著者
石村 美樹 真鍋 邦彦 田口 和典 田村 元 大村 孝志 内野 純一
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.8, pp.2129-2133, 1990

胆石症を併存したDubin-Johnson症候群 (以下D-J症候群) の1手術例を報告する.症例は35歳の男性で黄疸, 右季肋部痛を主訴とし, 点滴静注胆嚢・胆管造影法で, 結石の有無は不明であったが, 超音波検査で胆嚢内に音響陰影を伴った結石エコーが描出された.摘出胆嚢内には, コレステロール含量98%以上の327個のコレステロール胆石があった.術後肝機能検査所見は術前とほとんど変わりなく, 術後3日では血清総ビリルビン5D6mg/dl, 直接型ビリルビソ4.0mg/dlと最高値を示したが, 経過は良好で, 術後11日で退院した.1988年までの胆石症を併存したD-J症候群の本邦報告例は本症例を含めて24例であった.D-J症候群を併存しない胆石症手術例の年齢分布と比較して, 報告された24例中では10代, 20代の若年者に胆石の併存が多かった.D-J症候群の患者が腹痛を訴えた時は, 胆石症の併存も考慮して超音波検査を第一に行うことが必要である.
著者
岡田 倫明 清地 秀典 永岡 智之 中川 祐輔 山内 達雄 石田 直樹 今井 良典 中村 太郎 岡田 憲三 梶原 伸介
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.350-356, 2015-04-01 (Released:2015-04-17)
参考文献数
19
被引用文献数
2

症例は20歳の男性で,抗生剤抵抗性の発熱,咽頭痛,激しい乾性咳が2週間継続し,突然の左側腹部痛を主訴に当院救急受診した.採血にて肝機能異常,リンパ球優位の白血球上昇,異型リンパ球の出現,EBV-VCA-IgM抗体の陽性,EBNA抗体陰性を認めた.また,CTにて脾腫,脾損傷,腹腔内出血を認めた.Epstein-Barr virus感染による伝染性単核球症(infectious mononucleosis;以下,IMと略記)からの脾腫に伴う脾破裂と診断し緊急手術を行った.腹腔内に500 mlの出血を認め,脾腫,被膜損傷を伴っていた.術後IMに非典型的な,咳嗽が続き,マイコプラズマ抗体が入院時の8倍の上昇を認めた.マイコプラズマ肺炎の合併による咳嗽からの腹圧の上昇が脾破裂の誘因と考えられた.IMによる脾破裂はまれであり,マイコプラズマ肺炎の合併から脾破裂に到った報告例はなく,非常に貴重な症例と考えられた.
著者
古川 聖太郎 楢崎 肇 中山 智英 市村 龍之助 岡村 圭祐 藤田 美芳 森田 高行 平野 聡
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.608-616, 2016-07-01 (Released:2016-07-23)
参考文献数
36
被引用文献数
1

症例は消化管ポリポーシスの家族歴のない54歳の女性で,36歳時の上部消化管内視鏡検査で初めて胃ポリープを指摘された.それ以降,胃十二指腸ポリープが出現,増大した.徐々に貧血と低蛋白血症が進行し,薬物療法が奏効せず,54歳時に手術が必要と判断した.病変は噴門部から十二指腸下行脚まで連続して存在し,空腸以下に病変を認めないため,胃全摘,十二指腸球部切除術を施行した.摘出標本では大小多数のポリープが集簇し,組織学的にCronkhite-Canada型と診断した.十二指腸に小ポリープが遺残したが,速やかに症状は改善し,術後3年6か月現在,症状は再燃していない.一般に薬物療法によるポリポーシスの根治は困難で,有症状例には外科手術が有効な症例もある.ポリープに悪性所見を認めない場合,全ての粗大ポリープを含む可及的小範囲の切除とし,術後は症状再燃に注意し,厳重経過観察することも選択肢の一つとなりうる.
著者
小泉 範明 國場 幸均 村山 康利 栗生 宜明 中西 正芳 阪倉 長平 大辻 英吾
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.1632-1638, 2011-12-01 (Released:2011-12-20)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

