著者
熊谷 浩一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.2, pp.59-61, 2010 (Released:2010-02-14)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2 1

心房ストレッチや炎症によりアンジオテンシンIIが上昇すると,Ca2+過負荷をきたし撃発活動を誘発し,肺静脈から群発興奮が発火する.この頻回興奮により不応期が短縮する(電気的リモデリング).一方,アンジオテンシンIIの上昇はErkカスケードを活性化し,線維化を促進する(構造的リモデリング).心筋の線維化は伝導障害を招き,リエントリーの素地ができると多数の興奮波が形成され心房細動はさらに持続すると考えられる.ACE阻害薬やARBは短期的な電気的リモデリングを抑制するだけでなく,線維化のような長期的な構造的リモデリングに対しても抑制効果があるため,心房細動慢性化予防のアップストリーム治療のひとつになりうることが期待される.
著者
寺田 安一 伊藤 均
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.304-315, 1970 (Released:2007-03-29)
参考文献数
25

The toxic agent involved in the extract of rotten short-neck clam was searched by us chemically and pharmacologically, The results are as follows: 1) Tyramine, putrescine, agmatine and cadaverine were produced in it, though histamine was not. 2)Choline was produced in it. Its amount was 1.70-4.25 mg/g. 3) The antagonistic manner of atropine or benadryl against to the intestinal contraction of a guinea pig caused from the serosal side in vitro by this extract was similar to that against to the choline action. 4) The rotten extract induced the contraction of a guinea pig alimentary tract from its mucosal side in vivo. 5) Choline induced the contraction of a guinea pig alimentary tract from its mucowl side in vivo with the concentration of 1.70-4.25 mg/ml. 6) The quantity of feces excreted from a guinea pig increased without delay after oral administration of 5 ml of that rotten extract, but returned to the normal quantity in 5 hours. From the above data, the agent of the food poisoning caused by rotten short-neck clam is considered to be choline in it.
著者
喜田 聡 内田 周作
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.17-24, 2005 (Released:2005-03-01)
参考文献数
12

情動行動は生命を維持するために生じる動物の本能的行動であり,外的・内的な様々な環境要因を反映して制御されると考えられる.我々は,核内受容体のリガンド結合ドメインをツールとして用いた遺伝子操作マウスの解析過程でヒントを得て,ステロイドホルモンや,ビタミンAの活性本体であるレチノイン酸などをリガンドとする一連の核内受容体群が情動行動制御に関わるのではないかと考え,この作業仮説を検討した.その結果,エストロゲン受容体,あるいは,レチノイン酸受容体のアゴニストを投与すると,マウスの不安行動が亢進すること,また,社会行動に変化が生じ,特に社会優勢度が上昇することが明らかとなった.さらに,野生型のエストロゲン受容体を前脳領域特異的に過剰発現するマウスを作製,解析したところ,過剰発現によってアゴニストを投与した場合とほぼ同様の効果が観察された.以上の点から,エストロゲンやレチノイン酸をリガンドとする核内受容体群が情動行動制御に関わっていること,さらに,生体内で恒常性維持に寄与するホルモンや必須栄養素が情動行動制御に関わる可能性が示唆された.
著者
松永 勇吾 田中 貴男 齋藤 洋一 加藤 博樹 武井 峰男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.2, pp.84-94, 2014 (Released:2014-02-10)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

