著者
笹谷 孝英 野津 祐三 小金澤 碩城
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.24-33, 1998-02-25
参考文献数
38
被引用文献数
3

日本の異なる地域および植物から分離したインゲンマメ黄斑モザイクウイルス(BYMV)28分離株について, 判別植物の反応と血清反応を比較した。BYMVはインゲン15品種の反応で4つのPathotypeに分けることができた。Pathotype Iはインゲン品種の本金時のみに全身感染を示し, 他の品種には局部感染であった。Pathotype IIは本金時, ケンタッキーワンダーおよび他4品種に全身感染を示し, Pathotype IIIは本金時, ケンタッキーワンダー, マスターピースおよび他4品種に全身感染を示し, Pathotype IVは今回用いた15品種すべてに全身感染を示した。Pathotype II に属するBYMVはソラマメにおいて他のPathotypeに属すものより高い種子伝染性を示した。BYMVあるいはクローバ葉脈黄化ウイルス(ClYVV)に対する16種のモノクローナル抗体(MAb)を用いたTAS-ELISAで, BYMV28分離株には血清学的差異が観察され, 病原性とある程度一致したが, ポリクローナル抗体を用いたDAS-ELISAでは, 分離株間での顕著な差異は観察されなかった。MAb-1F3はPathotype I, II, IIIとClYVVの1株と反応した。MAb-2C4はPathotype IIのみと反応し, MAb-5F2は今回用いたBYMVとClYVVすべての株と反応した。MAb-2B4, -2C5, -3F9, -3F11, -4G8および-4H9はPathotype IIとIIIのすべてと, Pathotype IとIVの一部の株と反応した。MAb-1A2と-2H8はPathotype IIIとClYVV2分離株と強く反応した。以上より, 日本のBYMVは病原性および血清学的に変異に富んでおり, 4つのPathotypeに分かれることが明らかとなった。
著者
岸 國平 古川 聡子 小林 享夫 白石 俊昌 酒井 宏 田中 一嘉
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.43-49, 1998-02-25
被引用文献数
1

堀による命名以後, アナモルフの記載等に疑問を残したまま放置されてきたネギ黒渋病について研究し, 以下のような事実を明らかにした。(1) 群馬県下仁田町で, 多年にわたり自家採種と連作が繰り返されてきた同町特産の下仁田ネギに, 本病が毎年激しく発生することが認められた。(2) 本病の発生は下仁田町を含む関東北部,東北,北海道地域で多く認められ, 関東南部および関東以西の地域ではまれにしか認められなかった。(3) 培養菌叢片およびほ場病斑の成熟子のう胞子を用いて行った接種実験において, いずれも自然発病と同様に病徴を再現した。(4) 観察されたすべての自然発病および人工接種病斑においてテレオモルフは形成されたが, アナモルフは全く認められなかった。(5) 本病菌の培地上の生育適温は約20℃, 子のうの成熟適温は20〜25℃, 子のう胞子の発芽管伸長の適温は20〜25℃であり, 生育とpHの関係はpH4〜9で生育し, 6〜9で最も良かった。
著者
飯塚 典男 飯田 格
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.46-53, 1965-01-30
被引用文献数
1

