著者
齊藤 正樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.87-89, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
9

使用済み燃料に含まれるマイナーアクチニドを軽水炉のウラン燃料や高速増殖炉のブランケット燃料に少量添加すると,燃料中に軍事転用困難な238Puの同位体割合を増加させ,高い核拡散抵抗性を有するプルトニウムを生成することが可能である。「もんじゅ」は,余剰プルトニウムを効率的に燃やしながら(Pu Eater),かつ,核拡散抵抗性の高い軍事転用困難なプルトニウムを増殖する(Pu Breeder)核不拡散上極めて重要な技術の実証に向けた国際研究開発拠点として,国内外の英知を結集して再構築し,将来のエネルギー安全保障のみならず,原子力の平和利用と核不拡散の両立の観点からも,人類史上初めての挑戦を,国は高い志を持って,揺るぎなく進めるべきである。
著者
直井 洋介 小田 哲三 富川 裕文
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.536-541, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
12

日本は1955年に制定された原子力基本法に従い,原子力の研究開発,原子力エネルギーの利用を平和目的に限って推進してきた。平和目的に限られていることを担保するため,事業者は計量管理を行い,IAEAと保障措置協定を締結する以前は二国間原子力協定(日米,日仏,日加等)に基づき報告を行い,1977年のIAEAとの保障措置協定を締結後は国内法が改定され,それに基づき計量管理及びその報告が行われてきた。1999年には追加議定書を締結して新たな義務を負うIAEAの保障措置活動に対応してきており,これまでわが国の原子力活動についての申告の正確性と完全性がIAEAによって検認されてきている。2004年には,核物質の転用や未申告の活動はないとの「拡大結論」を得て以降,これまで毎年この拡大結論を得てきている。本報告では,JAEAがこれまで取り組んできたIAEAの保障措置に必要な技術開発や人材育成への協力などIAEA保障措置活動への貢献について報告する。
著者
田邊 恵三 村上 健太
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.596-597, 2023 (Released:2023-10-10)
参考文献数
2

国内において新型燃料の導入に向けた動きがある。新型燃料の導入は燃料棒の熱的負荷の緩和等,原子力安全の向上に寄与するが,海外で十分実績のある燃料であっても,国内への展開は遅れている。 原子力安全部会では,新型燃料導入を題材に,新技術を導入する際の課題を整理するため,セミナー形式で「新型燃料の導入に向けた道筋 ―安全評価技術の継続的向上の視点から―」を開催した。新型燃料の導入に付随する新たな安全評価技術の導入や規制プロセス,安全研究,規制機関との対話などさまざまな議論が展開された。新技術の導入には産官学の連携が必要不可欠である。本シリーズでは,原子力事業者,学会,規制の各々の視点から,ハードウェアおよびソフトウェアの新技術導入に係る現状の課題を整理し,改善の方向性を示す。
著者
村上 健太 山本 章夫
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.606-607, 2023 (Released:2023-10-10)
参考文献数
4

新型燃料の場合,海外で実績があるとしても,メーカ毎の設計の違いが解析結果に与える影響を評価することが必要である。商業機密に留意しながらも,代表的な製品に対する試験結果を外挿するような判断の仕組みを整えることが好ましい。統計的安全評価コードは,個々の要因がパフォーマンスに与える影響を詳細に分析するためのプラットフォームの役割を果たす。その普及には,95/95値に代表される評価基準を関係者の共通理解とする必要がある。核燃料の場合,過渡・事故時の挙動の評価が特に重要である。材料試験炉という基盤インフラが危機的な状況にあるなか,安全機能と物理現象の関係を丁寧に整理し,個々の試験の意義を明確に定義する姿勢が求められる。
著者
河田 東海夫
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.32-35, 2015 (Released:2020-02-19)
参考文献数
7