アコチアミド塩酸塩水和物(アコファイド®錠,以下,アコチアミド)は,機能性ディスペプシア(FD)の治療薬として,ゼリア新薬工業株式会社で創製されたアセチルコリンエステラーゼ(以下,AChE)阻害薬である.FDは胃十二指腸領域から発せられる食後のもたれ感,早期満腹感,心窩部痛または心窩部灼熱感などの症状を呈するが,それらの症状の原因となりそうな器質的病変が認められない機能性消化管障害である.症状の発症要因の一つとして,FD患者において胃前庭部の運動の低下や胃排出の遅延が認められていることから,症状の改善には消化管運動を亢進させ,機能を改善させることが有用であると考えられる.アコチアミドはAChE阻害作用を有し,イヌおよびラットにおいて胃運動亢進作用を示し,さらに,アドレナリンα2受容体作動薬であるクロニジンによって惹起させた胃運動低下モデルおよび胃排出遅延モデルなどの消化管機能低下に対して改善効果を示した.臨床第II相試験において,FD患者を対象にアコチアミドの有効性を検討した結果,主要評価項目である最終調査時点の被験者の印象では本剤1回100 mg群はプラセボ群,50 mg群および300 mg群より改善率が高かった.このため,本剤1回100 mg(1日3回)を臨床推奨用量とし,臨床第III相試験で食後の膨満感,上腹部膨満感および早期満腹感の症状を有するFD患者を対象に有効性を検討した.主要評価項目である被験者の印象の改善率および3症状(食後の膨満感,上腹部膨満感および早期満腹感)消失率共に100 mg群でプラセボ群より有意に高い値を示した.よって,本剤1回100 mg 1日3回投与でのFDに対する有効性が確認された.また,本剤休薬後も改善効果が維持されることが示唆された.さらに,長期投与試験において本剤休薬後に症状の再燃が認められた場合でも,耐性を形成させることなく,服薬を再開することで再度の改善が得られると考えられた.以上のことから,アコチアミドはFD患者の食後膨満感,上腹部膨満感,早期満腹感などの諸症状に対して改善効果を示す薬剤であり,FDの治療薬として有用な薬剤になると期待される.
著者
水野 誠
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.6, pp.246-250, 2012 (Released:2012-06-11)
参考文献数
14

高血圧症の治療に関し,血圧を適切なレベルまで低下させることが第一の目標となるが,治療の最終的な目的は高血圧に合併する臓器障害を予防することにある.高血圧症患者の多くは本態性高血圧症に分類され,その原因には多様な因子が関与している.そのため1種類の薬剤では血圧がコントロールできず,複数の薬剤の併用が必要になる患者が多い.その併用を考えるうえでも,臓器保護作用を視野に入れて降圧剤を選択する必要がある.降圧剤の中でも,特に臓器保護作用が強いと考えられているのがアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)とカルシウム拮抗薬(CCB)であり,その臓器保護作用に注目して検討を行った.Dahl食塩高血圧ラットは,高血圧の進行と共に臓器障害を発症し死亡するモデルである.本モデルにおいて,ARBのオルメサルタンメドキソミル(OLM)とCCBのアゼルニジピン(AZL)の血圧に影響を与えない用量を併用したところ,各々の単剤に比べ相乗的な延命作用が認められた.この延命作用は,血圧を低下させない用量でも認められ,血圧を低下させる用量では,延命効果はさらに増強した.OLMとAZLのような降圧剤併用においては,血圧低下に加え,降圧作用以外のメカニズムも臓器保護作用に大きく関与すると考えられる.降圧作用以外のメカニズムとして,抗炎症作用,抗酸化作用,抗線維化作用,抗増殖・肥大作用などが考えられ,そこには薬剤クラスに共通した作用と化合物固有な作用が関与し得る.OLMとAZLの併用により,高血圧に伴う心血管疾患の罹患率および死亡率の減少への貢献が期待できる.
著者
田村 智昭 谷口 登志悦 青城 優 脇 功巳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, pp.167-175, 1990
被引用文献数
1 1