1958年,盛岡で罹病ラジノクローバから1つのウイルスを分離した。このウイルスは汁液接種で容易に伝搬され,レンゲ,ナタマメ,クロタラリヤ,スイートピー,インゲン,エンドウ,アルサイククローバ,クリムソンクローバ,レッドクローバ,サブクローバ,ソラマメ,コモンベッチ,ヘァリーベッチ,ササゲなどを全身的に侵した。フジマメ,アルファルファ,キバナルーピン,アズキ,ヤエナリ,スイカ,キウリ,マルバマアサガオ,キンギョソウ,トマト,ダチュラ,フィザーリス,ペチュニア,Nicotiana rutica, N.sylvestris などの接種葉からは本ウイルスが回収できた。これらのうち,ヤエナリおよびスイカの接種葉には常に壊死斑点を生じた。また,タバコ,グルチノーザ,ビート,ホーレンソウ,センニチコウおよび Chenopodium amaranticola には感染しなかった。本ウイルスは汁液のほか低率ながらマメダオシで伝搬された。しかしマメヒゲナガアブラムシ,マメアブラムシおよびモモアカアブラムシでは伝搬されなかった。耐熱性,70〜75℃10分,耐希釈性は10万〜100万倍であり,耐保存性は25℃で60〜90日,室温(18〜20℃)では91日以上であった。Dip法による電子顕微鏡観察で長さ約450mμ前後のひも状粒子を認めた。罹病植物の表皮細胞内には特異な隅体(Corner inclusion body)が観察され,罹病エンドウの超薄切片の観察によって,細胞内にウイルスの集団らしきものを認めた。本ウイルスはカナダのWhite clover mosaic virus 抗血清との間に明らかな沈降反応を示した。寄生範囲,病微,伝搬方法,物理的性質,ウイルス粒子の形態および血清反応などから考察して,本ウイルスは,アメリカ,ニュージーランドおよびヨーロッパ各地で報告されたWhite clover mosaic virus のグループに属すると同定した。
著者
本間 善久 鈴井 孝仁
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.643-652, 1989-12-25
被引用文献数
6

Pseudomonas cepacia RB425およびRB3292は, 抗生物質ピロールニトリンおよびシューダン(HMQ, NMQ)を生産し, ダイコン種子にコーティングすることによって, Rhizoctonia solaniによる苗立枯病を抑制した。Cymbidium spp.の褐色斑点細菌病菌P.cepacia A2およびA4は, シューダンは生産しないがピロールニトリンを生産し, 発病抑制効果が認められた。P.cepacia ATCC No.25416は, いずれの抗生物質も生産せず, 抑制効果がなかった。ニトロソグアニジンで誘導したRB425の突然変異株8菌株は抗生物質生産性に変異が認められ, 培地上の3種の抗生物質生産性と, R.solaniの幼苗への着生率抑制および発病抑制能との間に高い相関関係が認められた。種子当り10^7cfuのRB425の生菌または, 1.Oμgの純化したピロールニトリンを種子にコーティングすることによって, およそ50%の発病抑制率が得られた。シューダンを種子当り40μgコーティングした場合には, ほとんど抑制効果がなかった。RB425のリファンピシンおよびナリジキシ酸耐性菌株を用いて播種後の菌数を測定したところ, 種子当り9.4×10^6, 4.7×10^5および9.4×10^4cfuコーティングした場合, 7日目に幼根1g当り4.6×10^5, 1.8×10^4および5.3×10^3cfuであった。種子コーティングしたRB425は, 播種後, 幼根表皮細胞の縫合部に沿って生育し, 根圏で増殖するのがSEMによって観察された。これらの結果から, P.cepacia RB425はダイコン幼苗根圏で増殖でき, 種子コーティングによるダイコン苗立枯病の抑制効果にピロールニトリンが重要な役割を有すると考えられた。
著者
佐藤 衛 福本 文良
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.393-396, 1996-08-25
参考文献数
13
被引用文献数
1

