著者
酒見 佳世
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.436-441, 2008-09-01

2007年9月から2008年2月までの半年間,カナダのトロント大学図書館において研修を受ける機会を得た。本稿ではトロント大学のメインライブラリーであるRobarts Libraryと,貴重書図書館であるThomas Fisher Rare Book Libraryの目録担当での経験を元に,トロントと慶應義塾大学メディアセンターにおける目録作業とを比較しつつ,現在の目録を取り巻く状況と今後の方向性について述べる。
著者
井上 如
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.978-985, 1993-11-01

図書館間での相互利用が展開する三段階過程,「相互貸借」,「コンソーシャム」,「ネットワーク」は,方向性を持った三段階の図書館業務,すなわち「収集」,「整理」,「利用」と呼応しながら進化している。すなわち,「相互貸借」は「利用」の共同化であり,「コンソーシャム」は「利用」のみならず「整理」をも含む共同化であり,「ネットワーク」は更に「収集」までを含む図書館業務の全過程の共同化である。第二段階が第一段階からevolveするのに対し,第三段階への進化は第二段階に内因があるのではなく,技術の進歩など環境変化に左右される。従って,図書館にとって第二段階と第三段階との間には越え難い溝がある。それを,「所有とアクセス」の矛盾,「単館」の論理と「群館」の論理の矛盾として提示した。次いで種々のコピー概念をオリジナルとの対応から整理し,その結果を博物館,美術館をも含む相互利用にあてはめて,貸借を基本とする博物館/美術館に対し,図書館では複写が基本である理由を,図書館が保有する刊本のduplicateという性質に求め,更にこの性質が,利用者にとっては,読みとは無関係に刊本の疑似所有を可能ならしめ,図書館にとっては,相互利用の三段階を貫くことによって,越え難いとした溝を重層化によって埋める可能性をはらむものであることを述べた。
著者
安藤 友張
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.115-119, 2004-03-01
被引用文献数
1

学術情報流通メディアとしてのレビューの意義と機能を考察するために,英米と比較しながら,日本における図書館情報学及び教育学分野のレビュー誌をめぐる現状をあきらかにした。 日本の当該分野において,レビューが低調である要因や背景として,以下の点を指摘した。(1)学界のコミュニティの規模が小さい。(2)研究業績としてのレビューに対する評価が低い。(3)レビューの機能と概念に対する研究者の捉え方が狭い。
著者
長谷川 秀記
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.261-265, 2006-06-01

電子書籍は,携帯電話での読書の伸びなどもあり,普及段階に入ったといえる。また,紙の本からアニメ・映画・ゲーム・キャラクター商品などへ展開するクロスメディアの動きも活発である。クロスメディアの時代においては,複雑な権利関係が発生し,著作権や関連権利の調整に大きな注意が払われなくてはいけない。電子書籍はコピーや通信による頒布が簡単である。したがって,著作権管理システム(DRM)による不正コピー防止策が必要だと言われ,DRMを採用した電子書籍フォーマットも登場している。しかし,実際に流通している電子書籍の大部分では読者の利便を優先し,ゆるやかな著作権管理しか行われていない。今後より使い勝手のよいDRMの登場が期待される。
著者
山崎 千恵 天野 絵里子
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.75-80, 2010-02-01

資料保存環境整備部会の活動を中心に,京都大学の図書館における資料保存活動について具体的に報告する。資料保存環境整備部会は,「資料保存環境の点検調査と基準・指針の提示」「資料保存に関する情報の提供と支援(ウェブサイト,職員研修等)」「資料の劣化対策」をその使命とし,2007年に設置され,各種研修や情報の共有化,啓発活動を行っている。部会が設置された背景として,職員が自発的に始めた資料保存ワークショップの活動や,海外での貴重な研修体験を紹介しながら,最後に,専門的な知識や予算が少なくても「できることから」始めることが資料の保存にとって重要であることを提言する。
著者
稲葉 洋子
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.486-491, 2009-10-01

近年,国立大学図書館では所属する大学の理念や目標・計画のもと,図書館も一部局として成果を上げ,かつ利用者への多様なサービス活動を展開していくことが求められている。だが,運営に関わる予算が厳しくなってきている現在では,図書館職員一人ひとりが企画をし,予算を獲得する能力が必要とされてきている。本稿では,国立大学法人化以降,国立大学図書館職員が置かれている状況と,その中でどのように自らスキルアップをして能力を高めていけばよいのか,現場から提案していく。
著者
林 賢紀 松山 龍彦 新元 公寛
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.96-102, 2006-03-01