マウスを用いた低酸素性脳障害モデルにおける生存時間の延長を指標に,中枢性鎮痛薬eptazocineの脳保護効果について検討した.KCN(3mg/kg,i.v.)負荷致死試験においてeptazocine 1,3,10mg/kgは生存時間を13.8,21.5,45.1%と用量依存的に延長し,この効果はnaloxone(5mg/kg)によって完全に抑制された.オピオイドκ-アゴニストのEKC,U50,488Hも有意な効果を示したが,その効力はeptazocineと比較すると弱かった,eptazocine(3,10mg/kg),EKC(10mg/kg)は減圧(190mmHg)負荷致死試験においても有意な脳保護効果が認められた.しかし,morphine(5mg/kg),pentazocine(10mg/kg)は逆に生存時間の短縮を示した.eptazocineの効果はnaloxone(5mg/kg),atropine(0.5mg/kg)いずれの前処置によっても減弱され,その作用態度はphysostigmine,diazepamの場合とは異なっていた.さらに,eptazocine(1mg/kg)とphysostigmine(0.075mg/kg)を併用した場合には相乗となった.一方eptazocine(10mg/kg)の脳保護効果は,オピオイドκ-受容体選択的なアンタゴニストMR-2266によってnaloxoneの1/5量で拮抗された.以上の結果から,eptazocineはその鎮痛用量でオピオイド炉受容体を介して脳保護効果を惹起し,その機序に脳ACh神経系の賦活化が関与する可能性が示唆された.
著者
窪田 香織 野上 愛 高崎 浩太郎 桂林 秀太郎 三島 健一 藤原 道弘 岩崎 克典
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.110-114, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1

我が国は超高齢社会を迎え,認知症患者数の増加は深刻な問題である.しかし認知症の根治的治療法は確立しておらず,患者の日常生活動作(activity of daily living:ADL)を低下させない新しい認知症治療薬が求められている.その中で,ADLを低下させずに認知症の症状を改善する漢方薬・抑肝散が脚光を浴び,主に幻覚,妄想,抑うつ,攻撃行動,徘徊などの行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)に使われている.しかし,その作用機序はよく分かっていない.そこで漢方薬である抑肝散の認知症治療薬としての科学的背景を明らかにすることが必要となった.我々は,抑肝散がメタンフェタミン投与による興奮モデル動物において自発運動の異常増加を抑制すること,単独隔離ストレスによる攻撃行動,幻覚モデルとしてのDOI投与による首振り運動,不安様行動,ペントバルビタール誘発睡眠の短縮や夜間徘徊モデルの明期の行動量増加のようなBPSD様の異常行動を有意に抑制することを明らかにした.また,8方向放射状迷路課題において,認知症モデル動物の空間記憶障害を改善することを見出した.記憶保持に重要な海馬において神経細胞死の抑制やアセチルコリン遊離作用が認められ,これらの作用によって抑肝散の中核症状に対する改善効果も期待できることが示唆された.さらに,中核症状,BPSDいずれにもNGFやBDNFなどの神経栄養因子の関与が注目されているが,抑肝散には神経栄養因子様作用や神経栄養因子増加作用があることが分かり,この作用も中核症状・BPSDの改善効果に寄与するものと考えられる.以上のことから,抑肝散は,認知症患者のBPSDならびに中核症状にも有効で,さらに他の神経変性疾患や精神神経疾患の治療薬としても応用が期待できることが示唆された.
著者
倉智 嘉久 山田 充彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.5, pp.311-316, 2005 (Released:2006-01-01)
参考文献数
13
被引用文献数
3 3

ATP感受性K+チャネル(KATPチャネル)は,細胞内の代謝状態と細胞膜の興奮性を結びつけている内向き整流性K+チャネルである.KATPチャネルは,ABCタンパクファミリーに属するスルフォニルウレア受容体(SUR)と膜2回貫通型のKir6.xからなる,異種八量体(hetero-octamer)構造をとっている.KATPチャネルは,種々のK+チャネル開口薬,阻害薬,あるいは細胞内のヌクレオチドにより,その活性が制御される.これらは全てSURサブユニットに作用点をもっており,SURのサブタイプにより反応が異なる.最近,種々のイオンチャネルやABCトランスポーターの三次元分子構造が明らかにされてきた.これらを基礎として,KATPチャネル制御の構造的機能モデルを我々は提案した.本稿ではこのモデルを中心として種々の薬物やヌクレオチドによるKATPチャネルの活性制御について考察する.
著者
杉本 忠則
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.5, pp.265-270, 2009 (Released:2009-11-13)
参考文献数
13

