著者
高木 博
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.115, no.4, pp.201-207, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
31

記憶の素過程であるシナプス可塑性の実験的モデルに海馬で顕著な長期増強現 (long term potentiation, LTP) がある.この長期増強現象には最近の知見から少なくとも3種類の実体の異なるものが存在することが判ってきている.すなわち early phase LTP (E-LTP) (数時間から数日の短期記憶のモデル), late phase LTP (L-LTP) (一生保ちつづける長期記憶のモデル)および anoxic LTP (A-LTP)(虚血性神経細胞死のトリガー) である.中枢神経系に存在するサイトカイン (脳内サイトカイン) は脳血液関門により末梢組織や免疫組織の本来のサイトカインとは独立にその機能を発揮している.近年,脳内サイトカインが3種類の LTP の誘導に関与していることが示唆されている.例えば interleukin 1β(IL-1β) は E-LTP の誘導を阻害し, A-LTP を誘導する.またbrain-derived neurotrophic factor (BDNF) は L-LTP をそれ自身で誘導し,更には虚血により低下した E-LTP の誘導機能を回復する.すなわち,虚血などにより神経細胞がダメージを受けた場合,IL-1βなどのサイトカインの働きにより,神経細胞は積極的に「選択的細胞死」に追いこまれる.これと同時に BDNF などのサイトカインの働きによる L-LTP 誘導により, E-LTP の発現能力に富んだ新規のシナプス形成を積極的に行ない,消失した神経細胞の代償をしているのかもしれない.脳内サイトカインとシナプス可塑性の関係を解明することは単なる3種類の LTP 誘導メカニズムの解明にとどまらず,中枢神経系で観察される様々なシナプス可塑性の生理学的意義の時間・空間的意味付けを明らかにすることが期待される.
著者
瀧川 勝雄 国分 信彦 梶原 大義 土肥 美恵 田原 溶夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.489-493, 1972 (Released:2010-07-30)
参考文献数
28
被引用文献数
15 15

Using rabbits and rats injured in experimental Whiplash, changes in glycolysis and enzyme activities of the cervical cords, and the effects of Pantui extracts, Pantocrin were investigated in detail. In the cervical cords, depressed glycolysis and lowered activities of aldolase, GOT, and alkaline phosphatase were noted. Cervical injuries were greater in rats than rabbits while hexokinase, glycerokinase and GPT were inhibited. Three enzymes in the rabbits were also inhibited. This enzymological difference between the two species appeared to be dependent on the extent of injury. Pantocrin remarkably improved abnormal glycolysis and the lowered enzyme activities of cervical cords from both injured animals.
著者
瀧川 勝雄 国分 信彦 田原 溶夫 土肥 美恵
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.473-488, 1972 (Released:2010-07-30)
参考文献数
51
被引用文献数
4 4

Physical, morphological and pharmacological studies of an experimental Whiplash Injury were done, using rabbits, to elucidate the injury mechanism and the effects of Pantui extracts, Pantocrin, on the injury. A device of rotary type, which is capable of producing concentrated exterior force effectively to the cervical region, was used to simulate experimental Whiplash Injury. The injured caput and cervical regions were physically, roentgenologically and pathologically examined and the requirement for producing Whiplash Injury of no serious damage was established, i.e., acceleration of 20G to the device and a weight of 300g an the rabbit head. In addition, a new method for optokinetic stimulation was employed to study nystagmus reactions on injured rabbits. Abnormally exaggerated patterns and lowered frequencies in the ENG were noted 3 to 21 days after the injury accompanying depressed glycolysis in cerebrospinal regions. Pantocrin, administered to the injured rabbits at an intramuscular dose of 1ml (ca. 1.5mg as a dry wt.) per kg daily from the 3rd to 21st day after injury, was markedly effective for improving the abnormalities in both ENG patterns and cerebrospinal glycolysis.
著者
高山 喜好
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.1, pp.28-31, 2008 (Released:2008-01-11)
参考文献数
5

