著者
長光 郁実 金子 弥生
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.85-89, 2017

<p>東京都市域の微小面積を利用する食肉目動物の生息状況を明らかにするため,東京農工大学府中キャンパス内の3ヶ所の樹林地において,2014年7月12日から9月3日の約2ヶ月間に,自動撮影法による調査を行った.タヌキ(<i>Nyctereutes procyonoides</i>),ニホンアナグマ(<i>Meles anakuma</i>),ハクビシン(<i>Paguma larvata</i>)の3種の野生中型食肉目動物の生息が確認された.本キャンパスにおけるニホンアナグマの確認は本調査が初めてであった.タヌキでは幼獣が撮影されたことから,繁殖が行われたと考えられた.</p>
著者
増田 圭祐 松井 孝典 福井 大 福井 健一 町村 尚
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.19-33, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
55

群馬県みなかみ町にて捕獲した3科7属11種のコウモリ類(アブラコウモリPipistrellus abramus,ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus,ヒメホオヒゲコウモリMyotis ikonnikovi,カグヤコウモリMyotis frater,モモジロコウモリMyotis macrodactylus,テングコウモリMurina hilgendorfi,コテングコウモリMurina ussuriensis,キクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum,コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus,ヒナコウモリVespertilio sinensis,ニホンウサギコウモリPlecotus sacrimontis)のエコーロケーションコールから,コウモリ類専用の音声解析ソフトウェアSonoBat 3.1.6pを用いて,コールの開始・終了時の周波数や持続時間をはじめとする75種類の特徴量を自動抽出し,Random ForestおよびSupport Vector Machineの2種類の機械学習法を階層的に組合せた識別器を構築し,種判別を試みた.その結果,6,348のコールに対して10×10分割の入れ子交差検証で評価したところ,属レベルで96.3%(SD 0.06),種レベルで94.0%(SD 0.06)の正答率で判別ができた.また,大阪府吹田市北部の屋外で収録したエコーロケーションコールに対して,構築した識別器を適用してコウモリ類の種を推定し,活動の分布を地図化するプロセスを開発した.これらの結果をもとに,考察ではデータの追加に伴い識別器の精度が向上する可能性があることと種内変異が識別精度に大きな影響を与えることを議論した.フィールドへの適用では,識別器でコウモリ類の空間利用特性を把握し,地理情報と連携させることの有用性を議論した.最後に,エコーロケーションコールに対して機械学習法を用いた種判別と音声モニタリングをする際の今後の課題について述べた.
著者
羽根田 貴行 小林 万里 田村 善太郎 高田 清志 小川 泉
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.35-43, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
17

厚岸地域大黒島のゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)の上陸個体数は,近年増加傾向にある.それに伴い,大黒島に隣接する厚岸湾での漁業被害が深刻化している.しかしながら,被害物は痕跡が残り難いことから,実際に本種がどれくらいの漁獲物を捕食しているのか,漁業への影響の程度は明らかではない.本研究では,厚岸湾を利用するゼニガタアザラシの漁業への影響の程度を評価することを最終目標とし,いつ,どのような個体が,どれくらいの頻度で厚岸湾を利用しているかを明らかにすることを目的とした.厚岸湾で2個体に衛星発信機を装着したところ,両個体とも,厚岸湾の利用場所は湾内の小定置網と重なっており,極めて浅く短い潜水を行っていることが明らかになった.また,初春以降,両個体とも厚岸湾の利用が見られなくなり,それぞれ厚岸湾外と釧路へと移動した.両個体の移動時期は厚岸湾の小定置網漁が終わる時期とも一致していたことから,厚岸湾で両個体が餌としていた魚の分布が変化したことによって,ゼニガタアザラシも餌場を変えたと考えられた.これらの結果から,ゼニガタアザラシにとって厚岸湾は,初春に,成獣個体だけでなく採餌経験が未熟な未成熟個体にも,上陸場から近く水深が浅いため長時間滞在できる餌場であると考えられた.初春を過ぎるとゼニガタアザラシは厚岸湾から別の場所への餌場の変化がみられ,成獣はより上陸場に近く水深の深い餌場を利用し,幼獣は広範囲に移動しながら餌場の探索を長時間行なっていた.これらの違いは成獣と幼獣で餌場の学習や採餌経験の豊富さから発生しているものと考えられた.
著者
出口 善隆 村山 恭太郎
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.37-41, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
20

