著者
岡本 康秀 小渕 千絵 中市 健志 森本 隆司 神崎 晶 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.7, pp.1092-1103, 2022-07-20 (Released:2022-08-11)
参考文献数
36
被引用文献数
2

日常生活において, 複数人数での会話, 周囲に雑音がある中での会話, 電話での会話などで聞き取りが困難である場合, 難聴の自覚をもって耳鼻咽喉科を受診する. しかし聴覚検査で正常と診断される例では, 本人の聞こえの感じ方と検査結果に解離が見られ, 特にこのような聞こえの困難を自覚する例では聴覚情報処理障害が疑われる. しかし明確な診断基準がないためその診断には苦慮する. 今回そのような聞き取り困難例に対して聴覚心理・認知的検査の側面と背景要因の側面から検討を行った. 多くの聴覚心理検査がある中で今回, 両耳分離聴検査, 早口音声聴取検査, 方向感機能検査, 雑音下音声聴取検査である HINT-J が聞き取り困難の訴えを捉える有効な検査であることが分かった. 特に方向感機能検査や HINT-J は簡便な検査でありながらカクテルパーティー効果等実際の聞き取り困難さを評価できた. 一方,認知的側面では聴覚的注意検査や聴覚的記銘検査によって,注意機能やワーキングメモリが聞き取りに極めて密接に関係することが分かった. また, 背景要因としての ASD や ADHD 傾向のチェックも重要で, 潜在的なグレーゾーンを含めて聴覚に影響のあることを認識し, ほかの業種と連携しサポートも検討していく必要がある.
著者
前川 明日彩 細谷 誠 片岡 ちなつ 新井 雄裕 浅野 和海 森 隆範 野口 勝 神崎 晶 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.150-156, 2019-04-28 (Released:2019-06-01)
参考文献数
6

要旨: 当院で人工内耳手術を施行し, 定期的な診療を続けている成人人工内耳装用者17名を65歳以上の高齢群と65歳未満の若年群に分け, 手術前後に実施した東大式エゴグラム (Tokyo University Egogram, 以下 TEG) の結果について検討を行った。 さらに, 失聴期間2年未満群と2年以上群での検討も行った。 全症例及び高齢群で, 術後「他者本位・自己抑制的・自己否定的」な傾向が低下した。 若年群では「自由・積極的・自己肯定的」な傾向に上昇する様子がみられた。人工内耳を装用して音を聴取することで, 高齢者はより自律的に, 若年者はより能動的になる傾向があると考えた。 失聴期間別の検討では, 失聴期間2年以上群で, 術後の「他者本位・自己抑制的・自己否定的」な傾向が低下した。音が聴取可能になり活気が出たため, 抑制的な自我状態が軽減したと推察した。高齢者や失聴期間の長い症例においても, 人工内耳導入により自己否定傾向を軽減させる効果があると考えられた。
著者
高橋 優宏 岩崎 聡 西尾 信哉 鬼頭 良輔 新田 清一 神崎 晶 小川 郁 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.270-276, 2018-08-30 (Released:2018-09-27)
参考文献数
19
被引用文献数
1

要旨: 一側聾は生活面の QOL の低下とハンディキャップを有しているため,医学的介入が試みられている。CROS (Contralateral Routing Of Signals) 型補聴器や埋め込み型骨導補聴器が施行されているが, 装用感や音源定位に関して不良の報告が多い。ヨーロッパではすでに一側聾に耳鳴りを伴った症例に対し人工内耳埋め込み術が施行され, CE (Communauté Européenne)-mark を取得している。そこで国内4施設において共同臨床研究「同側に耳鳴を伴う一側高度または重度感音難聴に対する, 人工内耳の装用効果に関する研究」を施行し, 当院にて1症例を経験した。術後4年経過した現在においても, 雑音下の語音聴取と方向感, 耳鳴りの改善が持続して認められており, 自覚的評価も良好である。一側聾症例における両耳聴効果をさらに実現するため, 今後一側聾に対する人工内耳埋め込み術の導入が期待される。
著者
満倉 靖恵 神崎 晶 浜田 望
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

