著者
西田 伸 川原 一之 安河内 彦輝 江田 真毅 小池 裕子 岩本 俊孝
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.3-10, 2022 (Released:2022-02-09)
参考文献数
22

宮崎県西臼杵郡高千穂町上村の藤野家と,同じく高千穂町土呂久・佐藤家に保管されていた「熊の手足」の資料についてDNA解析を行い,情報の少ないツキノワグマ(Ursus thibetanus)九州個体群の遺伝的特徴について調査した.聞き取り調査から,明治中期~大正初期に祖母山系で捕獲されたと推測された佐藤家資料において,ミトコンドリアDNA コントロール領域648bp(ハプロタイプ:KU01)の解析に成功した.KU01は西日本系群に含まれる新しいタイプであった.先行研究の結果と合わせて考えると,絶滅したとされる九州個体群は他国内集団とは遺伝的に分化した独自の地域集団を形成していた可能性がある.
著者
横畑 泰志
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.127-134, 2003-12-30
被引用文献数
1

これまで批判の多かった「文部省式カタカナ目名」の問題に対処し,同時に最近新たに提唱されている哺乳類の高次分類群および分類階級の国内での使用上の混乱を防ぐ目的で,それらに推奨できる日本語名称を提案する.検討対象として McKenna and Bell(1997)の分類体系を用い,和訳にあたってはラテン語学名の本来の意味を尊重することなどを原則とした.
著者
高橋 裕史 梶 光一 吉田 光男 釣賀 一二三 車田 利夫 鈴木 正嗣 大沼 学
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.45-51, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
13
被引用文献数
8

洞爺湖中島において移動式シカ用囲いワナの一種であるアルパインキャプチャーシステム(Alpine Deer Group Ltd., Dunedin, New Zealand)を用いたエゾシカ Cervus nippon yesoensis の生体捕獲を行った.1992年3月から2000年2月までに,59日間,49回の捕獲試行において143頭を捕獲した.この間,アルパインキャプチャーの作動を,1ヶ所のトリガーに直接結びつけたワイヤーを操作者が引く方法から,電動式のトリガーを2ヶ所に増設して遠隔操作する方法に改造した.その結果,シカの警戒心の低減およびワナの作動時間の短縮によってシカの逃走を防止し,捕獲効率(捕獲数/試行数)を約1.1頭/回から3.5頭/回に向上させることができた.
著者
田村 典子 岡野 美佐夫 星野 莉紗
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.367-377, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
20

狭山丘陵の緑地に,2000年に特定外来生物キタリスの野生化が報告された.その後も引き続き本種の生息が確認されたため,2013年11月に,日本哺乳類学会からキタリスの早期対策の要望書が提出された.これを受けて,2014年4月から環境省事業として生息調査および捕獲対策が開始された.目撃情報,食痕,自動撮影による生息調査の結果,17地点でキタリスの生息が認められた.1地点をのぞく16地点は丘陵西側に位置する狭山湖周辺の緑地であった.2014年10月から2017年3月までに,この17地点で捕獲作業を行った結果,このうちの12地点で合計32個体のキタリスと1個体のニホンリスが捕獲された.3年間で,目撃情報数,食痕確認地点数,撮影件数いずれも著しく減少した.今後は,キタリスが狭山丘陵内に残存しているかどうかモニタリングを継続するとともに,周囲の山林へ逸出していないかどうか,広域の調査が必要となる.
著者
金子 之史
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.129-160, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
99

1910(明治43)年に渡瀨庄三郞は「外来種」であるフイリマングースHerpestes auropunctatusを沖縄本島と渡名喜島に導入した.本稿では関係史料を検討して以下の7点を得た.第1に,中川(1900)は現在でいう外来種に関する米国農務省年報を抄訳しジャマイカ島へのフイリマングース導入経過と影響を紹介した最初であったが,書誌情報は不十分であった.第2に,渡瀨と中川の経歴により両者は既知の関係と推測されたが,渡瀨(1910a,b)には中川(1900)の明示的な影響はなかった.第3に,従来不明であった中川(1900)の出典はPalmer(1899)であると判明した.ただしPalmer(1899)にある数種の外来種,立法行為の必要性,および要約は中川(1900)には訳出されていない.第4に,複数の史料間で1910年の「渡瀨講話」の内容を検討し,渡瀨のマングース導入の論理過程を明らかにした.第5に,渡瀨(1910a)は出典を明示しない講話記録であるが,渡瀨がジャマイカ島へのフイリマングース導入に関するEspeut(1882),Duerden(1896),およびPalmer(1899)を読んでいた可能性を指摘し,国立臺灣大学図書館の渡瀨文庫にPalmer(1899)の抜刷が保管されていること,またその表紙上に“S. WATASE”,“3 SEP. 1907”,および“IMPERIAL UNIVERSITY, TOKIO”のスタンプ押印を確認した.第6に,1907~1910年における渡瀨のフイリマングース導入の出来事を時系列の表にまとめた.第7に,ジャマイカ島,沖縄,他地域のマングース導入に関する当時唯一の日本語文献であった岸田(1924,1927,1931)と従来入手不能であった1910年出版の3文献の復刻版との詳細な比較によって,岸田の記述文には出典のないものがあり,また渡瀨(1910a)には地名や頭数に引用の誤りがあることを明らかにした.
著者
ムラノ 千恵 東 信行
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.99-102, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
32

