著者
木戸 博 Chen Ye 山田 博司 奥村 裕司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.45-53, 2003-07-01
被引用文献数
2

インフルエンザウイルスの生体内増殖に個体由来のトリプシン型プロテアーゼが必須で,ウイルスの感染性発現の決定因子になっている.最近このプロテアーゼ群の解明が進み,気道の分泌型プロテアーゼのトリプターゼクララ,ミニプラスミン,異所性肺トリプシン,膜結合型トリプシン型プロテアーゼ群が相次いで同定された.これらのプロテアーゼはそれぞれ局在を異にするだけでなく,ウイルス亜系によってプロテアーゼとの親和性を異にして,ウイルスの増殖部位と臨床症状を決めている.一方これらのプロテアーゼ群に対する生体由来の阻害物質の粘液プロテアーゼインヒビターや肺サーファクタントが明らかとなり,合わせて個体のウイルス感染感受性を決める重要な因子となっている.小児のインフルエンザ感染では,aspirin,diclophenac sodium服用時のライ症候群や,解熱剤を服用していない患者でも見られる急速な脳浮腫を主症状とする致死性の高いインフルエンザ脳症が社会問題になっている.インフルエンザ脳症発症モデル動物を用いた我々の研究から,このインフルエンザ脳症の原因として,インフルエンザ感染と共に脳血管内皮細胞で急速に増加するミニプラスミンが,血液脳関門の障害と血管内皮細胞でのウイルス増殖に,直接関与していることが明らかとなってきた.さらにミニプラスミンの血管内皮での蓄積を裏付けるミニプラスミンやプラスミンのレセプターが,発症感受性の高い動物の血管内皮で見いだされた.これらのことからインフルエンザ脳症は,発症感受性遺伝子,発症感受性因子の検索に研究の焦点が絞られてきた.本総説では,我々の研究を中心に最近の知見を紹介する.<br>
著者
大槻 純男 堀 里子 寺崎 哲也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.55-64, 2003 (Released:2003-06-24)
参考文献数
50
被引用文献数
7 12

血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)は,血液と脳を隔てる関門組織として存在し薬物の脳への透過性を制限していることは,古くから認識されていた.近年のBBB研究の成果によって,BBBには栄養物質を脳へ供給する輸送系だけではなく,脳から血液方向の排出(efflux)輸送系の存在が明らかになり,それら輸送系の機能が薬物の脳移行性に大きな影響を与えていることが明らかになりつつある.血液から脳への輸送を行うinflux輸送系は,薬物を脳へ移行する通り道となる.BBBに発現するアミノ酸輸送系の一つであるsystem Lによって,L-DOPAは脳内に輸送される.また,一部の塩基性のµ-opioid peptide analogueは,BBBと電荷的相互作用を介したtranscytosisによって脳内に移行する.一方,排出輸送系によって排出されてしまうために脳内分布が低下してしまうケースも存在する.排出輸送に関わる分子としてATP-binding cassette(ABC)トランスポーターのABCB1(MDR1)が存在する.この輸送系は,ATP水解エネルギーを利用して,比較的脂溶性の高い薬物を血中に排出する.また,内因性物質の排出輸送系によっても薬物が脳から排出される.ドパミンの代謝物であるhomovanillic acidは,organic anion transporter 3(OAT3)が関与する排出輸送系によって脳から排出される.このOAT3が関与する排出輸送系によって6-mercaptopurineやacyclovir等が排出され脳への移行が制限されている可能性が示唆されている.また,BBBにはシナプスと同様にセロトニンやノルエピネフリンのトランスポーターが発現していることから,これらトランスポーターを阻害する抗うつ薬による相互作用が考えられる.現在,血液脳関門に発現し薬物の輸送に関わる輸送系や,薬物と相互作用する輸送系が徐々に明らかになりつつある.今後,このようなBBBの輸送系の解明は中枢作動薬の開発や中枢疾患の病因解明に重要な知見となるであろう.
著者
檜杖 昌則 越智 靖夫 伊村 美紀 山上 英臣
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.4, pp.203-213, 2014 (Released:2014-04-10)
参考文献数
26

