著者
南 宏典 長嵜 寿矢 福岡 宏倫 秋吉 高志 小西 毅 藤本 佳也 長山 聡 福長 洋介 上野 雅資
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.271-278, 2018-04-01 (Released:2018-04-28)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

症例は49歳の女性で,子宮頸癌IVB期の診断に対して術前化学療法後,開腹広汎子宮全摘および骨盤内リンパ節郭清を施行された.術後放射線化学療法を施行中に腹痛が出現し,腹部造影CTで右外腸骨動脈による絞扼性イレウスの診断となり緊急開腹手術を施行した.術中所見では骨盤内リンパ節郭清によって露出された右外腸骨動静脈,臍動脈,尿管によって形成される間隙に終末回腸が迷入/嵌頓し,絞扼されていた.嵌頓腸管は不可逆的な血流障害を来していたため,絞扼の原因となった脈管を損傷することなく小腸部分切除術を施行し吻合再建した.骨盤内リンパ節郭清時の露出脈管が原因となった絞扼性イレウスの1例を経験したので報告する.
著者
戸倉 夏木 金子 弘真 伊藤 正朗 名波 竜規 本田 亮一 渡邊 正志 寺本 龍生
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.522-527, 2007 (Released:2011-06-08)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1

癌終末期の消化管閉塞による悪心, 嘔吐, 腹部膨満感は患者のquality of lifeを損なう. オクトレオチドは, これらの症状を緩和すると報告されている. 2004年10月にオクトレオチドが保険適応となり一般病棟でも消化管閉塞患者に使用可能となった. 我々は2005年5月から2006年3月までに, 癌終末期消化管閉塞患者7例にオクトレオチドを使用し良好な結果を得た. 平均年齢は67.3±11.2歳, 男性4例, 女性3例で, 胃癌3例, S状結腸癌, 上行結腸癌, 膵臓癌, 原発不明癌が各1例であった. 悪心, 嘔吐, 腹部膨満感はJCOG toxicity scaleでgradeが全例低下し, 5例は経口摂取が可能となった. オクトレオチド投与後, 全例経鼻胃管を挿入することはなく, 輸液も減量することができた. 我々消化器外科医もオクトレオチドを手術適応のない癌終末期消化管閉塞患者の第1選択薬として考えるべきである.
著者
三好 和也 松井 武志 雁木 淳一 篠浦 先 折田 薫三
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.1716-1720, 1996 (Released:2011-08-23)
参考文献数
18

1992年から1994年末までの3年間に, 20年以上の長期にわたり抗精神病薬の内服治療を受けてきた8例の精神分裂病患者について消化器外科手術を経験した.手術の対象となった疾患は胆石症2例, 急性胆嚢炎2例, 虫垂炎の穿孔による汎発性腹膜炎2例, 肝内結石症と横行結腸癌が各1例であった. 術後の合併症は胆管空腸吻合の縫合不全と麻痺性イレウスを各1例に認めたのみで, 突然死例はなかった. 横行結腸癌で閉塞性イレウスをきたした1例を除いて, 抗精神病薬は手術の前日まで減量せずに継続した.手術の翌日から抗精神病薬の就眠前の非経口投与を開始し, 食餌開始にあわせて術前の経口剤を再開した. 4例に精神症状が見られたが, いずれも軽症で外科的管理上問題にならなかった. 精神分裂病患者の安全な周術期管理のためには精神科医の協力による精神的ケアが重要であった.
著者
橋本 瑞生
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.844-854, 2020-10-01 (Released:2020-10-30)
参考文献数
1

手術記録は患者の診療に役立つものであるべきで,術中所見,手術内容がわかりやすく正しく伝わることが必要である.複雑な解剖や多様な病変の広がり,多彩な場の展開を文章で詳しく表現しようとしても,文字数が膨大に増え難解である.図は術野のイメージを直接的に伝えることができる有用な伝達手段であるが,正しい図を描くためには十分な術野の認識,手術の理解と描画テクニックが必要である.これらを向上させる努力をしなければならない.
著者
佐々木 優 中場 寛行 玉川 浩司 吉川 浩之 谷口 英治 大口 善郎 有馬 良一
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.471-478, 2018-07-01 (Released:2018-07-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1

症例は50歳の女性で,右頸部に膨隆を自覚し,一過性の頸部閉塞感や通過障害も認めていた.前医を受診し,頸部超音波検査にて甲状腺腫瘤を疑われ当科紹介となった.CTでは甲状腺右葉背側に内部に微細な空気を伴う囊胞性腫瘤を認め,食道粘膜との連続性が疑われた.食道造影検査にて頸部食道右側に突出した憩室を認めたことからKillian-Jamieson憩室(以下,K-J憩室と略記)と診断し,有症状であったため憩室切除術を施行した.術中経鼻胃管より送気すると憩室はより大きく膨隆し,容易に把握することが可能となった.憩室はKillian-Jamieson spaceから発生していることが確認でき,基部にて憩室を切除した.消化管憩室の中でもまれではあるが,嚥下障害などの症状を伴う甲状腺腫瘍を疑われた際には,K-J憩室の存在も念頭に置く必要がある.
著者
豊田 有紀 後藤 健太郎 畑 啓昭 松末 亮 山口 高史
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.199-206, 2022-03-01 (Released:2022-03-31)
参考文献数
21

