著者
岩崎 有良 石黒 桂一郎 大隅 敏光 相沢 敏晴 米沢 道夫 工藤 勲彦 杉村 文昭 鵜浦 達也 阿部 政直 林 貴雄
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.692-699, 1979-06-20 (Released:2011-05-09)
参考文献数
22

胃潰瘍および十二指腸潰瘍の再発について両者を比較しながら検討を行った.胃潰瘍の再発率は36.7%,十二指腸潰瘍は35.6%で,両群ともほぼ同様の傾向である.再発の傾向は両群に多くの共通点がみられる.即ち両群とも男性,治癒遷延例,初回開放例,多発例,および治療中止例に再発率が高い,また累積再発率も同様の傾向を示し,治癒後1年以内の再発は胃潰瘍50.8%,十二指腸潰瘍44.5%,2年以内では胃潰瘍75.0%,十二指腸潰瘍75.5%となっている.また胃液分泌能については両群とも活動期→治癒期→瘢痕期と潰瘍が治癒に向うごとに低下がみられるが,時相別に比較しても再発例と非再発例との間に差は認められなかった.両群を比較して大きな違いをみせたのは年代別の再発率で,胃潰瘍のピークが50歳代であるのに対し十二指腸潰瘍では29歳以下となっており,逆に再発率の一番低かったのは胃潰瘍では29歳以下に対し,十二指腸潰瘍;は60歳以上と非常に対称的であった.
著者
丹野 誠志 羽廣 敦也 林 明宏 金野 陽高 上野 敦盛 葛西 和博
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.3315-3323, 2014 (Released:2014-09-27)
参考文献数
56

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)のコンセンサスガイドラインが2012年に改訂された.2006年初版と2012年改訂版の最大の違いは,分枝型IPMNの診療方針選択に関するアルゴリズムの変更である.初版では嚢胞径を重視したアルゴリズムが推奨された.しかし改訂版では,壁在結節や10mm以上の主膵管径といったhigh-risk stigmataの有無が重視され,さらに悪性の疑いを示す所見をworrisome featuresと定義した上で,それらを認めない場合は嚢胞径に応じた診療方針を選択するとしたアルゴリズムに変更された.一方,浸潤癌のみを悪性と定義したWHO分類にしたがってcarcinoma in situという用語を廃止し,同程度の異型を示す病変をhigh-grade dysplasiaと定めたことも大きな変更である.2012年改訂版は今後,その有用性についてさまざまな検証を受けるとともに,新たなエビデンスにもとづいてさらに改訂されていく必要がある.
著者
山本 頼正 藤崎 順子 大前 雅実 平澤 俊明 五十嵐 正広
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.1492-1503, 2016 (Released:2016-09-20)
参考文献数
66

ヘリコバクター・ピロリ菌は慢性的な胃炎を惹起し,それに引き続き胃癌を引き起こす要因のひとつである.本邦では衛生環境の改善や,除菌治療の普及により,その感染率は徐々に低下している.しかし最近,ピロリ菌未感染の胃癌が報告されており,その頻度は全胃癌の0.42-5.4%であり,おおよそ1%である.ピロリ菌陰性胃癌の診断基準は,報告によって様々であり,いまだ確立されていない.われわれは,ピロリ菌陰性胃癌の必要最小限の診断基準として,内視鏡所見,病理所見,血清ペプシノーゲン法の2つ以上で陰性で,尿素呼気テストまたは血清IgG抗体が陰性,かつ除菌歴がない事を提案する.ピロリ菌感染以外の胃癌の原因としては,生活習慣,ウイルス感染,自己免疫性疾患,遺伝的疾患などいくつかの要因が関連することが知られているが,ピロリ菌陰性胃癌の主な原因はいまだ不明である.ピロリ菌陰性胃癌は,未分化型癌の頻度が高く,主に印鑑細胞癌であり,比較的若年者の胃中―下部の褪色調病変で,平坦・陥凹型の肉眼型が多い.一方で分化型癌は,未分化型癌に比して相対的に高齢者の胃中-上部に認める胃底腺型胃癌であり,粘膜下腫瘍様や陥凹型の肉眼型である.ピロリ菌陰性胃癌を早期診断することで,内視鏡切除などの低侵襲治療が可能となるため,内視鏡医はピロリ菌陰性胃癌の臨床所見,内視鏡所見について十分理解しておくことが重要である.
著者
結城 美佳 数森 秀章 駒澤 慶憲 福原 寛之 山本 俊 雫 稔弘
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.1165-1169, 2009 (Released:2012-07-17)
参考文献数
10

