著者
中野 晃生 西原 昇吾
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.177-179, 2005 (Released:2006-12-27)
参考文献数
12

石川県珠洲市の農業用水池で駆除されたオオクチバス Micropterus salmoides の胃より得られた小型哺乳類は, ヒミズ Urotrichus talpoides と同定された. 含まれていたものは, 下顎骨, 表皮と前肢, 後肢及び尾であった. また, ヒミズが摂食された過程について考察した.
著者
大西 尚樹 安河内 彦輝
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.177-180, 2010 (Released:2011-01-26)
参考文献数
8
被引用文献数
4

九州ではツキノワグマ(Ursus thibetanus)は,1987年に大分県で捕獲されたのを最後に捕獲および生息を示す確実な根拠はなく,現在では絶滅したと考えられている.1987年に捕獲された個体については,野生個体であるとされているが,他地域から移入された個体の可能性も指摘されている.今回,この個体の由来を明らかにすることを目的として,ミトコンドリアDNA解析を行った.調節領域704塩基の配列を決定し,すでに発表されている系統地理学的研究の結果と比較したところ,同個体のハプロタイプは福井県嶺北地方から岐阜県西部にかけて分布しているものと同一だった.このことから,同個体は琵琶湖以東から九州へ移入された個体,もしくは移入されたメス個体の子孫であると結論づけられた.
著者
大森 鑑能 阿部 奈月 細井 栄嗣
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.193-214, 2023 (Released:2023-08-03)
参考文献数
94

植物は消費者による摂食を回避するために様々な被食防御物質を含んでいる場合がある.そのひとつであるタンニンは渋みの成分であり,消費者に対してタンパク質の消化率を減少させたり,消化管に損傷を与えたりするなど有害な影響を及ぼす.しかしタンニンは植物界に広く分布しているとされながら,日本ではその分類学上の分布情報は限られていた.本研究は植物界におけるタンニンの分布をスクリーニングすることを目的として,117科349種の植物のタンニン含有率を調査した.その結果,哺乳類の採食記録のある植物を含む174種(49.9%)でタンニンが検出された.哺乳類のタンニンを含む植物資源に対する選択性や生理学的な応答については未だ不明な点が多く,今後哺乳類の詳細な食性研究と共に,植物と消費者間の相互作用に関する生理学的な研究の発展が期待される.
著者
大西 尚樹 今田 日菜子 一ノ澤 友香
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.21-30, 2022 (Released:2022-02-09)
参考文献数
24
被引用文献数
1

岩手県ではイノシシ(Sus scrofa)は明治期に絶滅したが,2007年以降県内各地で目撃されるようになった.岩手県におけるイノシシの出没情報(目撃,被害,捕獲)をまとめ,分布拡大の変遷を明らかにした.さらに,種の分布モデル(Species Distribution Model)を用いて,今後のイノシシの出没確率を予測した.2007年に奥州市で1件目撃された後,2010年まで岩手県内では目撃がなかったが,2011年より県南部を中心に目撃が増え,2018年には全県的に目撃されるようになった.被害は2012年から発生し,2014年から2017年にかけて増加した.この状況から2007年~2010年を移入期,2011年~2017年を拡大期,2018年以降を定着期と呼べるだろう.種の分布モデルによるイノシシの出没確率は標高,植生,土地利用データを組み合わせて用いることで,高い精度で予測することができた.2017年までの出没データを用いて出没確率を予測し,2018年および2019年に実際に出没した地点と比較したところ,予測確率が高い地点ほど実際に出没していることが確認された.今後は,出没確率の高い地域から生息密度が高まり,イノシシが出没するようになることが予測される.
著者
池田 敬 野瀬 紹未 淺野 玄 岡本 卓也 鈴木 正嗣
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.141-149, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
33

To reduce the population size of sika deer, efficient operation of snare traps is necessary. However, there have been few studies on the sika deer’s response to snare trap capture. We aimed to compare sika deer’s vigilance behavior and stay time at the trap sites before and after snare trap captures. We also monitored the frequency of appearance at trap sites and in the surrounding area. This study was conducted from August 2019 to February 2020 to collect data on the vigilant behaviors, stay time, and frequency of appearance in photographs. We found that vigilance behavior during the capture phase was higher than before the capture phase and remained high afterwards. Although the frequency of appearance in photographs at the capture sites was highest before the capture phase, no significant differences were detected in the frequencies at the surrounding sites throughout the study period. This result indicates that it would be desirable to relocate snare traps and bait from trap sites to the surrounding areas after capturing sika deer in the target area. Consequently, it is possible that snare traps can continue to be used to capture sika deer and effectively reduce their population.
著者
小寺 祐二 竹田 努 平田 慶
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.9-18, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
12