薬物を併用した場合の相乗効果の評価を行う際に検定を用いることがあるが,薬物反応の理論的背景を考えると適切でない場合がある.受容体理論に従えば,薬物用量と反応値との関係は数式として記述することができる.2薬物が併用された場合も,受容体理論を展開し薬物用量と反応値との関係を数式化することができるため,薬物反応の理論に基づくデータ解析が可能である.今回紹介する解析手法は,効力の異なる2種類の部分作動薬あるいは余剰受容体がない完全作動薬が併用されたときに測定される反応値と理論的な反応値とを比較する手法である.本解析手法は実験データを理論式に非線形回帰させ反応を決定するパラメータを推定するものであるが,回帰させる理論式には相加効果からの解離度合いを示すパラメータが組み入れられている.なお,本稿では相加を2種類の薬物を併用した場合に各薬物が同一受容体に結合し独立に発現する反応の加算としている.解析により各パラメータの点推定値と95%区間推定値が得られるが,相加効果からの解離度合いを示すパラメータの大きさに対し薬理学的意味を考慮して検討することにより2薬物併用による効果が評価できる.
著者
舩田 正彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.10-16, 2005
被引用文献数
4 3 2

薬物依存症の治療法の確立および治療薬の開発のために,依存性薬物による精神依存形成機構の解明が必要である.このためには,精神依存動物モデルを確実に,かつ安定して獲得する方法論を確立することが必須となる.条件付け場所嗜好性試験(Conditioned place preference,CPP法)は,薬物の精神依存形成能を報酬効果から予測する方法として注目されている.CPP法はパブロフ型条件付けの原理に基づいており,動物に薬物を投与した時,その薬物が引き起こす感覚効果(中枢神経作用)と装置の環境刺激(視覚,触覚,嗅覚刺激など)を結びつける方法として開発された.CPP法は薬物の報酬効果を簡便な装置を利用することで,短期間で評価できることが最大の特徴である.また,短期間での評価が可能であることから,薬物の脳内微量注入による条件付けにより,精神依存形成における責任脳部位の同定が可能になった.一方,揮発性有機溶剤は"吸入"により乱用されることから,依存形成メカニズム解明のためには,薬物吸入により精神依存性を評価する装置の開発が必須であった.そこで,薬物吸入による揮発性有機溶剤用CPP装置の開発を試みた.その結果,トルエン吸入により報酬効果の発現が確認された.このCPP装置は簡便な操作で,一定量の揮発性有機化合物を動物に吸入させることができ,トルエン以外の揮発性有機化合物の報酬効果の評価にも応用できると考えられる.CPP法は装置を工夫することで薬物吸入による依存モデルの作製も可能であり,さまざまな薬物の精神依存形成能の一次的評価方法として非常に有用である.また,操作が簡便であり,評価に要する時間も短期間であることから,薬物の精神依存形成機構の解明に大きく貢献する評価法の一つである. 現在,わが国は第三次覚せい剤乱用期にあり,薬物乱用が大きな社会問題となっている.特に,覚せい剤,コカインおよび大麻などの違法性薬物の入手の可能性がこれまでになく高まり,薬物乱用の若年層への拡大が表面化している.また,こうした薬物の慢性的な使用により,精神疾患を発症することが知られている.医療施設における薬物関連精神疾患に関する調査から,その発病に至る薬物として覚せい剤が50%,有機溶剤は30%を占め主要な原因薬物になっているのが現状である(1,2).こうした薬物関連精神疾患,薬物依存症の治療法の確立およびその治療薬の開発のために,依存性薬物による精神依存形成機構の解明が必要である. さらに,法的規制を受けていない化学物質である通称"脱法ドラッグ"の乱用は若年層を中心に浸透しているのが現状である.こうした化学物質は,強力な精神依存形成能を有する危険性や未知の毒性などが発現する危険性を有する.事実,幾つかの化学物質は乱用され重大な社会問題となっている.したがって,化学物質の薬物依存性を,迅速に評価できる動物実験の必要性が高まっている. こうした背景から,薬物の依存形成能を迅速に評価し,さらに精神依存動物モデルを確実かつ安定して獲得する方法論を確立することが重要である.国内および海外の研究施設において,条件付け場所嗜好性試験(Conditioned place preference,CPP法)は,薬物の精神依存形成能を報酬効果から予測する方法として注目されている(3,4).海外では1980年代に,ラットを使用した研究からCPP法が確立されてきた(3,4).国内では1990年代に世界に先駆けて,鈴木らにより遺伝子改変マウスの利用を視野に入れたマウスを使用したCPP法が確立された(5).その後,マウスを利用したCPP法に関する研究報告が飛躍的に増えている.CPP法に関する詳細な実験技術に関しては,既に鈴木らのグループにより紹介されている(5,6).本総説では,こうした報告を踏まえCPP法の基礎として,実際の実験方法と実験を実施する際の留意点に関して総括した.また,CPP法は薬物の報酬効果を,短期間で評価できることが最大の特徴および有用性である.すなわち,動物の維持が短期間で済むため「薬物の脳内微量注入による条件付け」の実施が可能になった.そこで,こうした技術とCPP法を利用した薬物の報酬効果発現の解析を通じ,明確になりつつある薬物精神依存形成における責任脳部位に関する代表的な知見をまとめてみた.さらに,CPP法の応用例として,当研究部で確立に成功した揮発性有機溶剤であるトルエン吸入による報酬効果評価の実例を紹介する.<br>
著者
藤井 秀二 村上 善紀 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.5, pp.275-285, 2013 (Released:2013-05-10)
参考文献数
35
被引用文献数
1 2