欧州では自然放射線による国民の年間線量が日本人の倍以上になる国がいくつもある。欧州全体では,年間7mSvを超える住民の総人口は2,000万人を超え,13mSvを超える総人口は約600万人と見積もられる。そうした環境下でも,欧州では高度に文化的な生活が連綿として営まれてきたという事実は,原発事故の避難住民が「1mSvの呪縛」を克服し,どの程度の被ばくなら受忍可能かを考えるうえで,重要な示唆を与える。
著者
芳賀 繁
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.708-712, 2021 (Released:2021-10-10)
参考文献数
8

レジリエンスエンジニアリングに基づく安全マネジメントとして,はじめにレジリエンスの基本的4能力とされる対処,監視,学習,予見を高めるための施策を解説する。次に,安全マネジメントの現状がマニュアル主義に陥り,ヒューマンエラー対策の悪循環を生んでいることを指摘した上で,システムのレジリエンスを高めるためにはセーフティIIを目指す安全マネジメントが必要であることを説明する。その実践例として,「うまくいっていることから学ぶ」取り組み,チームで対処する力を高める取り組み,現場第一線が自律的に動く能力を高める研修などを紹介する。
著者
浜井 富生
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.334-339, 2014 (Released:2019-10-31)
参考文献数
1

海外ウラン資源開発株式会社は日本の原子力発電へのウラン燃料の安定供給を目的として,1970年に設立された。1978年に生産を開始したアフリカ・ニジェール共和国のアクータ鉱山,1999年から生産を開始したカナダ・マクリーンレイク鉱山からのウラン精鉱引取分の全量を日本の電力会社に販売して来た。2011年の福島第一原発事故前は,日本で必要なウラン燃料の10〜15%を安定して供給していた。今回,当社のウラン鉱山開発について紹介するとともに,最近の探鉱・開発案件のいくつかについて紹介する。
著者
岩井 敏 熊澤 蕃 仙波 毅 石田 健二 高木 俊治
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.751-755, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
10

疫学とは地域や集団を調査し,健康影響原因と考えられる要因と健康影響発生との関連性の強弱を統計的に調査・解析する学問であり,「コホート」とは,疫学調査の対象として一定期間にわたって追跡調査される人の集団のことである。本稿では,低線量および中線量の慢性被ばくであるテチャ川流域住民疫学コホート(TRC)の固形がんと白血病の罹患率と死亡率の疫学調査結果の最新データに基づいて解説し,原爆被ばくコホートおよび高自然放射線地域のコホートデータとの比較についても解説する。
著者
坂東 昌子 真鍋 勇一郎 澤田 哲生
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.252-258, 2015 (Released:2020-02-19)
参考文献数
1
被引用文献数
1

2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故。引き続き事故の余波は,福島県浜通りなどから今なお避難を強いられている12万人の皆さんに止まらない。福島に住み続けること選択した多くの人々をも心配させている。事故後4年を経ても「いつまで続くのかも分からない事故の影響」のことが多くの人の心にひっかかっているという状況である。そんななか,それまで放射線被ばくの生体影響というテーマに取り組んだことのなかった物理学者が,“なにかしなければいけない”との思いで学の境界線を気に留めず,乗り込んで来た。学術の越境が知の統合を生み,ここに新たな叡智が生まれようとしている。80年以上続いて来た放射線防護の基本概念が覆される可能性を秘めた研究成果である。
著者
森田 貴己
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.408-412, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
10

東京電力福島第一原子力発電所の事故により,大量の放射性物質が海洋に流出した。このため,日本の水産業は甚大な被害を被り,その被害は現在も継続している。事故後しばらくは水産物から比較的高い濃度の放射性セシウムが検出されていたが,2015年度の福島県のモニタリング検査において国の出荷制限基準である100 Bq/kg-wetを超過した海産物は1検体もない。本報告では,福島県海域での水産物汚染の現状を紹介するとともに,その汚染が減少した仕組みや汚染が比較的長期化した一部の魚種についてその理由を解説する。また,報告例の少ない水産物中のストロンチウム-90についても述べる。
著者
本多 牧生 乙坂 重嘉
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.225-228, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
10