本研究では,イノシシ(Sus scrofa)における放射性セシウム汚染の経時的変化,および放射性セシウムの体内への入出状況を推測するため,福島第一原子力発電所から約100 kmの場所に位置する,栃木県那珂川町のイノシシ肉加工施設に搬入されたイノシシの咬筋,胃内容物および直腸内容物,尿の放射能量を計測した.咬筋については,原発事故前の2010年12月から2011年2月に捕殺した18個体(そのうち,13個体が栃木県,3個体が福島県,2個体が茨城県で捕獲)と,原発事故後の2011年3月27日から2013年1月17日の期間中に捕殺した288個体(そのうち281個体が栃木県,4個体が茨城県で捕獲.3個体は捕獲場所情報なし)について放射能量を計測し,3ヶ月毎の推移を評価した.なお,今回イノシシが捕獲された地域のうち,栃木県は,地表面への放射性セシウムの沈着量が10,000 Bq/m2以下,茨城県は10,000–30,000 Bq/m2以下であった.分析の結果,原発事故後に上昇した放射能量が,事故後10–18ヶ月後には一度低下し,事故後19–24ヶ月後に再び上昇しており,経時的変化が確認された.胃内容物は2011年9月8日から2013年1月17日,直腸内容物は2011年11月10日から2013年1月17日,尿は2011年11月14日から2012年2月20日の期間中に試料採取を実施した.胃内容物の放射能量については,経時的変化が確認され,事故後4–9ヶ月後まで高い値を示したが,事故後10ヶ月以降は低下した.また,咬筋と胃内容物の放射能量との間に明瞭な相関は見られなかった.直腸内容物の放射能量については,経時的変化が確認されなかったが,咬筋の値よりも高くなる傾向が確認された.尿の放射能量は,咬筋よりも低い値を示した.今回の結果では,胃内容物と筋肉の放射能量に明瞭な関係は見られず,直腸内容物の放射能量が常に高い値を示した.そのため,胃内容物中の水分や栄養素がイノシシの体内に吸収された一方で,放射性セシウムの一部は吸収されず,直腸内容物内で濃縮された上,排出されている可能性が考えられる.地表面への放射性セシウムの沈着量が少ない場合,環境中の放射性セシウムがイノシシ体内に吸収されるか否かについては,その存在形態(イオン交換態や,有機物結合態,粘土鉱物等との結合態など)に強く影響されると考えられる.そのため,本調査地域と同様の環境において,今後イノシシ体内における挙動を検討するためには,イノシシが吸収可能な放射性セシウムがどの程度存在し,その何割が実際に吸収されるのかを把握した上で,糞および尿から排出される放射性セシウムの量について精査する必要があるだろう.
著者
伊吾田 宏正 松浦 友紀子 八代田 千鶴 東谷 宗光 アンソニー デニコラ 鈴木 正嗣
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.103-109, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
13
被引用文献数
2

2014年の鳥獣保護管理法の改正により,条件付きでニホンジカ(Cervus nippon)の夜間銃猟が可能となったが,実施にあたっては,入念な計画,戦略,戦術が不可欠であり,無計画,無秩序な夜間銃猟はシカの警戒心を増大させ,むしろ捕獲を困難にする可能性が懸念される.そこで,効果的な夜間銃猟実施のための基礎情報を収集することを目的に,夜間のシカ狙撃に多数の実績を持つホワイトバッファロー社において,夜間を含む狙撃の実射訓練に参加した.2016年8月5日から7日まで,3日間でのべ約10.0時間の射撃場における射撃訓練及び試験,のべ約4.5時間の移動狙撃訓練コースにおける射撃訓練,のべ約4.5時間のシカ実験区におけるシカ狙撃実習,のべ約2.5時間の主に装備に関する室内講義,のべ約1.5時間以上の質疑応答を含む,合計約23時間以上の訓練を受けた.サウンドサプレッサー,光学スコープを装着したヘヴィーバレルの5.56 mm口径のライフルを用いて,100 m以下の様々な距離の標的およびシカを狙撃した.夜間狙撃はシカ管理の最終手段であり,射手はシカ個体群の警戒心を増大させないように,群れを全滅させることが求められる.そのためには,群れの全てのシカの脳を迅速に狙撃すべきであるが,それには徹底的な訓練が必要である.今後,我が国で夜間銃猟を安全かつ効果的に推進していく上で,捕獲従事者に高度な射撃技能ならびに野生動物管理に関する総合的な知識・技術を修得させるためのプログラムの構築が不可欠である.
著者
姉崎 智子 坂庭 浩之
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.59-63, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
8

