著者
愛知 正温 斎藤 庸 徳永 朋祥
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.6, pp.449-460, 2014-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
26

地盤沈下問題が顕在化する前の時期には,地下水揚水量の調査が行われることはきわめて少ない.このため,地下水流動や地盤沈下に関する信頼性の高いモデルを構築できないことが多い.本研究では,東京都区部を対象とし,既存の地下水揚水量データと国民総生産との関係を検討し,地下水揚水規制が始まる前の地下水揚水量の推定を試みた.その結果,両者の関係は,1959年前後において屈曲する区分線形関数により,よく近似されることがわかった.地下水揚水量と国民総生産の近似関係式を外挿して求めた過去の地下水揚水量の推定値は,世界恐慌や第二次世界大戦時の地盤沈下速度の低下や地下水位の変化と調和的であった.このような推定手法は,東京のような国家経済を牽引する大都市に対して有効であると考えられ,現在地盤沈下等の問題に直面しているアジアの大都市において,不足している地下水揚水量データを推定するための一手法として期待される.
著者
苅谷 愛彦 清水 長正 澤部 孝一郎 目代 邦康 佐藤 剛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.5, pp.386-399, 2014-09-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
25

山地の解体過程において,大規模地すべりの時間的推移を詳しく検討することは重要である.本論文は,このような視点から関東山地南部・三頭山(標高1,531 m)北西面の大規模地すべりをとりあげ,踏査や空中写真判読,年代測定に基づき,その地形・地質的特徴と発生年代を論じたものである.この大規模地すべりは三頭山山頂から西北西方向に伸びる稜線の直下で発生し,滑落崖を形成した.地すべりで斜面物質は約1.5 km移動し,谷壁や谷底に堆積した.地すべり移動体はジグソー・クラックを伴う厚い礫層からなり,堰き止めを起こし湖沼・氾濫原を形成したとみられる.初生地すべりはcal AD 1292~1399(鎌倉時代~室町時代)かそれ以前に発生し,二次地すべりがcal AD 1469~1794(室町時代~江戸時代後期)に生じた.山麓の集落には,湖沼・氾濫原の決壊や二次地すべりを示唆する伝承が残されていることも判明した.
著者
片岡 博美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.5, pp.367-385, 2014-09-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
43
被引用文献数
3

本稿では,ホスト社会における外国人労働者の生活活動の様態を,滞日ブラジル人84人の生活活動日誌を用いてミクロレベルから分析し,時間地理学的アプローチを用いたエスニシティの解明を試みた.滞日ブラジル人の生活活動時間は男女間において有意な差がみられるが,双方ともホスト社会において,家族という個人的なネットワークの中で比較的閉鎖的な生活を送っている.また,滞日ブラジル人の日常生活では,自宅内での余暇活動やエスニック・ビジネスの利用によるエスニック・ネットワークの保持よりも,大型商業施設など日本人が経営する店舗の利用による消費活動が多く行われる.これら消費活動という側面に限定された同化の進行により,従来「顔の見えない」存在とされてきた滞日ブラジル人は,日常生活における再生産という場面において,ホスト社会住民との接触機会が増大している.