症例は52歳の男性で,他院でStage IIの直腸癌に対して低位前方切除術を施行されている.術後1年4か月で血清CEA値の上昇を認め,腹部CTおよびMRIで吻合部周囲に多発する嚢胞性腫瘤を指摘された.大腸内視鏡検査では吻合部の口側に粘膜下腫瘍様の隆起性病変として認められた.FDG-PETでは同部に一致してFDGの集積を伴っていたため局所再発と診断され,当科に紹介となり手術を施行した.病理組織学的検査では悪性所見を認めず,最終的にimplantation cystと診断した.本症は消化管吻合に伴って生じるまれな合併症であるが,いまだ広く認識されておらず,確定診断に苦慮することも多い.器械吻合の普及に伴って増加しており,再発との鑑別に際して念頭に置くべきである.血清CEA値の上昇やFDG-PETで集積を認めた報告は過去になく,本例はまれな1例であると考えられたので,文献的考察を交えて報告する.
著者
森本 大樹 川崎 健太郎 高瀬 至郎 神垣 隆 生田 肇 黒田 大介 黒田 嘉和
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.39, no.10, pp.1617-1622, 2006 (Released:2011-06-08)
参考文献数
40
被引用文献数
5 4

症例は51歳の女性で, 右下腹部痛を主訴に当科を受診した. 右下腹部に圧痛を認めたが, 腹膜刺激症状は認めなかった. 血液検査では軽度の炎症所見を認めるのみであったが, 腹部超音波検査で右下腹部に腫大した虫垂と思われる所見を認めたため, 急性虫垂炎と診断し緊急手術目的にて同日入院となった. 開腹すると, バウヒン弁よりやや肛門側の上行結腸の腸間膜対側にピンホール様の孔と膿瘍を認め, その腸間膜側は穿通して間膜内に膿瘍形成をしていた. 腸管内腔に細い棒状の異物を触知したため異物誤飲による消化管穿孔と診断し, 回盲部切除術, 腹腔洗浄ドレナージを行った. 異物は爪楊枝であった. 急性腹症の診察においては, 異物誤飲の可能性を念頭におく必要があると思われた.
著者
神藤 英二 望月 英隆 寺畑 信太郎 古谷 嘉隆 内田 剛史 酒井 優
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.30, no.11, pp.2210-2214, 1997-11-01
被引用文献数
8

盲腸に発生した, 腺癌と偏平上皮癌の成分を含む内分泌細胞癌の症例を経験した. 肉眼的には典型的な2型腫瘍であったが, 組織学的検索から同一腫瘍内に内分泌細胞癌と腺癌の領域を認め, さらに内分泌細胞癌の内部には偏平上皮癌への分化を示す部分を多数認めた. 内分泌細胞癌の診断の過程で行った免疫染色では, neuron-specific enolase に陽性を示したものの, クロモグラニンAには陰性であったため, 電子顕微鏡検査を追加, 内分泌顆粒を認めたことで, 最終的に内分泌細胞癌の診断を得た. 臨床的には悪性度が高く, 肝転移を認めたため肝切除を含む根治度Bの手術を施したが, 残肝再発を来し, 術後9か月目に死亡した. 今回の症例は, 組織学的多様性から, 腫瘍発生母地, およびその分化の過程が注目されるので報告した.
著者
丸山 智宏 須田 和敬 大竹 雅広
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-7, 2016-01-01 (Released:2016-01-30)
参考文献数
23