抗TNF製剤は,リウマチ(RA)などの自己免疫疾患の治療に欠かせない薬剤となっている.ゴリムマブは,これまでの抗TNF製剤の優れた有効性を保持したまま,従来の抗TNF製剤において長期治療の障害になってきた抗薬物抗体の出現,投与部位反応,適切な投与間隔および複数の投与経路を有することなどの点を改善することを目標として開発されたヒト型抗ヒトTNFα抗体である.ゴリムマブは,抗体製剤としては,物理化学的な安定性に優れ,TNFαに対する強い親和性および中和活性を示した.また,ゴリムマブは IgG1のFc領域を有し,FcRnに結合するため体内での半減期が長く,また,Fcγ受容体に結合することから,インフリキシマブおよびアダリムマブと同様な生物活性を示すことが予想された.ゴリムマブのRAに対する海外臨床試験は,2001年から開始され,米国では2009年4月,欧州では2009年10月に承認された.日本での臨床開発は,2006年から第I相単回投与試験を開始し,第II/III相試験を経て2011年7月に承認された.これらの臨床試験において,ゴリムマブを4週間隔で皮下投与したときRAに対する症状および徴候の軽減,身体機能改善および関節破壊進展抑制効果が認められ,安全性も確認された.また,これらの臨床試験から,ゴリムマブはRAの疾患活動性に応じた投与量の選択が可能なこと,単剤でも使用できること,抗ゴリムマブ抗体の陽性率が低いこと,注射部位反応の発現率が低いこと,既存の抗TNFα製剤を使用していた患者にも有効性を示すことなどの特徴が明らかとなった.本稿ではゴリムマブのこのような特徴を紹介する.
著者
南 雅文 佐藤 公道
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.5-9, 2005 (Released:2005-03-01)
参考文献数
4