岩手県盛岡市で新規に分布域が拡大したニホンジカ(Cervus nippon)個体群の生息地利用と性別割合を2年にわたり赤外線センサー付きカメラを用いて調べた.時間帯毎の撮影頭数には有意な偏りがあり,林地では日の出と日没前後に撮影頭数が増加したのに対し,果樹園では日没前後と深夜に撮影頭数が増加した.また,調査期間を前期(2011年12月~2012年11月)と後期(2012年12月~2013年11月)に分け,ニホンジカの撮影頻度と性別割合を比較したところ,後期には撮影頻度が2倍に増加し,雌の撮影割合が増加した.
著者
佐藤 喜和 湯浅 卓
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.101-107, 2008-06-30
参考文献数
46
被引用文献数
12

ヘア・トラップによる非侵襲性サンプリングおよび遺伝マーカーを用いた個体識別による捕獲再捕獲法に基づく個体数推定がクマ類を対象に広く実施されるようになり,日本でも各地でこの手法の適用に向けた試行錯誤が進められている.この方法には,動物を捕獲する必要がない,捕獲を伴う方法よりも広い範囲でサンプリングが実施できる,生け捕りに比べ偏りのないサンプリングが期待できる,遺伝マーカーによる標識であるため消失する心配がないなどの利点がある.このように理論的には高い可能性を秘めた方法であるが,方法の全体像を理解することなく安易に導入しても,信頼できる個体数は推定できない.日本の実情に,より適した方法論を再検討して行く必要がある.そこでヘア・トラップを用いた個体数推定法を行うための手順,すなわちトラップの構造,調査地の選定とトラップの配置,サンプリング,DNA分析による個体識別,および個体数推定に用いるモデルについてそれぞれ整理し,注意すべき点とともにまとめた.<br>
著者
江成 広斗 渡邊 邦夫 常田 邦彦
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.43-52, 2015

2014年5月に鳥獣保護法は改正され,増加傾向にある野生動物の捕獲事業は今後より重視されることとなる.戦後,ニホンザル(<i>Macaca fuscata</i>)は狩猟鳥獣から除外されたものの,農作物被害の軽減を目的に捕獲は増加の一途をたどっており,その数は2010年に2万頭を超えた.捕獲は被害対策のオプションとして以前から各地で採用されてきた一方で,その実態や有効性についてこれまでほとんど検証されてこなかった.そこで,これからのニホンザル捕獲施策の効果的な運用に資することを目的に,本種の捕獲を実施している全国の542市町村を対象に,現行の捕獲事業の実態とその有効性を評価するアンケートを2009年に実施した.回答数は366,回収率は67.5%であった.主な結果として,(1)特定鳥獣保護管理計画の策定割合が高い東日本を含め,多くの市町村で「有害鳥獣捕獲」による駆除が重視されている,(2)捕獲は市町村が主体となり猟友会に一任する構図が全国共通である,(3)曖昧な捕獲数の算定根拠が各地の市町村で散見される,(4)捕獲手法として銃の利用が全国共通で主流である一方,多頭捕獲が可能な中・大型罠による捕獲は近畿・東海・四国に限られる,(5)多くの市町村で捕獲効果の有効性について判定できておらず,その原因としてモニタリング体制の不備,及び捕獲目的の曖昧さが考えられる,(6)多頭捕獲を実施している市町村で被害軽減効果が実感されているケースがある一方で,多くの市町村で捕獲技術が普及していない,などが確認された.これらの結果をもとに,本稿ではニホンザル捕獲という対策オプションの今後の課題について考察した.
著者
中園 美紀 岩佐 真宏
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.59-65, 2015

本研究では,地表棲小型哺乳類の生態研究への応用を目的とした自動撮影センサーカメラの使用法を検討した.まず通常の水平方向での撮影を行ったところ,被写体はきれいに撮影されるものの,種同定に重要な情報になり得る体サイズを把握することができなかった.そこで,被写体の焦点距離を一定にできるよう,三脚に自動撮影センサーカメラを固定して上方から垂直方向に撮影する方法を試行した.その際,地面には10 mmメッシュの方眼が描かれたカッターマットを敷き,そのマット中央に誘因用の餌(オートミール)が入った釣り用のサビキカゴを固定して設置した.またカメラバッテリーを24時間以上維持させるため,撮影のインターバルを1分間とした.その結果,ほぼ一定の倍率で被写体が撮影され,体サイズを計測することが可能になり,尾長等からドブネズミ<i>Rattus norvegicus</i>やヒミズ<i>Urotrichus talpoides</i>は容易に同定可能であった.一方,形態の酷似するアカネズミ<i>Apodemus speciosus</i>とヒメネズミ<i>A. argenteus</i>は,眼球直径と左右の眼球間の外縁幅と内縁幅の差を用いることで正確に同定できた.さらに本使用法により,アカネズミの活動時間帯について,2013年11月~2014年10月に神奈川県藤沢市石川丸山谷戸で調査したところ,日没前後から日出前までの時間帯に撮影されたことから,先行研究と同様,本種はほぼ夜行性であることが示唆された.したがって,本研究で検討した自動撮影センサーカメラの使用法は,地表棲小型哺乳類の生態研究に活用できることが明らかになった.
著者
須田 知樹 森田 淳一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.231-241, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
27