目的:前立腺全摘術後の合併症として,鼠径ヘルニアを発症することが知られており,前立腺全摘術の実施件数が増加していることを考慮すると,看過できない合併症の一つといえる.本研究では,前立腺全摘術後に発症した鼠径ヘルニアの臨床的特徴と適切な手術術式について検討した.方法:2003年から2014年までに初回根治手術を施行した成人男性鼠径ヘルニア611例673病変を,前立腺全摘術の既往のある群(既往群,36例47病変)と既往のない群(対照群,575例626病変)に分けて比較検討した.結果:期間内に前立腺全摘術が施行された251例のうち,術後の鼠径ヘルニアは36例(14%)に発症した.前立腺全摘術の術式別の発症率は,後腹膜鏡下前立腺全摘術で17%,ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術で9%であった.鼠径ヘルニアの両側発症は既往群で11例(30%),対照群で51例(9%)であった.既往群の鼠径ヘルニアは全47病変が外鼠径ヘルニアであった.既往群で鼠径ヘルニアの手術術式としてmesh plug法を44病変(94%)に施行し,術後漿液腫を1例に認めたが,再発症例は認めなかった.結語:前立腺全摘術後の鼠径ヘルニアは,両側発症が多く,全例が外鼠径ヘルニアであった.前立腺全摘術後の鼠径ヘルニアに対するmesh plug法は妥当な術式と考えられる.
著者
大塚 敏広 河崎 秀樹 鷹村 和人 吉田 金広 篠原 永光 久山 寿子
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.1517-1522, 2009

症例は72歳の女性で,2007年11月CTで骨盤内腫瘤を指摘され,当院紹介された.腹部CTで骨盤内に5.0×8.0 cm大の造影される腫瘤を認めた.腫瘍の灌流静脈は上腸間膜静脈であった.回腸gastrointestinal stromal tumorの診断で開腹手術を施行した.回腸末端から約20 cm口側の回腸に腫瘍を認めた.腫瘍を含む回腸を切除した.切除標本では,腫瘍は大きさ9.0×7.0×6.0 cm大で,割面は白色から淡黄白色で一部に壊死や出血を認めた.病理組織学的検査では,腫瘍は主に回腸漿膜から壁外に増殖していた.硝子化した膠原線維バンドを伴い,粘液性間質の中に紡錘形細胞が不規則に増生していた.樹枝状に分岐する血管が認められ,血管周皮腫様構造も認められた.免疫組織化学染色検査ではvimentin,CD34,CD99,bcl-2が陽性で,<i>c-kit</i>は陰性でsolitary fibrous tumor(以下,SFT)と診断された.術後経過良好であった.まれな回腸原発のSFTの1例を経験したので報告する.
著者
角谷 慎一 徳楽 正人 原田 猛 古川 幸夫 牛島 聡 中泉 治雄
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.36, no.11, pp.1593-1597, 2003-11-01
参考文献数
9
被引用文献数
3

悪性線維性組織球腫は成人の四肢軟部組織に好発する非上皮性悪性腫瘍であり,腸間膜に原発することはまれである.今回,腸間膜原発の悪性腺維性組織球腫の1例を経験したので報告する.症例は71歳の女性.右下腹部腫瘤を主訴に,婦人科受診し,腹部MRI検査にて右下腹部から骨盤腔にかけて嚢胞性腫瘍を認めた.右卵巣腫瘍と診断され,開腹術を施行されたが,卵巣には異常を認めず,腫瘍は回盲部から発生したものと考えられた.当科転科後,腹部CT検査,血管造影検査が行われた.血管造影検査では腫瘍を栄養する血管は回結腸動脈から分枝していた.回盲部の非上皮性腫瘍を疑い,再開腹し回盲部切除術を施行した.病理組織標本にて回腸の腸間膜原発の粘液型MFHと診断し,現在外来にて経過観察中であるが,再発は認めていない.
著者
今里 雅之 林 恒男 田中 精一 上田 哲哉 竹田 秀一 山本 清孝 武藤 康悦 磯部 義憲 上野 恵子 山本 雅一 小林 誠一郎 羽生 富士夫
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.80-84, 1990-01-01
被引用文献数
5

