著者
黒木 貴一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.177, 2004

_I_.はじめに 福岡教育大学では自然地理の内容に関し、1年生前期の人文地理学及び自然地理学(15/2コ)、1年生後期の地理学概論(15/2コ)、2年生前期の自然地理学講義(15コ)、3年生の自然地理学実習(30コ) と自然地理学演習(30コ)で講義等がなされる。これらの内容は学年が進むほど専門性が増すようになっている。しかしこれらは自然地理学全般の内容は網羅できず、リモセンやGISなど新しい自然地理学の内容までは十分紹介できない。それ以前に、高等学校の地理を履修していない学生数が急増してきた問題がある。これまで本学の抱える自然地理教育の諸問題を明らかにし、自然地理学実習や地理学概論などを通じて教育方法を検討し、その問題解決方法を模索してきた(黒木,2003, 2004;黒木ほか,2004)。本稿ではその検討と模索状況を紹介し、自然地理学の技能や資質を有する小・中学校教員養成の課題について述べる。_II_.本学の自然地理教育にある問題1.社会科教員を目指す学生の教科への意識 本学で社会科教員を目指す人文系学生の多くは、1)地理の内容が難しいと感じており履修を敬遠し歴史教科を選択しがちである、2)履修意識は第一に資格取得にあり踏み込んだ教科内容を敬遠する、3)泥にまみれ汗を流す自然地理の野外調査に抵抗を感じ自然地理よりも人文地理に進みやすいという特性がある。多くの学生が、1)地理は暗記科目であり、2)教科書の内容は最先端であり、3)自然地理は自然科学の一部とは思っておらず、また4)自然地理に野外調査が必須であるとはあまり考えていない。2.教育環境の問題講義等を進めるにあたり、_丸1_実習室や実験室がない、_丸2_年間履修上限42単位が設定されている、_丸3_多様なコースの学生が全学年履修する実態がある、_丸4_教育関連の実習の種類が多く、_丸5_受け入れ先の都合で五月雨式に学生が休む、などの問題もあり十分な教育環境を提供できていない。_III_.取り組みの現状(対策)_II_.の問題を背景に講義等では、1)新しい自然地理内容の学習、2)文献・資料調査や計算を伴う学習、3)野外調査を必須とする学習、4)実験・観察・解析を必要とする学習を実践させ学生の意識改革を図る。実践の中で地図及び地図帳に親しませ(技能)、時間・空間スケール、人文地理と自然地理との関係、他分野の知識が必要な自然地理的分析手法に関する理解(資質)を進めさせることを念頭におく。1) 新しい地理内容学習:自然地理学実習では、共通パソコン室にて、フリーソフト(ArcExplorer, MapWin, カシミール等)を用いた数値地図およびGIS教育を進めている。2) 文献・資料調査や計算:地理学概論では、九州の水循環をテーマにした講義を実施している。この中で気候学、水文学の内容を紹介し、地図帳などの統計資料を使って水量を計算させ、九州島(各県)の水循環を視覚化させる。ここでは統計の持つ様々な空間と時間スケールを、九州島の1年に統一させる計算過程で、地理的な時間・空間スケールの考え方の理解を進めることも企図している。3) 野外調査:社会研究基礎(初等・中等教員養成コースの社会科専攻学生の演習科目)では、キャンパス周辺の現地調査を行い、テーマ毎の地理情報を地図化し、その地図を用いた模擬授業を実践させている。レポートでは学習指導要領と模擬授業との関連を考えさせる。最終的に学生の作成した地図はGISデータ化し、地域環境マップにまとめた。4) 実験・観察・解析:自然地理学演習と卒論を通じて実験、観察、解析を経験させ、自然地理は野外調査が必要な自然科学であることを理解させる。簡易ボーリング、粒度分析や燃焼試験、活断層や火山灰の観察、岩盤節理計測などを実施させている。_IV_.まとめ自然地理が苦手・嫌いな生徒を再生産させないために、自然地理好きの学生を排出することが現在の重要な課題である。講義等を通じて、小・中学校の自然地理を教える上で不可欠な技能や資質を念頭に置く地理的スキル(学び方、調べ方、まとめ方)を理解させるための試みを表1にまとめた。
著者
黒木 貴一 磯 望 後藤 健介 張 麻衣子
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.63-78, 2005-08-25
参考文献数
23
被引用文献数
1

2003年九州豪雨により, 福岡市の御笠川沿いの平野部は広く浸水した。JR博多駅周辺も, 1999年に続き再び浸水した。本研究では, JR博多駅周辺の浸水深の分布, 洪水堆積物の層厚分布, 洪水堆積物の粒度の分析結果から, 氾濫水の流下方向やその速さを推定し, 都市内の詳細な土地条件について論じた。<br>浸水範囲は, 地盤高におおむね支配され, 周囲より低い後背湿地にある。しかし, 都市の構造物にも強く影響を受けて, 氾濫水の流下方向, 浸水深, 洪水堆積物の層厚は多様である。御笠川から溢流した氾濫水は, JR博多駅および鹿児島本線に流れを阻まれ, その東 (上流) 側で広く湛水した。次に峡窄部となる鹿児島本線と交差する道路2箇所から西 (下流) 側へ流出した。浸水範囲には, 細粒土砂が堆積する湛水しやすい地域, 粗粒土砂が堆積する土砂の堆積しやすい地域, 土砂はあまり堆積しない氾濫水の流れやすい地域が区分できる。さらに土砂の堆積しやすい地域には, 自然堤防, 三角州, サンドスプレイ, 後背湿地の形成場に類似した土地条件地域を見出すことができた。このように, 都市化による人工的な地形改変により, 洪水特性を決める新しい土地条件が生み出されたことを本研究では示した。
著者
神谷 泉 黒木 貴一 田中 耕平
出版者
日本情報地質学会
雑誌
情報地質 (ISSN:0388502X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.11-24, 2000-03-25
参考文献数
40
被引用文献数
23

