著者
伊藤 文人
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.1-23, 2017-09-30

本稿は, ポプラリズム運動を牽引したレイバー・ガーディアンズ(Labour Guardians:労働党の影響力の強い保護委員会)による人道的救貧行政(the Humane Administration of the Poor Law)をこの間収集した新資料を基に検討することを通じて,彼らの実践思想の内実にアプローチするものである. 本稿では,改正救貧法(1834 年)に規定されたガーディアンズの役割を確認した上で,1920 年代にレイバー・ガーディアンズによって実施された救貧行政とソーシャルワークの実相に焦点を当てる.その際に彼らの政敵であった慈善組織協会(COS)のそれと比較しながらその特徴を考察する.また彼らの設定した救貧法上の救済基準(スケール)の運用実態にも触れつつ,彼らのストリート・レベルの政策思想についても検討する. 検討の結果,レイバー・ガーディアンズの救貧行政は,遵法精神(コンプライアンス)の徹底を通じたステイクスホルダーへのアカウンタビリティ(説明責任)の確立と,財政事情が厳しい中でもその政策思想を現実化しようとした救済基準の設定と柔軟な運用を行っていたことが明らかになった.
著者
山本 克彦
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.35-51, 2016-09-30

近年多発する自然災害は,大規模,広範囲,同時多発等,複雑なものとなり,過去の経験が活かされつつも,新たな課題が生じているという実態もある.また被災地・被災者を支援するボランティアの存在や役割は災害ごとに注目を集める一方,災害ボランティアセンターの運営や,現場のコーディネートが困難を極めている状況である.その原因の一つは社会福祉協議会を中心として協働型で運営される災害ボランティアセンターの運営者自身が"被災者"であることにある.本来業務に加え,災害対応によって地元の被害状況や個別のニーズを把握する機会が持てない現状では,ボランティアセンターの効率的な運営やマンパワーを活かす活動にはつながらない. ここではこうした課題を解決するしくみの1つとして,筆者が災害発生後の初動期に試行した「学生ボランティアによるアウトリーチ」の事例をあげ,今後の災害に活用できるモデルを提示する.また今後の災害に備え,学生による災害支援のあり方について考察し,災害時の初動に対応できる"学生連携ボランティアネットワーク"について提言する.
著者
朴 兪美 細井 洋海 寺本 愼兒 平野 隆之
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.140, pp.111-124, 2019-03-31

本研究では,制度福祉中心の行政システムの機能不全に対応する地域福祉推進の組織整備に注目し,それが機能するメカニズムとして職員のリーダーシップに着目する.制度福祉の制約を乗り越える,新システムの形成において,その実質的担い手となる自治体職員のリーダーシップは重要な要素となる.本研究では,芦屋市の中間マネジャーの取り組みを取り上げ,リーダーシップが発揮される局面と,その展開に潜んでいるリーダーシップ発揮の環境的条件について探る. 分析方法としては,主に振り返りの手法を用いるが,2 人の中間マネジャーの振り返りを2 人の研究者が促進する形をとる.振り返りを通じて,トータルサポート体制をはじめ,独自の地域福祉推進体制を構築してきた芦屋市地域福祉課の時間的展開を探る.その展開においてリーダーシップが発揮された4 局面を取り上げ分析する. 4 局面は,困難事例からの権利擁護支援の展開,困難事例の支援を通じたトータルサポート体制の実体化,モデル事業を活用した庁内横断的な体制の整備,庁内連携を越えた地域内連携への挑戦,である.分析の結果,リーダーシップによる新規体制づくりと新規体制の運用に求められるリーダーシップとが好循環することと,中間マネジャーのリーダーシップによる人材育成の環境整備が行われることを示す.
著者
安藤 健一
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.145, pp.41-53, 2021-09-30

本稿は,社会福祉分野とくにソーシャルワーク実践における面接技法である「生活場面面接」にまつわる人物について考察するものである.そのため,本稿では"Children Who Hate"の執筆者であるフリッツ・レドル(Fritz Redl)とデイヴィッド・ワインマン(David Wineman)のうち,ワインマンに焦点を当てている.レドルはさまざまな論文等でも扱われてきており,その名も知れ渡っているが,共著者でありソーシャルワークの研究者であるワインマンについては日本ではあまり知られていない.彼は勤務校であったウェイン州立大学では名を冠した奨学金が設定されるなど重要な人物として扱われているが,論文等で扱われることは多くはない.とくに日本においては,この人物に焦点をあてられることはなかった.そこで,ワインマンのその人物像と児童の権利に関する活動を明らかにすることが本稿のひとつの目的である.また,ワインマンの論文に記述されたレドルへの評価を考察するものである.
著者
山田 妙韶
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.143, pp.13-26, 2021-03-31