症例は77歳の女性で,受診3日前から湿性咳嗽,発熱があり,SARS-CoV-2 RNA検査陽性で前医入院となった.受診日に酸素化低下,食事量低下・嘔吐があり,CTで小腸壊死を疑う所見を認め,当院に転院搬送された.術前胸部CTで肺炎像を認めず,小腸壊死による腹膜炎の診断で緊急開腹小腸部分切除術を施行した.術後腹部症状は改善したが肺浸潤影が急速に増悪し,術後5日目に呼吸不全で死亡した.SARS-CoV-2 coronavirus disease 2019(以下,COVID-19と略記)患者に手術を施行すると肺合併症のため術後死亡率が高くなるという報告があり,可能なら手術の延期や非手術治療の選択が推奨されている.本症例は小腸壊死の疑いで非手術治療が困難だったことで緊急開腹術の適応と考えられたが,術後肺炎が急激に悪化し死亡した.術前肺炎像のないCOVID-19患者でも全身麻酔手術後の予後が不良であることを示唆する1例であり,周術期の感染対策と併せて,報告する.
著者
大塚 隆生 中川内 章 下西 智徳 古賀 清和 岡崎 幸生 中房 祐司 宮崎 耕治
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.1520-1524, 2007 (Released:2011-06-08)
参考文献数
9
被引用文献数
1

症例は69歳の男性で, 間歇性腹痛と新鮮血下血を来し, 近医で行った腹部CTで上腸間膜動脈閉塞症と診断され, 当科を紹介された. 心電図上心房細動を認めた. 血液検査で白血球とLDHの上昇, 血液ガス分析でアシドーシスを認め, 腸管壊死が疑われたため開腹手術を行った. 小腸は広範囲にわたり色調が変化し, 辺縁動脈の拍動も減弱していたが, 壊死所見はなかった. そこで, 術中血管造影検査を行ったところ, 上腸間膜動脈に空腸第1枝より末梢レベルでの閉塞を認めたため, 動脈壁を切開し, 血栓除去術を行った. その後, 小腸の色調は速やかに回復し, 辺縁動脈の拍動も良好となった. 造影CTでも上腸間膜動脈の血流は良好であった. 上腸間膜動脈閉塞症による腸管壊死の診断で開腹したが, 可逆的腸管虚血を疑い, 術中血管造影検査が部位診断と治療方針の決定に有用であった1例を経験したので, 文献的考察を含めて報告する.
著者
大川 淳 亀頭 正樹 赤松 大樹 吉龍 資雄
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.1085-1089, 1993-04-01
被引用文献数
6

症例は71歳の女性, 嘔吐を主訴に入院. 入院時検査にて白血球 19,300/mm^3, 血清総ビリルビン値は 15.2mg/dl と上昇し, 胆管炎および閉塞性黄疸を認めた. 血清 CA19-9 値は 89,305U/ml と著増し, 脾胆道系の悪性疾患が疑われた. 腹部超音波と腹部 compouted tomography (CT), および percutaneous transhepatic cholangiography (PTC) 上総胆管結石を認めたが, 悪性所見は認めなかった. 胆汁内の CA19-9 は 13,800,000U/ml であった. Percutaneous transhepatic cholangiodrainage (PTCD) にて減黄後, 血清 CA19-9 値は 145U/ml まで減少し, 総胆管結石の診断にて手術を施行した. 胆嚢壁は著明に肥厚し, 胆嚢内に混合責90個と総胆管内に混合石20個を認めた. 病理組織学上, 胆嚢壁の強度の炎症所見と, 免疫組織学的に胆嚢上皮に CA19-9 を証明した. 術後 CA19-9 値の再上昇は認めない.
著者
石引 久弥 安藤 暢敏
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.13, no.8, pp.950-955, 1980 (Released:2011-03-02)
参考文献数
7

消化器術後敗血症50例について感染症治療と呼吸循環機能管理の観点からの検討を行った. 血中分離菌は腸内細菌を主体とする好気性グラム陰性桿菌が64%を占め, Klebsiella pneumoniaeがそのうち38%と最も多かった. ブドウ糖非醗酵グラム陰性桿菌, 嫌気性菌も注目された. 敗血症性ショックは58%に発生し, その致死率は69%で非ショック例におけるそれは29%であった. 汚染菌源は内因性で手術対象臓器と考えられ, 消化管縫合不全が大きな背景因子であった. 適正な化学療法剤投与は有意に死亡率を低下させ生存率は70%であるのに対し, 非適合の場合のそれは47%であった. 4型にわける呼吸循環動態の把握は臨床治療上有用であった.