耳鳴りの音を外部から推定することは困難である.耳鳴り患者は医師にその音を"キーン","ジイジイ"と鳴る,などの表現で伝えるが,医師にその音は判らない.これまではピッチマッチ法装置を用いて音の推定を行って来たが,ピッチマッチ法は病院のみで扱える特殊機械であり,音が日によって変化する耳鳴りを正確に知る方法としては相応しくなかった.そこで本研究課題では,簡易に計測できる脳波計を用いてスマートフォン上で取得した脳波を用いて耳鳴り音の特定を行うことを第一の目的とした.また,耳鳴り音として聞こえている周波数の逆位相を持つ音を出すことで,耳鳴りを軽減することができるかどうか,検証する事を第二の目的とした.
著者
神崎 晶
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.7, pp.937-940, 2016-07-20 (Released:2016-08-06)
参考文献数
16

急性内耳障害を中心とした感音難聴に関する病態, 検査, 治療など最近の知見について総説としてまとめた. 多施設共同で行われた解析では突発性難聴の予後に関連する血液検査項目としてフィブリノゲンが挙げられた. また, 聴力型に応じて予後に関連する血液項目が異なっており, 病態が異なることが示唆された. さらに PDE5 阻害薬による突発難聴の発生から最近新たに提唱されている突発性難聴の病態機序を紹介した. その病態と, フィブリノゲン, 細胞ストレスに関する転写因子などを含んだ新しい病態について仮説を提唱した. 今後期待されるような薬物治療として抗酸化物質などの基礎研究の現状を挙げた. また急性感音難聴が一側高度難聴に至る場合に人工内耳埋込み術がヨーロッパでは行われており, その成果について報告をまとめた. 国内でも今後実施されることが期待される. ステロイド, 特に糖質コルチコイドは内耳に保護的に作用することが明らかになってきている. 同時に突発性難聴などに対するステロイドの局所投与が見直されている. 今後期待される治療薬は副作用の観点から内耳局所に投与を行うことが重要である. ところが全身と局所投与について内耳への薬物動態が不明である. それぞれの投与法に応じて基礎的データから臨床的意義について論じた. 局所と全身投与では薬物動態が異なるため, 両者併用が薬物を内耳に到達させるために効果的である. また, 全身投与では多量の方がより内耳に到達することが示唆された.
著者
神崎 晶
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.8, pp.1100-1101, 2017-08-20 (Released:2017-09-20)
参考文献数
11
被引用文献数
4 4
著者
神崎 仁 原田 竜彦 神崎 晶
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.3, pp.133-138, 2011 (Released:2011-08-03)
参考文献数
14
被引用文献数
2

統合失調症にて通院加療中の30歳女性にみられた一過性の聴覚失認例を報告した.主訴は「きこえが悪い」であったが, よく聴取すると, 「音は分かるが, 何を言っているか分からない」というものであった. 環境音とことばの判別もつかなかった. 純音聴力検査は正常であったが, 語音弁別検査は異常を示した. OAE, ABRには異常なかった. 病歴から祖父母の介護がストレスとなり, 発症したと思われた. 環境を変え, 抗不安薬の内服により, 語音弁別の異常は短期間で改善した. 本例の聴覚障害と統合失調症との関連について考察した.
著者
神崎 晶
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.3, pp.192-196, 2021-03-20 (Released:2021-04-03)
参考文献数
10