群馬県において1999年から2010年の間に回収された30体のアナグマの剖検を行った結果,29体のアナグマの膵臓に腫瘤の形成と多数の線虫の寄生を確認した(感染率96.7%).腫瘤の大きさは1.0~6.8 cmと幅があり,中には複数の腫瘤が集まり1つのかたまりを形成しているものも確認された.寄生虫はアナグマ1頭あたり3~266匹が確認され,虫体の形態的特徴を観察した結果,Tetragomphius melisと同定された.T. melisに寄生されたアナグマに削痩などの傾向は認められないことから,線虫による宿主への影響は少ないものと推察された.本稿ではそれらの概要について報告した.
著者
矢竹 一穂 阿部 學
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.265-277, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
37

From February, 1984, to June, 1986, twenty-one Japanese squirrels (Sciurus lis; 11 males, 10 females) were reintroduced into Shinjuku Gyoen (58 ha) in central Tokyo. However, squirrels were not observed since December 1987. This report summarizes the issues related to the reintroduction of squirrels based on the results of this project and the ecological knowledge on squirrels produced by subsequent research. Approximately 36 ha of the forest were used by squirrels. The main foods were walnut and Lithocarpus edulis acorn from feeding stands, seeds of Pinus thunbergii, P. densiflora, exotic conifer trees, and Castnopsis cuspidata var. sieboldii acorn. Three carcasses of squirrels predated by Felis catus were confirmed, and Corvus spp. chased the squirrels. The squirrels did not settle because the forest area of the site was not sufficient considering the home range of squirrels; there was no habitat to move to close by, and dependence on acorns as forage was overestimated. Issues: 1) forest area of the site corresponding to the home range size of squirrels, 2) conservation of forests with diverse tree species, and 3) management of feral cats and crows as predators.
著者
篠原 明男 山田 文雄 樫村 敦 阿部 愼太郎 坂本 信介 森田 哲夫 越本 知大
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.335-344, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
38
被引用文献数
2

アマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)は奄美大島に生息し,性染色体がXO/XO型(2n=25)という特異的な生物学的特性を持っているが,絶滅に瀕している.そこで本研究ではアマミトゲネズミの保全および将来的な実験動物化を目的として,その長期飼育を試みた.鹿児島県奄美大島で捕獲されたアマミトゲネズミ7個体(雌6個体,雄1個体)を,一般的な実験動物と同様の飼育環境(環境温度23±2°C,湿度50±10%,光周期L:D=12h:12h)に導入し,実験動物用の飼育ケージ,給水瓶,床敷きを用いて飼育した.飼料はスダジイ(Castanopsis sieboldii)の堅果,リンゴおよび実験動物用飼料を給与した.導入した7個体のうち6個体は937~2,234日間生存し,平均して4年以上(1,495.8±434.3日)の長期飼育に成功した.体重変動,飼料摂取量,摂水量および見かけの消化率の結果から,本研究に用いた実験動物用飼料はアマミトゲネズミの長期飼育に適していると考えられた.また,中性温域は26°C以上である可能性が示唆された.さらに,本種は飼育下においても完全な夜行性を示すことが明らかとなった.本研究によりアマミトゲネズミの終生飼育には成功したものの,飼育室下における繁殖の兆候は一切観察されなかった.今後,アマミトゲネズミの保全および実験動物化を目的とした飼育下繁殖には,飼育温度条件の見直しが必要であると考えられる.
著者
安藤 元一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.165-176, 2005 (Released:2006-12-27)
参考文献数
36
被引用文献数
6

環境影響評価や環境教育の場における巣箱調査の効率向上に資するため, 樹上性齧歯類の巣箱利用を東京都, 神奈川県, 山梨県, 石川県および滋賀県の天然針葉樹林, 落葉樹林, スギ造林地および寺社境内の16カ所において延べ2,664個の巣箱を用いて調査した. ニホンモモンガは天然針葉樹林で最高27%の宿泊率を記録し, 落葉樹林では調査地毎の差が大きかった. ヤマネは落葉樹林を好んだが, 利用率は他種より低かった. ヒメネズミは造林地を含め最も普遍的な巣箱利用者であった. 各調査地の8~11月における平均巣箱痕跡率は, ニホンモモンガで5%, ヤマネで2%およびヒメネズミで10%であった. モモンガとヒメネズミは巣材によって生息を確認できるが, ヤマネについては宿泊個体の現認による慎重な調査が望まれる. 各調査地における最初の巣箱利用痕跡は, 概ね設置1年以内に確認可能であり, 利用度の経年変化は見られなかった. 巣箱は夏季に多く利用され, 巣箱サイズは利用率に影響しなかった. 春に巣箱を設置し, 鳥類繁殖期をさけて夏~秋の数カ月間に延べ300個程度の巣箱を点検すれば, 複数年の調査をしないでも調査地の樹上性齧歯類相はおおむね把握できるといえる.