著者
岡島 賢治
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.37-43, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
10

戦後多く整備されてきた土木施設は,現在日常的に存在し,また適切な管理が行われない場合にはその存在が失われる危険性を有している.このような性質は,現在環境教育で取り扱われている地球環境や生物多様性とほぼ同様の性質を持っている.筆者は近い将来これらの土木施設も環境の一部として認識され,環境教育の中で取り上げられるべきものと考えた.そこで,近い将来次世代を育成する立場に立つ教育学部の学生が現在,“環境”,“土木”という言葉にどのように印象をもつかを明らかにするアンケートを実施した.アンケート結果,教育学部学生には“土木”という言葉がほとんどに認知されておらず,“土木”の印象も“労働”に偏っていること,“環境”のイメージは初等中等教育において体験した環境教育と強くリンクしていることが明らかとなった.
著者
田中 皓介 神田 佑亮 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.39-57, 2015 (Released:2015-06-20)
参考文献数
16
被引用文献数
1

現在および将来の日本のために行われる公共事業をはじめとした公共政策を,適切に計画・実施するためには,社会についての適正な現状認識が不可欠である.一方で,政策決定に大きな影響力をもつ国民世論は,教育の影響を受けることが想定される.そのため,適切な事業の円滑な実施に向け,教育の現状を明らかにすることに意義があろう.そうした認識のもと本研究では,日本の現状を巡る認識について,現代社会についての見方や考え方の基礎を養うことを目的とする中学校公民の教科書を対象に,関連する記述を網羅的に抽出し,既存の文献を参考にしつつ,その内容について考察を行った.分析の結果,公共事業に関し,直接的に印象的かつネガティブな内容が掲載されている点,財政についての知識教育が現実と乖離している点などの問題が明らかとなった.
著者
松下 文哉 谷島 諒丞 小澤 一雅 永谷 圭司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.38-52, 2022 (Released:2022-06-20)
参考文献数
21

i-Constructionが目指す生産性向上の実現のためには,オープンイノベーションの取組みが重要視されている.本研究では,建設現場の生産性向上に向けたイノベーションを創出することを目的に演習プログラムを開発する.この演習プログラムでは実際の施工現場を模擬したモデル現場における施工計画,施工の疑似体験が可能であり,必要な制約条件を設けることによって受講者のイノベーションの創出を促す.また演習用に自動掘削ショベルを開発し,施工計画の中で自動化する範囲を検討し施工に組み込むことを可能とした.さらに,開発した演習プログラムを東京大学工学系研究科において実践し,この結果を分析しその有効性を確認する.
著者
大島 明 樋口 邦弘 鵜飼 恵三
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.45-53, 2011 (Released:2011-12-20)
参考文献数
8
被引用文献数
1

地方公共団体技術職員の技術力低下が心配されているが,その実態と原因を探る糸口として毎年報告されている会計検査院の検査報告に注目してみた.この報告の指摘事項を調べると同様な指摘事項やその繰返しであることに気づく.これらの指摘事項を分析して,見えてきたものはやはり地方公共団体技術職員の技術力低下であり,まず,その原因について考察する.次に,技術力向上を図るための対策・改善方法について考察する.併せて,筆者の具体的事例として,わかりやすく解説しているので指摘事項から学ぶこと,資格取得が有効であること.さらに,現場で工夫した内容を論文にまとめ投稿し発表することなどが,技術力向上に繋がることを紹介する.
著者
田中 皓介 森口 颯人 佐藤 俊一 寺部 慎太郎 栁沼 秀樹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.37-45, 2021 (Released:2021-10-20)
参考文献数
6

土木の社会的な印象の悪化に対し,土木業界では「土木」という言葉そのものを避ける事例も見られる.特にそれが顕著なものとして,多くの大学において学科名称から「土木」という言葉がなくなりつつある.しかし,現状では名称の変更が,学科の人気や所属する学生の意識に対してどのような影響を及ぼすのか,実証的な分析は行われておらず,名称変更の是非について建設的な議論ができない状況となっている.そこで本研究では,その影響を明らかにするために,複数の大学の土木系の学科に属する学生に対するアンケート調査,入試データや在学生属性のデータに基づき,学科名称が及ぼす影響を実証的に分析する.分析の結果,土木改名によって,女性比率の向上,建築学科との混同,土木志望度の低下などが生じうることが明らかとなった.
著者
宮里 心一 伊代田 岳史 白旗 弘実 小田 義也 塩見 康博 鶴田 浩章
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.1-9, 2019 (Released:2019-01-20)
参考文献数
23

