著者
宮澤 利男
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 = The Japanese journal of taste and smell research (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.5-10, 2015-04

食塩は私たちにとって必要不可欠な素材である一方、その過剰摂取は様々な疾病の要因になるとされており、消費者の減塩に対する意識は近年著しく高まっている。そこで我々は、塩味の増強効果を有する天然物を探索したところ、キク科植物オランダセンニチの辛味の主要成分であるスピラントールに塩味の増強効果があることを見出した。本稿では、この塩味の増強作用を、1)官能評価試験、2)行動学的試験、3)神経生理学的試験により測定することで、塩味受容および塩味増強のメカニズム解明に試みることとした。
著者
富永 真琴
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 = The Japanese journal of taste and smell research (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.191-196, 2000-08-01
被引用文献数
2

辛味は、トウガラシの主成分である脂溶性のカプサイシンが三叉神経終末に発現するイオンチャネル型のカプサイシン受容体VR1に結合してカチオン流入から神経興奮が起こることによって知覚される。カプサイシン受容体は感覚神経C線維にのみ発現して辛味を惹起するカプサイシンのみならず痛み刺激であるプロトンや43度以上の熱によっても活性化される多刺激痛み受容体として機能する。遺伝子クローニングされたこの受容体の機能は強制発現系での電気生理学的な解析に加えて受容体欠損マウスの行動解析からも確かめられた。
著者
海老原 覚
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 = The Japanese journal of taste and smell research (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.61-67, 2014-04

唾液量の減少は呼吸器感染症と関連がある。唾液内の雑菌を誤嚥することによって起こると考えられる誤嚥性肺炎においても唾液の減少が問題を起こすからである。したがって、高齢者に対する誤嚥性肺炎の予防策としてドライマウス対策が重要であると考えられる。さらに、直接的嚥下障害対策も重要であり、高齢者の衰えた嚥下機能を回復するために様々な方法が試みられている。香辛料による温度受容体刺激は、直接の知覚神経末端への作用に加え、嚥下に必要な脳活動部位のうち知覚に関する領域を活性化して、嚥下反射を促進する作用があることが示されている。なかでも、黒胡椒の匂いによる嗅覚刺激は、大脳島皮質と前帯状回を活性化して、高齢者の衰えた嚥下機能を回復できることがわかった。この方法はどんな状態の高齢者にも有用であるが、介護者の手間を要するため、簡便に高齢者を24時間刺激し続ける方法を開発した。以上のように、辛味と匂い刺激を組み合わせることにより、効率的に誤嚥性肺炎患者の再誤嚥をかなりの程度防ぐことができたので、本稿で紹介する。
著者
西村 敏英
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 = The Japanese journal of taste and smell research (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.185-192, 1997-08-01
参考文献数
42

食肉は熟成により軟らかくなると同時に風味が向上する。風味要素のうち、呈味向上には遊離アミノ酸とペプチドの増加が寄与している。特に、遊離アミノ酸の増加はうまみを含む肉様の味の増強に、またペプチドの増加はまろやかさの向上に関与していると考えられる。食肉熟成中のペプチドの増加には、筋肉内エンドペプチダーゼ(カルパインおよびカテプシンBとL)が、遊離アミノ酸の増加には、中性に至適pHを有するアミノペプチダーゼC、HおよびPが貢献していると考えられる。
著者
相良 泰行
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 = The Japanese journal of taste and smell research (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.153-159, 2001-08-01
参考文献数
12
被引用文献数
8

食品に対する人の嗜好を理工学的手法で計測し、再現性や客観性の高い数量化された情報を得るシステムを「食品感性工学」として提唱する。このシステムの概要は「食情報に関わる感性のモデリングとこれを利用したプロダクトマネージメント」であり、その研究領域には食情報のセンシング、生体生理反応機序の解明、センシング情報の感性情報への変換、食にまつわる評価・判断および嗜好形成のモデリング、さらに、応用分野にはこれらに基づく新製品の開発・設計および販売戦略などが含まれる。本稿ではこのシステムの概要と視覚・味覚・嗅覚を模倣した各種センサーの計測・評価技術の最新情報を紹介する。