Lab on a chipあるいはμ-total analysis systemは,半導体微細加工技術や精密合成技術,微小流体制御技術を応用したマイクロ,ナノバイオデバイスである.これまで実験室規模で行われていた生化学分野における,酵素や基質の混合,反応,分離,検出の操作を比較的小さなチップ上に集積化,微細流路でそれぞれを統合,一連の操作を自動化する技術である.医薬品開発の初期段階におけるハイスループット化合物スクリーニング(HTS)や化合物の阻害機序解明にこのLab on a chip技術を応用するプラットフォームが登場している.特に,キナーゼ,ホスファターゼ,プロテアーゼ,脱アセチル化酵素といったタンパク質修飾酵素や,SHIP2,PI3Kといったリン脂質代謝酵素を標的とするリード化合物探索にLab on a chip技術は威力を発揮している.Lab on a chip技術は,従来型のホモジニアスプラットフォームとは異なる精度と感度の高い化合物評価が可能になり,これまで見逃していた弱い活性の化合物の再発見(新規リード化合物の創出)にもつながる可能性を秘めている.

1 0 0 0 OA 正誤表

出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.e1-e1, 1944 (Released:2011-09-07)
著者
高須 俊行 高倉 昭治 加来 聖司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.1, pp.36-42, 2015 (Released:2015-01-10)
参考文献数
12

イプラグリフロジンL-プロリン(以下イプラグリフロジン,商品名:スーグラ®錠)は,選択的sodium/glucose co-transporter(Na+/グルコース共輸送体:SGLT)2阻害薬として2014年1月に国内で初めて承認された新しい糖尿病治療薬である.腎近位尿細管においてグルコースの再吸収を担う糖輸送体であるSGLT2を阻害し,血液中の過剰なグルコースを尿糖として体外に排泄することによって高血糖を是正する.イプラグリフロジンはヒトSGLT2強制発現細胞を用いた実験において,SGLT2に選択的な阻害作用を示すことが確認された.マウスおよびラットへ単回経口投与したところ用量依存的に尿糖排泄促進作用を示し,また2型糖尿病モデルマウスへ4週間反復経口投与したところ尿糖排泄促進作用に加え,血糖値およびヘモグロビンA1c(HbA1c)低下作用を示した.さらにメトホルミンまたはピオグリタゾンとの反復併用投与により各々の単独投与よりも強いHbA1c改善作用を示した.高脂肪食を負荷して惹起した肥満モデルラットにおいてイプラグリフロジンは体重増加抑制作用および脂肪量減少作用を示した.2型糖尿病患者を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験において,イプラグリフロジンは2型糖尿病患者のHbA1cおよび空腹時血糖値を改善し,優れた有効性および安全性を示した.低血糖の発現率は,イプラグリフロジン群とプラセボ群で同程度であった.以上,非臨床薬理試験および臨床試験の結果から,イプラグリフロジンはSGLT2阻害というインスリン作用とは異なる作用機序により血糖降下作用を発現し,2型糖尿病に対して治療効果を示す薬剤であることが示された.選択的SGLT2阻害薬イプラグリフロジンは2型糖尿病患者におけるより質の高い血糖管理の実現に貢献できるものと期待される.
著者
梛野 健司 敷波 幸治 齋藤 隆行 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.138, no.3, pp.122-126, 2011 (Released:2011-09-10)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

ガランタミン(レミニール®)は,コーカサス地方のマツユキソウの球径から分離された3級アルカロイドであり,国内2剤目のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬として,軽度および中等度のアルツハイマー型認知症(AD)における認知症症状の進行抑制の適応症を取得した.ガランタミンの作用機序は,AChEに対して可逆的に競合阻害作用を示し,さらにニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のアセチルコリン結合部位と異なる部位に結合し,アロステリック活性化リガンド(APL)として作用することでnAChRに対するアセチルコリン(ACh)の作用を増強させる(APL作用).In vitro試験および動物を用いた行動薬理学的評価から,ガランタミンは,アミロイドβによる神経細胞障害に対して保護作用を示し,学習記憶の低下に対して改善効果を示した.国内臨床試験(GAL-JPN-5試験)では,軽度および中等度のAD患者580例を対象に,ガランタミン16 mg/日および24 mg/日の有効性と安全性をプラセボ対照二重盲検法により検討した.主要評価項目はADAS-J cogおよびCIBIC plus-Jの二元評価とした.その結果,認知機能評価の指標であるADAS-J cogでは,16 mg/日および24 mg/日ともにプラセボとの間に統計学的有意差を認め,そのエフェクトサイズは16 mg/日よりも24 mg/日の方が大きかった.一方,全般臨床評価であるCIBIC plus-Jでは,両投与量群ともに有意差は認められなかった.安全性評価では,16 mg/日および24 mg/日の忍容性は良好であった.ガランタミンの剤形には,錠剤(4,8,12 mg),口腔内崩壊錠(4,8,12 mg)および内用液(4 mg/mL)があり,患者の嗜好や状態により適切な剤形の選択が可能である.以上のことから,ガランタミンは,AD患者における新たな治療選択肢として期待される.
著者
平田 拓
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.4, pp.146-150, 2012 (Released:2012-10-10)
参考文献数
10