香川県の3点のキャベツ, 三重県の2点および鳥取県の1点のブロッコリーからPeronospora parasiticaのサンプルを集め, 各サンプルから5菌株, 合計30の単胞子分離株を調製し, これらの宿主範囲を調査した。供試植物として, Brassica oleracea (カリフラワー, キャベツおよびブロッコリー18品種) の他, B. campestris (タイサイ, ミズナ, アブラナ, ハクサイおよびカブ8品種), B. juncea (カラシナ1品種), B. napus (ルタバガ1品種) およびRaphanus sativus (ダイコン2品種) を用いた。接種試験の結果, 分離源と同種の植物であるB. oleraceaの3作物の16品種は高い感受性を示し, 本種は宿主植物と考えられた。また, B. napusは中程度の感受性を示したことから宿主となる可能性が示唆されたが, B. campestris, B. juncea, R. sativusは抵抗性を示したことから非宿主と考えられた。供試したべと病菌はすべて同じ系統に属し, B. oleracea (B. napusも含む可能性がある) を宿主とする系統と考えられた。B. oleraceaの中でキャベツの2品種, ゴールデンベストおよびYR-さわみどりは抵抗性を示した。供試した単胞子分離菌株で病原性に違いは見られなかった。
著者
有江 力 難波 成任 山下 修一 土居 養二 木嶋 利男
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.531-539, 1987-10-25
被引用文献数
2

Fusarium wilt of bottle gourd (Lagenaria siceraria Standl.) caused by Fusarium oxysporum f. sp. lagenariae is a serious and wide-spread soil-borne disease in Japan. In some fields of Tochigi prefecture, welsh onion (Allium fistulosum L.) has been mix-cropped customarily as an associate crop with bottle gourd. Those fields showed little occurrence of the disease, in spite of continuous cropping of bottle gourd. This phenomenon suggested the relation between mix-cropping with welsh onion and control of the disease. From the subterranean parts of the welsh onion, Pseudomonas gladioli were isolated frequently, and some of these bacterial isolates showed antifungal activity to F. oxysporum f. sp. lagenariae on BPA plates. But as they were usually pathogenic to roots of welsh onion, we had to select, for practical use, isolate that antagonized strongly to F. oxysporum f. sp. lagenariae, had no pathogenicity to welsh onion or other plants, and multiplied well on subterranean parts of welsh onion. Such an isolate P. gladioli M-2196 (isolated from Miltonia sp.) was selected from 90 isolates of Pseudomonas spp. from 20 kinds of plants. For the purpose of biological control of Fusarium wilt of bottle gourd, we cultured P. gladioli M-2196 on BP broth up t0 10^9 cells/ml, dipped the root systems of associate crop (welsh onion or chinese chive) in the cultural suspension for five min., and then bottle gourd was mix-cropped with associate crop in infected soil. With this treatment, occurence of Fusarium wilt was districtly suppressed. This mix-cropping using associate crop with P. gladioli M-2196 seemed to be a beneficial technique for biological control of soil-borne fungal diseases.
著者
小泉 銘冊 久原 重松
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.620-627, 1984-12-25
被引用文献数
2 3

1965年頃からわが国西南暖地のカンキツに発生したにせ黄斑病の病原を究明するため, 各地から採取した罹病葉の生切片を懸滴培養した結果, 数種の酵母様微生物および細菌を得た。これらをナツミカン葉に葉肉注射接種した結果, 酵母様微生物の一部菌株が病原性を示し, 接種部は黄変症状を呈した。ウンシュウミカン未硬化葉に噴霧接種した結果, コロニー性状が異なる2種類の酵母様微生物のみ病原性を示した。その一つ (No. 3, 4, 6菌株) は病原力が強く, 左右非対称の射出胞子を形成し, 鮭肉色コロニーで菌糸を作らず, 専ら多極出芽で増殖することから Spobolomyces sp. と考えられた。他の菌株 (No. 10) は鹿児島県果樹試験場からの分譲菌株 (Ta-7415) と同一種で, 両者とも病原力は弱い。その特異的形態の菌糸から Aureobasidium sp.と同定した。噴霧接種での病原力や薬剤感受性の違い, 圃場での感染時期と生態的特性に関する既往の知見などから, Sporobolomyces sp.が主たる病原体と推定された。
著者
重田 進 中田 榮一郎
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.150-157, 1995-04-25
参考文献数
15

