著者
安藤 晴彦
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.750-757, 2014-02-01 (Released:2014-02-01)
参考文献数
8

「ビジネス支援図書館」は,公共図書館が,起業家や地域の中小ベンチャー企業や,ビジネスマン・失業者を支援し,地域経済に貢献する活動である。アメリカでは100年以上の歴史があり,いくつもの図書館発の新規事業の「孵化(ふか)器」となってきた。最近では,オバマ大統領が提唱する3Dプリンターを活用した新たな「ものづくり革命」の尖兵(せんぺい)となっている。本稿は,文献,聞き取りや訪問調査を踏まえ,NY科学産業ビジネス図書館,シカゴ公共図書館の「メイカー・ラボ」をはじめとする本家アメリカのビジネス支援図書館の最新動向について紹介するとともに,日本でのこれまでの発展状況と展望について論じる。
著者
川島 浩誉 山下 泰弘 川井 千香子
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.384-392, 2016-09-01 (Released:2016-09-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

科学技術・学術政策研究所と科学技術振興機構(JST)情報企画部情報分析室は現在,相互協力に関する覚書およびJSTの所有する情報資産の利用に関する覚書に基づく共同研究を実施している。本稿では,その共同研究の一つである,JREC-IN Portal掲載の求人票に基づく大学における研究関連求人の推移の分析プロジェクトに関して紹介する。本分析は2つの目的をもっている。一つはこれまで総体的な分析対象とされてこなかったJREC-IN Portalの統計的性質を明らかにすること,もう一つはJREC-IN Portalの統計により研究関連求人市場の動向を示すことで当該人材の流動性の増進を促した近年の政策の帰結を明らかにすることである。本分析プロジェクトは現在進行中であり,結果の数値は最終的な研究成果公表において変わりうるものではあるが,現段階で得られた近年の研究関連求人の動向の一端を示す集計結果も本稿に示す。
著者
田村 恭久
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.791-798, 2015-02-01 (Released:2015-02-01)
参考文献数
5

電子教科書に関する規格策定の動きと,その中の1つであるEDUPUBの概要を紹介する。標準規格を策定することで,開発者側にも利用者側にもメリットが生まれ,新たな企業の参入を促すことができる。IEEE,CEN,IMSなどが電子教科書の規格策定に動いているが,IDPF,IMS GLC,W3Cが共同で開発を進めているEDUPUBは対象範囲が広く,かつ実装可能性を高めるために既存規格を極力利用している。また議論中のものも含めてオープンな仕様であり,採用するための参入障壁が低いため,今後有力なフォーラム標準となりうる。ただし,EDUPUBの規格策定は現在進行中であり,今後内容を修正あるいは拡大する可能性がある。
著者
吉本 龍司
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.97-105, 2012 (Released:2012-05-01)
参考文献数
2
被引用文献数
1 1

図書館蔵書検索サイト「カーリル」は,無料で利用できるWebサービスである。全国の図書館が,Web-OPACにより提供する書籍の所蔵情報を,横断的に抽出し,整理・統合した上で,利便性の高いユーザーインターフェースにより利用者に提供している。カーリルは,楽しい本との出会いを提供し,図書館に足を運ぶきっかけをつくることをコンセプトに開発が進められた。サービス開始時は,主に公共図書館の利用者を対象としたサービスであったが,現在では,大学図書館や専門図書館への対応も進んでいる。本稿では,サービス立ち上げから開発に携わり,現在,エンジニアとしてカーリルの開発マネージャーを担当する筆者の立場から,カーリルの基本的な機能やコンセプト,サービス提供開始以降の進化と,今後の展開について紹介する。
著者
西田 豊明
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.461-471, 2012-10-01 (Released:2012-10-01)
参考文献数
14
被引用文献数
3 4

ネットワーク社会が急速に形成されつつある今日,人工知能研究は1950年代から今日までの五十余年にわたる1番目のステージを終え,2番目のステージに移りつつある。本稿では,第2ステージの人工知能研究のあり方を議論するため,まず,過去の人工知能研究の流れを回顧し,顕著な成果が大規模探索,知識ベースシステム,言語・音声・画像処理,プランニング,機械学習とデータマイニング,人工知能と芸術との融合であることを指摘する。次に,「すごい」と言わせるくらいの高い問題解決能力を持つ知的エージェントを作ることを目指した従来研究に対して,これからの研究では,ユーザーに「君がいてよかった」と言ってもらえるような高い共感力を持ち,計算知能と人間社会をつなぐコミュニケーション知能の実現にもっと重点を置くべきであることを論じる。
著者
中西 秀彦
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.149-156, 2014-06-01 (Released:2014-06-01)
参考文献数
8
被引用文献数
1

機械可読性とはコンピューターによる文書構造の認識しやすさである。機械可読性に配慮した文書はより検索されやすく,利用されやすくなる。逆に,機械可読性を考慮しない文書は流通しにくい。今まで,文書は人間可読性を高めることに重点が置かれてきたが,文書流通がインターネットを中心とするようになり,XMLを利用した機械可読性を高めた文書の重要性が増してきている。しかし機械可読性と人間可読性は往々にして対立する。本稿では,これらの対立の事例を検討し,オンラインジャーナルでは当面機械可読性優位の組版が行われるべきであることを示す。
著者
松原 仁
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.89-95, 2016-05-01 (Released:2016-05-01)
参考文献数
14
被引用文献数
2