不対電子のエネルギー吸収を特異的に検出することができる電子常磁性共鳴(EPR)分光(電子スピン共鳴,ESRとも呼ばれる)は,フリーラジカル分子の研究において強力な計測手法となっている.EPR分光は,核磁気共鳴(NMR)とは兄弟関係にある磁気共鳴分光法であり,NMRイメージング(核スピンの可視化)同様に電子スピンの分布を可視化するイメージング法も30年来研究されてきた.近年になり,短時間で電子スピンの3次元空間分布を計測する技術が開発された.本稿では,高速EPRイメージングを用いて,生体内の酸化還元状態を可視化する,レドックス計測について紹介する.電子スピンの緩和時間は,ナノ秒からマイクロ秒のオーダーであり,NMRと同様のパルス法による計測は容易ではない.特に,生体を対象とする低周波・低磁場のEPR計測では,連続波を用いた計測が主に用いられている.高速に磁場を掃引するEPRイメージング装置の開発により,生体内で寿命が短いフリーラジカル種の検出,測定が可能になった.また,ニトロキシルラジカルの寿命は溶液または生体中の還元作用の強さを反映するため,ニトロキシルラジカルの信号の消失速度を測定することにより,酸化還元状態(レドックス)をマッピングする方法を説明する.通常,3次元画像計測は長い計測時間が必要とされ,生体内でのレドックスマップを得ることは容易ではなかったが,計測技術の進歩により新しい生体計測への応用も可能になった.
著者
福井 裕行 大田 和美 山本 大助
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.113, no.5, pp.289-297, 1999 (Released:2007-01-30)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

H1受容体のヒスタミン結合に関与する5つのアミノ酸残基を同定した.部位特異的変異受容体の性質の検討と受容体モデリングを組み合わせる方法はこの研究の目的の達成に非常に有効であった.H1受容体にはヒスタミンとの非結合および結合に応じて不活化状態および活性化状態が存在し,ヒスタミンの結合により第V膜貫通領域のα-ヘリクスの捻れの弛むことが活性化状態へ移行するという機構を提唱したい.H1受容体のヒスタミン結合部位はリガンドの親和性に関与する部位と受容体の構造変化と活性化に直接関わる部位とに分かれた.そして,H1拮抗薬はH1受容体のヒスタミン結合部位のうちリガンドの親和性に関与する部位においてヒスタミンと拮抗する.H1受容体のリガンド結合様式はβ2-アドレナリン受容体,ヒスタミンH2受容体のそれとは異なった.
著者
清水 翔吾 Fotios Dimitriadis Nikolaos Sofikitis 齊藤 源顕
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.1, pp.35-39, 2016 (Released:2016-01-09)
参考文献数
30
被引用文献数
1

