著者
大磯 一 依田 高典 黒田 敏史
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.37-47, 2021 (Released:2022-01-28)
参考文献数
29

プライバシー保護とデジタルサービス利用を推進する政策の探求の観点から、マイナンバーカー ド、COCOA、LINE、スマートスピーカーの4 種類のサービスについて、約1400~2400 のオンラ イン調査回答を用いて、サービス採用行動とプライバシーリスク感覚(リスク感覚)について分 析した。 採用行動分析では、主観確率で計測したリスク感覚、利便性評価、主観利用率及び新デジタル 製品への積極性が採用確率との間で有意の関係であること、リスク感覚は最大で6~10%ポイン ト程度の採用確率の変動をもたらすことが分かった。 リスク感覚の分析では、リテラシーとリスク感覚緩和の間の関係を確認したほか、スマートス ピーカー以外の3 サービスについて、オンライン事業者への信頼、個人情報保護制度への信頼及 び漏えい等ニュースが多いという感覚がリスク感覚の緩和と関係することを発見した。スマート スピーカーについては、インターネット上のトラブル経験とリスク感覚緩和の関係性を示した。 トラブル等の「悪い」情報と制度の対応状況や再発防止策等の情報の提供により、信頼・リテ ラシーの向上とリスク感覚の緩和、採用行動促進が可能と考えられる。
著者
海野 敦史
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.65-75, 2019 (Released:2020-06-03)

各種のオンライン上のプラットフォームは、コミュニケーションや情報入手等のための基盤としての役割を果たしている。しかし、その運営の主体は一般に私人たるプラットフォーム事業者であるため、それが行うアルゴリズムを用いた流通情報の管理(アルゴリズム利用情報管理)は、ただちに利用者の表現の自由を侵害するものとなるわけではない。むしろ、アルゴリズム利用情報管理自体が一種の「表現」としての性質を有しているため、その自由が一定の範囲で保障される。しかも、当該自由の行使可能範囲は、「表現」の内容が政治的に重要な意味合いを多分に有し得ることなどを踏まえれば、決して狭隘ではない。ただし、その広範な行使については、利用者の表現の自由に関する法益を著しく害し、又は当該表現に対する不当な差別的取扱いをもたらすなど、憲法規範内在的な利益の調整を要する場合を伴うことが予定されるため、当該行使の範囲が一定程度縮減される。ところが、実際には、プラットフォームの「支配者」としての決定(利用規約等)に対して利用者が服従を余儀なくされ、利用者の利益と事業者の利益とのバランスが崩れることも少なくない。したがって、アルゴリズム利用情報管理に関する基本的な指針の利用者への事前提示の確保等、立法を通じた適切な統制が期待される。
著者
林 紘一郎
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.1-11, 2015

「情報法」に関連する議論は、ほとんど有体物の法体系の延長線上でなされているが、情報には有体物とは異なる特性があり、新たな発想での対応が必要である。また、この分野には次々と新しい事象が現れるため、情報法の関係者は個別判断を迫られ、何を基準にして判断したら良いかという議論が熟していない。通常の法学は、総論と各論に分けて論ずることが多いが、未だ発展途上にある「情報法」では、総論の前に「一般理論」を検討する必要がある。<br>本稿では、無体財である情報について、「占有」や「所有」を観念することができないなどの特徴を、主として法解釈の面から挙げ、インターネット・ガバナンスにも関連させつつ、法政策的にも「一般理論」の探求が不可欠であることなど、5 項目の必要性を主張する。さらに、今後検討すべきテーマとして合計 10 の命題を摘出し、これらの考察を進めることが、私自身も含めて今後の研究の指針となることを期待する。
著者
原田 伸一朗
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-11, 2021

<p>近年、バーチャルYouTuber(VTuber)と呼ばれる、生身の人間の姿ではなく、CG アバターの姿を通してインターネット上で動画投稿・ライブ配信などの活動をおこなうエンターテイナーが若年層を中心に人気を博している。本稿は、CG アバターとして表現されるVTuber の「肖像」に対して、その「中の人」が持ち得べき権利について、法理論的根拠を検討したものである。これまでの判例・学説における「肖像権」の理解を確認しつつ、その「権利対象」と「権利内容」の2 つの拡張の必要性・可能性を検討した。第一に「肖像」とは何か、VTuber のCG アバターを「中の人」の「肖像」と法的に捉えられるかどうか、第二に「肖像権」とは何か、第三者によるCG アバターの利用を排除し、また自身が利用し続ける権利を「肖像権」の権利内容に含められるかどうかである。</p>
著者
近藤 勝則 中村 彰宏 三友 仁志
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.35-44, 2015

