著者
村山 良之 増田 聡
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.34-44, 2001-03-25
被引用文献数
4

筆者らは, 防災を念頭に置いた建築規制や, 移転・構造強化へのインセンティブ付与, 情報公開等を含む計画手法を防災型土地利用規制と呼び, 活断層上の土地利用規制についての受容可能性を仙台市民アンケートを通じて検討してきた。本論では, 政策実施主体である自治体の職員 (防災と都市計画担当者) への調査結果を紹介し上と比較する。第一に自治体職員よりも市民の方が, 規制全般に積極的な傾向が確認できた。次に行政内では, 防災より都市計画担当者の方が活断層上の規制支持が低く市民意向との差も大きいが, 自治体職員 (特に都市計画) も市民同様に, 災害関連の情報獲得が多いほど規制実施への支持は高まる。第三に市民・職員ともその過半数が, 危険物施設, 公共・集客施設, 集合住宅の活断層上立地は避けるべきとしている。最後に活断層を持つ自治体の職員は, 厳しい土地利用規制には消極的な一方, 開発時の断層調査義務化には積極的である。現在, 防災型土地利用規制の適用例は少ないが, 採用可能な法的手法 (災害危険区域・地区計画等) も存在する。事前的防災対策の充実に向け, 都市計画と地域防災の連携強化や計画メニューの豊富化・柔軟化等の制度改革が求められる。
著者
藤木 利之 守田 益宗 三好 教夫
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.189-200, 1998-08-31
参考文献数
19
被引用文献数
1 6

岡山県日生町にある頭島で採取された44mボーリングコアの花粉分析を行った。このコアは粘土・砂質粘土・砂・礫・腐植土・火山灰から成る。2,368-2,360cmで21,100±400yrB. P. という<sup>14</sup>C年代測定結果が得られ, 1,900-1,890cmでアカホヤ火山灰, 2,540-2,360cmで姶良火山灰が確認されている。<br>分析の結果, 9花粉帯と2無化石帯が認められた。サルスベリ属の花粉が出現する層を温暖期, 化石花粉の出現しない層は寒冷期と考えると, このコアは4回の温暖期 (KS-9, 8, 6, 4-1) と3回の寒冷期 (KS-7, 5, BZ-2, 1) に堆積したものである。KS-4~1は後氷期である。
著者
遠藤 匡俊 張 政
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-27, 2011-03-01
参考文献数
42

世界の狩猟採集社会の特徴の一つとして集団の空間的流動性があげられる。これまで複数の異なる民族を対象として流動性の程度を比較した研究例はほとんどみられなかった。本研究の目的は,アイヌとオロチョンを例に,集団の空間的流動性の程度を比較することである。分析の結果,以下のことが明らかとなった。集落共住率(<i>U</i>)を算出した結果,同一集落内に定住する傾向が強く集落を構成する家があまり変化しなかった紋別場所のアイヌでは,集落共住率(<i>U</i>)が0.9&sim;1.0である家の総家数に占める割合は73%ほどであった。一方,多くの家が集落間で移動する傾向が強く集落構成が流動的に変化していた三石場所のアイヌでは,集落共住率(<i>U</i>)が0.9&sim;1.0である家の総家数に占める割合は43%ほどであった。三石場所のアイヌと同様に,集落構成が流動的に変化していたオロチョンでは,集落共住率(<i>U</i>)が0.9&sim;1.0である家の総家数に占める割合は25%とさらに低く,0.1&sim;0.2の家は33.3%,0.3&sim;0.4の家は25%であった。13年間における集落共住率(<i>U</i>)の経年変化をみると,オロチョンの値は常に0.11&sim;0.33であり,三石場所のアイヌよりも下回っていた。アイヌの事例を1戸ずつ検討しても,集落共住率(<i>U</i>)の値が常に0.4未満であるような事例は1例もなかった。アイヌ社会のなかでも三石場所のアイヌ集落においては集団の空間的流動性が大きかったが,オロチョンの一家の場合にはさらに流動性が高かった可能性がある。
著者
葛西 大和
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.75-93, 1997-04-30
参考文献数
44