グローバル化が進む中,学部と大学院修士課程における6年間の教育による土木技術者の育成が望まれている.この様な背景を踏まえて本論文では,社会で活躍する人材を大学・大学院で効果的に育成すべく,産業界で活躍するために必要な能力を整理した上で,それらを学生が習得するための授業について検討した.加えて,意欲の高い学部生が大学院へ進学する動機付けを精査した.その結果,コミュニケーション能力や論理的思考力等が産業界で求められており,それらは大学院の研究活動および研究室活動で顕著に育まれることを明らかにした.また,現場見学や技術者との交流により,学部生は土木が社会で役立つ本質を認識し,学習意欲の向上につながるとともに,大学院進学のきっかけになることを確認し,これらを盛り込んだ授業を整理した.
著者
谷口 綾子 宮川 雄貴 石田 東生
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.54-64, 2014
被引用文献数
3

本研究では,2010年8月に開通したかしてつバス導入経緯に着目した物語を整備関係者・利用者へのインタビューより作成し,職員教育の一環として沿線自治体職員にその物語の読了を要請することで,物語が自治体職員の地域愛着に与える効果を把握した.物語の効果計測調査では,物語を読む群,物語と同一の内容を年表にまとめた資料を読む群,統制群の3群を設定し,群間や物語の評価の高低により地域愛着等に差があるかを分析した.その結果,物語を高評価した人はバスへの愛着が高く,バス利用意図も高いことが定量的に示された.さらに,資料群の感想は即物的・個別的内容に限られたが,物語群の感想は,公共交通の大切さや人と人とのつながりの大切さといった普遍的な記述が多いことが示され,物語読了の効果を質的に把握することができた.
著者
上田 茂
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.31-42, 2018 (Released:2018-09-20)
参考文献数
16

戦後70年,我が国は経済復興を果たし,科学立国としてその地位を確立し,産業基盤および生活基盤となる道路,鉄道,港湾,ダムなどの社会基盤施設整備がなされ,国民は豊かで,便利で快適な生活を享受するまでになった.小学校教育の目標の一つは,「日常生活に必要な国語を,正しく理解し,使用する能力を養うこと」であるが,教材を通して自然科学,社会の発展などについても,関心を持たせるよう配慮するものとされている.その意味で,国民生活の安心・安全の要である社会基盤施設の整備について,初等教育において児童にその重要性を伝えることは重要であると考える.本論文では,戦後日本の小学校国語教科書における「土木とくらし」に係る教材の傾向を示し,課題と提言を述べる.
著者
宮原 史 堤 盛人
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.20-37, 2022 (Released:2022-03-20)
参考文献数
34

社会資本の整備や維持管理を支える土木技術者の力量,すなわち技術力は,学校教育や研修のみならず様々な業務上の経験を通じた学習によって向上すると考えられる.しかし,これまでのところ,土木技術者の技術力と“経験”の関係については十分な考察がなされていない.土木技術者の戦略的な人材育成を実現するためには,様々な経験の技術力向上効果を明らかにするとともに,経験を人材育成のシステムに組み込む方法を確立する必要がある.本研究ではその手始めとして,道路構造物を維持管理する技術力の向上を目的とした地方整備局職員の研究所への出向経験に着目し,インタビュー結果の分析に基づき経験を通じた学習内容と技術力向上効果を整理する.また,これらの整理を踏まえて,経験を人材育成のシステムに組み込む方法論を提示する.
著者
新保 泰輝 寺山 一輝 越野 亮 沖野 浩太朗 荒木 光一 吉田 龍史
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.1-9, 2022 (Released:2022-01-20)
参考文献数
16