福島第一原子力発電所(FDNPP)事故由来の粒状態放射性セシウムの海洋内での輸送状況を把握するため,2011年7月にFDNPP南東沖大陸斜面に沈降粒子捕集装置を設置し,その後3年間に捕集された粒状物質の放射性セシウムを測定した。その結果,2014年初夏になってもFDNPP事故由来の放射性セシウムが検出され,毎年秋季になると増加する傾向があること等が観測された。捕集粒子の主成分が鉱物粒子であること,海水中の溶存放射性セシウム濃度から推定される粒状態放射性セシウムフラックスより捕集されたフラックスがはるかに大きいことからFDNPP事故由来の放射性セシウムが沈着したFDNPP沖海底堆積物が再懸濁し,大陸斜面に水平方向に輸送されている様子が窺えた。また秋季に見られた放射性セシウム濃度とフラックスの増加は台風が接近・通過することで,より浅い水深の海底堆積物が再懸濁し水平輸送されたと推定された。
著者
八木 絵香
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.29-34, 2013 (Released:2019-10-31)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

エネルギー・環境戦略に関する「国民的議論」において,世界初の試みとなった政府主催の「討論型世論調査」。これらの結果に接した人々,特に筆者が出会う原子力分野の人々に少なくない感想は,「あれは『特殊な』人達の声で,サイレントマジョリティの考え方は違う」というものである。本当に討論型世論調査で示された国民の声は「特殊な」人々の声なのだろうか。その結果はどう読み解かれるべきだったのか。このような観点から,2012年夏のエネルギー・環境戦略に関する国民的議論を振り返り,今後のエネルギー政策の具現化に向けて,改めて原子力専門家が問われる役割について解説する。
著者
堀 啓一郎 山路 斉
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.593-597, 2017 (Released:2020-02-19)
参考文献数
30

東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きて半年後に開催された2011年9月のIAEA総会において「原子力安全に関するIAEA行動計画」が承認された。これに基づいて実施されてきたIAEAの福島第一原子力発電所の事故に関する活動は2015年の最終報告書の完成をもって終了した。現在はフォローアップとして福島の経験を踏まえた安全確保,安全規制に関する考え方を取り入れるためのワークショップ等が適宜開催されている。
著者
岸田 一隆
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.416-420, 2020 (Released:2021-02-01)

2019年12月に開催された「再処理・リサイクル部会セミナー」における岸田の基調講演の内容を,その時の講演のスタイルとともにまとめた。コミュニケーションの基本構造から解き明かし,伝え方や心構えについて注意を払うことを解説した。大切なのは,コミュニケーションを担う双方の間に共同体意識を生むことであり,共に未来を作り出してゆくという意識を持つことである。そのためには,自らも変わる準備がなくてはならない。
著者
北村 俊郎
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.338-341, 2013 (Released:2019-10-31)
参考文献数
4

福島第一原発事故から2年が経過し,電力会社は防潮堤建設や非常用電源の増強などの対策を進めているが,それは主に直接的原因に対応するものである。国会事故調の委員長がいみじくも「メイドインジャパン型の災害」と評したが,今回の事故の背景には,日本社会に根ざす問題が多々存在する。事故は,この国の原子力開発の歴史の集大成であり,その過程でのさまざまな誤りの帰結と言ってよい。
著者
木島 佑一 山本 洋一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.156-160, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
7

日本原子力研究開発機構(原子力機構)では,包括的核実験禁止条約(CTBT)国内運用体制の下で国際監視制度(IMS)施設のうち放射性核種の監視のための観測所及び公認実験施設を整備し,運用を行っている。また,IMS観測所から得られる放射性核種観測データの解析及び評価を行う国内データセンターも整備し,運用を行っている。本稿ではCTBTの概要と原子力機構の活動に関して解説するとともに,これまで国内の放射性核種観測所で得られた観測結果のうち,2013年2月の第3回北朝鮮核実験を含む特異な人工放射性核種観測事例を2つ紹介する。