著者
高中 健一郎 安藤 元一 小川 博 土屋 公幸 吉行 瑞子 天野 卓
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-9, 2008-06-30
被引用文献数
1

小型哺乳類の側溝への落下状況を明らかにすることを目的とし,静岡県富士宮市にある水が常時流れている約1.5 kmの側溝(深さ45 cm × 幅45 cm,水深10~25 cm,流速約1.3~1.6 m/s)において,2001年6月から2004年9月の間に落下個体調査を131日行った.その結果,食虫目6種,齧歯目7種,合計2目3科13種152個体の落下・死亡個体が確認でき,側溝への落下は1日あたり平均1.16個体の頻度で起きていることが明らかになった.落下していた種は周辺に生息する小型哺乳類種の種数81%に及び,その中にはミズラモグラ(<i>Euroscaptor mizura</i>)などの準絶滅危惧種も含まれていた.また,ハタネズミ(<i>Microtus montebelli</i>)の落下が植林地より牧草地において顕著に多くみられ,落下する種は側溝周辺の小型哺乳類相を反映していると思われた.側溝への落下には季節性がみられ,それぞれの種の繁殖期と関連している可能性が示唆された.以上のことから,このような側溝を開放状態のまま放置しておくのは小動物にとって危険であり,側溝への落下防止策および脱出対策を講じる必要があると考える.<br>
著者
鈴木 圭 鳥居 春己
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.199-205, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
29

本報では静岡県浜松市における,2種の外来リス(クリハラリスCallosciurus erythraeusおよびフィンレイソンリスC. finlaysonii)の分布拡大状況を報告する.これまで浜松市では,これらの外来リスの分布域は東名高速道路の南側の緑地に接しており,東名高速道路が外来リスの分布拡大を遅らせる障壁となっていると考えられていた.しかし本調査の結果,外来リスの分布域はすでに東名高速道路を越えて北側まで広がっていることがわかった.その分布域は東名高速道路から北側に約2 km離れた緑地にまで拡大していた.本調査で明らかにされた分布の最前線から連続した山塊まではわずか7 kmしか離れておらず,それらの間に緑地や小さな林が点在していることから,外来リスの分布域は容易に拡大しそうであり,今後山塊に到達する可能性が高い.山塊における外来リスの根絶は困難になることが予測されるため,分布域がこれ以上広がる前に早急な対応が必要である.
著者
船越 公威 大沢 夕志 大沢 啓子
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.179-184, 2012-12-30

これまで沖永良部島においてはオオコウモリの分布記載がなく,また生息についても断片的な情報しか得られておらず,生息の有無を確定することができなかった.しかし,住民への聞き取りおよび記録写真等で2003年3月にオリイオオコウモリ<i>Pteropus dasymallus inopinatus</i>の生息が判明した.また,2011年6月に本種の成獣雄個体が捕獲された.同年10月と12月,2012年1月に本種が目撃された.加えて,2012年2月における精査で,少なくとも4頭の生息を確認し,この時期の食物としてギョボク<i>Crataeva religiosa</i>,オオバイヌビワ<i>Ficus septica</i>,モモタマナ<i>Terminalia catappa</i>およびアコウ<i>Ficus superba</i>の果実が利用されていた.以上の観察結果等から,オリイオオコウモリは沖永良部島において個体数は極めて少ないものの,1年を通じて他の島への季節的な移動もなく定住しうると考えられた.<br>
著者
島村 咲衣 安藤 正規 鶴田 燃海 永田 純子 淺野 玄 大橋 正孝 鈴木 正嗣 小泉 透
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.55-65, 2020 (Released:2020-02-14)
参考文献数
47