ホスホジエステラーゼ(PDE)は細胞内セカンドメッセンジャーであるcyclic guanosine monophosphate(cGMP)およびcyclic adenosine monophosphate(cAMP)を分解し,細胞内シグナルを調整する.PDEファミリーのうち,PDE5はcGMP選択的に作用し,精巣臓器だけでなく生殖器の様々な箇所に発現している.PDE5阻害薬は,男性不妊症の主な原因となる特発性造精機能障害の患者において,精子数,精子運動率および精子正常形態率を改善するという報告が散見される.精細管間質に存在するライディッヒ細胞は男性ホルモン(テストステロン等)の産生・分泌を行い,セルトリ細胞にテストステロンを供給する.一方,セルトリ細胞は精子形成に関与する細胞に栄養を与える機能を持つ.筆者らは,PDE5が発現するライディッヒ細胞と精細管周囲筋様細胞に着目し,PDE5阻害薬による造精機能障害改善の作用機序について検討を行った.PDE5阻害薬であるバルデナフィルとシルデナフィルをそれぞれ12週間,乏精子症かつ精子無力症患者に投薬した.投薬前と比較して投薬後では,ライディッヒ細胞分泌能の指標となる血清インスリン様ペプチド3および精液検査での精子濃度および精子運動率が増加していた.この結果から,PDE5阻害薬によるcGMPの増加がライディッヒ細胞分泌能を刺激し,精子濃度および精子運動率の増加に繋がる可能性が示唆された.さらに筆者らは,PDE5阻害薬が精子形成を促進する作用機序として,セルトリ細胞に注目した.セルトリ細胞でのPDE5の発現は報告されていないが,PDE5が発現する精細管周囲筋様細胞は成長因子を放出し,セルトリ細胞分泌能を刺激することがマウスで報告されている.筆者らは,閉塞性無精子症および非閉塞性無精子症患者に対して,PDE5阻害薬であるバルデナフィルを投薬したところ,投薬後では投薬前と比べて,セルトリ細胞分泌能の指標であるアンドロゲン結合タンパク質分泌量が増加していた.本稿では,造精機能障害におけるPDE5阻害薬の効果とその作用機序について,筆者らの研究結果を中心に紹介したい.
著者
新井 哲明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.494-498, 2007 (Released:2007-12-14)
参考文献数
34
被引用文献数
3 2

アルツハイマー病の症状は,中核症状である認知機能障害と,周辺症状である行動および心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)に大別される.中核症状に対しては,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬とNMDA受容体拮抗薬の有効性が確立しており,わが国で現在使用できるのは前者に属するドネペジルのみである.AChE阻害薬については,認知機能の改善あるいは安定化作用のほか,日常生活動作の維持,向精神薬使用頻度の低下,介護者負担の軽減,施設入所時期の遅延,費用対効果の低減,などの効果が報告されている.興奮,焦燥,幻覚,妄想などのBPSDに対する薬物療法としては,非定型抗精神病薬の有効性が確立しつつあったが,2005年米国食品医薬品管理局より死亡率の増加を指摘されたことから,その適応について議論が続いている.
著者
廣中 直行
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.4, pp.219-224, 2005 (Released:2005-06-01)
参考文献数
19

実験心理学的な手法を用いて行動に対する薬物効果を調べる行動薬理学は,現在の薬理学の中で確たる地歩を築いている.しかしながら,分子生物学や脳科学が急速に発展している今日,その存在意義が根本から問い直されていると言えるであろう.本稿では薬理学とくに創薬の現場と結びついた研究の領域で,動物の行動実験を行うことにどのような意義があるのかを考えてみたい.そこでまず行動薬理学の草創期を振り返り,条件回避行動に対するクロルプロマジンの静穏効果の発見,オペラント行動に対する薬物効果の頻度依存性の発見,薬物依存研究における薬物自己投与実験の創造という3大重要知見の意義を考察する.次に創薬の現場における行動実験の利用法について,(1)薬効薬理領域における動物モデルの考え方,(2)安全性薬理領域における行動テストバッテリーの組み方,(3)非臨床と臨床をつなぐ外挿の考え方について,筆者なりの見解を述べる.最後に,今後行動薬理学がいかなる方向に発展する可能性を宿しているか,脳科学や精神医学との関連を考える.
著者
松永 公浩 インドラ 星野 修 石黒 正路 大泉 康
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.supplement, pp.48-52, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
5

