著者
水上 健 杉本 真也
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.19-28, 2023 (Released:2023-01-20)
参考文献数
29

ループ形成や屈曲を招きやすいS状結腸は大腸内視鏡の挿入困難部位とされる.初学者では過送気によってS状結腸を拡張させてしまい,軸保持短縮法を用いても挿入困難となることがある.日本で開発された注水法では,少量の水の注入により短縮直線化が容易となるメリットがある.注水法に直腸S状結腸部での脱気を追加して改良した浸水法では,水と空気の境界面が解消され,視野の改善が得られた.初学者でも修得しやすく,ループ形成抑制による盲腸到達率の向上,患者の苦痛軽減が示されている.また,S状結腸軸捻転解除,過敏性腸症候群や腸管形態異常の評価などにも応用されている.欧米にも浸水法は普及し,腺腫発見率の向上につながるWater Exchangeや,内視鏡挿入手法に留まらず治療時に活用する浸水下内視鏡的粘膜切除術へと応用されている.浸水の特性を生かし,送気法における困難を克服する注水関連手技は,今後ますます普及することが期待される.
著者
水本 孝 北村 清明 高橋 裕子 為我 井道子 重森 恒雄 高田 久之 西島 克己 古川 裕夫 雑賀 興慶
出版者
Japan Gastroenterological Endoscopy Society
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.283-289_1, 1983-02-20 (Released:2011-05-09)
参考文献数
22

症例は20歳の女学生で,大量の粘血便と腹部激痛を主訴として緊急入院した. 入院する半年前より峻下剤(sennosideA・B,12mg/錠)を服用しはじめた.発症の2日前に上記の下剤を一度に3錠も服用したが,軽度の腹痛を生じただけで排便しえず,発症の約6時間前に更に2錠用いた. 入院2日目に,緊急大腸内視鏡検査を行ったが,直腸から横行結腸の左半分の部位には全く異常がなく,右半分より盲腸に至る部分には広範囲に浮腫及び出血を伴う潰瘍または,びらん形成が見られた.あたかも潰瘍性大腸炎の激症型に酷似していた. 1943年,Heilbrunは下剤を長期間乱用している患者で,上行結腸を中心とした右側半分の大腸に好発する特殊な大腸炎を始めて報告し,cathartic colon(以下c.c.)と命名した. その後,多数の症例報告があるが,腸管の神経叢や筋組織までが変性崩壊し広範囲の不可逆的な病変を生じているのが通常であった. このような症例には最終的に,やむを得ず右側大腸半切除術等の外科的処置も行われるが,それでも充分の効果はなく,なお長期間にわたって腹痛や腹部不快感を訴える上に,低蛋白血症や血清電解質異常を来すものが多い. 著者らの症例は一過性で,便秘薬の服用を禁止し,食餌療法と抗生物質の投与で症状は速やかに軽快しはじめ,三週後の大腸内視鏡検査ではほとんど正常に戻っていた. 一方,cathartic colonはmelanosis coliとの関連性が問題になっているが,われわれの症例でもこれを認めた.われわれのような例もある故,慢性便秘症の患者が安易に下剤を乱用しないように戒しめたい.
著者
村田 洋介 阿部 雅則 道堯 浩二郎 松原 寛 舛本 俊一 山下 善正 堀池 典生 恩地 森一
出版者
Japan Gastroenterological Endoscopy Society
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.1186-1190, 2002-08-20 (Released:2011-05-09)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は53歳,女性.初回入院時,抗ミトコンドリア抗体陰性.腹腔鏡では,溝状および広範陥凹があり,肝組織では広範壊死がみられた.自己免疫性肝炎(AIH)と診断,副腎皮質ステロイドの投与を開始.その後,胆道系酵素の上昇がみられた.第2回目の腹腔鏡では,陥凹所見は改善.肝組織では非化膿性破壊性胆管炎がみられた.AIHの経過中に原発性胆汁性肝硬変が顕在化し,その経過を腹腔鏡で観察しえたので報告する.
著者
今村 祐志
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.1444-1449, 2018 (Released:2018-08-20)
参考文献数
31
被引用文献数
2

A型胃炎とは自己免疫性胃炎のことであり,自己免疫的機序により胃底腺領域の高度粘膜萎縮および化生を認め,ビタミンB12や鉄などの吸収障害が起こり,神経内分泌腫瘍や胃癌を合併しうる.特徴的な所見は,胃底腺領域の萎縮を内視鏡や生検組織などで認め,抗壁細胞抗体や抗内因子抗体が陽性となり,ガストリン値が高値,ビタミンB12が低値となる.治療法はなく,ビタミンB12や鉄などの補充を行うとともに,胃癌のサーベイランス,合併症の検索を行う.診断されていない症例が多いと考えられ,自己免疫性胃炎を鑑別に挙げることが大切である.
著者
原 明史 宮澤 祥一 鈴木 剛 相田 久美 江崎 行芳
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.1651-1655, 2012 (Released:2012-07-03)
参考文献数
15