急性感音難聴の診療のてびき, 耳鳴診療ガイドラインが作成されているが, 本稿ではその内容を抜粋し, 最近の文献報告も含めて紹介する. 急性・慢性難聴, 耳鳴について診断アルゴリズム, 検査のポイントについて解説する. 難聴と耳鳴は合併することが多いことから一連の流れで検査, 診断を行うことが多い. まず原因疾患の診断を行う上で, 問診 (発症時期, 経過, 一側か両側か, 進行の速さ, めまいの有無), 耳鏡検査 (鼓膜所見など), 純音聴力検査を行うことになる. 難聴の診断では, 純音聴力検査では伝音, 感音, 混合性難聴を分類する. 伝音難聴があればインピーダンス検査, 感音難聴があれば語音聴力検査を実施する. 混合性難聴であれば上記2つの検査を実施する. また聴力型を確認することで鑑別が可能になる. 必要に応じて語音聴力検査, 他覚的検査 (耳音響放射, 聴性脳幹反応 (ABR), 聴性定常反応 (ASSR)) を行う. 急性感音難聴では突発性難聴, 外リンパ瘻などを疑うが, MRI で聴神経腫瘍, 脳血管障害など中枢疾患を除外する必要がある. 補聴器や人工内耳の適応決定に至るまでの検査も重要であり一定の基準を提示した. 耳鳴の診断では, 耳鳴の苦痛度を問う質問票である Tinnitus handicap inventory (THI) 改訂版を用いて評価する. THI が大きいほど重症度が高く, 治療に難渋する. 難聴の有無を確認するため, 純音聴力検査などを行い, 原因疾患を特定する. 耳鳴検査 (ピッチマッチ, ラウドネスバランス検査) で耳鳴の周波数と大きさを検査する. また, 耳鳴に伴って不安, うつ, 睡眠障害の合併は治療予後に影響を与えるので, 問診で確認することが重要である. 耳鳴に伴いやすい聴覚過敏についても言及した. 難聴, 耳鳴は多岐にわたり, 新たな診断基準の制定, 新しい疾患概念も増えている. また耳鳴治療概念の変化に伴い検査内容も変化していることから, 検査・診断について改めて整理し提示した.
著者
神崎 晶
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.17-20, 2021 (Released:2021-08-31)
参考文献数
20

本稿では,コロナウイルス感染症(COVID-19)とアレルギー疾患との関連性についてまとめる。アレルギー性鼻炎とCOVID-19の臨床症状には共通するものが多いが,差異についてまとめた。さらにアレルギー疾患患者がCOVID-19に感染した場合の臨床症状の変化についてまとめた。気管支喘息患者では呼吸機能が低下している点からCOVID-19感染で呼吸機能の増悪は容易に想像できるが,アレルギー疾患自体はTh1よりもTh2優位になっている状態であるため,COVID-19患者ではTh1系のサイトカインストームが生じにくいかもしれず,依然として物議を醸している。抗IgE抗体医薬がスギ花粉症に適応があるが,抗IgE抗体が抗ウイルス活性を有していることも示した。最後にCOVID-19による嗅覚障害の発生機序,当院で嗅覚障害の発生調査について解説した。
著者
神崎 晶 小川 郁 熊崎 博一 片岡 ちなつ 田副 真美 鈴木 法臣 松崎 佐栄子 粕谷 健人 藤岡 正人 大石 直樹
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.236-242, 2019

<p> 聴覚過敏を主訴とした患者に対して, ほかの感覚器の過敏症状を問診・質問票による検査をしたところ, 複数の感覚過敏を有する5例を発見した.「感覚過敏」と本論文では命名し, その臨床的特徴を報告する. 主訴に対する聴覚過敏質問票に加えて, 複数の感覚過敏に対する質問票「感覚プロファイル」を用いて過敏, 回避, 探求, 低登録について検査した. 同時に視覚過敏は5例で, 触覚過敏は4例で訴えたが, 嗅覚と味覚過敏を訴えた例はなかった. 病態には中枢における感覚制御障害が存在することが考えられる. 感覚過敏の検査法, 診断法, 治療についてはまだ確立されておらず, 今後の検討を要する.</p>
著者
岡本 康秀 神崎 晶 貫野 彩子 中市 健志 森本 隆司 原田 耕太 久保田 江里 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.694-702, 2014-12-28 (Released:2015-04-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

要旨: 音声の情報として, 周波数情報に加えて時間情報は極めて重要な因子である。 今回時間分解能の評価として Gap detection threshold (GDT) と temporal modulation transfer functions (TMTF) を用いた。 対象を老人性難聴者とし, 年齢, 語音明瞭度を中心に時間分解能の検討を行った。 その結果, 加齢により GDT と TMTF の低下傾向を認めた。 また, 語音明瞭度に影響する因子として, TMTF における peak sensitivity (PS) が強い相関を認めた。 このことは音声知覚において, PS のパラメータであらわされる時間的な音圧の変化の検知能力が語音聴取能力に強く影響を及ぼしていることが示唆された。 今後は時間分解能の臨床応用に加えて, 時間情報をもとにした強調処理などの補聴処理技術が開発されることが望まれる。
著者
神崎 晶 熊崎 博一 片岡 ちなつ 田副 真美 鈴木 法臣 松崎 佐栄子 粕谷 健人 藤岡 正人 大石 直樹 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.236-242, 2019-03-20 (Released:2020-04-08)
参考文献数
15