これまでに、ナンテニンは、胸部大動脈および腎動脈において、KC1およびヒスタミンによる収縮には影響を与えることなく、セロトニンによる収縮の用量作用曲線を顕著に右に平行移動させ、その作用が5-HT2A受容体阻害によることが示唆された。そこで、ナンテニンの構造類縁体を合成し、それらの抗セロトニン作用の構造活性相関を検討した。ナンテニンの6位の窒素原子上の置換基をメチル(ナンテニン)から水素あるいはエチルに置換すると、いずれの場合も活性が顕著に低下した。さらに、トリフルオロアセチル基に置換した類縁体では高濃度においても抗セロトニン作用を示さなかった。以上のことから、窒素原子上のローンペアが活性発現に重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、1位のメトキシル基(ナンテニン)を水酸基に置換するとナンテニンより約10倍活性の低下が認められた。また、4位に水酸基を導入すると、顕著な活性の低下が認められた。これらのことから6位の窒素原子上のローンペアが活性発現に極めて重要であり、次いで1位の水酸基がアルキル化していることおよび4位に水酸基などの立体障害が無いことが必要であると考えられた。そこで、受容体結合実験を検討したところ抗セロトニン作用の構造活性相関による解析と一致する結果が得られた。さらに、ロドプシンの構造をテンプレートとして、コンピューター解析により5-HT2A受容体の膜貫通領域の三次元構造を構築し、モレキュラーモデリングによる5-HT2A受容体とナンテニンおよび種々のナンテニン類縁体との相互作用の解析を行った。その結果、ナンテニンより活性が低下した類縁体では5-HT2A受容体との水素結合が、より弱くなっていることが示唆され、構造活性相関で得られた結果をモレキュラーモデリングにより説明することができた。
著者
大貫 敏男 長友 孝文 石黒 正路
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.114, no.supplement, pp.123-126, 1999 (Released:2007-02-27)
参考文献数
8

二次元電子密度マップから推定されたbactehorhodopsinあるいはfrog rhodopsinの構造をテンプレートとして、コンピュータ解析によりヒト-アドレナリン性β受容体の膜貫通部位の三次元構造を推定した。それぞれのテンプレートに由来する二つのモデルにおいて、推定されたα-helix領域、およびその相対位置あるいは配向性などに違いが認められた。このモデルを用い、代表的β受容体アンタゴニストであるpropranolol、および当研究室が薬理学的研究を行ってきた持続性β受容体アンタゴニストであるbopindolol(4-(3-t-butylamino-2-benzoyloxypropoxy)-2-methylindole)の結合様式を推定した。どちらのモデルを用いても、アンタゴニストの結合様式を推定することができた。しかし、両モデルにおいて推定された結合様式は異なっていた。すなわち、両モデルにおいてN末端から3、4、5および6番目のα-helixが結合に関与すると推定された点では一致するものの、関与するであろうアミノ酸残基が異なっていた。さらに、推定された結合様式からpropranololおよびbopindololのサブタイプ選択性、つまりβ1およびβ2サブタイプに対して高親和性であるが、β3サブタイプに対しては低親和性である点を一部説明することができた。
著者
鶴見 介登 平松 保造 林 元英 山口 東 呉 晃一郎 藤村 一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.261-283, 1974
被引用文献数
1

新規化合物K-308およびその側鎖の酢酸をプロピオン酸に代えたK-309について,抗炎症作用ならびに鎮痛作用をibufenac(IF),ibuprofen(IP)等と比較検討した.1)血管透過性充進ならびに浮腫などの急性炎症反応に対して,K-308はK-309と同等の抑制作用を示し,IFおよびIPと同程度の効力が認められた.2)紫外線紅斑に対してK-308はIFと同程度の抑制作用を示し,K-309はそれらよりわずかに弱かった.3)持続性浮腫および肉芽増殖などの亜急性炎症反応に対して,K-308は明らかな抑制作用を示しIFとほぼ同等の効力が認められた.K-309はそれらよりやや強い効力を示した.4)Adjuvant炎症における予防的ならびに治療的投与法において,K-308はいずれに対しても有意な抑制作用を示したが,K-309の方がやや強力であった.K-309はIPと同等の効力を示したが,Phenylbutazoneよりわずかに弱かった.5)胃粘膜障害作用はK-308とK-309は同等でIFやIPより弱く,胃腸障害は比較的弱いものと考えられた.6)鎮痛作用はK-308がAminopyrineよりわずかに弱い効力を示し,K-309はK-308より弱くIPと同程度であった.特に炎症性落痛Yom..対して有効のようであった.7)PSP排泄に対してK-308とK-309は同程度の抑制作用を示し,軽度な尿酸排泄促進作用が推測された.以上の成績からK-308およびK-309は,急性慢性の炎症性疾患に対してIFおよびIPと同等の効果が期待され,しかもそれらより胃腸障害は少なく,鎮痛抗炎症薬として臨床上価値のあるものと思われる.
著者
田村 智昭 小川 純子 谷口 登志悦 脇 功巳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.41-46, 1990
被引用文献数
1 3