近年,日本各地でニホンジカ(Cervus nippon)による林業被害や森林生態系への影響が報告されている.狩猟者の減少や高齢化によって捕獲努力量が伸び悩む中でも森林への被害を軽減させるために,例えば北米において考案されている,オジロジカ(Odocoileus virginianus)母系集団の強い定住性を利用したLocalized Management法のような,被害防除に効果的な個体数調整手法の適用を検討していく必要がある.しかし,ニホンジカ地域集団内の母系集団の規模がオジロジカと同様であるかは不明であり,本手法の適用の可否は不明である.さらに,既存のマイクロサテライトマーカーによってニホンジカの母系集団を検出できるか否かも明らかになっていない.そこで本研究では,ニホンジカ母系集団の検出を目指してマイクロサテライトマーカーの解析能力を検討し,空間的な遺伝構造の検出可能スケールについて検討した.国内4地域(北海道,静岡,岐阜,宮崎)で捕獲された計251個体(胎子63個体を含む)を解析に用い,マイクロサテライトマーカー17座の遺伝子型を決定した.遺伝子座ごとの対立遺伝子数(Na)は3~18となり,オジロジカの値と比較して少ない傾向にあった.個体識別能力の指標PID-siblingを算出した結果,本研究では多型性の高い上位4座を用いて個体識別が可能であった.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性を評価するため,全集団平均の遺伝子分化係数(G’ST),各集団のNa,対立遺伝子数の期待値およびヘテロ接合度の期待値を算出した.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性はどちらも低い傾向がみられた.地域集団間および地域集団内において,STRUCTUREを用いた遺伝構造解析では,北海道および宮崎の集団は明瞭にそれぞれ独立のクラスターが構成されるものの,中部(静岡・岐阜間)の遺伝構造は不明瞭になるケースが確認された.一方で,地域集団内の遺伝構造(母系集団)は検出されなかった.胎子63個体を使っておこなった母性解析では,胎子を妊娠していた真の母親を推定できた確率は約20%にとどまった.本研究では,北海道,中部および宮崎の地域集団間の遺伝構造を明瞭に検出できたが,地域集団内の母系集団は検出できなかった.そのため,サンプル数のもっとも多かった静岡集団においても,Localized Managementの適用が可能な個体群であるとは断定できなかった.それは,各マイクロサテライトマーカーの多型が少ないことが原因であり,日本国内のニホンジカが過去に経験した個体数の減少によるボトルネック効果を反映していると考えられた.
著者
田口 美緒子 吉岡 基 柏木 正章
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.11-17, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
27
被引用文献数
3

三河湾湾口部におけるスナメリの分布密度の季節変化を明らかにすることを目的として, 2002年8月から2004年9月の海況の良い日に伊良湖―師崎間を航行するカーフェリーに乗船し, ライントランセクト法による目視調査を実施した. 観察者は調査期間中に7,153 kmを調査し, 224群780頭 (うち19組は親仔連れ) のスナメリを発見した. 三河湾湾口部における分布密度は, 冬季から春季にかけて増加 (0.06-2.22 頭/km2) し, 夏季から秋季にかけて減少 (0-0.22 頭/km2) する傾向を示した. この結果と先行研究との比較から, 伊勢湾・三河湾に生息するスナメリは, 秋季に湾外まで分布域を広げる可能性が考えられた. また, 発見頻度の高い冬季および春季の群れサイズが15時以後に大きくなったことと飼育下のスナメリで報告されている採餌量の日周変化から, 三河湾湾口部は, 冬季から春季におけるスナメリの採餌海域の一部であると考えられた.
著者
足立 高行 植原 彰 桑原 佳子 高槻 成紀
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.17-25, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
36
被引用文献数
2

2006年から2012年までの7年間,山梨県北部の乙女高原のホンドテンMartes melampus melampusの食性を糞分析法により調べた(n=756).秋と冬のベリー(多肉果実,出現頻度80%以上),夏の昆虫類(40~80%),冬と春の哺乳類(60~80%)が特徴的だった.哺乳類ではネズミ類が高頻度(30~50%)で,ニホンジカCervus nipponは10%未満だった.昆虫類ではセミの幼虫(46.7%)とカマドウマ類(10~40%)が高頻度であった.ベリーの種子が非常に高頻度に出現したが,そのうちサルナシActinidia arguta(33.6%)とヤマブドウVitis coignetiae(19.5%)の種子は秋から冬にとくに頻度が高かった.出現した種子10種3属のうちの約半数(5種1属)は林縁種であり,その頻度は種子全体の79.9%に達し,調査地の群落面積を考えると強く林縁種に偏っていた.ホンドテンは森林性とされるが,果実利用という点では林内ではなく林縁に偏った利用をすると考えられる.シカの出現に年変動は認められず,2006年時点ですでに利用が始まっていたと判断された.
著者
山﨑 晃司 佐伯 緑
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.47-54, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
6

