著者
相澤 泰造 酒井 俊典 林 拙郎
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.26-33, 2010-01-25 (Released:2010-10-06)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

2004年9月28日から29日にかけて三重県の北側を通過した台風21号による豪雨を起因として,宮川村では多くの地すべり・崩壊が発生した。航空写真等で233箇所の地すべり・崩壊を抽出した結果,その大部分は崩壊であった。地すべり・崩壊の発生箇所と地質帯,累積降水量,最大時間降水量との関係を検討した結果,地すべり・崩壊は最大時間降水量が120~110mmの地区で多く発生したことが明らかとなったが,累積降水量との関係はあまり認められなかった。また,三波川帯と秩父帯では地すべり・崩壊の発生頻度に大きな差はなかったが,三波川帯では流れ盤で地すべり・崩壊が多く,秩父帯では受け盤で多かった。宮川村は多雨地区であり風化が斜面表層部に限られていたため,地すべりよりも崩壊が多く発生したことが原因と判明した。
著者
奥園 誠之
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.569-575, 2005-03-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
5

切土のり面の崩壊による災害を防ぐためには, 崩壊しそうなのり面を先回りして補強するか, 崩壊する直前に通行止めや避難するかのいずれかである。本小論では道路のり面災害の実態を紹介し, 点検管理, 計測管理, 降雨量管理の考え方について述べたものである。
著者
浅野 志穂 落合 博貴 黒川 潮 岡田 康彦
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.457-466, 2006-03-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
18
被引用文献数
7 9

山地における地震鋤の地形効果の特性を明らかにし, 崩壊発生への影響を明らかにするため, 新潟県中越地震時の崩壊を事例として検討した。大規模な斜面崩壊が発生した2つの山体を対象として, 現地調査から三次元モデルを作成し, 弾塑性有限要素法により山体の地震応答解析を行った。その結果, 山体の規模や形状により地震加速度の増幅が変わることや山地の地震動には地形と軟弱な表層土の両者が影響を与えることなどが分かった。また地形効果を受けた地震動による地盤のひずみと崩壊地の関係を検討したところ, 地盤の加速度やひずみ量が大きい位置の近傍に崩壊発生源が位置するなどの特徴が明らかになった。
著者
中埜 貴元 小荒井 衛 星野 実 釜井 俊孝 太田 英将
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.164-173, 2012-07-25 (Released:2013-10-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

地震時に発生が懸念される大規模盛土造成地における滑動的変動被害について,その被害予測を効率的に実施するためには,国土交通省の「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドライン」の第一次スクリーニングですべての盛土に共通して得られる地形情報のみを利用して,盛土の相対的な滑動崩落危険度を評価する必要がある。そこで,盛土地形の計測と地震時滑動崩落に対する相対的な安全性の評価支援が可能なシステムを構築し,その有効性を検証した。
著者
伊藤 孝 村尾 英彦 酒井 英男
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.264-272, 2019 (Released:2019-10-09)
参考文献数
7

すべり方向は大規模な地すべりの移動方向を解釈するための鍵である。一般的には, すべり方向はすべり面の条線, あるいは粒子配列から測定されてきた。しかし, 地すべりからすべり方向を解読することは依然として容易ではない。本研究では, リングせん断試験の試料を用いた岩石磁気測定からすべり方向を測定するための迅速な方法を示す。 せん断試験を行った供試体から採取した試料では, 帯磁率異方性の最大軸はせん断方向である円型供試体の接線方向を向き, せん断試験を行っていない供試体試料の最大軸が一定方向にそろっているのとは明らかに違っていた。残留磁化の方向も, せん断試験を行った多くの試料では, せん断方向である円型供試体の接線に近い方向を向き, 帯磁率異方性の測定結果と同様な結果が得られた。これらの結果は, リングせん断試験により供試体の磁性粒子が円周方向に配列したことを示している。本研究は, 磁気特性からすべり運動の方向を再現できる可能性があることを示している。
著者
井口 隆
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.409-420, 2006-01-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
29
被引用文献数
5 8