フェソテロジンはムスカリン受容体拮抗作用を作用機序とする新規過活動膀胱治療薬である.経口投与後,速やかに活性代謝物である5-ヒドロキシメチルトルテロジン(5-HMT)に加水分解され,血液中にフェソテロジンは検出されない.5-HMTは,ムスカリン受容体のいずれのサブタイプ(M1~M5)に対しても高い親和性を有し,各サブタイプ発現細胞でのアセチルコリン誘発反応,摘出排尿筋のカルバコール誘発収縮および電気刺激誘発収縮を抑制した.In vivoでは,無麻酔ラット膀胱内圧測定試験で,排尿圧力低下,膀胱容量増加および収縮間隔延長作用を示した.さらに,ヒト排尿筋,膀胱粘膜および耳下腺組織における結合親和性,ならびにアセチルコリン誘発膀胱収縮および電気刺激誘発流涎に対する抑制作用の比較から膀胱組織選択的な抗コリン作用が示唆された.また,中枢移行性が低いことが確認され,フェソテロジン投与による中枢のムスカリン受容体機能への影響は少ないと考えられた.フェソテロジンの臨床投与量は4 mgと8 mgである.臨床薬理試験で血漿中濃度は,2用量間で2層性を示した.臨床試験で,フェソテロジンは,プラセボやトルテロジンより過活動膀胱の症状を有意に改善し,その効果は用量依存的であった.実臨床に近い可変用量のデザインを用いた治療満足度試験では,患者の半数が8 mgへの増量を希望し,その結果8割の患者がフェソテロジンの治療に満足と回答した.この結果より,4 mgで効果に不満足でも忍容性がある場合は,増量により満足に至る可能性が示された.日本人を対象とした長期試験では,遅発性の有害事象は認めず,忍容性は良好であった.フェソテロジンは,患者の状態に合わせ4 mgと8 mgを有効に使い分けることで,患者の治療満足度を向上し,OAB治療で重要な治療継続率の向上に繋がることが期待される.
著者
大野 泰雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.325-329, 2005 (Released:2005-08-01)
参考文献数
17
被引用文献数
3 3

薬理学は薬物の生体作用とその機序を明らかにすることを主要な目的とする学問であり,そのための多くのin vitro試験方法が開発されてきた.一方,動物愛護の立場からも生命科学研究に用いる試験法をなるべく動物を使用しない方法に置き換え(Replacement),使用動物数を削減し(Reduction),動物に与える苦痛を少なくする(Refinement)という3Rの原則が求められている.1999年にボロニアで開催された生命科学のための動物使用と動物実験代替法に関する世界会議でボロニア宣言が採択され,3Rの原則を法律に組み込むこと,動物実験に関係する全ての者に教育や訓練を行う機構を設置すること,また,動物実験の科学的,倫理的妥当性を審査委員会で審査を受けるべきと勧告された.なお,薬理学会員の所属する施設での動物実験委員会の設置や倫理的な動物実験の教育には施設により差がある.第三者による評価が必要であろう.一方,動物実験代替法の開発とバリデーションを促進するため,EUではEuropean Center for the validation of Alternative Methods(ECVAM)を1994年に,米国ではInteragency Coordinating Committee on the Validation of Alternative Methods(ICCVAM)を1993年に設立した.わが国においても平成17年度予算で国立医薬品食品衛生研究所に代替法を中心とする新規安全性試験法を評価するための室が認められた.
著者
田村 滋夫 葛声 成二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.337-344, 1984 (Released:2007-03-07)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

抗炎症剤の薬効が容易に判定でき,同時に薬効メカニズムを生化学的に分析できる炎症モデルとして,ラヅトにおけるカラゲニソ膿瘍をとりあげ再評価を加えた.2%カラゲニン0.5mlをラットの背部皮下に注射することによって生じる浮腫は炎症部位の血管透過性亢進を反映して,惹起後15時間のピーク時までは二相性変化を示した.初期の血管透過性充進は滲出液中のprostaglandin(PG)E含量と良く相関したが,PGEは15時間以後浮腫が消退する過程でピークに達し,15~24時間はこれらのパラメーターの間には良好な相関々係は認められなかった.炎症部位への細胞浸潤の指標とした滲出液中DNA含量は数時間の潜伏期の後,二相目の浮腫反応と対応して急激に増加した.この炎症反応はindomethacin(2mg/kg)又はdexamethasone(0.1mg/kg)を起炎処置と同時に1回経口投与することにより修飾を受け,前者は投与15時間後,後者は9時間後にそれぞれ最大の抑制効果を示した.indomethacinはカラゲニン注射と同時に投与した時には滲出液重量ならびにPGE濃度を有意に抑制したが,炎症発症後に投与した場合にはPGE濃度を有意に抑制したにも拘らず,重量に対しては無効であった.dexamethasoneは同様な投与方法のいずれによっても著明な抗炎症効果を示したが,PGE濃度には有意な影響を及ぼさなかった.本法は起炎処置後の早期より貯留する滲出液,後期に形成する膿瘍,更には肉芽を容易に単離でき,これらに対する抗炎症剤の感受性もよい.同時に多種の炎症パラメーターを生化学的に追求することができるので,簡便な抗炎症剤スクリーニングのモデルとして有用であると思われた.
著者
柳浦 才三 石川 滋
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.39-51, 1975 (Released:2007-03-29)
参考文献数
31
被引用文献数
2 5