症例は50歳男性で,主訴は心窩部痛である.胃潰瘍の診断とともに,超音波検査で肝右葉に蜂巣状内部構造を有する比較的境界鮮明な直径7cmの腫瘤を認めた.Computed tomography(CT)では腫瘤は低吸収域で造影後には菊花状で各花弁にあたる部位の辺縁が濃染される特異な像を呈した.腹部血管造影では,腫瘍血管や圧排所見はないが毛細管相で腫瘍濃染像を認めた.腫瘍マーカーは正常であった.腫瘍の穿刺吸収細胞診では,白色の濃汁の中に線維性組織が吸引されたが炎症性変化のみで悪性所見は認めないため厳重な経過観察とした.2年後,画像的に腫瘤の増大が認められ,悪性腫瘍が否定できないために拡大肝右葉切除術を施行した.病理学的にinflammatory pseudotumorと診断された.肝原発の本疾患は文献上17例の報告しかなく,経過を追い増大を認めた症例はいまだ報告されていない.ここに文献的考察を加え報告する.
著者
小原 尚 小金井 一隆 辰巳 健志 二木 了 黒木 博介 山田 恭子 荒井 勝彦 杉田 昭 福島 恒男
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.245-252, 2018-03-01 (Released:2018-03-28)
参考文献数
32

30歳未満で難治性直腸肛門病変に対して直腸切断術を施行したクローン病17例の臨床経過と予後を検討した.適応となった病態はのべ症例数で,直腸肛門狭窄12例,難治性痔瘻9例,直腸瘻4例,直腸膣瘻2例,骨盤内膿瘍2例,直腸尿道瘻1例,直腸周囲膿瘍1例,aggressive ulceration 1例,痔瘻癌1例であった.これらの病変により,全例,日常生活や就労・就学に支障を来していた.術後は前述の症状は全例で改善し,術前から未就労であった2例は未就労のままであったが,15例(88%)が就労,就学が可能となった.術後合併症は14例(82%)に認め,のべ症例数で人工肛門関連合併症8例,正中創SSI 5例,会陰創治癒遅延3例,性機能障害(術直後)2例,癒着性イレウス2例であった.クローン病の難治性直腸肛門病変に対する直腸切断術は術後合併症があるものの,自覚症状の改善とQOLの向上に有効であり,若年者に対しても考慮すべき治療の選択肢と考えられた.
著者
岡田 泰穂 村上 泰介 伊藤 浩司 片寄 友 佐藤 隆次
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.557-561, 2004-05-01
参考文献数
12
被引用文献数
14

症例は91歳の男性で,右側腹部痛・嘔吐が出現し,当院入院となった.右季肋部の圧痛を認めたが筋性防御は認めず,白血球・CRPの著しい上昇と軽度黄疸が見られた.CT検査では,胆嚢腫大と造影効果のない胆嚢壁の肥厚,頚部に低吸収の腫瘤像が確認され,胆嚢捻転症に続発した急性壊死性胆嚢炎と診断し直ちに腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.Gross I型遊走胆嚢で,胆嚢管部を軸として時計方向に360度捻転していた.術中胆道造影では総胆管の拡張と結石像を認めたが,全身状態の悪化が見られたのでc-チューブのみを留置し,総胆管結石は術後内視鏡的乳頭切開術にて摘出,第51病日目に退院した.病理組織検査では胆嚢管部の捻転に続発した堪能の急性出血性梗塞と考えられた.胆嚢捻転症の多くは開腹時に確定診断されるが,我々は術前に画像診断し,早期に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行しえた.本症は胆嚢頚部の炎症所見がほとんど見られず,腹腔鏡下胆嚢摘出術のよい適応と考えられた.
著者
大谷 吉秀 桜井 嘉彦 五十嵐 直喜 横山 剛義 木全 大 亀山 香織 久保田 哲朗 熊井 浩一郎 北島 政樹
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.990-994, 1998 (Released:2011-08-23)
参考文献数
26