一国の経済地域の構造は経済の構成と発展の地域的投影であるから, この経済地域の構造に現われた特質を分析することによって, その国の経済現象の地域的展開と連関にみられる特異性を把握することができるはずである。本研究は, 外国貿易の展開を日本の近代の経済地域構造にみられる「求心的構造」の形成を解明するための重要な要因であると考えて1859年~1919年の開港場の設置経過と, 各貿易港における貿易額のシェアを統計的に分析した。<br>その結果, 幕末から維新期に条約によって開港場に指定された貿易港が, 1859年~1899年の40年間, 貿易を事実上独占していること, とくに横浜と神戸の占める割合が圧倒的であること, そして外国貿易の初期こそ開港指定の早い横浜が外国貿易をリードしたが, 国内における資本制生産の発展過程で, 明治20年代以降に神戸が, また30年代以降に大阪が貿易のシェアを大きく伸ばして, 関東沿岸と近畿沿岸の貿易港のシェアが拮抗するような貿易港の地域的パターンが産業革命期に確立していることが, 明らかとなった。
著者
田村 眞一
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.153-165, 2000-08-31
被引用文献数
1

岩手県釜石市唐丹町に, 享和元年 (1801年) の伊能忠敬による三陸沿岸測量を顕彰して, 文化11年 (1814年) に土地の篤学者葛西昌丕 (かさいまさひろ) によって建立された石碑がある。碑文の内容の最も重要な点は, 伊能の測量結果の北極出地に言及し, 西洋の説にいう「地球微動」が存在するか否かの検証を後世の人々に依頼していることである。唐丹町は, 旧仙台藩気仙郡の北端に位置するが, 当時としても最新の科学情報が, このような地域までどのように伝えられたかを考察する。伊能の測量がきっかけとなっているので, 伊能の測量時の日本における天文学事情に立脚して, このような概念に相当する天文現象を考察した結果, 候補として地球の「極運動」あるいは「章動」を推定した。
著者
石澤 孝
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.129-138, 2002-08-26
参考文献数
16

本研究は, 冬季オリンピックの開催にともなう長野市の都市化の現状を, 特に農地の公的転用という観点から検討したものである。その結果は以下のようにまとめられる。<br>第18回冬季オリンピックが, 1998年2月に長野市で開催された。国際オリンピック委員会が冬季オリンピックを長野市で開催することを決定したのは, 1991年のことである。それ以降長野市においては, 新幹線の開業や上信越自動車の建設などの高速交通網の整備が行われた。また, オリンピック施設やアクセス道路およびその付帯施設が建設されるなど, 都市的基盤の整備が進められた。これらの都市的基盤の建設用地の多くは, 農地の転用, 特に農用地区域における農地転用によって生み出された。その結果, 1989年約25,000haあった農業振興地域は1998年までに1%の減少にとどまったのに対し, 1989年に7,700haあった農用地区域は, 同期間に5%近い減少をみせている。このように急速な農用地区域の解除が行われたため, 今後は, 特に農用地区域の解除をともなう都市基盤の整備は難しくなると推察される。
著者
小田 隆史
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.12-27, 2010-03-15
被引用文献数
1

諸政策の新自由主義化にともなって,近年の米国都市社会においては,市民や民間企業等が,行政府や立法府と連携して都市社会を協治する「ガバナンス」という新秩序が創出されはじめ,この変化に関する隣接分野での研究が盛んになっている。こうした政策のパラダイムシフトが都市社会にもたらした変化の一端を捉え,新たな都市ガバナンスにおける行政と市民との連携のあり方を考える地理学的研究が求められる。その前提として,本稿は,米国カリフォルニア州サンフランシスコ市における歴史文化資源の保存に関係する法制度及び政策に関与する主体の変化に着目し,新旧制度の変化を整理,提示した。また,サンフランシスコ日本町において市民らがコミュニティ存続を訴えた「日本町保存運動」を取り上げ,この運動によって,旧来の行政による一般的な許認可手続きに加え,文化的遺産を考慮して再開発の許認可を行う特殊な法令・規制が付加された点,及び都市政策に日本町のNPO関係者や商店主等が,より直接的に関与するようになり,都市再開発にかかる主体と制度が変化・多様化した点を明らかにした。