モルモットの摘出胆のう,総胆管,Oddi筋にはα収縮性受容体が存し,消化管とは異なった生理機能臓器である.胆のうは不可逆的α遮断薬であるdibenamineの比較的低用量において,α作用が消失逆転することから,α受容体量は少ない.また,経壁刺激反応からはcholine作働性収縮が顕著に優位で,このcholine作働性収縮に対してadrenaline作働性α作用が神経末端に抑制支配を行なうことが重要と思われるが,adrenaline作働性の直接支配も無視出来ない.胆のう壁はtyramine作用において,tyramine遊離型の内因性catecholamineをほとんど含有していない.しかし5-HTによって遊離されるcatecholamineを含有する.総胆管は自動運動を持ち,α収縮性受容体とβ弛緩性受容体があり,その収縮,弛緩力によって胆道内圧調節と胆汁排出上に積極的に関与すると考えられた.モルモットOddi筋のα受容体は収縮性で,十二指腸のそれと異なることから,Oddi筋は十二指腸より独立していると言える.一方,ウサギの場合,摘出胆のうは反応性に貧しく,神経支配機能を充分検討できなかったが,β弛緩性受容体の存在が推論された.総胆管標本は,α収縮性受容体,β弛緩性受容体が存し,また,choline作働性収縮支配,adrenaline作働性収縮,弛緩支配があり,自動運動も有することから,胆道内圧調節に積極的に関与すると思われる.しかしOddi筋はα,β両受容体とも弛緩性であり,摘出,生体位とも十二指腸類似であった.神経支配もcholine作働性収縮とatropine抵抗性収縮支配,非adrenaline作働性弛緩支配がみられ,十二指腸と質的に同じであった.それ故,ウサギOddi筋はadrenaline受容体,自律神経支配様式からは,十二指腸よりの独立性を支持出来ない.またウサギにおけるこれら神経支配機構は,胆汁排出上の重要因子ではなく,主にcholecystokininなどのホルモン性調節が重要なものであろう.
著者
中村 江里 鬼頭 佳彦 福田 裕康 矢内 良昌 橋谷 光 山本 喜通 鈴木 光
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.141-148, 2004 (Released:2004-02-29)
参考文献数
50
被引用文献数
1 3 1

胃壁の筋間神経層に分布するカハールの間質細胞(ICC-MY)はミトコンドリアが豊富で,平滑筋とはギャップ結合しているので,歩調とり細胞であると考えられた.ICCで発生する歩調とり電位は早い立上がりの第1相とプラトー電位の第2相から成り,それぞれ電位依存性Ca2+透過性チャネル電流とCa2+活性型塩素チャネル電流により構成される.歩調とり電位は電気緊張的に輪走筋に伝わりslow waveを誘発させ,縦走筋に伝達しfollower potentialを形成する.輪走筋では歩調とり電位からの電気緊張電位の刺激により,細胞間間質細胞(ICC-IM)において単位電位unitary potentialが発生し,この電位の加重によりslow potentialが形成される.IP3受容体欠損マウスの胃ではslow waveが観られなかったので,自発活動発生にIP3が関与していることが推定された.slow potentialの解析から,自発活動発生にはミトコンドリアにおいてプロトンポンプ活性に伴い生じる電位勾配に起因したCa2+の出入りが関与しており,局所におけるCa2+の濃度変化がプロテインキナーゼCのようなCa2+感受性タンパク活性を介してIP3濃度を変化させ,小胞体からのCa2+遊離を律動的に起こさせると,細胞膜のCa2+感受性イオンチャネルが活性化され,電位変動を引き起こさせると考えられる.
著者
宮田 桂司 本田 一男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.143-152, 1994 (Released:2007-02-06)
参考文献数
50
被引用文献数
5 10