精神保健福祉士(以下,要旨で PSW)に「寄り添う支援」についてのインタビュー調査を行い,1 年目と 3 年目の比較(縦断研究)をすることで,経験年数による共通性や差異を見ることを目的とした.PSW の資格修得後,実務経験 1 年目と 3 年目の調査に協力いただける PSW 6 名にフォーカス・グループ・インタビューを行った.質的統合法で分析を行った.その結果,以下の点が分かった.① 1 年目で語られていた話題が3 年目では語られていない.②同じ表題名でありながらとらえ方が変わった.③ 1 年目で定義づけされた「PSW の寄り添う支援」が 3 年目では定義するに至らなかった.④1 年目の調査では語られなかった「伴走」について 3 年目にその実践が語られた.以下4 点を今後の課題とする.①「寄り添う支援」を PSW の業務の文脈で考察する.②熟練 PSW へのインタビュー調査を行い実務経験の年数の点から考察する.③「寄り添い/寄り添う」と「伴走」との異同について考察することである.④インタビュアーの向上.
著者
篠田 道子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.142, pp.99-112, 2020-03-31

フランスとイタリアの医療・介護制度は異なっているものの,終末期ケアについては国主導のインフラ整備により,量・質ともに大きく進んだ.本人の意思決定を支えるために,後見人や事前指示書を位置付け,多職種で支える体制を整えている.本論文では,フランスとイタリアの終末期ケアに関する基本法を概説し,事前指示書による意思決定支援の取り組みと課題を整理する. 特に事前指示書については,わが国でも取り組んでいるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)に引き付けながら光と影について論じる.また,両国ともネットワーク形成を推奨するなど,終末期ケアを点で支えるのではなく,制度や場所を越えて多職種・他機関で支える仕組みづくりに舵を切っている.このような取り組みは地域包括ケアシステムを構築するうえで参考になる.
著者
木村 隆夫
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.77-109, 2016-09-30

筆者は,本論集134 号で「非行克服支援プログラム試論1-子ども・若者支援編-」(以下試論1とする)を発表した.試論1は,わが子の非行・問題行動に対して,支援者と親・家族が協働し,あるいは,親・家族が対応できる非行克服支援プログラムを意図して執筆したものである. 一方,子どもが非行・問題行動を起こすと「世間」は,当事者である子どもだけではなく,その親や家族までをも攻撃の対象としてしまうことが多く,逃げ場のない親や家族はわが子の非行・問題行動に振り回されるとともに,「世間」の白眼視や攻撃にさらされるという,二重の苦しみを受けることが多いので,親・家族の支援も重要な課題である. 試論2は,苦しむ親たちに伴走者として支援する支援者が活用することを想定して,親たちが二重の苦しみから抜け出し,荒れるわが子と向き合うことができる力を取り戻すための支援技法等について考察したものである.
著者
末盛 慶 小平 英志 鈴木 佳代
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.39-52, 2017-09-30

近年,ワーク・ライフ・バランスに関する研究が蓄積されている.しかし,その多くは共働き世帯など夫婦世帯を対象とした研究が多い.しかし,ワーク・ライフ・バランスの実現がより困難であることが推測されるのはひとり親家庭である.ひとり親家庭の場合,理論的に1 人で家庭役割や職業役割等を遂行していく必要があるからである. 以上の問題意識から,本稿では,シングルマザーの家庭領域から仕事領域に対するワーク・ファミリー・コンフリクト(FWC)の規定要因を分析した.分析対象は,名古屋市区部に在住し,年齢の記入があり,就業しているひとり親の母親113 名である. 分析の結果,時間のFWC に関しては,仕事過重と貧困状態が有意な関連を示した.ストレインのFWC に関しては,仕事過重,上司のサポート,および貧困状態が有意な関連を示した.行動価値のFWC に関しては,学校関与と上司のサポートが有意な関連,貧困状態は有意傾向で関連を示した.以上の結果から,仕事の過剰や上司のサポートといった要因に加え,貧困状態がシングルマザーのワーク・ファミリー・コンフリクトを高めることが示された.
著者
大濱 裕 江原 隆宜
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.136, pp.81-99, 2017-03-31

