著者
山本 隆三
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.367-370, 2016 (Released:2020-02-19)
被引用文献数
1 1

静岡県に立地する中部電力浜岡原子力発電所の近隣4市において,原子力発電に係る様々な問題に関するアンケート調査を実施した。約7600の回答を得たが,調査結果を分析する過程で分かったことがある。その一つは,世代により原子力発電を肯定する比率が異なり,若い世代ほど原子力発電を支持する比率が高いことだ。さらに,アンケート回答者においては高齢者の比率が高く,回答に年齢によるバイアスが掛かることも明らかになった。年齢構成を日本の年代別構成比に合わせ,原子力発電所の安全審査合格後の再稼働に関する回答を再計算したところ,再稼働肯定の比率が否定の比率を上回っていることが分かった。また,アンケートからは,原子力発電への理解を深めるため行うべきことも見えてきた。まず,アンケートから見えてきたことを第一回目として報告したい。
著者
中垣 隆雄
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.312-319, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
2
被引用文献数
1

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の達成やパリ協定を睨みつつ,世界的な脱化石化,分散化,効用の電化のメガトレンドの中,変動性再エネの主力化の期待が高まっているが,変動性再エネ導入増の本質的な課題は時空間の需給ミスマッチの解消であり,調整力の柔軟性向上と大容量のエネルギーストレージが主たる対策である。対策間の技術的な連携・補完・競合を考慮しながら,電力安定供給のための対策技術として地内・地域間連系線の増強および広域運用,火力・水力発電の出力調整機能の増強,エネルギーストレージの観点でまとめ,最後に今後の展望とCO2削減技術のリスクを述べた。
著者
佐々木 康人 岡崎 篤
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.102-105, 2013 (Released:2019-10-31)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

国際放射線防護委員会(ICRP)は非政府機関であるが,1928年の創立以来,放射線防護の理念と原則を勧告してきた。その勧告は国際原子力機関(IAEA)のより詳細な防護基準と共に,各国の放射線,RI防護管理規制に取り込まれてきた。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告に科学的根拠を置くICRP勧告は,科学的知見の進歩,防護技術の発展そして社会の動向に連動して進化してきた。「合理的に達成可能な限り低く“as low as reasonably achievable(ALARA)”」原則を重視する2007年勧告にいたる歴史と防護基準の変遷を解説した。
著者
白井 淳平
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.598-602, 2014 (Released:2019-10-31)
参考文献数
6

ニュートリノは物質を構成する最も基本的な粒子(素粒子)の一つである。自然界には大量に存在するが電荷がなく,物質とほとんど反応しないため幽霊粒子とも呼ばれ,その性質は神秘のベールに包まれていた。近年その研究は大きく進展し,興味深い性質が明らかになってきた。その解明には原子炉から大量に放出される原子炉ニュートリノが大きな役割を演じてきた。そして今やニュートリノを用いて地球内部を探る新たな観測方法が現実のものとなっている。本稿では最先端のニュートリノ研究を推進するカムランド実験(Kamioka Liquid scintillator Anti-Neutrino Detector)を紹介し,これまで何がわかったか,そして今後のニュートリノ研究について紹介する。
著者
佐田 務
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.244-248, 2009 (Released:2019-06-17)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

日本の原子力開発は,人々の熱狂的な支持の下に始められた。しかし昭和40年代後半になると,社会党やその傘下の労働団体,学生運動,そして都市に拠点をもつ市民運動が,原発立地点における住民運動を支援する形で,反原発運動に参入しはじめる。そしてチェルノブイリ事故後の反原発ブームの到来により,運動は昭和63年に空前の盛り上がりを見せた。しかし,その後の反原発運動は,「もんじゅ」でのナトリウム漏れ事故やJCO事故,美浜発電所3号機での事故などのトピカルな問題では,ある程度の盛り上がりを一時的に見せることがあるものの,全般的には消沈する道をたどっている。
著者
坂野 達郎
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.268-272, 2017 (Released:2020-02-19)
参考文献数
7

無作為抽出した市民(ミニ・パブリックス)による討議を政策に反映させるための社会実験が世界各地で行われている。討論型世論調査は,そういった手法の一つである。本稿では,2015年3月に高レベル放射性廃棄物処分方法をテーマとしてWeb会議システムを用いて実施した討論型世論調査の概略を報告するとともに,同手法を合意形成や政策決定に活用する可能性について述べる。
著者
小林 雅治
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.650-655, 2019 (Released:2020-04-02)

昨年,中国で三門原子力発電所1,2号機と海陽1,2号機,さらに台山1号機が相次いで発電開始し,中国は原子力発電規模で日本を抜き,世界3位に躍り出た。これらの原子炉は米国ウエスチングハウス(WH)製AP1000と仏フラマトム製EPRで,他国に先駆けての発電開始となった。いずれも所謂「第3世代炉」と呼ばれるもので,同炉の本格化時代に入ったとも言える。近年の原子力発電所の建設・輸出では,ロシアと中国の台頭が著しい。一昔前に原子力開発を先導してきた米英加は最近,2020年代半ば以降の商用展開を目指して,小型モジュール炉(SMR)の開発を熱心に進めている。本稿では,これらの動きを概括的に紹介する。
著者
遠藤 哲也
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.160-163, 2009 (Released:2019-06-17)
参考文献数
4

核兵器廃絶論は,古くから唯一の被爆国である日本,非同盟諸国,北欧,カナダ,豪,ニュージーランド等の非核兵器国から主張されてきたが,近年,米国から,それもかつて米国の核戦略に直接関与した元政府高官から主張されるようになったことは注目に値する。その議論は以前の核廃絶論が,一般的,情緒的であったのに比べ,冷戦終えん,9.11事件後の安全保障環境の変化を踏まえた核戦略論に基づくもので,かつ廃絶に至る具体的な道筋を提案している。それとともに,廃絶への過程に横たわる多くの政治的,技術的困難を指摘している。世界が核廃絶の途に踏み出すには,まずは米国の決断が必要なこと,核なき世界が米国にとっても世界の安全保障にとっても望ましいことを強論している。この軍縮会議はそういった議論の流れの一つである。
著者
山路 哲史
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.284-288, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
8

超臨界圧軽水冷却炉はプラントシステムの大幅な簡素化・小型化と発電効率の向上により,現行軽水炉の改良では到達できない高い経済性を達成する第四世代の軽水炉である。同一のプラントシステムで熱中性子炉から高速炉まで柔軟な設計対応が可能であり,小型炉の設計も可能である。これまでの国内外の研究開発により,プラント概念,炉心伝熱流動基礎データ,燃料被覆管や断熱材の高温腐食データ,水化学と腐食生成物移行データ等が整備されており,熱流動設計の妥当性と材料面での成立性も見通せるようになった。これらにより研究開発上の不確かさが低減し,今後の開発に伴うリスクが大幅に低減した。