The pharmacology of 5-HT and the classification of 5-HT receptors have become increasingly complex. However, recent advances have produced a new nomenclature system for 5-HT receptors. 5-HT3 receptors are neuronal receptors coupled directly to cation channels. Recently, many selective 5-HT3-receptor antagonists including tropisetron, zacopride, ondansetron, granisetron, zatosetron, nazasetron, YM060 and YM114 (KAE-393) have been developed. Many actions attributable to the 5-HT3-receptor have been described in both the peripheral and central nervous systems, and clinical trials are already showing the potential use of these 5-HT3 receptor antagonists in a number of disorders of the gastrointestinal tract and central nervous system, such as nausea and vomiting induced by cancer chemotherapy, anxiety, depression, schizophrenia and migraine. In addition, endogenous 5-HT is suggested to be one of the substances that mediate stress-induced responses in gastrointestinal function, i.e., increase in fecal pellet output and diarrhea. Moreover, YM060, YM114 (KAE-393) and granisetron have been reported to inhibit restraint stress and 5-HT-induced increases in fecal pellet output and diarrhea in rats and mice, indicating that endogenous 5-HT may mediate stress-induced changes in bowel function through the 5-HT3 receptor. Therefore, 5-HT3-receptor antagonists are new therapeutic drugs for stress-induced gastrointestinal dysfunctions like irritable bowel syndrome (IBS).
著者
浅田 和広
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.1, pp.24-27, 2012 (Released:2012-07-10)
参考文献数
8

医薬品の添付文書の意義について,薬事法,PL法,GVP省令等の観点からその重要性を,また適正使用情報の観点から添付文書の記載要領に基づく使用上の注意,薬物動態,臨床成績,薬効薬理の項に記載する情報について,次いで添付文書作成・改訂時の手順,添付文書改訂時の情報提供について概説した.また添付文書の現在の課題と,添付文書にかかわる制度改正の動向について紹介した.
著者
白山 幸彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.209-212, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
11

うつ病の症状は,軽症から重症だけでなく,その内容も多岐にわたり,反応する薬物も様々である.抗うつ薬はセロトニンまたはノルピネフリンを介して治療効果を上げていると考えられているが,うつ病自身の原因はそうではないようである.第一選択薬が無効であった場合,第二選択薬は注意を要する.その決定に際して,ガイドラインは有用である.その運用に当たっては機械的にならず,その選択理由を考えることが大事である.また,その判断基準に客観的な治療マーカーを見出していくことが重要な課題である.コルチゾール,デヒドロエピアンドロステロン,テストステロン,の血中濃度はそれ自身の値だけでなく,比を取ることでさらに強力な治療マーカーとなる可能性を有すると考えられる.
著者
鈴木 雅徳 鵜飼 政志 笹又 理央 関 信男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.5, pp.219-225, 2012 (Released:2012-05-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

ミラベグロン(ベタニス®錠)は選択的β3アドレナリン受容体作動薬であり,現在,新規過活動膀胱治療薬として本邦で使用されている.ヒトβアドレナリン受容体発現細胞を用いた機能実験において,ミラベグロンはヒトの膀胱弛緩に主に関与しているβ3アドレナリン受容体に選択的な刺激作用を示すことが確認された.ラットおよびヒト摘出膀胱標本を用いた機能実験において,ミラベグロンはカルバコール刺激による持続性収縮に対して弛緩作用を示した.麻酔ラットにおいて,ミラベグロンは静止時膀胱内圧を低下させたが,ムスカリン受容体拮抗薬であるトルテロジンおよびオキシブチニンは明らかな低下作用を示さなかった.また,麻酔ラットにおいてミラベグロンは,律動性膀胱収縮の収縮力に影響を及ぼさなかったが,オキシブチニンは収縮力の低下を引き起こした.ミラベグロンは過活動膀胱モデルラットにおいて,減少した平均1回排尿量を増加させた.尿道部分閉塞ラットにおいて,ミラベグロンは排尿圧および残尿量に影響を及ぼすことなく排尿前膀胱収縮回数を減少させたが,トルテロジンおよびオキシブチニンは,高用量投与時にそれぞれ1回排尿量減少および残尿量増加作用を示した.以上の非臨床薬理試験により,ミラベグロンはムスカリン受容体拮抗薬と異なり,排尿時の膀胱収縮力を抑制することなく1回排尿量を増加させることが明らかとなった.過活動膀胱患者を対象とした米国および欧州第III相臨床試験において,ミラベグロンは過活動膀胱の諸症状に対して優れた有効性および忍容性を示した.口内乾燥の発現率は,ミラベグロン群とプラセボ群で同程度あり,トルテロジンSR群より低かった.以上,非臨床薬理試験および臨床試験の結果から,ミラベグロンは既存薬とは異なる新たな作用機序により,ムスカリン受容体拮抗薬に特徴的な口内乾燥の発現率を低減し,過活動膀胱の諸症状に対して改善効果を示す薬剤であることが示された.
著者
糸見 安生 相良 将樹 藤谷 靖志 河村 透 瀧澤 正之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.2, pp.68-72, 2013 (Released:2013-08-09)
参考文献数
40