A new bacterial disease of citrus was detected in Yamaguchi Prefecture in 1987. Symptoms appeared on the leaves and flowers of Iyo (Citrus iyo) in the field. In May, the symptoms on leaves were characterized by irregular dark-green, water soaked spots, and defoliation. In June, the lesions enlarged to form round dark-brown spots 5-10 mm in diameter with yellow haloes. Symptoms on petals and ovaries consisted of small red spots, and those on pistils of spindly dark-brown spots. The pathogen showed a pathogenicity to lilac, peach, onion, tomato and other 12 plant species. However, the host range was narrow and the virulence was weak in comparison with those of the reference strain, P. syringae pv. syringae (USL-PV). Neither black pit nor blast symptoms were produced on lemon fruits and citrus twigs. The bacteriological characteristics were identical with those of P. syringae pv. syringae (USL-PV). On the basis of these results, we concluded that the disease is caused by a strain of Pseudomonas syringae pv. syringae van HALL 1902 and we propose the disease is designated as "Bacterial brown spot of citrus".
著者
豊田 和弘 池田 聡子 森川 淳一 稲垣 善茂 一瀬 勇規 山本 幹博 白石 友紀
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, 2003-02-25

エンドウ褐紋病菌Mycosphaerella pinodesのマメ科植物に対する病原性が調べられた結果,本菌は自然宿主であるエンドウの他に,赤クローバー,ナツフジ,キハギ,アルファルファに感染する.これら植物における感染は,同菌の生産するサプレッサーによるナシ黒斑病菌に対する受容性誘導の程度と一致し,サプレッサーが本菌の宿主範囲を決定する因子であることをすでに報告した(Oku et al.,1980).ここでは,植物疾病の分子機構の解明に向けた新たなモデルシステムの開発を目的として,アルファルファに近縁であるMedicago truncatulaに対する褐紋病菌の病原性について調べた.この結果,各国より集められた18種のエコタイプの全てに感染し病斑が誘導されたが,うち2種では柄子殻の形成が認められた.M.truncatulaは,ゲノムサイズが小さく,遺伝子地図・ESTの充実,形質転換の容易さなどから,近年,マメ科のモデルとして選定されている.M.truncatula-M.pinodesの相互作用のモデル化は,病原性・共生といった多様な微生物との相互作用の理解につながる格好のモデルになるものと考えられる.
著者
津田 新哉 花田 魚 美濃部 侑三 亀谷 満朗 都丸 敬一
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.626-634, 1993-12-25
被引用文献数
5 5

TSWVはわが国においてダリア,ピーマン,トマト,スイカ,タバコおよびトウガンなどから分離されている。本論文では,沖縄県のスイカ(W株),奈良県のトマト(N株),茨城県のピーマン(P株),岩手県のタバコ(M株)及び鹿児島県のトウガン(K株)の各分離株についてヌクレオキャプシドの性状を比較した。各分離株の精製ヌクレオキャプシドについてSDS-PAGE及びアガロースゲル電気泳動を行った結果, W株とK株のヌクレオギャプシド(N)グンパクの分子量は32K, SRNAは1.2l×10^6, N, P及びMの各株ではそれぞれ30K及び1.02×10^6を示し,両グループに差が認められた。N株またはW株のヌクレオキャプシドに対する特異抗体(N抗体およびW抗体)を用いたウェスタンブロッティングでは,N抗体はN,P,Mの各株と,W抗体はW及びK株とのみ反応した。N株とW株のNタンパクを精製しリシルエンドペプチダーゼで消化した後HPLCのクロマトグラムを比較した結果,3ピークのみは一致したがその他異なるピークが多数認められ,アミノ酸配列に差異のあることが示された。N株またはW株のSRNA (N-S及びW-S)をプローブとしたノーザンハイブリダイゼーションでは, N-SはN, P, Mの各株と, W-SはW及びK株のSRNAのみとそれぞれ反応した。以上の結果,本邦産TSWVは普通系(TSWV-O;N,P,M株)及びスイカ系(TSWV-W :W,K株)の2系統に大別されることが判明した。