聴覚過敏を主訴とした患者に対して, ほかの感覚器の過敏症状を問診・質問票による検査をしたところ, 複数の感覚過敏を有する5例を発見した.「感覚過敏」と本論文では命名し, その臨床的特徴を報告する. 主訴に対する聴覚過敏質問票に加えて, 複数の感覚過敏に対する質問票「感覚プロファイル」を用いて過敏, 回避, 探求, 低登録について検査した. 同時に視覚過敏は5例で, 触覚過敏は4例で訴えたが, 嗅覚と味覚過敏を訴えた例はなかった. 病態には中枢における感覚制御障害が存在することが考えられる. 感覚過敏の検査法, 診断法, 治療についてはまだ確立されておらず, 今後の検討を要する.
著者
神崎 晶
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.1, pp.8-13, 2015-01-20 (Released:2015-02-05)
参考文献数
25

感音難聴の原因の多くは内耳障害によるものである. ところが, 内耳の細胞の多くは再生しないために, 難治性である. 内耳における細胞はさまざまなタイプの細胞から成立しており, 感覚細胞である有毛細胞, らせん神経細胞をはじめ, らせん靱帯, 血管条を含む外側壁などから構成されている. 内耳障害の原因として, 加齢, 遺伝性, 音響外傷, 薬剤性, 感染, 免疫異常, 内リンパ水腫 (メニエール病), 原因不明であるが突発性難聴などが挙げられる. これらの内耳障害に対して内耳再生医療は聴力回復のために人工内耳に代わる治療となり得るものであることが期待されていた. 20世紀末以降になると神経領域を含む再生のメカニズムが解明され, 蝸牛や前庭では, 内耳のさまざまな細胞の起源ともいえる「内耳幹細胞」が発見された. 有毛細胞を主として内耳発生のメカニズムから再生に必要である因子についても解明されてきた. その結果, 内耳に存在する内因性幹細胞からの分化誘導, あるいは内耳幹細胞移植によって, 有毛細胞, 神経細胞, らせん靱帯などの細胞を再生させるために理想的な治療法として期待される. 本稿では内耳再生のために内耳のさまざまな細胞の増殖および分化にかかわる最近の研究の取り組みを示すとともに, 臨床応用に向けた今後のロードマップを検討した. また上記治療はいずれも内耳局所投与によるものであり, 効率的, 確実かつ安全な投与法のために, われわれが取り組んでいる内耳内視鏡などの開発についても示した.
著者
神崎 晶
出版者
Japan Otological Society
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.168-172, 2007-07-25 (Released:2011-06-17)
参考文献数
15
被引用文献数
2

Bone mineral density and morphology of the three auditory ossicles, malleus, incus, and stapes, are maintained by osteoclasts and osteoblasts. However, correlation between bone resorptive changes in the ossicles and hearing loss has not been established. In this review, we discuss osteoporotic changes of the auditory ossicles and pathology of middle ear diseases through the study of mice lacking osteoprotegerin (Opg-/-mice), a soluble decoy receptor for the osteoclastogenic cytokine RANKL. All three ossicles in Opg-/-mice showed thinning and shortening compared to wild-type controls. Most notably, the junction between the stapes and the otic capsule was fused in Opg-/-mice unlike in wild-type mice. Furthermore, progressive hearing loss was detected in Opg-/-mice starting at 6 to 15 weeks of age. These data suggest that OPG plays a crucial role as “audioprotegerin” in hearing by protecting the auditory ossicles and otic capsule from osteoclastic bone resorption. We also discuss clinical implications of resorption of the ossicles for middle ear diseases including otosclerosis and cholesteatoma.