著者
橘川 武郎
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.22-26, 2012 (Released:2019-09-06)
参考文献数
3
被引用文献数
1

東京電力・福島第一原子力発電所の事故を契機にして,日本では,エネルギー政策の根本的見直しが進められている。電源構成の見直しに当たっては,①再生可能エネルギー利用発電の拡充,②節電による電力使用量の削減,③技術革新による石炭火力発電のゼロ・エミッション化,の3要素を独立変数とし,原子力発電のウエートは,これら3要素の進展具合によって,「引き算」で決まると考えるべきである。それでも,2030年時点では,原子力発電のウエートが20%程度残ると考えられるが,バックエンド問題の解決の困難さから見て,原子力発電は,長期的には停止されることになると見込まれる。
著者
石田 健二 岩井 敏 原口 和之 賞雅 朝子 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.162-167, 2021 (Released:2021-02-10)
参考文献数
14

近年,幹細胞生物学の進展が目覚ましい。特に,体内の幹細胞動態に係る研究については,国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection:ICRP)も注目し,2015年12月には発がんリスクに関する幹細胞の役割に着目したICRP Publication 131(以降「Publ.131」と記載)「放射線防護のための発がんの幹細胞生物学」を刊行した。この中で注目すべき点は,「放射線による発がんの標的となる細胞は各組織内の幹細胞,場合によってはその前駆細胞であろうと考えられている(Publ.131の第1項)」ことにある。本特集では,放射線リスク研究のブレークスルーとして最近,期待感が高まっている幹細胞研究の現状を調べ,被ばくの標的細胞を「幹細胞または前駆細胞」とみなすことによってがんリスク評価にどのような変更(パラダイムシフト)がもたらされるかを解説する。
著者
石田 健二 岩井 敏 仙波 毅 福地 命 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.450-454, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
15

これまで甲状腺がんに限らず,一般に発がんのメカニズムは,「多段階発がん説」に基づいて説明されてきた。すなわち,正常な体細胞(機能細胞)に変異が段階的に蓄積し,正常な体細胞が良性腫瘍となり,それががん化して次に悪性のがんに進展するというものである。しかし近年,“幹細胞ⅰ”の研究が進むにつれて,組織や臓器の細胞を生み出す組織幹細胞が,がんの主な発生母地であるといわれるようになってきた。本稿では,変異蓄積による「多段階発がん説」のモデルと,それでは説明できない子供に多く発生する血液がんの発症メカニズムのモデルについて解説する。
著者
都筑 和泰 笠井 滋 守屋 公三明 鈴木 成光 新井 健司
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.229-233, 2009 (Released:2019-06-17)

2006年の総合エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会報告(原子力立国計画)などにおいて,2030年以降に発生すると予想される代替需要に備えるため,「次世代軽水炉を開発すべきである」ということが指摘されてきた。これを踏まえ,2006~2007年度にはフィージビリティスタディ(FS)を実施し,2008年4月には,(財)エネルギー総合工学研究所を中核機関として実際の開発に着手した。現在,「世界最高水準の安全性と経済性を有し,社会に受け入れられやすく,現場に優しい,国際標準プラント」の実現に向け,技術開発を推進している。
著者
小宮山 涼一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.12, pp.830-835, 2021

<p> 水素やCCUS技術は,現状の対策では脱炭素化が困難な部門に対するCO<sub>2</sub>削減・除去対策として国際的な関心を集めている。水素は,鉄鋼や化学,航空,貨物車等での利用や,水素発電の導入が計画されており,水素輸入に向けたサプライチェーンの検討の動きが進展している。CCUS技術はCO<sub>2</sub>回収や貯留に加え,カーボンリサイクルを通じて,脱炭素化への貢献が期待されている。ただし,水素やCCUS技術ともに,本格的な普及拡大に向けては,技術開発,コスト,インフラ整備に係る課題克服が重要となる。</p>
著者
日渡 良爾
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.488-492, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

本稿では,核融合炉のトリチウム燃料循環システムにおけるトリチウムバランスの基本的な考え方とモデル化について概説する。また原型炉における評価例を紹介し,トリチウムインベントリの挙動,必要となる初期装荷トリチウム量,トリチウム倍増時間について説明する。その後,原型炉に向けた課題としてトリチウムバランスのモデル化に必要なトリチウム損失係数の重要性,原型炉のトリチウムインベントリ最小化に向けた燃料システム構成の提案例について紹介する。
著者
佐治 悦郎 佐田 務 田中 治邦 福田 龍 堀内 知英 澤田 哲生
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.141-151, 2021

<p> 核燃料サイクルの基幹施設となる日本原燃の再処理工場とMOX燃料工場が昨年,相次いで操業に必要な安全審査に合格した。政府は長期的なエネルギー確保をめざす戦略の中で,当面はプルサーマルを推進していくとしている。とはいえ高速増殖炉の開発の見通しが不透明な中で,いわゆるプルトニウムバランスや安全性への懸念の声も聞かれる。専門家にこの問題をめぐる現況と,今後の課題や展望について論じてもらった。</p>
著者
大場 弘則 若井田 育夫 平等 拓範
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.263-267, 2020 (Released:2020-11-01)
参考文献数
14
被引用文献数
3