GPS機能付き携帯電話(FOMA)端末に増設バッテリーパックを接続した上で首輪ベルトに包埋を行い,定置試験と共に,アライグマ野生個体への装着を行った.首輪システムの総重量は215 gで,VHF発信器を加えた場合のシステム総重量は300 gであった.定置試験(n=3)での測位データ送信のための通信成功率は99.5~100%で,測位誤差は12.0~16.5 mであった.野生個体への装着例(n=7)では,電池充電が適正に行われた場合の平均稼働日数で25.3日間であったが,計算上より短かった.通信成功率は夜間(59.9%)と日中(38.0%)で有意に差があった.夜行性のアライグマは,昼間は遮蔽物(樹洞,土穴,人家屋根裏)で休むため,通信圏外の状態になる割合が高くなることが考えられた.ただし夜間でも,通信成功率は定置試験に比較して低かった.アライグマ首高の地表付近では,携帯通信網の電波状態が安定しない可能性が考えられた.
著者
亘 悠哉 船越 公威
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.331-334, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1

リュウキュウテングコウモリMurina ryukyuanaによる日中ねぐらとしての枯葉の利用を徳之島において3例記録した.これにより,これまでにほとんど情報のなかった本種の自然条件下でのねぐら利用の一端が明らかになった.利用していた枯葉の樹種は,イイギリIdesia polycarpa,アオバノキSymplocos cochinchinensis,フカノキSchefflera heptaphyllaであり,これらに共通する特徴として,1枚1枚の葉が大きく,枯れると椀状に変形すること,また葉のつき方が放射状で,枝折れにより枝先の葉が枯れると複数の葉が合わさって群葉状になるという点が挙げられた.同属のコテングコウモリで記録されている幅広い日中ねぐら場所の利用形態を考慮すると,本種も枯葉以外の様々なタイプのねぐらを利用している可能性は十分に考えられる.今後,今回のような観察情報を蓄積することともに,行動の追跡調査などを進めることで,本種のねぐら利用の全体像の把握につながるであろう.
著者
宇野 裕之 立木 靖之 村井 拓成 吉田 光男
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.93-101, 2019 (Released:2019-08-23)
参考文献数
23

動物福祉(アニマルウェルフェア)に配慮したニホンジカ(Cervus nippon)の効率的な生体捕獲を行うためには,機動性が高く,安全に捕獲することが可能なワナの開発が求められている.二つのタイプの小型(1.8 m×4.4 m)の囲いワナ,アナログ式体重計を用いたタイプ(アナログ型)及びデジタル台秤を用いたタイプ(デジタル型)を開発し,2015年1月~3月及び2016年1月~2月にかけて,北海道浜中町の針広混交林内で野生個体を対象にした捕獲試験を行った.10回のワナの作動で,合計17頭(メス成獣6頭,メス幼獣8頭,オス幼獣3頭)のニホンジカを捕獲し,10回の内7回の捕獲で複数頭の同時捕獲に成功した.捕獲効率(ワナ1台×稼働日数当りの捕獲数)は,アナログ型では0.136~0.167頭/基日,デジタル型では0.444頭/基日であった.研究期間中の捕獲個体の死亡率は0%であった.ワナ設置に係る労力として,アナログ型では2~3人の作業で7時間,デジタル型では2人で10時間を要した.電源として用いた12 Vバッテリーは,厳冬期の気温が氷点下になる条件下で,6日間以上機能が持続することが明らかとなった.開発した小型囲いワナは,設置及び運搬が容易,安全性が高く,複数頭の同時捕獲が可能であり,消費電力も比較的小さいことが明らかとなった.
著者
阿部 豪 青柳 正英 的場 洋平 佐鹿 万里子 車田 利夫 高野 恭子 池田 透 立澤 史郎
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.169-175, 2006 (Released:2007-02-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2