本研究は,アカネズミ(Apodemus speciosus),ヒメネズミ(Apodemus argenteus),ハタネズミ(Microtus montebelli)の3種が混在する環境下において,正準判別分析を用いた足跡法による種の識別可否を検討した.捕獲した野生個体を飼育して得た足跡では,アカネズミは前足,後足どちらの足跡を用いても95%前後の識別精度が得られ,ハタネズミにおいては前足では85%,後足では90%以上の識別精度が得られた.しかし,ヒメネズミにおいては前足では20%,後足を用いても60%程度の識別精度しか得られず,前足では65%弱,後足では40%弱がハタネズミに誤判別された.さらに,2009年に栃木県奥日光地域において,アカネズミ,ヒメネズミ,ハタネズミの3種に関して,足跡法により得た足跡をこの正準判別分析を用いて種を識別して算出した足跡数と,捕獲法により得た結果を比較したところ,足跡法と捕獲法の結果の間にハタネズミにおいては有意な相関関係が見られたが,アカネズミとヒメネズミにおいては,有意な相関関係は見られなかった.足跡法は直接的に密度指標に用いることはできないが,費用対効果を考えれば,価値ある手法と言えるだろう.
著者
江村 正一 奥村 年彦 陳 華岳
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.37-43, 2009-06-30
参考文献数
41

レッサーパンダの舌表面を肉眼にて観察し,さらに舌乳頭およびその結合織芯を走査型電子顕微鏡で観察した.肉眼所見では,舌の先端は円く弓状を呈し,舌正中溝および舌隆起は観察されなかった.茸状乳頭は舌体に比し舌尖において密に存在した.有郭乳頭は,舌体後部において円形を呈し,V字形に並んで左右それぞれ5個観察された.葉状乳頭は観察されなかった.走査型電子顕微鏡により舌尖および舌体の糸状乳頭を観察すると,シャベル状の主乳頭とその左右から突き出た数本の針状の二次乳頭からなった.糸状乳頭の結合織芯の形態は,基部から多くの小突起がでる構造として観察され,舌尖と舌体とで異なった.すなわち,舌尖の結合織芯は舌体のやや小型であり,舌尖の中でも外側の方が内側より細く針状構造を呈した.茸状乳頭はそれら糸状乳頭の間にドーム状構造として散見され,舌体より舌尖に多かった.茸状乳頭の結合織芯は,円柱状を呈しその頂上には陥凹が存在した.有郭乳頭の表面は平坦で,乳頭は輪状郭により取り囲まれ,乳頭と輪状郭の間に輪状溝が存在した.有郭乳頭の結合織芯は,球状で表面には多数の突起が存在した.有郭乳頭の外側には,大型の円錐乳頭が見られるとともに多数の分泌腺の開口部が観察された.このような開口部は上皮を剥離するとより顕著となった.<br>
著者
河合 久仁子 福井 大 松村 澄子 赤坂 卓美 向山 満 Armstrong Kyle 佐々木 尚子 Hill David A. 安室 歩美
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.239-253, 2007 (Released:2008-01-31)
参考文献数
29
被引用文献数
1

長崎県対馬市において,コウモリ類の捕獲調査を2003年から2006年にかけて行った.その結果,26カ所のねぐら情報を得ることができ,2科4属6種(コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus,キクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum,ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus,モモジロコウモリMyotis macrodactylus,クロアカコウモリMyotis formosus,およびコテングコウモリMurina ussuriensis)のべ267個体のコウモリ類を捕獲,あるいは拾得した.これらのうち,クロアカコウモリは38年ぶりに生息が確認された.
著者
横畑 泰志
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, 2003-06-30
被引用文献数
1