頻発激甚化する自然災害による被害を低減するためには住民自らが常日頃から災害渋滞時の避難行動を学習し,適切な避難経路を考える必要がある.本研究では,災害時に生じる渋滞を考慮した避難経路を学習できる「防災すごろく」のアプリケーション(アプリ)を開発した.本アプリではランダムな出発点から避難所に向かう間に豪雨,火災,渋滞の発生に伴う避難方法や避難経路の変更を学ぶことができる.また,ゲーム性を考慮し,グループ同士で得点を競うことや防災クイズを実施することで学習意欲の向上を図った.更に,災害疑似体験ならびにゲームに対する慣れを軽減するためにVRコンテンツを用いた災害表現を行っている.本アプリによる防災教育を行い,アンケートを実施した.その結果,本アプリの学習効果が示されると共に課題も明らかになった.
著者
川端 光昭 阪上 弘彬
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.25-34, 2020 (Released:2020-03-20)
参考文献数
23

土木の社会的役割・責任を理解した土木技術者の育成のためには,専門科目を学習する初期段階からシティズンシップの醸成を視野に入れた授業カリキュラムの展開が必要である.本稿では,高等専門学校の低学年を対象に,土木と地理が連携したモビリティ・マネジメント教育の実践内容を報告するとともに,この学習成果を分析し今後の授業展開に向けた知見を得ることを目的とする.学習成果の分析の結果,学生は地理で事前に学習した知識を土木分野の具体的社会問題(本稿で言えば岐阜市へのLRTの導入是非)に対応づけて考察できていることを確認した.一方で,交通計画や都市計画に関する専門知識の習得が進めば賛否態度が変容すると思われる思考過程も確認できたことから,学習段階(学年)に応じたカリキュラム設計が今後の課題と言える.
著者
田中 輝彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育)
巻号頁・発行日
no.1, pp.7-14, 2009

土木系学生の初学年オリエンテーション授業,高校生や親子教室,ロータリークラブなど一般対象の教室において土木技術をわかりやすく解説するための教材開発に取り組み,その考え方と教育効果を紹介する.教室で進める授業では身近な事例を示すことによって理解を深めることに留意し,簡単な実験を目の前で行う,あるいは受講者自らが実施することによって各種構造物の機能や土木工学の基礎知識を教育する効果が実証的に確認された.
著者
高田 知紀 近藤 綾香
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.20-34, 2019 (Released:2019-07-20)
参考文献数
27

本研究の目的は,日本の地域社会のなかで人びとが語り継いできた妖怪を,防災減災における知的資源として捉え,その利活用方法を提案することである.妖怪伝承のなかには,地震や津波,洪水,水難事故といった災害と関連するものが多数存在する.そのなかでは,妖怪の働きが,災害の誘発要因,災害の予兆前兆,災害状況の説明,災害の回避方策,災害履歴の伝達,という5つの類型で語られる.リスクの伝達装置としての妖怪伝承の構造をふまえ,社会実験として,子どもたちが新たな妖怪を考え出す作業を通じて,地域の多様な危険を認識し,その対策を検討する「妖怪安全ワークショップ」を展開した.その成果として,子どもたちが経験したことのないような大規模自然災害のリスクも適切に把握し,危険を回避するための方法を導き出すことができた.
著者
長坂 康史 下里 哲弘 田井 政行 玉城 喜章 日和 裕介
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.35-47, 2019

<p> 鋼橋の維持管理において,適正な点検を実施するためには,その知識と技能が要求される.しかし,現状の学習法は継続的な知識の積上げと実務経験に委ねられる部分が多く,点検技能を効率的,且つ確実に向上させる学習法が必要となる.本研究では,代表的な劣化現象である鋼材腐食に焦点をあて,実橋梁で生じた腐食を3DCGにて可視化し,鋼橋の腐食と点検をデスク上にて擬似体験できる腐食点検学習システムを開発した.本学習システムは,腐食部位にあらゆる角度から自由にアプローチでき,パソコン画面上で,腐食特性や点検技能を効率良く,且つ実践的に習得できることである.アンケート結果より,各橋梁の実腐食データで3DCG化され,自由な可動を特徴とする本学習システムは,腐食点検技能の習得に有効であるとの一定の評価が得られた.</p>