われわれは,経鼻内視鏡検査時の前処置として,鎮痙剤の代替としてのPeppermint Oil Solution(以下POS)の有用性を評価するための検討を行った.健常成人8人(男性3人,女性5人,平均年齢37.9歳)を対象に経鼻内視鏡検査を施行し,POS20mlを前庭部に散布し,その前後それぞれ3分間の蠕動回数を計測した.POS散布後,前庭部の蠕動回数が有意に抑制された.その効果は散布後1分で出現し,3分まで続いた.また同時に測定した血圧,動脈血酸素飽和度,脈拍は検査有意な変動を示さず,特に副作用などは認めなかった.経鼻内視鏡検査時のPOS散布による蠕動抑制は有効であり,今後POS使用により経鼻内視鏡検査では鎮痙剤を使用せずとも,安全に十分な観察が可能である可能性が示唆された.
著者
阿部 靖彦 佐々木 悠 上野 義之
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.225-242, 2019 (Released:2019-03-20)
参考文献数
104
被引用文献数
1

好酸球性食道炎は主に食物抗原に対するIgE非依存型(遅延型)アレルギー反応によって好酸球浸潤を主体とする炎症が食道上皮を中心に発生,慢性的に持続し,食道運動障害や食道狭窄をきたす疾患である.元々は小児領域の疾患と考えられていたが,近年,とくに欧米において成人のつかえ感,food impactionの主な原因として注目されている.好酸球浸潤は食道に限局し,好酸球性胃腸炎とは独立した疾患単位として取扱われる.診断は自覚症状と組織学的に有意な好酸球浸潤を証明することが基本となり,内視鏡検査で縦走溝,白色滲出物,輪状溝などの特徴的な所見を認識しつつ,生検を行うことが必要となる.治療においては,原因食物の特定と除去食の有用性が確認されているが,その実施には極めて高度な医学的管理を要するため適応は限定され,薬物治療が主体となる.第一選択はPPI投与,無効な場合はステロイド食道局所(嚥下)治療が推奨されている.本邦では欧米と比較し症状や所見が強い典型例は少ないが,近年のアレルギー疾患の増加とともに今後増加してくる可能性がある.厚生労働省の指定難病としても告示されており,その病態や診断,治療について理解しておく必要がある.
著者
西脇 英樹 浅井 毅 曽和 融生 梅山 馨
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.984-989, 1989

レーザー組織血流計を用いた胃粘膜血流量測定について検討した.肝硬変症例13例を対照として,レーザー組織血流計ALF2100(Advance社,東京)を用いて内視鏡下に胃体部,前庭部粘膜血流量,血液量を測定する一方,同症例に水素ガスクリアランス法電解式で測定し両者の比較を行った.胃前庭部,体部各7カ所で測定した血流量では変動係数CV0.03±0.01,0.16±0.04を示し,ほぼ再現性のある測定値が得られた.また,平均血流量は前庭部18±6ml/min/100g,胃体部23±8ml/min/100gと前庭部に比し体部で高値の傾向が認められた.一方,血液量の攀動係数では前庭部0.09±0.05,胃体部0.08±0.05とともに再現性のある値が示された.レーザー組織血流計と電解式組織血流計の測定値の検討では,電解式に比ベレーザー組織血流計では明らかに低値を示したが,両者に有意の相関は認められず,共にml/min/100g単位の測定値であるが測定原理の違いや穿刺法と接触法による差も考えられた. 以上,レーザー組織血流計は瞬時に連続測定が可能であり,胃粘膜血流量測定に有用な点も認められるが,他の方法で得られた粘膜血流量との比較検討など今後さらに,検討すべき点も考慮された.
著者
進藤 浩子 深澤 光晴 飯嶋 哲也 高野 伸一 門倉 信 高橋 英 横田 雄大 廣瀬 純穂 佐藤 公 榎本 信幸
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.2389-2398, 2016 (Released:2016-12-20)
参考文献数
22

【目的】ベンゾジアゼピンを用いた従来のERCP鎮静ではしばしば脱抑制による体動を認める.安定した鎮静を得られる方法としてドロペリドール,フェンタニル,ケタミンを用いた静脈麻酔による鎮静法の安全性と有効性を評価した.【方法】対象はERCPの鎮静にミダゾラムとペンタゾシンを用いた従来法群42例とドロペリドール,フェンタニル,ケタミン(DFK法)群17例.評価項目は鎮静関連偶発症および鎮静効果とした.【結果】SpO2 90%未満を認めた症例は従来法で4例(10%),DFK法で1例(6%)と有意差は認めなかった.体動により処置継続に支障があった症例は従来法で8例(19%),DFK法で0例とDFK法で良好な鎮静効果を得られる傾向を認めた(p=0.09).鎮静困難ハイリスク症例である飲酒習慣を有する21例では,鎮静不良となる症例はDFK群で有意に少なかった(従来法 50% vs DFK法 0%,p=0.02).【結論】DFK法は従来法と比較して同等な安全性で施行可能であった.飲酒習慣を有する症例ではDKF法の方が有効な鎮静が得られた.
著者
上村 直実 八尾 隆史 上山 浩也 藤澤 貴史 矢田 智之
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.1733-1743, 2014 (Released:2014-06-03)
参考文献数
51
被引用文献数
5