青森県弘前市のりんご果樹園地内において,2016年4月に小型哺乳類の捕獲調査を行い,ハタネズミMicrotus montebelliのアルビノ個体を捕獲した.捕獲時の体重は23.0 gで性別はオス,後足の蹠球数は5,全身が白色毛で眼球は赤色であった.4月の捕獲調査で獲数したハタネズミ12個体のうちアルビノ個体は1個体のみで,本個体が捕獲された坑道の周辺には捕獲日以降もトラップを2晩設置したが,小型哺乳類は捕獲されなかった.野生下でハタネズミのアルビノ個体が捕獲されたのはこれが3例目となる.
著者
宇野 裕之 横山 真弓 坂田 宏志 日本哺乳類学会シカ保護管理検討作業部会
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.25-38, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
65
被引用文献数
19

ニホンジカ特定鳥獣保護管理計画 (2002-2006年度の期間) の現状と課題を明らかにするため, 29都道府県及び大台ケ原地域を対象に2006年6月から9月までの期間, 聞き取り調査を行った. 管理目標は主に 1)個体群の存続と絶滅回避, 2)農林業被害など軋轢の軽減, 3)個体数削減, 及び4)生態系保全に区分できた. 個体数や密度のモニタリング手法には, 1)捕獲報告に基づく捕獲効率や目撃効率, 2)航空機調査, 3)ライトセンサス, 4)区画法, 及び5)糞塊法や糞粒法が用いられていた. 航空機調査, 区画法及び糞粒法を用いた個体数推定では, 多くの事例 (30地域中の11地域) で密度を過小に評価していたことが明らかとなった. 個体数の過小評価や想定外の分布域の拡大によって, 個体数管理の目標が十分達成できていないと考えられる地域も多くみられた. フィードバック管理を進めていく上で, モニタリング結果を科学的に評価し, その結果を施策に反映させるシステムの構築が必要である. そのためには, 研究者と行政担当者の連携が重要である. また, 県境をまたがる個体群の広域的管理と, そのための連携体制を築いていくことが大きな課題だと考えられる.
著者
玉那覇 彰子 中田 勝士 山本 以智人 亘 悠哉 向 真一郎 吉永 大夢 半田 瞳 金城 貴也 中谷 裕美子 仲地 学 金城 道男 長嶺 隆
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.203-209, 2017

<p>沖縄島北部地域(やんばる地域)を東西に横断する県道2号線および県道70号線の一部区間は,希少な動物の生息地を通過する生活道路となっており,ロードキルの発生が問題となっている.この県道を調査ルートとして,2011年5月から2017年4月までの6年間,ほぼ毎日,絶滅危惧種のケナガネズミ<i>Diplothrix legata</i>のルートセンサスを行い,生体や死体の発見場所を記録した.6年間の調査において,ケナガネズミの生体75件,ロードキル個体47件の合計122件の目撃位置情報を取得した.その記録に基づき,ヒートマップを利用して調査ルートにおけるケナガネズミのロードキル発生のリスクを表現することで,リスクマップを作製した.また,生体とロードキル個体の発見数からロードキル率を算出し,現在設定されているケナガネズミ交通事故防止重点区間(以下,重点区間とする)におけるロードキルの発生状況を評価した.リスクマップと重点区間を照合すると,交通事故リスクの高いエリアのいくつかが,重点区間の範囲外にあることが明らかになった.また,重点区間のロードキル率は他の区間と同様のレベルであった.本研究で提示したリスクマップやケナガネズミの行動記録を活用することで,より現実の状況に即した取り組みの展開が可能になると期待される.</p>
著者
金子 之史 前田 喜四雄
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-21, 2002-06-30

日本人の研究者による哺乳類の学名の記載とその学名を付与した模式標本の保管状況を把握することは,哺乳類学の基礎である分類学を確立するためには欠くことができない.しかし,日本の哺乳類研究者がいままでに記載発表した哺乳類の新種·新亜種などの学名と模式標本のリストは今泉(1962)を除いてなく,それも未完である.日本におけるこのような状況を改善するために,2000年までの日本人哺乳類研究者が記載した学名と出典文献のリストを作成した.このリストには "nom.nud." などの無資格名も含んだ.結果として,適格名206のうち,模式標本が現在も保管されている学名は64(31.1%),模式標本が消失した学名は57(27.7%),および模式標本の所在が未調査("N.V.")の学名は85(41.3%)となった.以上の結果から,我々は動物学標本と文献を永久に保管できる国立の自然史博物館の設立を強く希望する.