症例は85歳,女性.ランソプラゾール内服中に水様性下痢が出現した.大腸内視鏡検査で下行結腸,S状結腸から直腸に縦走傾向を呈する線状の引っかき傷様の所見が存在し,いわゆるcat scratch colonの内視鏡所見を呈していた.生検で粘膜上皮直下にcollagen bandを認め,collagenous colitisと診断.ランソプラゾール中止により臨床症状は速やかに改善した.Cat scratch colonを呈した示唆に富むcollagenous colitisの1例と考えられた.
著者
斎藤 豊 岡 志郎 河村 卓二 下田 良 関口 正宇 玉井 尚人 堀田 欣一 松田 尚久 三澤 将史 田中 信治 入口 陽介 野崎 良一 山本 博徳 吉田 雅博 藤本 一眞 井上 晴洋
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.1519-1560, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
293
被引用文献数
3

日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」を作成した.大腸がんによる死亡率を下げるために,ポリープ・がんの発見までおよび治療後の両方における内視鏡によるスクリーニングおよびサーベイランス施行の重要性が認められてきている.この分野においてはレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないものが多かった.本診療ガイドラインは,20のclinical questionおよび8のbackground knowledgeで構成し,現時点での指針とした.
著者
関口 正宇 関根 茂樹 松田 尚久
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.457-469, 2020 (Released:2020-04-20)
参考文献数
59
被引用文献数
1

内視鏡医が日常診療で遭遇する機会の増えている直腸神経内分泌腫瘍(NET)であるが,診断,治療から治療後の対応に至るまで,十分にコンセンサスが得られていない事項が多く,その取り扱いに苦慮することが経験される.内視鏡治療適応についても,腫瘍径1~1.5cmの病変の扱いなどさらなる検証を要するが,少なくとも,最も高頻度に遭遇する,粘膜下層にとどまる1cm未満の直腸NETが内視鏡治療の適応であることについてはコンセンサスが得られている.そのような病変に対する内視鏡治療手技としては,有効性,安全性,患者負担の観点から,ESMR-LやEMR-Cといった通常のEMRに工夫を加えた手技が推奨される.内視鏡治療後には,切除病変の病理評価に基づき追加手術の必要性を判断するが,細胞増殖能や脈管侵襲などの結果によって判断に迷う症例も多い.特に脈管侵襲については,病理における免疫・特殊染色の使用に伴い,粘膜下層にとどまる小さなNET G1病変でも脈管侵襲陽性例が高頻度に見られることが報告されており,その取り扱いについてさらなる議論が望まれる.
著者
露口 利夫
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.143-152, 2022 (Released:2022-02-21)
参考文献数
40

急性胆管炎,胆石性膵炎,急性胆囊炎など胆膵疾患は緊急内視鏡を必要とすることがある.緊急ERCPの適応には中等症以上の急性胆管炎,胆管炎を伴う胆石性膵炎,手術や経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage,PTGBD)の適応のない急性胆囊炎などがある.急性胆管炎に対する内視鏡的ドレナージは中等症では早期,重症では直ちに行うべきである.胆管炎を伴わない胆石性膵炎に対するERCPのタイミングは緊急ではなく早期(待機的)とすべきである.ドレナージ方法の選択と施行するタイミングはガイドラインに従うだけでなく各施設において得意とする方法を選択すべきである.新たな手技としてバルーン内視鏡下ERCP,超音波内視鏡下胆道ドレナージなどがあげられるが,これらの緊急内視鏡は基幹病院において経験豊富な胆膵内視鏡医により施行されるべきである.
著者
杉山 宏 中西 孝之 大島 靖広 後藤 憲 大洞 昭博
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.20-25, 2009 (Released:2012-07-17)
参考文献数
20

症例は59歳と83歳の女性で,ともに寒天溶液(ゾル)を服用後に嘔気が出現し,当科を受診した.内視鏡検査にて胃内に表面平滑で,くすんだ淡緑色の巨大な異物を認め,寒天胃石と診断した.種々の鉗子による破砕や把持は困難であった.そこで,内視鏡先端に透明フードを装着し寒天胃石内に挿入,フード内に収納した後,吸引をかけながら抜去した.オーバーチューブを併用し,同様の操作を繰り返したところほぼ完全に摘出,除去しえた.

