格差が拡大する。これまで在宅寝たきり高齢者発現率の地域格差は,老齢人口の偏りによって説明されてきたが,年齢階層別の寝たきり老人の発現率はほぼ一定であるという主張には根拠がないことになる。<BR>(2)在宅寝たきり老人の発現率に直接強い影響を与えるのは,人間環境と医療福祉環境であり,自然環境,経済環境,文化環境の影響は主として間接的なものにとどまる。<BR>(3)人間環境変数は,全般的に在宅寝たきり老人発現率に直接強い効果が観察された。特に核家族割合は負の直接効果が出た。通常,核家族割合が高いということは家庭内介護者が少ないことを意味する。したがって,家庭内介護者の少ない地域では,在宅寝たきり高齢者発現率が低くなるということである。また,核家族割合は非農家世帯と相関が強いため,農家世帯割合が低いと在宅寝たきり老人発現率が低く,農家世帯割合が多いと発現率が高いことになる。<BR>(4)医療福祉環境は,総合モデルと特養なしモデルでは直接効果をもっていたが,特養ありモデルでは,直接的関係がなかった。これは特別養護老人ホームのある地域では,その他の医療福祉サービスの充実度は,在宅寝たきり老人の発現率には直接関係しないということを意味する。<BR>(5)自然環境, 人間環境医療福祉環境間の複雑な関係が観察された。
著者
Boulton William R.
出版者
医療と社会
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.73-111, 2000

過去20年間,米国ヘルスケア業界では大型合併が進められてきた。今日わずか4社の卸(マッケソン,バーゲン・ブランズウィク,カーディナルヘルス,アメリソースヘルス)が医療用医薬品流通の80%以上を,4社のドラッグチェーン(CVS,ウォールグリーン,ライトエイド,エッカード)が小売処方薬ビジネスの60%以上を支配している。このような大型顧客の出現によって,製薬メーカーは競争上不利な立場にあったが,ようやく精力的な動きをとりはじめた。<BR>製薬メーカーは,戦略的提携により,新製品の発掘・開発のための最新技術を得る一方,世界的な統合を通じ,市場の拡大とマーケティング・一般管理費の削減をめざす戦略を再び取り始めた。製薬業界の再編はまだ終了したわけではないが,今後の方向は明確である。製品開発をさらに押し進め,経営コストを削減するリストラクチャリングが,新しい世界規模でのリーダーの要件となるであろう。たとえば,グラクソとバローズ・ウェルカムは1996年に合併してグラクソ・ウエルカムに,ゼネカとアストラは1998年にアストラ・ゼネカとなった。その他にも,ノバルティス(チバガイギーとサンドの合併会社-1996年に合併),アベンティス(ヘキストとローヌ・プーラン・ローラーの合併会社-1998年に合併)が,業界のリーダーシップを取るべくしのぎを削っている。この業界では10%の市場シェアを占めることが最終的な目標のように思われる。というのは,メルクでさえもいまだ約7.5%,アベンティスが約6.7%,グラクソ・ウエルカム,ファイザー,アストラ・ゼネカはそれぞれ6%のシェアを占めているにすぎないのである。<BR>ヒトゲノム解析計画は,大手製薬メーカーへ最新の開発・経営技術を提供する新会社を生むこととなった。たとえば,有望な新薬開発に向けて,ファイザーは,インサイト・ファーマスティカルズと遺伝子解読の作業を加速し,すべての遺伝子配列を解読するため協力・提携することに合意した。インサイトは約5万個のヒト遺伝子に関する特許を出願中で,すでに遺伝子に関連する特許を453件取得している。このような提携によって,今後は一連の全く新しい形の医薬品の導入を進めていくと思われる。将来のリーダーには彼らとの接触が不可欠となろう。
著者
泉田 信行
出版者
医療と社会
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.83-94, 1995

この論文において,今までに行われてきた医療過誤問題に関する研究に関する議論を行う。主にSimon(1981)とSimon(1982)の紹介をする。Simon(1981)は過失責任体系と無過失責任体系の比較分析を行っている。過失責任体系は被告を過失があるときに罰し,無過失責任体系は過失の有無に関わらず彼を罰する。彼女の結果は過失責任体系は無過失責任体系よりもパレートの意味において優越するということであった。<BR>一方,Simon(1982)は裁判システムが原告側に費用をかけるときに被告の製造物の品質がどうなるかを検討した。彼女の結論は非常に自然なものであって,比較的低い所得の個人からなる市場においては製品の品質が比較的低下するというものであった。この結果として裁判システムは誘因体系としては限界があり,それゆえ政府による直接的介入の効果を検討する必要があると思われる。<BR>最後の節において,これらの結果に関するコメントと将来の研究の方向性について論じている。
著者
佐藤 敏彦 佐藤 康仁 平尾 智広
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.141-150, 2009