「痛み」は感覚的成分(sensory component)と感情的あるいは情動的成分(affectiveあるいはemotional component)からなる.これまでに感覚的成分に関しては精力的に研究されその分子機構も次第に明らかになりつつあるが,感情的成分に関する研究は未だ緒についたばかりである.本稿では,「痛み」の感情的成分である「負の情動反応」における扁桃体の役割とそれに関連する神経情報伝達機構について筆者らの研究成果を紹介する.ホルマリン後肢皮下投与により惹起される体性痛(somatic pain)により扁桃体基底外側核においてc-fos mRNA発現が誘導されたが,扁桃体中心核では発現誘導されなかった.一方,酢酸腹腔内投与による内臓痛(visceral pain)ではc-fos mRNA発現は中心核で誘導されるが,基底外側核では誘導されなかった.また,ホルマリンにより惹起される場所嫌悪反応は,基底外側核あるいは中心核のいずれかを予め破壊することで著しく抑制されたが,酢酸による場所嫌悪反応は,中心核の破壊によってのみ抑制され基底外側核の破壊では影響を受けなかった.これらの結果は,「痛み」の感情的成分である「負の情動反応」に関わる神経回路が,体性痛と内臓痛とでは異なることを示唆している.ホルマリンによる体性痛の際には基底外側核においてグルタミン酸遊離が増加し,NMDA受容体拮抗薬の基底外側核への局所投与によりホルマリンによる場所嫌悪反応が抑制された.さらに,基底外側核へのモルヒネ局所投与はホルマリンによるグルタミン酸遊離と場所嫌悪反応をともに抑制した.これらの知見は,ホルマリン投与により引き起こされる「負の情動反応」に基底外側核でのNMDA受容体を介した神経情報伝達が重要な役割を果たしていることを示唆している.また,モルヒネがこの情報伝達を抑制的に調節することも明らかとなり,モルヒネの鎮痛作用には,「痛み」の感覚的成分である痛覚情報伝達を抑制するという直接的な作用機序だけでなく,「痛み」の感情的成分である「負の情動反応」を抑制するという作用機序も関与していることが考えられる.
著者
茶木 茂之 奥山 茂
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.196-200, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

ストレス社会を反映して,うつ病・不安障害などのストレス性疾患を患う患者数は増加の一途を辿っているが,現在使用されている抗うつ薬は治療効果および作用発現の速さという点で必ずしも満足できるものではない.最近,種々の神経ペプチドと呼ばれる短鎖アミノ酸がストレス反応において中心的役割を果たす分子として注目されている.神経ペプチドは感情およびストレス反応に関与する脳内の特定部位において生合成され,神経伝達物質あるいは調節物質として機能する.さらに,それらの発現および遊離はストレス負荷によって顕著に変化し,脳内神経回路あるいは神経内分泌系を介して種々のストレス反応を惹起する.神経ペプチドは細胞膜表面に発現するそれぞれの神経ペプチドに特異的な受容体に結合することにより生理機能を発現する.さらに,それぞれの受容体には通常数種類のサブタイプが存在することが知られている.各神経ペプチド受容体サブタイプに特異的な化合物および受容体サブタイプの遺伝子改変動物を用いた行動薬理学的検討により,各神経ペプチド受容体サブタイプの生理機能およびうつ病との関連が明らかになりつつある.これら神経ペプチド受容体の中で,コルチコトロピン放出因子1型受容体,バソプレッシン1b受容体,メラニン凝集ホルモン1型受容体およびメラノコルチン-4受容体はストレス反応との関連が示唆されている.さらに,それぞれの受容体に特異的な拮抗薬が創出され,種々動物モデルにおいて抗うつ作用が認められたことから,これらの受容体の新規抗うつ薬創出のターゲットとしての有用性が期待される.
著者
浅井 将 城谷 圭朗 近藤 孝之 井上 治久 岩田 修永
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.1, pp.23-26, 2014 (Released:2014-01-10)
参考文献数
18
被引用文献数
1