本報告はOCLCと米国議会図書館が中心に開発,運用しているオンラインレファレンスネットワークシステムQuestionPointの概要,機能,導入事例,今後の展望をのべる。農林水産研究情報センターでの導入事例では,レファレンスサービスのネットワークを通しての全国展開に加え,レファレンスの受理と回答を通じた国際的なレファレンスサービスの事例についても紹介する。国際基督教大学図書館での導入事例では,外国製システムの日本語の扱いに関する問題点と自館のサービス体制の中での問題についても論じている。
著者
長谷川 幸代
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.96-101, 2020-02-01 (Released:2020-02-01)

近年は,図書館の業務でも様々なデータを利用して利用者のニーズに応えることが期待されている。本稿では,ウェブを通したアンケ―ト調査の結果を分析した。公共図書館の利用頻度と他の公共施設及び他の図書館の利用頻度の間には,正の相関関係が確認された。しかし,公共図書館利用とインターネット閲覧時間との間には関連性が見られなかった。また,回答者の個人特性のうち,「外的没入」の度合は図書館利用とは関連が無いが,尺度の一部では有意な正の相関が確認された。公共図書館の高頻度利用者は15歳から24歳の年齢層に多く見られ,読書冊数が多いという結果が得られた。非利用層は,70歳以上に多く,読書をしない傾向が見られた。
著者
上田 修一
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.226-232, 2007-05-01 (Released:2017-05-09)
参考文献数
30
被引用文献数
3

BMからEBP,そしてEBL/EBLIPへという流れの中で,新しく始めた共同研究「エビデンスベーストアプローチによる図書館情報学研究の確立」では,研究におけるエビデンスとは何かの解明を目標に,図書館情報学研究における研究方法の再検討のためのワークショップの開催,EBL/EBLIPの導入などの活動を行っている。EBMに始まる根拠に基づいた進め方は広い支持を得ている。けれども,実際の場になると,検討すべき課題は多く,またエビデンスに対する考え方も多様である。
著者
小林 由佳
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.345-351, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)

本稿ではウェルビーイングをメンタルヘルスの観点から解説する。メンタルヘルスに影響するワークエンゲージメントと仕事の資源との関係を説明するモデルとして近年注目されている「仕事の要求度-資源モデル」について解説し,ワークエンゲージメントを高める循環をつくりだすジョブクラフティングを例示やチェックリストとともに紹介する。また,コロナ禍における就業環境の変化によるメンタルヘルスへの影響や,ストレスチェック制度の最近の動向,職場単位での仕事の資源の高め方について,事例を交えて考察する。最後に,ストレス反応を増大させる循環に陥るのを防ぐためのセルフケアについても触れる。
著者
齋藤 敦子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.338-344, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)

働く人にとって職場環境は重要だが,昨今,テレワークが常態化し働く場所は多様化し,マネジメントにも刷新が求められる。一方,知的生産性と身体の関係は深く,物理空間が無くなるわけではない。本稿では物理的なオフィス環境と人間関係や知識創造などのソフトが関係していることに着目し,職場環境の重要なキーワードである「ウェルビーイング」とワークプレイスについて解説する。そして,具体的な企業の事例からウェルビーイング・オフィスを俯瞰し,そのポイントを述べる。また,今後の働き方の変化を踏まえて,働く人と企業経営にとって望ましいワークプレイスとはどのようなものかを展望する。
著者
一般財団法人日本特許情報機構
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.455-458, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

近年,日本への特許出願件数に対する海外への出願件数の比率は増加傾向にあり,海外の特許文献を調査することの重要性が増している。本稿では,世界主要地域の特許公報全文を「日本語」で一括して検索可能なサービスである「Japio世界特許情報全文検索サービス(Japio-GPG/FX)」の特徴を紹介する。Japioでは,特許に特化した高精度な機械翻訳,効率的なスクリーニングのための各種支援機能の提供に加え,脱炭素・SDGs技術の「見える化」といった独自データの提供も行っている。
著者
森口 歩
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.361, 2023-09-01 (Released:2023-09-01)