保健医療政策の優先順位付けを行なうために疾患別の疾病負担データは重要である。さらに,今後の政策を策定するには現状の疾病負担のみならず,その将来予測もまた重要となる。本研究では,保健医療政策の施策に資するデータを提供することを目的に,わが国の官庁統計データを用いて回帰モデルにより傷病別の患者数および死亡数の将来推計を行った。その結果,年齢別推計総死亡数は,2010年は116万人,2020年は134万人,2030年は142万人と増加し,85歳以上の死亡割合はそれぞれ38%,51%,59%と顕著な増加を示した。傷病別の死亡数は2005年と同様,将来推計においても,新生物,循環器疾患,呼吸器疾患の順であり,新生物,呼吸器が男女とも大幅な増加を示したが,循環器疾患は心疾患が増加するものの脳血管疾患が減少するためにほぼ横ばいの結果となった。患者調査の入院率と国民生活基礎調査の通院率を用いて推計した全患者数は2005年に4,273万人であるのに対し,2010年,2020年,2030年には,それぞれ4,417万人,4,556万人,4,480万人であった。65歳以上の割合は2005年からそれぞれ,40%,44%,53%,56%と2020年以降は総患者の過半数を占めた。患者調査データを元にした傷病別推定患者数において2005年から2030年に増加を示したのは感染症(32%増),気管・気管支・肺がん(98%増),糖尿病(38%増),認知症(105%増),統合失調症(32%増),神経系疾患(138%増),高血圧(25%増),肺炎(210%増),脊柱障害(51%増),腎疾患(51%増),前立腺肥大(111%増)等であった。一方,減少を示したのは胃がん(58%減),虚血性心疾患(67%減),脳血管疾患(49%減)となった。国民生活基礎調査の通院率より推計した傷病別患者数はいずれも患者調査に基づく推計値を大幅に上回ったが,糖尿病,認知症,高血圧,脳血管疾患が2~3倍であるのに対し,通院率を用いた推計では増加傾向を示した狭心症・心筋梗塞は4倍~10倍以上にまで,その差が広がる結果となった。その原因として,実際には多くの患者は自己中断や延期をすることや,計算式に用いる平均診療間隔が実態と乖離していることなどがあるものと思われた。
著者
柏木 恭典
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.135-148, 2017

<p>2007年,熊本慈恵病院に赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」が設置されて以来,2015年末までに計125名の赤ちゃんが預け入れられている。これを契機に,匿名のSOS相談や赤ちゃんあっせんなど,緊急下の女性(Frauen in Not)とその子(胎児ないしは新生児・乳児等)を支援する動きが強まっている<sup>注1)</sup>。この一連の取り組みは,20世紀末にドイツで打ち出された「匿名出産(Anonyme Geburt)」,「匿名の子の預け入れ(Anonyme Kindesabgabe)」とそれに続く「赤ちゃんポスト(Babyklappe)に端を発している。</p><p>本稿では,まずドイツにおけるこの新たな匿名での母子支援の歴史を振り返りながら,そこでどのような議論があったのかを可能な限り詳細に描いていく。とりわけ90年代から00年代のドイツの実践者と研究者双方の見解を提示していきたい。そして,その議論を踏まえて,最後に「緊急下の女性」という視点から,我が国における匿名での母子支援のあり方について言及すると共に,望まない妊娠,人工妊娠中絶,妊娠葛藤相談,匿名・内密出産,赤ちゃんポストの問題を含む妊婦期~出産期の包括的な母子支援を実現するための具体的な提言を行う。</p>
著者
橋本 英樹
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.5-17, 2012 (Released:2012-04-28)
参考文献数
45
被引用文献数
1 3

社会格差による健康格差の存在について,社会的・政治的・学術的関心が高まっている。本稿では社会的健康格差をテーマとする実証研究について,現状における方法論的・理論的課題を指摘するとともに,その解決に向けた方策を提示することを目的とする。格差が存在すること自体はすでに事実として受け止められる一方,なぜ社会経済的要因によって健康格差が生じるのかについて,メカニズムの解明は憶測の域を出ていない。その理由として社会的地位の測定と,その理論的裏づけが研究領域間で十分合意形成されていないことをまず指摘する。社会疫学などでは社会階層の代理変数として所得や最終学歴を用いるが,経済学では賃金率や情報・能力を表現するパラメーターとしてモデル化されている。次に通常の疾病疫学と異なり,未測定要因によるmisspecificationや,淘汰による選択バイアスの問題が深刻であり,それを克服する必要があることを指摘する。そのためにはパネルデータの活用に加え,幼少期からの包括的パネル調査が必要なことを主張する。最後に,社会格差による健康格差の実証研究を進めるうえで,データ構築や人材育成の問題に加え,わが国で欠落している「科学的実証に基づく政策立案・評価」の文化を構築することが先決問題となっていることを指摘する。
著者
大塚 宣夫
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-2, 2015
被引用文献数
1