アルツハイマー病の原因物質アミロイドβペプチド(amyloid-β peptide:Aβ)はその前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein:APP)からβおよびγセクレターゼの段階的な酵素反応によって産生される.アルツハイマー病の発症仮説である「アミロイド仮説」を補完する「オリゴマー仮説」は,オリゴマー化したAβこそが神経毒性の本体であるとする仮説であるが,オリゴマーAβのヒトの神経細胞への毒性機構や毒性を軽減する方法は未だ不明であった.そこで我々は,この問題点を解決すべく若年発症型家族性アルツハイマー病患者2名および高齢発症型孤発性アルツハイマー病患者2名から人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)を樹立し,疾患iPS細胞から神経細胞に分化誘導を行って細胞内外のAβ(オリゴマー)の動態と細胞内ストレス,神経細胞死について詳細に検討した.その結果APP-E693Δ変異を有する家族性アルツハイマー病患者由来の神経細胞内にAβオリゴマーが蓄積し,小胞体ストレスおよび酸化ストレスが誘発されていることがわかった.一方,1名の孤発性アルツハイマー病患者においても細胞内にAβオリゴマーの蓄積と上記と同様の細胞内ストレスが観察された.これらの小胞体ストレスおよび酸化ストレスはβセクレターゼ阻害薬によるAβ産生阻害やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)によって軽減された.このように孤発性アルツハイマー病においても Aβオリゴマーが神経細胞内に蓄積するサブタイプが存在すること,およびこのサブタイプに対する個別化治療薬としてDHAが有効である可能性を示した.
著者
坪井 良治
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.2, pp.78-81, 2009-02-01

男性型脱毛症の治療は代表的な若返りのひとつであり,一般の人々の関心も高い.男性型脱毛症(壮年性脱毛)の診断と病態を簡単に述べるとともに,男性型脱毛症に対する治療の現状と展望について概説した.現在は,内服治療薬であるフィナステリドと外用育毛剤であるミノキシジルが,安全で有効性の高い薬剤として,単独ないし併用で広く使用されている.このほかにも数多くの外用育毛剤が使用されているが,育毛・発毛・ヘアケアに関する根拠のない情報も氾濫しているので,エビデンスに基づいた情報の提供が求められている.<br>
著者
宮里 勝政
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.27-34, 2001 (Released:2002-09-27)
参考文献数
41
被引用文献数
5 5

タバコ/ニコチン依存症は精神依存と身体依存の双方を含んでいる.臨床での最近のまとめは世界保健機構の国際疾病分類第10版に詳しい.ニコチンの強化効果がドパミン(DA)を介しているとの知見は増え続けている.DA受容体拮抗薬投与によりDA機能を阻害すると, ニコチンの弁別刺激能, ニコチンによる頭蓋内自己刺激の促進, ニコチン静脈内自己投与, ニコチンの条件性場所嗜好性が影響を受ける.側坐核での細胞外液中のDA増加はニコチン自己投与には欠かせない現象である.最近では, 腹側被蓋野のα7ニコチン性受容体が中脳辺縁系DA神経でのニコチンの急性効果, 強化効果, 退薬症候の発現に関与していることがわかってきた.腹側被蓋野のN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体へのグルタミン酸の作用もニコチンが側坐核においてDA放出を促進するのに必要である.分子遺伝学的研究からは, 喫煙がセロトニントランスポーター遺伝子と神経質性(neuroticism)双方が同時に存在することにより強く影響されることがわかっている.臨床的には抗うつ薬であるbupropionが米国ではニコチン依存症者への処方薬になっている.その効果は側坐核でのDA濃度を高めることによると考えられている.
著者
鷲塚 昌隆 平賀 義裕 古市 浩康 泉 順吉 吉長 幸嗣 阿部 亨 田中 芳明 玉木 元
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.111, no.2, pp.117-125, 1998-02-01
被引用文献数
6