「地域自治」なき「地域社会」に「地域福祉」はあるのか.これまでの地域福祉理論・政策・実践における「地域社会」の捉え方には,以下の二つの限界がある.①「地域社会」を個人の集合・空間と認識しているため,地域社会の能力・経験・仕組み・価値規範の実態的な固有性が捉えられないこと,②「地域社会」を行政に対置される相対的存在と認識するため,生活問題解決への「動態的変化のプロセス」を,住民参加や地域自治の構築・強化の文脈において適確に捉えきれないことである.本研究では,右田紀久惠著『自治型地域福祉の理論』を研究対象文献に選定し,「地域社会」と「生活問題」・「住民参加」の関連性・規定性,及びそれらの「理論・理念」,「制度・政策」,「実践手法」の整合性・一貫性を検討することを通して,地域福祉理論における「地域社会」の捉え方を考察した.
著者
青木 聖久
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.23-34, 2016-09-30

精神障害者や家族は,障害年金受給が,将来の就職に影響するのではないかと危惧している実態がある.それは,精神障害者が障害年金を受給していることが事業主に知られてしまうと,たとえ現時点において,経済的に困窮していたとしても,安心して精神障害者は障害年金を受給できない,というものである.これらの不安が解消されれば,精神障害者は障害年金の受給につながることになる. そこで本稿では,障害年金に関わりをもつ社会保険労務士からの調査を通して,このことを明らかにすることにした.なぜなら,社会保険労務士は,近年障害年金を専門にする者が増えていることに加えて,顧問という形で事業所に関わり,事業主から人事の相談を担いうる等,障害年金と事業所の双方に精通していると考えられるからである.そして,調査の結果,従業員の障害年金受給は制度的に,事業主に知られるものではないことがわかった.また,精神障害者が就労において求められるのは,障害年金の受給の有無という論点よりも,就労への取り組み姿勢を含めた労働の中身や,労働の継続性が大切であることの示唆を得ることができた.さらに,本稿を通して新たに得られた事柄は,以下のことである.それは,精神障害者や家族は,職に就くという「点」に注目することが多いが,豊かな人生を送るために働くという論点で捉えれば,自分のことを理解してくれる事業所で,いかに自分に合った働き方をするかという「曲線」で捉えることが大切だというものである.本研究では,このように働くことに関する新たな視点に辿り着くことができた.
著者
野村 豊子 照井 孫久 本山 潤一郎
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.1-21, 2016-09-30

本研究はリーダーケアマネジャーに対するスーパービジョンの意義と課題に関して,最近の英国のスーパービジョン研究における展開を踏まえ,2 つの調査研究を元に検証したものである.第1 の研究はケアマネジャーの現状と課題分析を目的に実施した主任介護支援専門員に対する質問紙調査であり,第2 の研究は主任介護支援専門員を対象に行ったグループインタビューである.この調査の結果としてリーダーケアマネジャーとしてのスキルアップ,他の人との関わりの意義,他者への期待と,自身に対する自信のなさ,時間的・精神的ゆとりのなさの間に乖離が生じている現実が示された.スーパービジョンの手法の不明確さの改善については,ケアマネジメントの知識・技術の向上のための方法と,スーパーバイジーとその環境の調整を目指す目的を達成する多面的な方法が求められる.英国のモリソンらのモデルの応用も視野に入れることが示唆された
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.134, pp.9-30, 2016-03-31

本研究では,過去18 年間に生じた介護殺人716 件の全体状況を確認し,被告の介護を担う力量が問われた3 つの事例の分析を行った.介護殺人防止に向けては,国の施策として生じた事件の情報をデータ化し,特徴や傾向の分析を行い,得られた知見を制度や施策に活かしていくことが求められる.支援の現場では専門職により,介護を担う者の意思や能力の見極めを行うことも必要である.介護者を対象にしたアセスメントと,それに基づくケアプランの作成を行うことは介護殺人の予防のみならず,すべての被介護者と介護者にとって,介護や生活の質の向上を目指すツールとなり得る.現在日本でもイギリスの実践に習い,ケアマネジャーらが介護者アセスメントの開発を行い,ケアプラン作成技術の向上をめざす試みが始まっている.それらを一部の実践に留めることなく,介護者支援の方策として全国に展開していくことが今後の課題である.
著者
大谷 京子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.143, pp.81-98, 2021-03-31