種々の感染診断法の偽陰性に伴う「H. pylori陰性胃癌」が少なからず認められるが,H. pylori未感染の胃粘膜に発生する「H. pylori未感染胃癌」の頻度は稀である.「H. pylori未感染胃癌」として代表的なものは,分化型胃癌に関しては八尾らが提唱した胃底腺型胃癌であり,未分化型胃癌に関しては粘膜内の印環細胞癌と考えられる.胃底腺型胃癌は,おもに胃体部に発生する腫瘍で,免疫組織学的には胃型形質を主体とする低異型度の癌であるが,早期に粘膜下層への浸潤がみられるもので,日常の内視鏡診療では萎縮性変化のない胃粘膜の胃体部に存在する小さな粘膜下腫瘍様病変に注意が必要である.一方,未分化型胃癌については,未感染胃粘膜に比較的多くみられる印環細胞癌が代表的なものと思われ,内視鏡的には胃体部の小さな褪色領域に注意すべきであり,今後,症例を集積した臨床的な解析が必要である.H. pylori陰性時代を迎える今後,H. pylori陽性胃癌と未感染胃癌に関する遺伝子レベルでの検討が必要となっている
著者
大川 清孝 上田 渉 佐野 弘治 有本 雄貴 久保 勇記 井上 健 田中 敏宏 松井 佐織 小谷 晃平 青木 哲哉
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.1103-1108, 2011 (Released:2011-06-14)
参考文献数
10

5日間の便秘後と下剤服用後に発症した一過性型虚血性直腸炎の2例を経験した.腹部大動脈手術,骨盤内手術,膠原病・血管炎,動静脈廔などはなく腸管側因子が主因で発症したと考えられた.いずれも肛門直上にも病変がみられた.著明なCRP上昇がみられたが保存的治療にて速やかに改善した.虚血性直腸炎は血管側因子が主因でおこると考えられていたが,腸管側因子が主因で発症することもあることを示した点で貴重な症例と考えられた.
著者
菅原 通子 今井 幸紀 齊藤 詠子 藤盛 健二 新井 晋 稲生 実枝 中山 伸朗 名越 澄子 伴 慎一 持田 智
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.1686-1691, 2009 (Released:2012-07-26)
参考文献数
16

【目的と方法】プロトンポンプ阻害薬(Proton Pump Inhibitor:PPI)の長期投与によって胃底腺ポリープが増大することが報告されている.その病態や機序を明らかにするため,PPI長期投与中に胃底腺ポリープが増大した13症例(男3例,女10例,年齢(平均±2SE)70.5±6.3歳)の臨床的,組織学的特徴を検討した.【結果】ポリープ増大が確認されるまでの内服期間(平均±2SE)は29.9±8.3カ月であり,ポリープの径は投与前5mm未満であったが,投与中に5~15mmに増大した.何れも内視鏡所見では水腫様外観を呈していた.Helicobacter pylori(H. pylori)感染は全例で認められなかった.血清ガストリン値は8例で測定され,うち4例で高値を示した.内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection:EMR)施行例では,ポリープ増大前の生検組織と比較して,胃底腺ポリープに認められる拡張腺管の拡張の程度が増し,拡張腺管の数も増加していた.内分泌細胞の微小胞巣やカルチノイド腫瘍の所見は認められなかった.【結論】胃底腺ポリープの増大は,H. pylori陰性例にPPIを長期投与することによってPPIの種類に関係なく生じる.胃底腺ポリープ増大の機序のひとつとして,胃底腺ポリープに認められる拡張腺管の拡張の程度の増加,拡張腺管の数の増加の誘発が考えられた.
著者
石川 大
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.969-980, 2018 (Released:2018-04-20)
参考文献数
30
被引用文献数
1

腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)と様々な疾患との関連が明らかになり,腸内環境の改善を目的とした便移植療法(FMT:Fecal Microbiota Transplantation)に注目が集まっている.本邦においても,近年急増する潰瘍性大腸炎(UC)患者への新しい治療選択肢として期待が高まっている状況である.FMTは難治性Clostridium difficile感染性腸炎に対して高い治療効果を示し,欧米では既に実用化されているが,他疾患に対する治療効果については不明瞭であった.2017年2月に報告されたランダム化比較試験でUCに対するFMTの有効性が証明されたが,凍結ドナー便を40回自己浣腸する方法であり,治療手技の煩雑さや不確実性を考慮すると,現実的な治療選択肢になりうるかは疑問が残る.われわれも,UCに対して抗菌剤療法をFMT前に行い,大腸内視鏡下で新鮮便を投与する抗菌剤併用療法(Antibiotics-FMT:A-FMT)について報告してきた.特にUCについてはドナー便の選択,投与法など様々な手法が試されているが,未だ標準化されておらず,疾患に応じた安全で有効,かつ効率的なFMTプロトコールの確立が望まれている.
著者
馬嶋 健一郎 平田 信人 村木 洋介
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.25-35, 2019 (Released:2019-01-21)
参考文献数
26

【背景・目的】右側大腸は,大腸内視鏡による大腸癌死亡抑制効果が左側より乏しいとされ,より注意した観察が必要である.大腸内視鏡検査中に右側大腸で反転観察を追加する事と前方観察を2回行う事の効果を調査する.【方法】無作為化比較試験を対象に,システマティックレビュー及びメタアナリシスを行った.エビデンスの質の評価をGRADEシステムを用いて行った.【結果】適格基準を満たす研究は2本のみであった.右側大腸で追加発見された腺腫割合の発見リスク比は0.76(95%信頼区間0.55-1.05, P=0.10)であり,反転群で追加発見が少ない傾向を認めたが有意差はなかった.エビデンスの質は低かった.【結論】右側大腸反転効果に対するエビデンスは極めて少なく,質も高くない事が判明した.限られたエビデンスからの判断だが,前方観察2回に比べ反転観察追加の優位性は認められなかった.今後さらに研究の蓄積が必要である.
著者
真口 宏介 小山内 学 潟沼 朗生 高橋 邦幸
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.3081-3090, 2010 (Released:2011-03-03)
参考文献数
49
被引用文献数
2

IPMN国際診療ガイドラインの作成により,世界的に本疾患が認識され,診断と治療指針について一定の方向性が示された.型分類は,大きく主膵管型と分枝型に分けることを推奨し,手術適応は,主膵管型の全例と分枝型の場合には,有症状例,壁在結節を有する,主膵管拡張,細胞診で悪性,拡張分枝径3cm以上,としている.しかしながら,ガイドラインには,いくつかの課題も残されており,今後の検討によって改定が繰り返さることを認識しておく必要がある.一方,現状でのIPMN診断における内視鏡の役割としては,正確な鑑別診断,手術適応の有無の判定,手術適応例に対する進展範囲診断である.手術適応を判定する因子の中で重要と考えられるのが結節の評価であり,EUSの有用性が高い.また,生検・細胞診に際しては欧米ではEUS-FNAを施行しているのに対し,本邦では腫瘍の播種の問題を重視し,ERCP下に行っている.さらに,手術適応例に対する主膵管内の腫瘍進展範囲診断として,IDUS,POPSが位置する.本邦からの内視鏡を駆使した正確な診断に基づく多くの検討によって「より実践的なガイドライン」の改定が進めことを期待する.
著者
杉田 昭 小金井 一隆 辰巳 健志 山田 恭子 二木 了 黒木 博介 荒井 勝彦 木村 英明 鬼頭 文彦 福島 恒男
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.66-72, 2012 (Released:2012-04-24)
参考文献数
18

痔瘻癌は痔瘻の症状が併存するため早期診断が困難で,進行癌で発見されることから予後が不良な疾患である.本邦ではCrohn病症例に合併する肛門病変として痔瘻が最も多い.Crohn病に合併する大腸癌のうち,痔瘻癌を含む直腸肛門管癌が半数以上を占めるのが本邦の特徴であり,合併する痔瘻癌の特徴は基本的に通常の痔瘻癌と同様であるが,自験例の痔瘻癌診断までの罹病期間は平均20年,癌診断時年齢は平均39歳と通常の痔瘻癌に比べて罹病期間に差はなかったものの,若い年齢で発症していた.痔瘻癌発見の動機は粘液の増加,肛門狭窄の増強,腫瘤の出現などの臨床症状の変化であることが多く,長期に経過した痔瘻を合併するCrohn病症例では痔瘻癌の合併があることを念頭に置き,痔瘻の症状の変化,肛門所見に留意して定期的な指診,大腸内視鏡検査,積極的な細胞診,生検を行うことが早期診断と長期生存に重要である.直腸肛門管癌(痔瘻癌を含む)に対する癌サーベイランスプログラムの確立が望まれ,その可否の検討が必要である.
著者
宮原 孝治 稲葉 知己 野間 康宏 津崎 龍一郎 石川 茂直 馬場 伸介 和唐 正樹 妹尾 知典 永野 拓也 高口 浩一 河合 公三
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.341-347, 2009 (Released:2012-07-17)
参考文献数
13