箱ワナによる外来アライグマ捕獲における諸問題である 1)他動物の錯誤捕獲,2)小動物による餌の持ち逃げや誤作動,3)トラップシャイ個体の存在,4)捕獲個体によるワナの破壊と逃亡,5)ワナの購入・運搬・管理に係るコスト高などの改善を図るため,アライグマ捕獲用に開発されたエッグトラップ7個を用いて試用捕獲(200 trap nights)を行った.その結果,野生個体としては高齢のアライグマ2頭(5歳オス,6歳メス)をいずれも無傷で捕獲した.捕獲期間中に錯誤捕獲は1例もなく,また誤作動は本体内部が破損した1例だけだった.さらに,鉄杭にワナを吊るす設置法では,他動物による餌の持ち逃げも確認されなかった.今回の結果から,エッグトラップは一般的な箱ワナに比べて小型軽量,安価で,メンテナンスも容易であるため,箱ワナに代わるか,もしくは箱ワナとの併用によって,より捕獲効率を高めうる捕獲用具になる可能性が示唆された.
著者
久高 奈津子 久高 將和
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.195-202, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
13
被引用文献数
3

沖縄島北部のやんばる地域において,ケナガネズミDiplothrix legata(齧歯目ネズミ科)の食性を直接観察と食痕調査により明らかにした.餌品目には植物31種と動物10種が含まれた.摂食した植物の部位は種子22種,果実8種,葉3種,樹皮3種とさまざまであったが,ケナガネズミの食性は主に種子や果実に偏った雑食性であることが示された.また植物の生物季節(フェノロジー)の進行とともに摂食する樹種に変化も認められた.なおケナガネズミの繁殖期は,多様な果実・種子が実る時期と一致していた.本種にとって,餌資源の観点で好適な環境は,多様な植物種が時期をずらしながら通年結実する森林であると結論づけられた.
著者
土屋 公幸
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.101-106, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
27
被引用文献数
1
著者
間野 勉 大井 徹 横山 真弓 高柳 敦 日本哺乳類学会クマ保護管理検討作業部会
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.43-55, 2008-06-30
参考文献数
22
被引用文献数
4

日本に生息する2種のクマ類個体群の保護管理の現状と課題を明らかにするため,クマの生息する35都道府県を対象に,保護管理施策に関する聞き取り調査を2007年7月から9月にかけて実施した.調査実施時点で,11県が特定計画に基づいた施策を実施しており,9道県が特定計画の策定中あるいは策定予定と回答した.特定計画によらない任意計画に基づく施策を実施していたのは5道県であった.12都県はツキノワグマに関する何らかの管理計画,指針などを持たなかった.特定計画及び任意計画を実施している道府県の主な管理目標として,1)個体群の存続と絶滅回避,2)人身被害の防止,及び3)経済被害軽減の3項目が挙げられた.数値目標を掲げていた10県のうち8県が捕獲上限数を,2県が確保すべき生息数を決めていた.特定計画,任意計画の道府県を合わせ,捕獲個体試料分析,出没・被害調査,堅果豊凶調査,捕獲報告などが主要なモニタリング項目として挙げられた.また,個体数,被害防止,放獣,生息地,普及啓発などが主要な管理事業として挙げられた.地域個体群を単位として複数の府県が連携した保護管理計画は,西中国3県のみで実施されていた.被害に関する数値目標の設定とそのモニタリング,個体群動向のモニタリング手法の確立,地域個体群を単位としたモニタリング体制の確立が,日本のクマ類の保護管理上の最大の課題であると考えられた.<br>