火山体では多様な斜面変動が多く発生している。中でも岩屑なだれを伴う山体崩壊は最も悲惨な災害を引き起こす。火山体に発生する山体崩壊・岩屑なだれの特徴を明らかにするため, 日本列島における発生状況について可能な限り多くの事例を収集し検討した。その結果, 日本列島の第四紀火山のうち67火山において128件の発生事例が確認できた。これは日本列島に分布する火山のうち約4割に相当する。火山体における大規模崩壊-岩屑なだれの発生頻度は最近500年間では見ると60年に1回程度である。大部分の山体崩壊の規模は0.2km3より大きい。岩屑なだれは横方向へも広く拡散する特徴を有するため, 被災範囲が極めて広い。火山体において発生する山体崩壊-岩屑なだれの規模は他の地質地域と比べると大きく, しかも流動性があり, 発生頻度が高いなど他の地域で起こる大規模崩壊より危険度が大きい。およそ3分の1の岩屑なだれ堆積物において流れ山が確認できた。また65件の岩屑なだれの崩壊源の位置を推定したところ, 山体崩壊は火山体の山頂付近など山体上部で発生する傾向が見られる。約3分の2の岩屑なだれの崩壊源は確認できなかったことから, 山体崩壊の跡地は容易に開析されるか埋積されて不明瞭となる。岩屑なだれの流動性は他の土砂移動現象と比べて高く, その等価摩擦係数は (H/L) は0.2から0.08と極めて小さい。山体崩壊・岩屑なだれは第四紀火山において必ずしも特異な現象ではなく, 火山体の開析過程の1つである。特に円錐形の山体を持つ活火山では, 山体崩壊-岩屑なだれを多く発生させてきた。多数の火山を有する我国では今後も山体崩壊・岩屑なだれが発生する危険性を考慮しておく必要がある。
著者
小野 尚哉 江藤 史哉 島田 徹 笹原 克夫 桜井 亘 鷲尾 洋一
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.179-186, 2014 (Released:2014-11-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

平成23年台風第6号に伴う豪雨によって発生した深層崩壊について,その発生場の地形・地質的特徴を整理し考察を行った。まず深層崩壊発生箇所とその周辺の微地形について,航空レーザ測量データを基に地形判読を行い抽出した。この地形判読を行った範囲に対して地表踏査を実施し,地形・地質と変状を記載した。その結果,小島地区の深層崩壊は,山頂緩斜面下方の岩盤クリープ地形が分布し侵食前線が位置するエリアで生じており,付近には褶曲や断層などの劣化帯が分布していることが判った。また,付加帯である四万十南帯の砂岩泥岩互層が分布する小島地区とその周辺においては,深層崩壊跡地などの大規模斜面変動地形が広く,かつ数多く確認され,層理面構造が流れ盤となっていないものの,節理等の亀裂系の発達等により岩盤の緩みが進行した範囲で生じていることが判った。
著者
八木 浩司 丸井 英明 Allahbuksh Kausar Shablis Sherwali
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.335-340, 2010-11-25 (Released:2011-09-22)
参考文献数
9
被引用文献数
1

パキスタン北部を流れるフンザ川右岸のアッタバードにおいて2010年1月初旬に幅1000m, 比高1000m, 斜面長1500mの規模で地すべりが発生し, 約4000万立方mの移動土塊がフンザ川河谷をせき止めた。移動体は, 青灰色細粒物質をマトリックスとした長軸方向で3-4mから10mに及ぶような岩屑層からなり, この移動体からさらに絞り出された細粒物質が地すべりマウンド上を泥流となって下流側や上流側に流れ下った。本地すべりによる犠牲者は死者19人で, そのすべてはこの泥流に巻き込まれたことによるものである。この地すべりダムは大きな岩屑層からなるため突然決壊の危険性は低いと考えられた。災害4ヶ月前に撮影されたALOS/PRISM画像の実体判読の結果, 谷壁斜面には前兆現象的な変位が認められた。このためヒマラヤなどの高起伏地域での河道閉塞を引き起こす大規模地すべりの事前把握のための衛星画像利用の可能性が示唆された。
著者
海野 寿康 中里 裕臣 井上 敬資 高木 圭介
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.219-226, 2008-09-25 (Released:2009-04-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2

近年, 豪雨による斜面災害が多発するようになっている。本研究では, 降雨から地すべり安全率を予測する手法の基礎として, 破砕帯地すべり地における豪雨と地下水位の相関関係の把握を目的に, 農地地すべり地区に設置されている複数のボーリング孔の孔内水位と地区降雨量の観測や地下水位の降雨応答解析を行った。その結果, 地下水位の降雨による変動に基づき実効雨量の半減期を決定することで, 該当地区におけるおおよその降雨~地下水位関係を得ることが可能となった。得られた知見から地下水位の変動挙動のタイプ分けを行うことができ, それらは降雨形態の違いにより生ずると考えられる。
著者
宇次原 雅之 関 晴夫 若井 明彦 畠中 優 江口 喜彦 中野 亮
出版者
公益社団法人 日本地すべり学会
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.221-232, 2014 (Released:2015-07-30)
参考文献数
17

コンクリート・モルタル吹付工(以下,吹付工)は,のり面保護工として古くより多用されており,現在その老朽化が問題となっている。効率よく維持管理を行うためには,吹付工が適用されたのり面の劣化機構を明らかにし,精度のよい健全度評価や劣化予測を行うことが重要となる。本研究は,これまでに蓄積されてきた維持修繕に関する記録をもとに,吹付のり面の劣化機構を明らかにして,今後,維持管理を行っていく上で有用となる基礎資料を得ることを目的として実施した。吹付のり面の劣化機構は地質や気候条件などにより異なるため,本研究では,群馬県内の中古生層分布地域における道路吹付のり面に研究対象を絞った。その結果をもとに,対象地域の吹付のり面の劣化機構を模式的に示し,劣化予測を含む効率的な維持管理への応用方法について検討を行った。