数値地図50mメッシュ(標高)を用い,地表面の傾斜を濃淡画像で表現した傾斜量図を作成し,これを用いた地形・地質の判読を試みた。傾斜量図は,低地(段丘),山地,火山,地すベり地の地形の判読に有用であった。また,構成地質に関しては,構造線・断層の候補となるリニアメント,ある種の岩石の分布域の境界を判読できる場合があった。判読のための傾斜の計算方法としては,Roberts型よりもPrewitt型あるいはSobel型が優れている。傾斜量図は,他の地表面の表現手法と比べ,いくつかの点で優れている。上記の判読で使用している基本的な判読キーは,「明るさ」,「一様性」,「線間隔」,「鮮明さ」,「方向性」であった。また,山地においては,尾根と谷に対応する明るい線が互いにがっちりかみ合った模様である「脳状模様」が有用な判読キーであった。以上を総合し,傾斜量図は,地形・地質を調査する上で重要な資料となりうる。
著者
福塚 康三郎 森 正明 岩尾 雄四郎 黒木 貴一 大成 和明
出版者
Japan Society of Engineering Geology
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.341-346, 2006-02-10 (Released:2010-02-23)
参考文献数
15

本研究では, 佐賀平野北西部の標高10m以下の低地において, 地形と土地利用の変遷を明らかにし, 既存の文献資料を用いてクリークと表層地盤との関係を検討した. その結果, 軟弱地盤とクリークの分布はおおむね一致することが指摘され, クリークは表層地盤の推定可能な地形要素の一つであることが示された. さらに, クリークの一部は農地整備や都市化に伴い, 改変もしくは埋め戻されているケースがあるため, 旧地形情報による地形判読の重要性を指摘した.道路計画を検討するうえで, 新旧地形情報を活用して表層地盤を推定することは, 概略設計段階における有効的な地盤評価手法である. とくに, 旧地形情報は, コスト縮減やPI (パブリックインボルブメント) におけるコミュニケーション資料として活用することも可能である.
著者
黒木 貴一 岩船 昌起
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.19, 2020 (Released:2020-03-30)

指定避難所は,基礎自治体が所有する既存施設が利用されることが多く,立地の安全性,特に地形条件については,十分に考慮されているとは言い難い.このため危険な場所の施設が避難所に指定された場合,発災時に,避難行動に障害が生じることがある.避難所と避難経路に関しての地形条件が評価され,かつ災害想定が的確になされれば,各施設の安全性が事前に確認でき,防災・減災に繋げることができる。筆者らは,2019年に鹿児島市での避難所の安全性評価に関わった.そこでの地形及び地形量指標を評価の根拠として重視した事例を紹介する.
著者
黒木 貴一 品川 俊介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<br>台風第18 号や前線による平成27年9月関東・東北豪雨では,7 日から11 日までの総降水量が関東地方で600mmを越える場所があった。中でも茨城県の鬼怒川では,破堤,溢水により40km<sup>2</sup>以上が浸水し,全半壊家屋5500棟以上,死者3人が出た。この被害に関して破堤・溢水・漏水個所を中心とする被害状況全般,浸水範囲と微地形に関して報告がなされた。この浸水はハザードマップで予想された範囲で生じたとされるが,破堤を除き,浸水の始まりとなった段丘面上の浸水や遍在する堤防の漏水箇所など,治水地形分類図の情報からは予測が難しい弱点も確認された。そこで本研究では,既存成果を参考に鬼怒川の破堤・溢水・漏水箇所に関し,河川の微地形との空間関係を地形量を鍵に明らかにし,氾濫に注意が必要な河川条件を検討した。
著者
黒木 貴一 磯 望 後藤 健介 宗 建郎 黒田 圭介
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、国内の都市河川の御笠川、大分川、大淀川、白川を対象とし、地形図、空中写真、衛星データなどの時空間地理情報をGISで用いて、それらの氾濫原の土地条件とその変化を明らかにした。また過去に災害が生じた場所の土地条件も検討した。この結果、氾濫原に対し時空間地理情報を用いる解析では、堤外の土地条件の分布とその変化の特徴から、都市域の自然災害の量的・質的評価ができることが示された。またこれら解析方法は、海岸平野及び海外の氾濫原にも応用できることを確認した。
著者
小荒井 衛 小松原 琢 黒木 貴一 岡谷 隆基 中埜 貴元
出版者
国土地理院・地理地殻活動研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

芋川流域で火山灰分析に基づく段丘編年を行った.芋川流域で最も高位の段丘から浅間草津火山灰(As-K)が検出されなかったことから,この段丘面は16,500年以降に形成された面と推察される.段丘形成年代から小松倉背斜の成長速度の見積もると,0.8~1.9×10^<-6>/年となり,西山丘陵の活褶曲の成長速度や小千谷地区の活褶曲の成長速度と,オーダー的には同程度である.長野県・新潟県県境付近の地震では,逆断層の上盤側で,地質,地質構造,既存活断層の分布等に支配される形で地盤災害が集中しており,今回の地震に伴い松之山背斜が成長した可能性が指摘できた.