近年、インターネットを利用すると同時に、テレビやラジオも視聴する、あるいは音楽も聞く、といった他の消費行動も同時に行う「インターネットのながら利用」が増加している。このようなインターネットのながら利用は、時間を多重的に使っている点に特徴があり、予算制約式に時間を含めて効用最大化行動を分析する枠組みでは、その便益を推計することは困難である。本研究では、その推計の1つの手法として、技術の進歩によってインターネットのながら利用ができるようになった点を新サービスの市場への投入と捉え、新サービスの登場による消費者便益の増加を推計する手法を援用して、インターネットのながら利用による便益の推計を試みた(推計の対象は「ながら利用ができること(機能)」ではなく、「インターネットをながら利用すること(利用実績)」)。<br>推計の結果、インターネットのながら利用による消費者余剰は平均的な利用者において約3,500円/日程度となっており、こうした新サービスは相応の便益を生じていることが示唆される。<br>また、本研究では利用できるデータの制約上スマホ普及前の時点でのインターネットのながら利用の便益を推計したが、現在のスマホの利用環境下ではさらに大きな便益が生じていることが推測される。
著者
福家 秀紀
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.61-74, 2018 (Released:2018-08-21)
参考文献数
25

本研究は、利用者にも競争事業者にも大きな影響を及ぼす可能性のある、NTT東西の電話網(PSTN)からIP網への移行計画に関わる課題を評価することを目的とする。評価に当たっては、(1)消費者志向、(2)将来志向、(3)競争中立性、(4)規制の比例性の4つの視点を重視する。そのため、本稿は以下のように構成する。第一に、移行の背景として、ブロードバンドと携帯電話の普及の影響を確認する。第二に、2010年以降公表されたNTT東西の移行に関する文書を分析する。第三に、NTT東西の計画を受けた総務省の対応を分析する。第四に、NTT東西の計画と総務省の対応を対照させることによって、移行に当っての課題を明らかにする。最後に、以上の分析に基づき円滑な移行に向けての筆者の提案と今後の課題を示す。なお、本件は現在進行中の事象であり、また移行計画の詳細が必ずしも示されていないことから、本研究も中間的なものであることを付記しておく。
著者
浅井 澄子
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.45-55, 2011-09-25
参考文献数
30

本論文では、2005年から2009年までにレンタルの年間ヒットチャート100に登場した楽曲を対象に、小売とレンタルの需要関数を連立方程式体系で推定することによって、音楽CDの販売とレンタルとの関係、ならびに、これらとネットワーク配信との関係を分析した。需要関数の推定の結果、小売市場でヒットしたCDは、レンタル回数も多く、レンタル回数が多いCDは、販売枚数も多いことが示された。また、アーティストの販売実績等の複数の項目に関して、小売とレンタル需要に与える影響は異なり、消費者がCDの購入とレンタルをタイトル毎に使い分けていることが示唆された。さらに、ネットワーク配信でヒットした楽曲は、CDの小売市場でもヒットする可能性があるが、レンタル市場では、同様の関係は見いだせなかった。
著者
藤原 広美
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.99-108, 2016 (Released:2017-02-06)
参考文献数
34

本研究は、民主主義に必要な「言論の多様性」に米国新興デジタル・ニュース・メディア(以後、新興メディア)が貢献しているのかを実証研究を通じて分析する。本稿では、新興メディアのジャーナリズムを、主流ジャーナリズムと異なる視点や情報源でニュースを発信し、多元的民主社会で必要な「代替的公共圏」の形成に寄与する AM を継承したものと捉えている。そして、新興メディアが AMの特徴を持つならば、言論の多様性に貢献するのではないかとの仮説を立てた。ランダムに選択した米国東部地域の新興メディアに質問票による選択回答と自由回答方式の聞き取り調査を実施したところ、送り手側の実践に AM の特徴と重複するものがいくつか確認され、新興メディアが「言論の多様性」へ寄与している可能性が示唆された。また主流・新興の両者は常に対抗的でなく、同質化の傾向も示された。
著者
高田 義久 藤田 宜治
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.53-65, 2013-09-25
参考文献数
21

