著者
石井 祐次
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.105-124, 2017-03-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
72
被引用文献数
1

河成層のみならず泥炭層が厚く形成された石狩低地において,湾頭デルタの陸化の過程とデルタプレインの発達過程を明らかにした.湾頭デルタの前進に伴う潟湖の埋積と陸化は,海水準上昇速度の低下した約8,000年前に始まり,上流側から下流側へ向けて進行した.陸化直後には河成層の形成が活発ではなく,泥炭層が形成される場合が多かった.約5,600~3,600年前以前にはクレバススプレイの形成やアバルションが生じており,上流側のデルタプレインでは,陸化直後から約200~600年間以上にわたって形成された泥炭層を覆って,河成層が形成された.約5,600~3,600年前以降には東アジア夏季モンスーンの弱化に伴う降水量の低下により河川流量が減少し,低地全体で河成層の形成が不活発となることで,泥炭地が広域的に発達するようになった.その結果,約6,500~6,000年前に陸化した下流側のデルタプレインでは陸化以降,流路付近を除いて泥炭のみが堆積し続けた.
著者
石川 和樹 中山 大地
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.125-136, 2017-03-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
14

近年,地理情報システムを用いた歴史地理学研究が活発化しており,歴史的な地理情報の整備が進んでいる.しかし整備には多くの時間を費やし,また大量の歴史的な地理情報の取得や作成に適したシステムの整備は不十分である.住所を位置座標に変換する手法であるアドレスジオコーディングを用いたシステムは存在しているが,どれも現在の住所を対象とするものであり,明治・大正期の住所は扱うことができない.そこで本研究では旧東京市15区の住所を位置座標に変換するシステムを構築し,歴史的な住所を位置座標に変換する作業の効率化を図った.処理時間について計測を行った結果,十分実用的な速度で動作することを確認した.また,時期の異なる住所による認識率の比較を行った結果,1890年代から1920年代の住所において高い認識率を示すことが明らかとなった.構築したシステムは「近代東京ジオコーディングシステム」という名称で公開した.
著者
前田 洋介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.1-24, 2017-01-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
53

従来,日本の「地域」は町内会などの地縁組織を中心に編成されていた.しかし,今日では,ボランタリー組織など,地縁組織とは地理的・社会的に特徴を異にする新たな組織もまた,「地域」を構成するようになっている.本稿は,名古屋市緑区で活動する災害ボランティア団体を事例に,活動の展開の詳述を通じ,ボランタリー組織が地縁組織を中心とした既存の「地域」にどのように織り重なっていくのか検討した.同団体は設立当初,「地域」と接点を有していなかったが,公的機関とスムーズに連携できたことや,さまざまな動機で集まったメンバーのネットワークにより,地縁組織やほかのボランタリー組織と接点を築きながら,「地域」での防災活動の場を増やしていった.同団体の活動は,既存の「地域」を補完する一方で,既存の「地域」を前提としながら,地縁を越えたネットワークによる新たな「地域」の担い方を実践していると特徴づけられる.
著者
熊野 貴文
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.25-46, 2017-01-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
60
被引用文献数
1 1

本稿では,大阪大都市圏を対象に,バブル経済崩壊後の戸建住宅供給の動向を分析し,社会経済的状況の変化が戸建住宅開発にどのように影響しているのか検討した.その結果,バブル経済崩壊後,インナーシティやスプロール郊外としての背景をもつ1975年時点での既成市街地における再開発的な戸建住宅供給の比重が増してきたことが明らかとなった.しかし,それは人口減少や住宅の老朽化の進む地域における小規模で断片的な再開発であり,地域人口の増加には必ずしもつながっていなかった.こうした既成市街地での戸建住宅開発には,バブル経済の崩壊や産業構造の変化などの経済的要因のほか,住民の高齢化や住宅の老朽化という人口と住宅のライフサイクルの影響が大きいことが確認された.以上の知見は,都市圏の構造変化と住宅供給の関係について,既成市街地における再開発的な戸建住宅供給の重要性を示すものである.
著者
川浪 朋恵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.118-135, 2016
被引用文献数
2

<p>日本における世界遺産登録は,地域資源の価値の評価と保存・保全への担保という性格だけでなく,地域資源と観光とのより強固な結合という性格も有する.2011年6月に日本で4番目の世界自然遺産に登録された小笠原諸島においても,登録が観光に大きな影響を与えた.本稿では,世界遺産登録前後の観光客について,その数の変化と,属性・観光行動などの質的変化を明らかにした.その結果,登録によって,全国的に知名度が上がり,急激な観光客の増加が見られた一方で,受入数の制限から,観光客の入替わりが起こり,リピーターの減少,初訪問者の増加,一人旅の減少などの属性の変化のほか,滞在の短期化やツアーへの参加率の上昇,トレッキングの人気,物見遊山的な行動など,観光行動も変化した.世界遺産登録は,観光地としての小笠原諸島に強力な付加価値を生み出すとともに,そこに引きつけられる観光客を変化させたことが示された.</p>
著者
青山 雅史 小山 拓志 宇根 寛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.128-142, 2014
被引用文献数
1