図書館システムは,ほぼ全ての業務をカバーする基幹システムであり,利用者との重要なタッチポイントでもあります。図書館を取り巻く状況が多様化・複雑化する中で,システムリプレイスは時代に合わせたアップデートはもちろん,従来システムにおける課題の解決や,実験的な機能の実現等,抜本的な改善ができる数少ない機会です。しかし実際には,システムリプレイス自体が図書館職員にとって非常に難易度の高い業務といえます。システム専任の職員がいない,前回の移行を経験した職員がいない,図書館として別システムへの移行経験が少ない等,手探りの状況にある図書館も多いのではないでしょうか。そこで本特集では,システムの課題に直面する図書館職員の皆様の道標とすべく,図書館システムの移行を主題としました。特に難しい,別ベンダー・別パッケージへの移行を実現した事例紹介を中心としています。まず,渡辺哲成氏(日本事務器株式会社)に,図書館システムベンダーの視点から,システムリプレイスにおいて影響が大きい仕様書とデータ移行を中心に、トラブルが起きやすいポイントを概説していただきました。考慮すべき点,トラブル回避方法,システム停止期間やコストを抑える工夫等を紹介していただいています。続いて,異なるベンダーへの移行を担当された図書館職員の方々に,移行に至った背景,仕様書作成や予算要求における検討,移行時の問題とその対処,業務の変化,今後の課題等,各館の経験をご紹介いただきました。上野友稔氏(電気通信大学)には,大学図書館での事例をご執筆いただきました。2022年3月,約30年間同じベンダーより提供されていたシステムから,ExLibrisの「Alma」へ移行した事例について,電子書籍・電子ジャーナルの管理と提供,検索インターフェイスのディスカバリーサービスへの集約,学外クラウドサーバの利用,図書館職員への研修に触れながら紹介していただきました。奥野吉宏氏(京都府立図書館)には,公立図書館での事例をご執筆いただきました。2016年に京セラ丸善システムインテグレーション(当時)のシステムへ移行し,広域横断検索に「カーリルUnitrad API」を導入した事例について,企画提案方式による選定,独自開発に近かったシステムの仕様書作成に係る苦労,運用中の環境変化に対応したシステム改修等に触れながら紹介していただきました。また,委員として携わった,日本図書館協会「図書館システムのデータ移行問題検討会報告書」の内容や今後の課題も概説していただいています。上岡真土氏(高知県立図書館)には,公立図書館における共同運営の事例をご執筆いただきました。高知県立図書館と高知市民図書館の合築に伴い,2015年に2館の図書館システムを富士通の「iLisfiera」に統合した事例について,設計や稼働までの経緯,両館のデータ移行・統合作業,調達に係る費用,稼働以降の変化に触れながら紹介していただきました。また,詳細なネットワーク概要図によって,図書館システムの関わる範囲の広さ,機器構成やネットワークの切り分けが,一目でわかるように示されています。藤崎美奈氏(みどりの図書館東京グリーンアーカイブス)には,専門図書館での事例をご執筆いただきました。2021年に独自開発システムから,ブレインテックの「情報館」に移行した事例として,旧システムの課題解決に向けた検討,新型コロナウイルス感染症流行の影響による予算確保の問題,画像データの保管,デジタルアーカイブやホームページとしてのOPAC活用,現場職員の作業負担に触れながら紹介していただきました。埼玉県高等学校図書館研究会図書館協力研究委員会の皆様には,学校図書館の事例をご紹介いただきました。2020年に県内高校図書館の横断検索システムを,独自開発のISBN目録から,カーリルとの協働による書誌情報検索へ移行した事例として,連携協定に至った経緯,加盟する学校図書館における作業の変化,小規模グループごとの機能開発,物流や費用に係る今後の課題に触れながら紹介していただきました。今後,システムに求められる機能や範囲はますます拡大し,その重要性が高まる中で,システムリプレイスはより良いサービスを提供するために有効な手段のひとつです。本特集がシステムリプレイスに対する不安を解消し,自館のシステムを発展させるうえでの一助となれば幸いです。(会誌担当編集委員:森口歩(主査),今満亨崇,小川ゆい,鈴木遼香)
著者
中井 将人
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.341-345, 2023-08-01 (Released:2023-08-01)

海外特許情報とその関連情報は以前よりも地理的,時間的に広く集めることができるようになってきている。大量に集められた情報はAI技術などを利用して整理されることにより検索データベースとして多様な目的に利用できるため,特許調査のプロフェッショナルだけでなく,研究開発部門や経営企画部門などにも広く利用されるようになってきている。AI技術によって実現した機能を提供する検索データベースOrbit Intelligenceを使うことによって,特許検索に慣れていないエンドユーザーであっても目的とする特許の抽出や,多種多様な関連情報の確認,新たな洞察を得ることが可能になっている。