病態の発症・進展に抗体が関与する抗体依存性疾患の治療には,現在主にステロイド剤や免疫抑制剤が使用されているものの十分な治療効果が得られているとは言い難い.これは抗体を産生している形質細胞が既存薬に対し抵抗性を示すことが原因の一つであると考えられる.そのため形質細胞に直接作用する薬剤はより効果的な抗体依存性疾患の治療薬になり得ると期待できる.プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブは多発性骨髄腫やマントル細胞リンパ腫の治療薬として使用されており,その作用機序のひとつとしてがん化した形質細胞を直接除去することが知られている.近年,ボルテゾミブが形質細胞数を減少させ抗体価を低下させることで,抗体依存性疾患である全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)および腎移植時の抗体関連型拒絶(antibody-mediated rejection:AMR)に対して有効性を示すという臨床および非臨床における知見がいくつか報告されてきている.これらのことから,プロテアソーム阻害薬は既存の治療薬とは異なり形質細胞を直接除去する作用を有するため,抗体依存性疾患に対してより有効な治療薬になると考えられる.
著者
松本 一彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.110, no.6, pp.341-346, 1997 (Released:2007-01-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1

The cumulative chi-squared statistic has been proposed for testing against ordered alternatives in various statistical models. As usual statistical tests of ordered column categorical data, the χ2 test, Fisher's exact test and Wilcoxon test are used. Pharmacological studies often are performed by multiple dosing. Data obtained from these studies are called ordered categorical data. The cumulative chi-squared statistic, which has been proposed by Hirotsu and Shibuya for testing against ordered alternatives in various statistical models, is little used in spite of its good applicability in the field of pharmacology. This method was too difficult for the general pharmacologist and biological scientists because it requires the use of a complex matrix and a powerful computer to carry out the analysis. However since a more simple method was proposed by Matsumoto and Yoshimura this method has been used more frequently in the biological sciences. In this paper, the one way cumulative chi-squared statistic test and two way chi-squared statistic test are compared with the chi-squared statistic test and Wilcoxon test.
著者
上田 陽一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.3, pp.179-183, 2005 (Released:2005-11-01)
参考文献数
49
被引用文献数
1 1

生体がストレスを受けると,脳を介して血圧・心拍の変化や気分・行動の変容など様々な生体反応が引き起こされる.生体のストレス反応のうち,自律神経系を介した生体反応や内分泌系の生体反応は,自律神経系と内分泌系の統合中枢である視床下部を介して引き起こされていることはよく知られている.視床下部ニューロンの神経活動の指標として前初期遺伝子群の発現が汎用されている.我々は,定量化の容易な浸透圧ストレスを用いて,ストレス研究への前初期遺伝子群の有用性について検討したところ,前初期遺伝子群の中でもc-fos遺伝子の発現動態がよい指標となることを見出した.また,ストレスが食欲低下や過食を引き起こすことは経験的によく知られていることである.最近,視床下部の摂食関連ペプチドであるオレキシンとニューロメジンUのストレス反応との関与が注目されており,摂食に対してはオレキシンは促進作用,ニューロメジンUは抑制作用とまったく逆の作用を有する.ところが,脳内のオレキシン・ニューロメジンUは共にストレスに対する内分泌反応の中軸である視床下部-下垂体-副腎軸に対して賦活作用を有する.ストレス反応と視床下部に存在する神経ペプチドの生理作用との関連を調べることにより,ストレス反応の分子基盤の一端を解明できるかもしれない.
著者
佐藤 雄己
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.120-125, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2