福島第一原子力発電所の廃炉においては,世界でも例のない事故炉からの溶融燃料デブリ等の安全かつ円滑な取り出しが求められている。我々は,事故炉内の高放射線,水中等の過酷環境下において,炉内の燃料デブリ性状把握等サーベイランスが可能な遠隔分析を実現するために,レーザー光およびプラズマ発光を耐放射線性光ファイバーで長距離伝送するレーザー誘起ブレークダウン分光(LIBS)法を提案し,技術開発を進めている。本稿では,光ファイバー伝送LIBS技術を利用して様々な環境下や試料を用いて遠隔迅速その場分析を実証した試験結果,および過酷な環境へのセラミックマイクロチップレーザーを利用した遠隔LIBS分析技術の適用可能性について解説する。
著者
齊藤 正樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.87-89, 2016

<p> 使用済み燃料に含まれるマイナーアクチニドを軽水炉のウラン燃料や高速増殖炉のブランケット燃料に少量添加すると,燃料中に軍事転用困難な<sup>238</sup>Puの同位体割合を増加させ,高い核拡散抵抗性を有するプルトニウムを生成することが可能である。「もんじゅ」は,余剰プルトニウムを効率的に燃やしながら(Pu Eater),かつ,核拡散抵抗性の高い軍事転用困難なプルトニウムを増殖する(Pu Breeder)核不拡散上極めて重要な技術の実証に向けた国際研究開発拠点として,国内外の英知を結集して再構築し,将来のエネルギー安全保障のみならず,原子力の平和利用と核不拡散の両立の観点からも,人類史上初めての挑戦を,国は高い志を持って,揺るぎなく進めるべきである。</p>
著者
星野 毅
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.510-514, 2017 (Released:2020-02-19)
参考文献数
3

核融合炉燃料のトリチウムは自然界にほとんど存在しないため,リチウムと中性子の核反応にて人工的に製造する。このリチウムは電気自動車(EV)等の駆動用電池として必須なレアメタルであり,リチウム価格は2015年夏頃より急騰している。我が国では100%輸入に頼っており,日本の産業競争力を高めるためには,独自でリチウム資源を確保する技術開発が求められている。そこで,核融合研究にて得られた元素分離回収技術を発展させ,ほぼ無尽蔵のリチウムが含まれる海水等からの,事業採算性を有する革新的リチウム資源回収法の基盤技術を確立した。
著者
尾池 和夫
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.675-677, 2011 (Released:2019-09-06)

福島第一原子力発電所1号機の設置許可が出て,海抜35mの断崖が10mまで削られ,GEに引き渡されて発電所の建設工事が開始された1967年の頃,地球科学では,プレートテクトニクスの仮説が登場して発展し始めた時であった。 今,仮説ではなく,実測しながら見ているプレート運動のことを,できるだけ普通の言葉で解説したい。固体地球の運動の中で,2011年東北地方太平洋沖地震の発生を位置づけ,この巨大地震の発生の仕組みと,日本列島の今後の地震活動を,5回の連載で解説したい。
著者
宇野 賀津子
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.15-18, 2014

<p> 2013年の7月末に,「低線量放射線を超えて」というテーマで書物を著して<sup>1)</sup>,早,3ヶ月が経った。本を差し上げた福島の方からの「講演がより良くわかった」との声とともに,「元気づけられた」との声はうれしい限りである。また,京大の先輩の名誉教授の方々には,よく書いたね,よく勉強したねと,ほめられた。いつもは厳しい放射線生物学や分子生物学専門の名誉教授からのお言葉に力を得た思いである。また今回,思いがけず原子力を専門とする方や材料学を専門とする方々から,新しい視点で共感したとの声とともによく書かれましたねと,メイルやらお手紙をいただいた。私たちの分野では当たり前のことを書いたので,この反応は予想外であった。本稿では,この本に込めた想いと,この間異分野の研究者との議論を通して私自身が,学び考えたことを紹介する。</p>
著者
崎田 裕子
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.388-391, 2014

<p> 事故後約3年が経過し,自然放射線より高い放射線と向きあって暮らす,という日本で初めての状況に福島の方々は直面しており,リスクコミュニケーションの重要性が高まっている。しかし,事故後の放射線量の違い,除染の進捗による低減状況の違いなども影響し,避難継続地域,帰還準備地域,日常生活を取り戻そうとする地域など,地域の状況は多様化し,リスクとの向き合い方は,一人ひとりがどう決断するかにかかっている。また,個人の決断は勿論ながら,地域性に応じた対応や,除染だけではなく復興やこれからの暮らしや地域づくりなど,地域社会の将来像とも密接につながってきている。</p><p> 科学的知見と社会的知見を総合化して地域による柔軟性を確保しながら,放射線を低減し 環境回復を実現しつつ放射線と暮らす方々を,社会がどう支えてゆくのか。住民自身の視点と,それを支える社会システムづくりの視点の両面から,今とこれからの福島を展望する。</p>