消化器癌の進展過程でのマトリックス分解酵素 (matrix metalloproteinase: MMP) による細胞外マトリックス (extracellular matrix: ECM) 破壊における間葉系細胞の役割について検討した.1型, III型コラーゲンを分解するMMP-1は癌先進部組織で高い酵素活性を示した.MMP-1産生細胞の同定を目的にin situ hybridizationを行った結果, 癌巣周囲の線維芽細胞や顆粒球にMMP-1mRNAの発現を認めた.ヒト胃粘膜由来線維芽細胞の培養液にヒト胃癌細胞株MKN-74の培養上清を添加すると, 単独培養に比べ高いMMP-1産生を認めた (p<0.05).また, ヒト胃癌細胞株TMK-1の腹腔内投与によるヌードマウス腹膜播種モデルでは, 癌細胞を線維芽細胞の培養上清とともに投与することで結節数の有意な増加を認めた (p<0.01).以上より, 消化器癌によるECM破壌に間葉系細胞が重要な役割を演じていることが確認された.
著者
龍野 玄樹 鈴木 昌八 落合 秀人 犬塚 和徳 神藤 修 宇野 彰晋 松本 圭五 齋田 康彦 谷岡 書彦 北村 宏
出版者
The Japanese Society of Gastroenterological Surgery
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.699-705, 2011
被引用文献数
1 1

症例は62歳女性で,検診での超音波検査で肝腫瘍を指摘され,当院を受診した.B型・C型肝炎ウィルスマーカーは陰性であり,血清CA19-9値が281.6U/mlに上昇していた.腹部CTで肝左葉の肝内胆管拡張と肝外側区域に境界不明瞭で辺縁が軽度造影される5cm大の腫瘍を認めた.門脈左枝内は腫瘍栓で充満していた.門脈腫瘍栓合併肝内胆管癌あるいは混合型肝癌を考え,5-FUによる肝動注化学療法を先行させた.治療開始後にCA19-9値の低下,肝腫瘍の縮小と門脈腫瘍栓の退縮を認めた.化学療法終了から1か月,後肝拡大左葉切除,肝外胆管切除・胆道再建,リンパ節郭清,門脈再建を施行した.病理組織学的には乳頭状の増殖を示す高分化型腺癌から成る腫瘍であり,門脈腫瘍栓を伴った肝内胆管癌と診断された.術後22か月の現在,再発なく社会復帰している.門脈腫瘍栓合併肝内胆管癌に関する文献的考察を加え報告する.
著者
松林 潤 平良 薫 余語 覚匡 鬼頭 祥悟 浦 克明 豊田 英治 大江 秀明 川島 和彦 石上 俊一 土井 隆一郎
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.328-336, 2015-04-01 (Released:2015-04-17)
参考文献数
37

症例は62歳の男性で,健康診断にて胆道系酵素上昇を指摘され,当院を受診した.画像検査で肝左葉に直径3 cmの腫瘤性病変と,その近傍に拡張した肝内胆管を認めた.胆汁細胞診はclass IIであったが,多数の肝吸虫の虫卵が証明された.本患者にはフナの生食の嗜好歴があった.Praziquantelを内服後,肝吸虫症に合併した肝内胆管癌と考え,肝左葉切除術を施行した.病理組織学的検査は低分化型腺癌であった.腺癌周囲にはリンパ球浸潤や線維化が生じており,慢性胆管炎後の変化が見られた.胆管内には結石などその他の慢性炎症の原因となるものはなく,本症例は肝吸虫症による慢性炎症が胆管癌発生に関与したと考えられた.淡水魚の生食歴などがあれば,糞便検査や十二指腸液検査などを行い,肝吸虫や虫卵を認めた場合は,駆虫するとともに胆管癌合併の可能性を考慮する必要がある.