大建中湯は消化管術後イレウスや過敏性腸症候群に対して臨床的有用性の高い漢方方剤として知られている.動物を用いた基礎的検討により,本剤はモルヒネ誘発性の消化管障害に対して改善効果を示すことが報告されている.また大建中湯の主要な薬理作用は消化管運動亢進作用と腸管粘膜血流増加作用であり,その作用機序として消化管ペプチドの関与が報告されている.しかしながら現在まで担がん患者のモルヒネ誘発性便秘に対する大建中湯の臨床効果と消化管ペプチドとの関連については不明なままである.本研究では,モルヒネ誘発性便秘を有する担がん患者を対象として大建中湯の効果および消化管機能を反映する5種の消化管ペプチドの血漿中濃度に与える効果について検討した.対象はがん性疼痛に対してモルヒネ治療後に便秘を生じた7名の担がん患者で,大建中湯投与前後における各消化管ペプチドの血漿中濃度を高感度酵素免疫測定法により測定した.また,消化器症状への効果については大建中湯投与前後のGastrointestinal Symptom Rating Scale(GSRS)質問表により検討した.モルヒネ誘発性便秘に対する大建中湯の効果について検討した結果では,大建中湯の投与によりGSRSの便秘サブスコアは7例中4例で有意に低下した.次にGSRS便秘サブスコアが改善した有効群と,変化がなかった無効群で血漿中消化管ペプチド濃度を比較した.その結果,両群ともに健常人と比較して血漿中モチリン濃度は有意に低値であったが,大建中湯投与後,有効群では健常人と同程度の濃度まで上昇し,無効群と比較して有意な上昇が認められた.一方,血漿中calcitonin gene-related peptide(CGRP)濃度も有効群で上昇傾向が認められた.以上の結果から,大建中湯のモルヒネ誘発性便秘への作用は,発現時間および臨床症状ともに血漿中モチリンの変動によってよく説明されるものであり,大建中湯の臨床効果との関連が示唆された.
著者
藤原 榮一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.370-381, 1953-11-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1
著者
草野 正弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:13478397)
巻号頁・発行日
vol.132, no.5, pp.288-291, 2008-11-01

マラリア治療薬はアーテミシニンおよびその誘導体との配合剤の出現により大きく進歩した.しかし,配合剤であっても今後耐性化しない保証はなく,新しいクラスの薬剤の開発が行われている.日本でも岡山大学を中心に新しい薬剤が臨床試験開始寸前の段階にある.一方マラリアワクチンの開発は近年非常に盛んになってきており臨床試験実施中のものが20近く存在する.この領域でも大阪大学微生物研究所で開発されたワクチンが大規模臨床試験の準備中である.しかし抗マラリア薬以外ではリーシュマニア症に対するシタマキンのみが新規化合物として有望である.<br>
著者
柴田 重信 平尾 彰子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.110-114, 2011 (Released:2011-03-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

哺乳類の体内時計遺伝子Clock,Per1が発見されて以来,体内時計の発振,同調,出力の分子機構が明らかになってきた.時計遺伝子発現は生体の至る所で見られ,視交差上核を主時計,視交差上核以外の脳に発現する時計を脳時計とよび,肝臓や肺,消化器官などに発現する時計を末梢時計と呼ぶようになった.これらの事実は,生体の働きに時間情報が深く関わっている可能性を強く示唆するものである.種々の疾病の症状には日内リズムが見られ,たとえば喘息の症状は朝方悪化しやすく,虚血性心疾患は早朝から午前中にかけて起こりやすいことも知られている.また,コレステロールの合成酵素のHMG-CoA reductaseの活性は夜間に高まることから,スタチン系の薬物は夕方処方が推奨されている.このように,疾病治療における薬の作用を効果的にするために,発症時刻に合わせて,薬を与えるというような治療法が考案されてきた.いわゆる時間薬理学という学問領域である.一方で,最近時間栄養学の研究領域が台頭してきた.食物や栄養などの吸収や働きを考えると,栄養の摂取時刻により,栄養の働きが異なる可能性が考えられる.実際,同じ食物でも夜間に食べると太りやすいと言われており,これはエネルギー代謝に日内リズムがあることに起因する.また,薬物の吸収,分布,代謝,排泄に体内時計が関わるように,栄養の吸収,代謝などには体内時計が深く関わる可能性がある.体内時計の同調刺激に規則正しい食生活リズムが重要であることが指摘されて以来,同調刺激になりやすい機能性食品の開発が試みられている.このことは,たとえばメタボリックシンドロームの治療や予防に,時間薬理と時間栄養の両学問の知識や研究成果の集約が,効果的である可能性を示唆する.