スマートフォン保有者を対象にしたアンケート調査の結果、サービス利用の決定には利用者が利用について肯定的な評価を有していることが最大の要因であり、その評価にはスマートフォンを用いたサービスが有用であるという認識が最も影響を与えていた。また、周囲の意見や利用者の属する集団での習慣や規範といった社会的影響も影響を与えていた。<br>本研究では、この分析結果からのスマートフォン利用者のモバイルデータサービス受容行動の特徴を明らかにし、それによる利用者・事業者への示唆を述べる。
著者
菅田 洋一
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.95-105, 2021 (Released:2021-05-12)
参考文献数
18

米国の宇宙航空・情報通信産業が独走を続けてきた背景には、宇宙安全保障技術への巨額な政府投資と革新的な研究開発の追及があった。近年、宇宙開発競争は中印の台頭に見られるように世界で加速している。日本では、宇宙基本法が2008 年8 月に施行され、宇宙開発利用に安全保障の概念が盛り込まれ、宇宙産業の技術力及び国際競争力の強化が色濃く反映された。昨今の国際社会の情勢等に鑑み、宇宙資産の保護や社会経済システムの保全等を考えると、日本でも可能となった政府投資等を通じ、対処できる手段を今から講じていくことは重要である。本稿では、まず安全保障衛星を類似化した上で、この分野で先行する米国の通信衛星や偵察衛星について近年の技術動向を考察する。また、このような技術開発に必要となる米国政府予算の投下状況を分析し、日本との対比にも言及しながら、今後の安全保障衛星に関連する課題や方向性について論ずる。
著者
リュ ボスル 勝又 壮太郎
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.81-92, 2019 (Released:2019-10-29)
参考文献数
38

本稿は、電子漫画作品における作品創作者の宣言する作品アイデンティティと作品需要者が形成する作品イメージとの間の距離を定量的に検討し、その差異が形成される要因と電子漫画作品の人気との関係を検討するものである。実証分析においては、電子漫画サイトにおける大規模な読者調査のデータを用いる。電子漫画作品のアイデンティティとイメージをカテゴリー化理論の観点から推定した結果、作品のアイデンティティとイメージは一致するほど消費者から好まれることが確認された。しかし、最も高い人気度は適度に不一致する際に得られると想定した仮説は支持されなかった。
著者
吉見 憲二
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.155-165, 2017

<p>2014年に行われた第47回衆議院議員総選挙では、多くの候補者がTwitterやFacebookに代表されるソーシャルメディアを利用し、自身の選挙運動に活用していた。一方で、日本ではネット選挙解禁から日が浅く、その利用傾向や有効性の検討に関する研究の蓄積はまだ少ない。また、新聞記事等では政党ごとの利用傾向が取り上げられることが多く、個々の候補者に着目した研究は定性的なものを除いてこれまであまり見られなかった。</p><p>本研究では、著者が独自に収集した候補者のTwitter 投稿データを用いて、選挙期間中の候補者の利用傾向を実証的に検討する。特に、事前の利用実績が選挙期間中の利用にどのような影響を与えているのかに着目し、付け焼刃でのソーシャルメディア利用の問題点について明らかにする。</p>
著者
池末 成明
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.45-52, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
12

情報通信の共同研究について、東南アジア諸国連合(Association of South‐East Asian Nations, ASEAN)では• 既得権益や規制が弱く低コスト短期間で実証実験が可能である。• 研究者は研究と製品化や製品と市場のデスバレーの橋渡しをしている。• 研究者はクリステンセンの破壊的革新のプロセスを踏み、市場を開発している。• 3 か国以上3 研究機関以上で運用するバーチャルラボによる共同研究がASEAN で始まっている。• 中国や欧米のASEAN での共同研究の現状を把握することが必須である。• ASEAN の研究活動に関連するナレッジをワンストップで提供できることが求められている。