摘出臓器標本を用いた電気刺激法により,中枢性鎮痛薬eptazocineとナビオイド受容体の相互作用について代表的なオピオイドと比較検討した.μ-,κ-受容体優位の摘出モルモット回腸標本の電気刺激による収縮に対して,eptazocine(10<SUP>-5</SUP>M)は僅かな減弱効果を示し,この作用にnaloxone(10<SUP>-7</SUP>M)は拮抗した.この標本においてμ-アゴニストmorphine(3×10<SUP>-7</SUP>M)による作用は,eptazocine(10<SUP>-5</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M)によって完全に拮抗された.一方,δ-,μ-,κ-受容体優位の摘出マウス輸精管標本で,eptazocineは10<SUP>-7</SUP>Mから濃度依存的に減弱効果(IC50値=3,387nM)を示し,この効力は,morphineの1/5,κ-アゴニストU50,488H,ethylketocyclazocine(EKC)の1/200,1/630であった.eptazocineのこの効果は他のオピオイドと異なりnaloxoneによっては回復せず,κ-選択的なアンタゴニストMR-2266(10<SUP>-6</SUP>M)で回復した.naloxone前処置標本において求めたeptazocineに対するKe値(平衡解離定数)325nMは,比較したオピオイドの中で最も高値で,morphine(5.20nM)の62.5倍となった.一方,MR-2266のeptazocineに対するKe値は33.2nMで,ナビオイド受容体K-サブタイプ選択性の指標としてKe値の比(325/33.2)を求めると9.79となり比較したアゴニストの中で最も高い数値を示した.これらの結果からeptazocineは,アゴニスト作用は弱いがκ-受容体により選択性の高い,μ-アンタゴニスト-κ-アゴニストであると考えられる.
著者
山﨑 基寛
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.1, pp.28-31, 2013 (Released:2013-07-10)
参考文献数
8

今日では,大手製薬企業の多くは上市する新薬の半分近くをオープンイノベーションとライセンシングに頼っている.オープンイノベーションの背景には,近年,新薬の種を見つけるゲノム創薬の最先端技術が急速に発展したこと,新薬の研究開発費は年々高騰しており大手製薬企業でも財政負担が限界に達していること等がある.ライセンシングが活発なのは,自社で必要な新製品を自社のみの研究開発からは生み出せないこと,バイオベンチャー企業が開発後期の化合物を多く出していること等がある.製薬企業のオープンイノベーションの現状とライセンシングの実態を紹介する.
著者
林 美貴子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.3, pp.169-174, 2013 (Released:2013-03-08)
参考文献数
16