今回我々は,エタノールによるマウスの行動障害に対し,酵素阻害薬を用いてエタノールおよびアセトアルデヒドの関与と,蛋白加水解物である肝臓水解物の作用について検討した.さらに,エタノールあるいはアセトアルデヒドによるマウスの致死毒性およびラットの肝毒性に対する肝臓水解物の作用について検討し,以下のような結果を見いだした.1:エタノール5ml/kgの経口投与によって歩行および摂食に対する障害が認められた.2:これらの障害に対して,肝臓水解物は経口投与により用量依存的な改善作用を示した.3:アルコール脱水素酵素阻害剤の前投与によって肝臓水解物の改善作用に明らかな減弱が認められたが,アルデヒド脱水素酵素阻害剤の前投与では肝臓水解物の改善作用に影響は認められなかった.4:エタノール10m1/kgを経口投与した時に生じる正向反射の消失および死亡に対し,肝臓水解物は改善作用を示さなかった.一方,アセトアルデヒド1.8ml/kgを経口投与した時に生じる正向反射の消失および死亡に対し,肝臓水解物は用量依存的な改善作用を示した.5:アセトアルデヒド1.2ml/kgを1時間間隔で2回経口投与した時に認められる血清中のGPT活性の上昇に対し,肝臓水解物は抑制作用を示した.以上の結果から,肝臓水解物はエタノールにより引き起こされる毒性症状に対して改善作用を有し,これらの改善作用は主にアセトアルデヒドの毒性軽減に起因することが示唆された.
著者
戸村 秀明 茂木 千尋 佐藤 幸市 岡島 史和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.6, pp.240-244, 2010-06-01
被引用文献数
2

OGR1(Ovarian cancer G-protein-coupled receptor 1),GPR4,TDAG8(T-cell death-associated gene 8),G2A(G2 accumulation)は,お互いのアミノ酸の相同性が40-50%のGタンパク質共役型受容体(GPCR)である.これらの受容体は最初,脂質性メディエーターに対する受容体として報告されたが,2003年のLudwigらによる報告以降,これらの受容体が細胞外プロトンを感知するプロトン感知性GPCRであることが,明らかとなった.OGR1,GPR4,G2Aが脂質メディエーターであるsphingosylphospholylcholine(SPC)やlysophosphosphatidylcholine(LPC)に対する受容体であるとの説は,受容体への結合実験の再現性の問題から,現在は疑問視されている.細胞外pHの低下に伴いプロトン感知性GPCRは,受容体中のヒスチジンがプロトネーションされる結果,立体構造が活性型に移行し,種々の三量体Gタンパク質を介して,多様な細胞内情報伝達系を活性化させると考えられている.G2Aに関しては生理的なpH条件下で恒常的な活性化が観察されるので,別の活性化機構が提唱されている.生体内のpHは7.4付近に厳密に調節されていることから,細胞外pHの低下は炎症部位やがんなど局所的に起こっていることが予想される.実際,炎症やがんなどで,プロトン感知性GPCRを介した作用が,我々の報告を含め,細胞レベル,個体レベルで報告されている.これまでの研究結果から,発現するプロトン感知性GPCRの種類の違いにより,炎症部位で異なる応答が惹起される可能性が浮上してきた.さらに最近,各受容体の欠損マウスの報告が出そろい,プロトン感知性GPCRの研究は新たな段階に入ってきた.プロトン感知性GPCRの研究は,炎症やがんに対する新たな視点からの創薬へのきっかけにつながる可能性を秘めている.
著者
岩田 修永 樋口 真人 西道 隆臣
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:13478397)
巻号頁・発行日
vol.131, no.5, pp.320-325, 2008-05-01

アルツハイマー病(AD)では脳内のアミロイドβペプチド(Aβ)の凝集・蓄積が発症の引き金となることから,本症の根本的な克服のためには脳内Aβレベルを低下させることが必要である.Aβは前駆体タンパク質よりβおよびγセクレターゼによる二段階切断によって産生するが,分解過程にはネプリライシンが深く関わる.ネプリライシンは既報のAβ分解酵素の中で唯一オリゴマー型Aβを分解できる酵素的特性を有し,シナプス近傍におけるオリゴマー型Aβの分解に寄与する.このように脳内Aβの動態にはプロテアーゼが大きな役割を果たす.一方,最近の研究で,Ca<sup>2+</sup>依存性細胞内システインプロテアーゼ・カルパインの活性化により,脳内Aβの蓄積およびタウのリン酸化が促進することが明らかになった.本節では,AD研究の現在の動向について触れるとともに,Aβの神経毒性機構(オリゴマー仮説)とこれらのプロテアーゼを標的としたADの治療戦略について解説する.<br>