症例は75歳,女性.心窩部痛のため前医を受診.内視鏡にて胃体部にびらんを伴う小隆起性病変が散在し,生検組織で真菌を多数認めた.酸分泌抑制剤も抗真菌剤も無効であり紹介された.胃液分泌検査でBAO0.6mEq/hr,MAO1.49mEq/hrと低酸状態であり,Helicobacter pylori陽性であった.炎症改善と酸分泌回復を目的として除菌療法を行い,症状,内視鏡所見とも著明な改善を得た.
著者
佐仲 雅樹 安食 元 江川 直人 門馬 久美子
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.1462-1472, 2009 (Released:2012-07-17)
参考文献数
27

本稿では主として内視鏡初級者を対象に,以下の点を強調しながら,上部消化管出血に対する内視鏡止血の基本的手技を解説する.1)循環動態の評価と安定化が最優先される.初期輸液によって迅速に循環動態を安定させることが救命率向上につながる.循環動態が不安定な例では内視鏡は禁忌である.2)緊急であるからこそ,通常の検査以上に丁寧にスコープを操作する.嘔吐反射を誘発しないように過度な送気を慎む.3)適切な視野を確保することが内視鏡止血を成功させる鍵である.4)内視鏡止血が困難と判断したら,時期を逸することなくinterventional radiology(IVR)や緊急手術を選択する.
著者
五十嵐 良典 片桐 耕吾 岸 秀幸 長谷川 毅 小川 聡 星 一 大橋 茂樹 吉岡 秀樹 高田 洋孝 福本 学 前谷 容 酒井 義浩
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.380-384_1, 1992

1990年1月より1991年4月までに経十二指腸的に截石した総胆管結石18例に親子式経口胆道鏡を行った.15例に胆嚢管内に挿入しえた.そのうちの3例は胆嚢頸部まで挿入しえた.螺旋部へは13例,平滑部へは全例挿入しえた.良好な内視鏡像のえられた12例で胆嚢管粘膜像を検討したところ,粘膜血管透見像は螺旋部まで挿入しえた10例全例に,平滑部に挿入しえた12例全例に認められたが,粘膜血管拡張像の合併を螺旋部で4例に,粘膜の凹凸像を螺旋部で2例に認めた.メチレンブルーによる色素法を4例に行い,粘膜模様について観察した.通常観察で平滑とした3例のうち2例は粘膜模様は均一であったが,1例は不均一であった.凹凸を認めた1例も粘膜模様は不均一であった.不均一部からの生検組織像は軽度の慢性炎症性変化であった.
著者
角嶋 直美 矢作 直久 藤城 光弘 井口 幹崇 岡 政志 小林 克也 橋本 拓平 小俣 政男
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.1266-1271, 2005-06-20 (Released:2011-05-09)
参考文献数
12
被引用文献数
1

【背景と目的】内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の登場により,従来では考えられなかった大型病変も内視鏡的に治療されるようになってきた.しかし,ESDによって生じた大型人工潰瘍の治癒過程についての詳細は明らでかはない.そこで,ESD後の治癒過程を明らかにするため,経時的な内視鏡像の検討を行った.【方法】当科においてESDによって治療された胃粘膜内腫瘍70症例を対象として,ESD後潰瘍の治癒過程および瘢痕形態を,切除サイズ,部位,胃壁の断面区分別に検討した.内視鏡観察は,原則としてESD後1,4,8,12週目に行い,抗潰瘍治療として,プロトンポンプ阻害薬(PPI)及びスクラルファート通常量を投与した.【結果】ESDの切除サイズは平均34.7mm(20.0~90.0mm)であった.ESD後潰瘍は切除サイズや部位・周在によらず,全例において8週までにS1-2stageに治癒・瘢痕化した.【結論】ESD後潰瘍は大型のものでも,消化性潰瘍と同様の治療で術後8週以内に治癒・瘢痕化する.これらは,ESD後のフォローアップや治療計画の立案に非常に有用な知見と考えられた.