<p>2011年東北地方太平洋沖地震で生じた利根川下流低地における液状化被害の分布を詳細に示した.本地域では河道変遷の経緯や旧河道・旧湖沼の埋立て年代が明らかなため,液状化被害発生地点と地形や土地履歴との関係を詳細に検討できる.江戸期以降の利根川改修工事によって本川から切り離された旧河道や,破堤時の洗掘で形成された旧湖沼などが,明治後期以降に利根川の浚渫砂を用いて埋め立てられ,若齢の地盤が形成された地域において,高密度に液状化被害が生じた.また,戸建家屋や電柱,ブロック塀の沈下・傾動が多数生じたが,地下埋設物の顕著な浮き上がり被害は少なかった.1960年代までに埋立てが完了した旧河道・旧湖沼では,埋立て年代が新しいほど単位面積当たりの液状化被害発生数が多く,従来の知見とも合致した.液状化被害の発生には微地形分布のみならず,地形・地盤の発達過程や人為的改変の経緯などの土地履歴が影響を与えていたといえる.</p>
著者
金 延景
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.4, pp.166-182, 2016
被引用文献数
2

<p>本研究は,東京都新宿区大久保地区における韓国系ビジネスの機能変容を,経営者のエスニック戦略の分析から明らかにした.大久保地区では,韓国人ニューカマーの増加に伴い韓国系ビジネスが集積し始め,その後一般市場へ進出していった.その背景には,韓流ブームによって開かれたホスト社会の機会構造の下,経営者が用いたエスニック戦略の役割があった.韓国系ビジネスでは,ホスト社会の需要を事前に把握した経営者が,豊富な人的資源を用いて韓国飲食店のほか,韓流グッズ店や韓国コスメ店など韓国文化の商品化を通じた娯楽性の高い新業種を展開する多角経営を行うと同時に,日本人顧客の確保に重点を置いた立地戦略をとっていた.その結果,大久保地区の韓国系ビジネスは,従来の同胞顧客に向けた財やサービスの提供機能に加え,広域なホスト社会の日本人顧客に向けてエスニック財やサービスを提供する娯楽機能を有するようになったといえる.</p>
著者
松岡 由佳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.498-513, 2015

<p>地域の精神科病院を核に,多様な主体が精神障がい者支援に関わる愛媛県南宇和郡愛南町を事例として,活動の地域社会への拡大と精神障がい者の受容過程を,主体間関係と「負のまなざし」の変容に着目して検討した.1962年の精神科病院開院後,病院職員と親交を深めていった地区住民は,社会復帰施設が開設された1970年代中頃から,地域の生業や伝統行事の闘牛を介して精神障がい者と関わり始めた.1980年代末には,専門職や企業経営者らの先導を背景として,ボランティア主体の精神障がい者支援組織が発足し,イベントの開催や就労支援の活動を精神障がい者と共に進めてきた.当初それぞれの主体が有していた精神障がい者への「負のまなざし」は,特定の精神障がい者と相互に顔の見える関係を築いていく中で,精神障がい者を受容する方向へと徐々に変容していった.しかしながら,近年は支援者間の意識のずれや,人口減少や高齢化に伴う活動の担い手不足も顕在化する.</p>
著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.49-70, 2015

<p>本稿では,高度成長期の勝山産地において,「集団就職」が導入され終焉に至るまでの経緯を分析する.進学率の上昇や大都市との競合により,労働力不足に直面した勝山産地の機屋は,新規中卒女性の調達範囲を広域化させ,1960年代に入ると産炭地や縁辺地域から「集団就職者」を受け入れ始める.勝山産地の機屋は,自治体や職業安定所とも協力しながらさまざまな手段を講じ,「集団就職者」の確保に努めた.「集団就職者」の出身家族の家計は概して厳しく,それが移動のプッシュ要因であった.勝山産地の機屋が就職先として選択された背景としては,採用を通じて信頼関係が構築されていたことが重要である.数年すると出身地に帰還する人も多かったとはいえ,結婚を契機として勝山産地に定着した「集団就職者」もいたのである.高度成長期における勝山産地の新規学卒労働市場は,国,県,産地といった重層的な空間スケールにおける制度の下で,社会的に調整されていた.</p>
著者
齋藤 仁 内山 庄一郎 小花和 宏之 早川 裕弌
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.347-359, 2016-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
30
被引用文献数
2 3

近年,小型の無人航空機とSfM多視点ステレオ写真測量により解像度1m以下の高精細な空中写真と地形データの取得が可能になり,地理学の分野においてもそれらの利用が急速に進んでいる.本研究の目的は,これらの技術を表層崩壊地の地形解析に応用し,詳細な表層崩壊地の空間分布と土砂生産量を明らかにすることである.対象地域は,2012年7月九州北部豪雨に伴い多数の表層崩壊が発生した阿蘇カルデラ壁の妻子ヶ鼻地域と,中央火口丘の仙酔峡地域である.結果,空間解像度0.04mのオルソ画像,および0.10mと0.16mのDigital Surface Modelsが得られた.妻子ヶ鼻地域と仙酔峡地域における土砂生産量は,それぞれ4.84×105m3/km2と1.22×105m3/km2であった.これらの値は過去に報告された同地域の表層崩壊事例の土砂生産量よりも10倍程度大きい値であり,阿蘇火山の草地斜面における1回の豪雨に伴う潜在的な土砂生産量を示すと考えられる.