ソーシャルワーカーにとって,専門職アイデンティティ形成は極めて重要であるが,それが困難な環境に置かれている.本論では,ソーシャルワーカーの専門職アイデンティティに焦点を絞り,それがどのように語られているのか,概念を整理し,その形成のための教育訓練について提示する. ソーシャルワーカーの専門職アイデンティティは,①専門職集団が共有するアイデンティティ,②個人の中に統合された社会的アイデンティティの一つとしての専門職アイデンティティ,さらにはそれに対する自己認識,③個人の中にそのアイデンティティを内在化させるプロセスという 3 つの意味で使用されていた. ③のプロセスに注目した専門職アイデンティティ形成のための取り組みとして,養成課程では,「非公式カリキュラム」の土壌づくり,専門職アイデンティティを省察し表明する機会の提供など 5 点,現任者に対しては,専門職集団との日常的な交流の場の提供,ソーシャルワーカーによるスーパービジョンの提供など 4 点を提示した.
著者
小木曽 早苗
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.140, pp.89-110, 2019-03-31

全国的に人口減少や高齢化が進行し地域移行支援対象が拡大するなかで,権利擁護支援ニーズは高まりを見せているが,地方の小規模自治体では人員・人材不足や財政面の負担も大きく,継続的に対応する上での困難さが生じている状況がある. 本稿では,小規模自治体の権利擁護支援の形成プロセスにはどのような条件整備が必要であるか,筆者ら大学研究チーム1が関わる高知県中山間地域の小規模自治体と実施主体である社会福祉協議会(以下,社協)の共同作業を例に,3 つの展開プロセスを通じて考察した. 結果,①先駆的な自治体調査のプロセスを経た小規模自治体型の検討,②継続的なスーパービジョンによる関係者の連携強化と支援力の向上,③各種調査研究等による根拠あるミッションの共有,④地域福祉を基盤とした権利擁護支援の方向性,が条件として確認された.また,⑤安定的な財源確保の必要性,⑥外部からの長期的な支援の重要性,も見えている. 中土佐町では,第2 期地域福祉計画の柱立てとしても権利擁護支援の充実を置く判断をし,より目指す方向性が明確になった.権利擁護支援を重要軸とした体制構築は,支え合いに留まらない地域共生社会の実現においても大きな役割を担おうとしている.
著者
山田 麻紗子 渡邊 忍 小平 英志 橋本 和明
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.133-151, 2017-09-30

筆者たちは児童虐待への効果的支援のあり方を探るため,2015 年の児童虐待対応の先進国であるアメリカ(ニューヨーク市,バージニア州)視察に続いて,2016 年に韓国(ソウル市)の関係機関10 ケ所を,次の2 つの知見を得るために視察した.それらは,①韓国の児童虐待に関わる各関係機関の役割・機能,②各関係機関の連携・協働の実際についてである.その結果,過去10 年間における韓国の児童虐待等に関する取り組みには格段の進歩があり,日本にとって学ぶ点が複数みられた.政府,司法,地方自治体,民間機関が縦横に連携・協働している点やひまわり児童センターの総合支援システムには,目を見張るものがある.本稿では,韓国ソウル市における児童虐待,児童福祉の現状と課題などを紹介したい.
著者
末永 和也 大林 由美子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.142, pp.45-55, 2020-03-31

本研究は,消滅可能性都市として指摘されている南知多町の人口流出を防ぐための方策や人口を増やすことを検討するために,住民意識調査や専門職の意識調査を分析し,現在,計画内容が検討されている地域福祉計画の策定に寄与できることを目指している. 分析結果より,30 歳代および50 歳代以上の住民には「南知多町に住み続けたい」と考える人の割合が高いことに比べ,40 歳代の住民は,「南知多町に住み続けたい」と考える人の割合は低い傾向にあり,その理由として仕事,医療・福祉の面での課題がみられた. また,住民と専門職の間には学校統廃合の意識に差があった.住民は,学校統廃合には現状維持を求める意見が約5 割であることに対し,専門職は,現状維持したほうがよいと考える意見は約3 割であった.先行研究では,人口を減少させない方策として,小中高校の存続に力を注ぐことであると述べられている.このまま学校統廃合を進めていった場合,さらに人口流出が加速する可能性がある。 これらの分析をふまえ,地域福祉計画を策定していくためには,「専門職参加」「行政職員参加」だけでなく「住民参加」が必須であり,住民をいかに巻き込むことができるか鍵となることが考察された.