デスモプレシン酢酸塩水和物の口腔内崩壊錠(ミニリンメルト®OD錠120 μg,240 μg)は,本邦初の経口夜尿症用剤として,2012年3月に承認を取得した.本剤は,アルギニンバソプレシン(AVP)の誘導体で,AVPの1位のアミノ酸を脱アミノ化し,さらに8位のL-アルギニンをD-アルギニンに置換した合成ペプチドである.また,腎集合管細胞に分布するV2受容体を活性化して水の再吸収を促進する薬理学的作用(抗利尿作用)をもつ選択的V2受容体アゴニストである.デスモプレシンのラットにおけるバソプレシンV1,V2受容体およびオキシトシン受容体に対する結合親和性(Ki)はそれぞれ1748,1.04,81 nmol/L であり,バソプレシンV2受容体に選択的な結合親和性を示した.デスモプレシンは,バソプレシンV1受容体に比べV2受容体に対して高い選択性を有し,昇圧作用をほとんど有さず,用量に依存して抗利尿作用が長時間持続する特徴を有している.夜尿症患者を対象とした国内第III相試験では,本剤投与3~4週の14日間あたりの,ベースラインからの夜尿日数減少量は,本剤が3.3日,プラセボが1.5日で,本剤はプラセボに比べ有意に夜尿日数を減少させることが確認された.また,安全性においても特に問題となる有害事象は認められなかった.これらの結果より,夜尿症患者に対する本剤の安全性,忍容性が確認された.デスモプレシン製剤は,海外で40年にわたる臨床使用経験がある.経鼻製剤では,アレルギー性鼻炎等による,鼻腔粘膜からの吸収障害による薬効への影響等が認められていた.経口製剤の開発により,そのような課題が克服された.夜尿症治療に重要とされる水分摂取管理において,水なしで服用できる本OD錠は安定した臨床効果が期待できる.投与の簡便性も加わり,夜尿症で悩む患者のQOLの向上に貢献しうる薬剤であると考えられる.
著者
関 隆志
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.5, pp.234-236, 2015 (Released:2015-05-10)
参考文献数
25

塩酸ドネペジルをすでに内服しているアルツハイマー病(AD)患者にノビレチン高含有の陳皮(N陳皮)を投与して安全性を検証するとともに,ADの認知機能への効果を検討する.塩酸ドネペジル内服中の中程度から軽度の認知機能障害のあるAD患者を2群に分けて,介入群と対照群とした.MMSEおよびADAS-Jcogにて認知機能を評価した.観察期間は1年とし,介入群には塩酸ドネペジルおよびN陳皮の煎じ薬を毎日1年間投与した.対照群は塩酸ドネペジルのみ投与を続けた.介入群では,1年の間でMMSEおよびADAS-Jcogの有意な変化を認めなかった.一方で対照群ではMMSEおよびADAS-Jcogが有意に悪化した.ADAS-Jcogの1年間の変化量は二群間で有意な差が認められた(P=0.02).塩酸ドネペジルを内服中のADの認知機能の悪化をN陳皮の1年間の投与が食い止める可能性が示唆された.
著者
梛野 健司 堤 健一郎 石堂 美和子 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.2, pp.92-99, 2015 (Released:2015-02-10)
参考文献数
29

シメプレビルは,大環状構造を有する第2世代のプロテアーゼ阻害薬であり,ペグインターフェロン(PegIFN)およびリバビリン(RBV)と併用して,C型肝炎ウイルス(HCV)genotype 1の慢性感染の治療に使用する.本薬の作用機序は,HCVの非構造タンパク質(NS)の1つであるNS3/4Aプロテアーゼに結合し,NS3/4Aプロテアーゼが関与するHCVタンパク質のプロセッシングおよびRNA複製を阻害して抗HCV活性を発揮する.HCVレプリコンに対するシメプレビルのin vitro抗HCV活性は,HCV genotype 1aおよびHCV genotype 1bに対して同程度の活性を持ち,第1世代プロテアーゼ阻害薬であるテラプレビルと比較して強い.シメプレビルの抗HCV活性は,インターフェロン(IFN)またはリバビリンとの併用により,相乗または相加作用を示した.日本で実施したHCV genotype 1・高ウイルス量のC型慢性肝炎患者を対象とした臨床試験において,シメプレビル100 mg 1日1回をPegIFNα-2a/2bおよびRBVと併用投与したときの治療終了後12週時の持続的ウイルス陰性化(SVR12)率は,初回治療例および前治療再燃例で約90%,前治療無効例で約40~50%であり,安全性および忍容性は良好であった.C型肝炎治療ガイドラインにおいて,シメプレビルとPegIFNおよびRBVの3剤併用療法は,HCV genotype 1・高ウイルス量のC型慢性肝炎患者に対するIFN-based therapyの第1選択薬とされており,シメプレビルはC型慢性肝治療に大きく貢献できる薬物である.