1 0 0 0 OA 虫垂粘液癌

著者
野洲 武司 古志谷 達也 山下 靖英
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.438-439, 2010 (Released:2011-11-07)
参考文献数
3
被引用文献数
1
著者
宮里 賢 名富 久義 城間 裕子 與那嶺 圭輔 西澤 万貴 馬渕 仁志 金城 譲 仲地 紀哉 島尻 博人 豊見山 良作
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.2377-2386, 2018 (Released:2018-11-20)
参考文献数
17

【方法】内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)を施行した総胆管結石性胆管炎の症例で血液培養が採取されていた241例を対象に,菌血症の頻度や起因菌ならびに重症度との関連や菌血症群の特徴について検討した.【結果】対象群の35.2%が菌血症を合併した.菌血症の頻度は胆管炎の重症度に比例し重症例では65%に達した.起因菌はEscherichia ColiやKlebsiella属等のグラム陰性菌が多くを占め,起因菌の中に耐性菌の一種であるextended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生菌がみられた.菌血症合併例は非合併例と比較して,高齢で重症度が高く抗菌薬投与期間が長い結果となった.【結論】総胆管結石性胆管炎の重症例では菌血症を合併することが多く,速やかな胆道ドレナージと共に起因菌を想定した強力な抗菌薬治療が重要である.
著者
米田 頼晃 樫田 博史
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.2465-2471, 2022 (Released:2022-12-20)
参考文献数
35

1cm未満の小型大腸ポリープの取り扱いについて解説する.過形成性ポリープ,腺腫,癌の鑑別のためには,画像強調内視鏡や拡大観察が有用であり,特にcold polypectomyでは癌を除外することが重要である.cold polypectomyは後出血が極めて稀であり,穿孔もほぼ皆無であり安全に実施できることが証明され急速に普及している.ただし,微小であっても癌を疑う病変においてはEMRを選択すべきである.人工知能診断を含めた最新機器の活用によって,精密な診断,治療が,より簡便に実施可能となっている.
著者
増永 高晴 篠崎 公秀 高山 嘉宏 竹田 亮祐
出版者
Japan Gastroenterological Endoscopy Society
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.150-159, 1998-02-20 (Released:2011-05-09)
参考文献数
25
被引用文献数
1

内視鏡検査前処置剤として使用されるグルカゴンの糖尿病患者における安全性を検討する目的で,糖尿病患者33例を対象にグルカゴン投与の血糖値と血中総ケトン体に及ぼす影響および胃蠕動抑制効果について検討した.グルカゴン1mg筋注後血糖値は60から120分で最高血糖値(頂値)に達した.頂値,血糖上昇度は食事療法群(6例),経口血糖降下剤群(19例),インスリン群(8例)の順で高い傾向を示した,頂値の最大は340mg/d1,上昇度の最大は138mg/dlであった.前値150mg/dl以上の症例における血糖上昇率は134%~178%であった.血中総ケトン体は経口血糖降下剤群とインスリン群で低下傾向を示した.グルカゴン1mg筋注10分後の蠕動消失率は約7割であった.以上より,糖尿病患者においても"fair"controlの範囲内であれば,グルカゴン注射によって,高血糖性昏睡等の急性合併症をおこす可能性は少なく,グルカゴンは前処置剤として安全に使用できると思われた.
著者
武田 輝之 宗 祐人 森光 洋介 大津 健聖 岸 昌廣 八坂 太親 辛島 嘉彦 寺部 寛哉 佐々木 英 下河邉 正行
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.2614-2620, 2017 (Released:2017-11-20)
参考文献数
36

症例は74歳,女性.主訴は貧血と黒色便.貧血の原因検索目的に施行した腹部造影CT検査で,空腸に限局性の壁肥厚・周囲のリンパ節腫脹を認めた.経口的ダブルバルーン小腸内視鏡検査では,空腸に全周性の潰瘍を認めた.潰瘍辺縁はやや厚みがあり,辺縁は整で,壁伸展も良好であった.潰瘍底には露出血管を伴っており,クリッピングによる止血術を行った.生検病理組織所見よりT細胞性リンパ腫と診断した.小腸部分切除術より得られた切除標本から,腸管症関連T細胞リンパ腫Ⅱ型と診断した.消化管出血を契機に診断しえた腸管症関連T細胞リンパ腫の一例を経験したので報告する.
著者
松原 三郎 伊佐山 浩通 屋嘉比 康治
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.1186-1207, 2018 (Released:2018-06-20)
参考文献数
128
被引用文献数
1

急性胆嚢炎に対する内視鏡治療には,ERCP下に行う経乳頭的アプローチ(ETGBD)とEUSを用いる経消化管的アプローチ(EUS-GBD)がある.ETGBDは胆嚢管を突破するという技術的困難さから成功率は若干低いが,PTGBD不能例に対する代替治療として確立されており,また内瘻化することで胆嚢炎再発に対する長期予防効果も期待されている.EUS-GBDは2007年に始まった新しい方法であるがそのエビデンスの量はETGBDをすでに凌駕している.高い成功率と安全性を有し,長期予後も良好であり,さらに使用するステントによっては結石除去まで行うことが可能である.今後PTGBDに代わる第一選択の治療法となる可能性を秘めている.本稿では,ETGBDおよびEUS-GBDについて,適応,方法,短期成績,長期成績,偶発症,PTGBDとの比較などについて最新のエビデンスに基づき解説する.