ゲーム情報学はゲームを対象とした情報処理の研究分野である。チェスがゲーム情報学の中心のゲームであったが,チェスでコンピューターが世界チャンピオンに勝った後は将棋が注目されていた。将棋はまだ世界チャンピオンに勝ってはいないが,対戦すれば勝つ可能性が高いレベルに達した。囲碁はチェスや将棋と比べて場合の数がはるかに大きいのでまだ世界チャンピオンを倒すまで10年はかかるとみられていたが,深層学習(ディープラーニング)の利用によってすでにトップのプロ棋士に勝ち越すまでになった。今後は「人狼」など不完全情報ゲームがゲーム情報学のテーマになっていくであろう。
著者
福井 健策
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.75-88, 2016-05-01 (Released:2016-05-01)

2015年の旧五輪エンブレム論争を振り返り,ポイントとなった「著作権侵害成立の条件」「著作物とは何か」「自由に使える情報とは何か」などを,実際の判例をまじえながらわかりやすく解説する。さらに旧五輪エンブレム論争でWeb世論が短期間で炎上した理由をさぐり,日本の知的財産権の現状と今後の課題を,TPPを含め浮き彫りにする。本稿は2015年12月10日に科学技術振興機構東京本部で開催された第12回情報プロフェッショナルシンポジウムの特別講演を,編集事務局で編集したものである。
著者
堀 浩一
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.250-258, 2015-07-01 (Released:2015-07-01)
参考文献数
15
被引用文献数
3

人工知能の研究が再び注目を集めるようになっている。人工知能の能力が人間を完全に超えてしまう技術的特異点に関する議論も盛んになってきている。人々が人工知能に対して抱く不安も高まってきているように見受けられる。本稿では,人工知能がどのように進歩する可能性があるかではなく,人工知能をどのように進歩させたいかという問題について議論する。抽象的な不安に対して抽象的な回答を返すのではなく,人工知能を今後どのように作っていくかという設計の指針をいくつか提示することを試みる。
著者
木目沢 司
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.683-693, 2015-12-01 (Released:2015-12-01)
参考文献数
15

国立国会図書館は2002年,「近代デジタルライブラリー」を公開し,デジタル化した図書のインターネットでの提供を開始した。以後,所蔵資料のデジタル化,デジタル化された他機関所蔵資料の収集等を継続的に実施するとともに,2013年からはインターネットで公開されている「電子書籍・電子雑誌」の収集も行っている。これら多種多様な資料の収集・保存・提供は現在,2011年に公開した「国立国会図書館デジタルコレクション」が担っている。本稿では,「近代デジタルライブラリー」から「国立国会図書館デジタルコレクション」へ至る開発の経緯を述べるとともに,OAIS参照モデルの機能要件の観点から,「国立国会図書館デジタルコレクション」における長期保存の現状および課題について説明する。
著者
有田 正規
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.755-762, 2016-01-01 (Released:2016-01-01)
参考文献数
13

義務教育や高校で利用するデジタル教科書(デジタル副教材)の開発が進む。参考にすべきは,企業に主導権を握られる形でデジタル化を進めた結果,コスト高にあえぐ学術情報の分野である。デジタル教材の導入は,学校間の格差を広げ,公教育とは呼べない状況を引き起こしかねない。見過ごされがちなのは,デジタル化による課金方法の変化である。紙の教科書は1度購入すればモノが手元に残る。しかしデジタル版はアクセス権維持やアップデートを通じて従来と違うコストが発生する。紙版とは異なる情報のリテラシーも必要になる。とりわけ参考になるのは公共図書館における電子書籍貸し出しや,大学図書館が契約する学術雑誌の電子ライブラリーの状況だ。いずれの場合もデジタル化を契機に価格が高騰した。紙の書籍ですら教科書の変更には労力が要る。教科書のデジタル化は長期的にどのような影響を及ぼすのか。維持コストや乗り換えコスト,リテラシーといった側面からも慎重な検討が必要だ。
著者
新保 史生
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.295-310, 2010 (Released:2010-09-01)
被引用文献数
1 1

本稿は,「ライフログ」の定義を試み,その取扱いにあたっての責任の在り方を提言するものである。人間の活動を記録した情報である「ライフログ」は,行動ターゲティング広告など商用目的で利用される機会が増えつつある。しかし,そもそもライフログとはどのような情報を意味するのかについては,漠然としたイメージでしかとらえられていない。また,ライフログを構成する個人識別情報と非個人識別情報の区別も困難である。そこで,両者を区別せずに「ライフログ」の範囲を明確にすることによって,その適正な取扱いにあたっての法的責任の範囲を明確にすることを試みる。技術的・制度的課題,個人情報の取扱いと法的義務,2010年5月に公開された総務省ライフログ研究会による配慮原則,米国の連邦取引委員会や業界団体による行動ターゲティング広告原則など,ライフログの取扱いに関わる検討課題および現在に至るまでの検討状況を概観した上で,過去の私生活の暴露や誤情報の取扱いをめぐる裁判例をもとに,ライフログの取扱いと法的責任について検討する。