著者
阿部 芳子 長野 宏子 市川 朝子 下村 道子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成20年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.72, 2008 (Released:2008-08-29)

【目的】 食物アレルギーの発症例数が多いものに小麦製品が挙げられており、小麦粉製品の低アレルゲン化等の研究が進められている。かん水添加の有無およびpHの変化が小麦たんぱく質のアレルゲン成分の変化におよぼす影響を検討した。 【方法】 湿麩および麺の調製には強力粉(粗たんぱく質12.3%)を用いた。麺へのかん水添加は粉重量の1%とした。湿麩をpH 2からpH 11の緩衝液で抽出後、凍結・UTH液で溶出した。麺生地とゆで麺は凍結乾燥後アセトンパウダー試料とし、緩衝液(pH8.0)で抽出した。低分子部分はHPLCにてアミノ酸分析を行い、高分子部分はSDS-PAGE電気泳動後、タンパク質をPVDF膜に転写して小麦アレルギー患者の血清との抗原抗体反応を行った。 【結果】 各pH溶液抽出の湿麩たんぱく質は、小麦アレルゲンである16kDa付近で、反応が現れていたが、pH 11のかん水抽出試料では反応がすくなかった。生地および麺はいずれもロイシンが多く、GABAも存在していた。かん水生地と水生地のPAGEでは31kDa付近に濃いバンドが現れ、15~16kDaにもバンドがあり、同様の傾向を示した。ゆで麺ではかん水添加の有無で泳動パターンに差があり、かん水麺では生地で現れたバンドの多くが薄くなって消失していた。水麺では生地より増加傾向を示した。従って、かん水麺では加熱でアレルゲンのバンドが変化減少することがみられた。ゆで麺を小麦アレルギー患者の血清と抗原抗体反応させた結果、小麦たんぱく質の主要なアレルゲンのバンドが消失していた。特にアレルギー反応を起こしやすい15~16kDa、31kDa付近のバンドが消失したことから、かん水の添加はアレルゲンの除去に効果のあることが考えられた。
著者
新城 知美 貝沼 やす子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成20年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.69, 2008 (Released:2008-08-29)

【目的】 食物繊維や大豆たんぱく質、イソフラボンを含むおからをそのまま添加した食パンは比容積の低下などが生じ品質が低下したが、おからを焙煎してパン生地に添加するとパンの性状改善効果が認められた。本研究では焙煎処理によるおからの変化について検討し、パンの性状改善との関係を明らかにすることを目的とした。また、パン生地調整に最適な加水量および添加時期の検討を行い、更なるおから添加食パンの性状改善を目指した。【方法】 おからの乾燥は30℃で10時間、焙煎は180℃にて吸水率が最低値を示す時間焙煎し、重量、色、食物繊維量、吸水率を測定し、DSC分析、たんぱく質定量、Native-PAGE、SDS-PAGEを行った。食パンの作製はホームベーカリーを使用し、パン生地についてはファリノグラフ試験及び走査型電子顕微鏡観察を行った。パンについては、体積測定、破断強度測定、官能検査、断面の走査型電子顕微鏡観察を行った。 【結果】 おからを焙煎すると食物繊維量はやや減少し、たんぱく質の低分子化が認められ、吸水率が低下した。焙煎処理おからを添加すると、パン生地中にグルテン形成の改善が認められ、乾燥おから添加食パンに比べ膨化し、食味も改善された。コントロール生地と同じ硬粘度となる加水率(最適加水率)で焼成したパンでは、全ての測定項目においてコントロールの性状に近づく変化を示し、官能検査でも高い評価を受けた。この加水率はおからの吸水率を用いた簡単な関係式から算出することができ、市販の多くの生おからを利用した焙煎おから添加食パンに有効であった。おから添加時期を変えた製法では焙煎おから添加パンの物性がよりコントロールに近い結果となった。
著者
木庭 朋子 和田 磨希子 兒嶋 高志 長谷川 峯夫
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成20年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.87, 2008 (Released:2008-08-29)

【目的】 サルモネラ属食中毒は、日本で発生件数が多いもののひとつである。特に鶏卵由来とみられるSalmonella Enteritidis(以下SE)によるものが近年問題となっており、卵を使用した生菓子も原因としてよく挙げられる。一方、ムースなどの使用生地としてイタリアンメレンゲがある。これは、卵白に115~121℃の高温のシロップを加えながら泡立てたものである。高温のシロップを加える作業の目的は大きく2点ある。1点目はつやがあってしっかりした泡にする品位形成、2点目はシロップの熱による殺菌である。2点目の効果により、生食しても安全と考えられてきたが、殺菌効果に対する十分な検証が行われていない状況である。本研究では、イタリアンメレンゲの調製過程におけるSEの挙動を明らかにすることとした。 【方法】 試料は5コートミキサーを用いて、一般的なイタリアンメレンゲの配合(卵白:砂糖=1:2)で調製し、2つの試験により検証した。[A]メレンゲの温度変化測定:シロップ投入後攪拌中の温度をデータコレクタにて測定した。[B]サルモネラ消長試験:未殺菌卵白にSEを104になるように添加し、得たサンプルのSEの挙動を確認した。サンプル採取、温度測定場所はボールの側面、ホイッパーの外側と内側の3箇所とした。 【結果】 [A]場所によるバラつきが大きく、最も高いところで75.5℃、低いところは60.8℃までしか上昇せず、全体が十分に殺菌できる温度条件にならないことが示唆された。[B]25g陰性試験では全サンプルで陽性を示し、サルモネラを陰性にできないことが示唆された。原因として、(1)熱がボールにとられて品温が低下すること(2)熱がメレンゲ全体に均一に広がらず品温がバラつくこと(3)攪拌により放熱することが考えられた。以上より、イタリアンメレンゲを調製、使用する際には、使用原料や調製、保存の条件に十分に留意すべきことが確認できた。
著者
鈴木 杏子 仲河 優里 西 まみか 野田 裕美子 高岡 素子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成20年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.95, 2008 (Released:2008-08-29)

【目的】 精進料理とは禅寺で修行に励む僧侶たちが食べる、殺生を禁じた粗末な食事で、動物性の食材を一切使用しない伝統的な料理である。現在、「精進料理」には2つの側面があり、1つはお寺に伝承され、調理される修行僧の食事と法要後に食される料理であり、もう一つは禅寺の近くに精進料理専門店で発達している。本研究ではカロリー控えめでヘルシーであると思われている精進料理メニューの実態調査を行い、現代における精進料理の栄養について明らかにし、また精進料理の食味に及ぼす油の影響について調べた。 【方法】 1.京都の精進料理専門店3店を選び、1食分のメニューを合計5点注文し、各食材の質量を測定、汁物の塩分濃度を測定した。栄養摂取量は各食材の重量を基に栄養価計算ソフト(エクセル栄養君Ver.4.0)を用いて解析した。2. 油脂の使用が精進料理の食味に及ぼす影響を知るために、3種類のメニューについて油添加・油無添加で調理し、官能検査を行った。 【結果および考察】 1. 1食分を成人女性の昼食と見積もり、各成分について食事摂取基準量の30%を基準量とした。エネルギーは967kcalで基準量の約1.57倍、食塩は6.4gで基準量の2.67倍であり、高カロリー、高塩分であることが明らかとなった。しかしながらPFCバランスは良好であり、ほとんどのミネラルやビタミン、食物繊維は基準量以上摂取できていた。 2. けんちん汁ではほとんどの項目で油添加の方が好ましいという評価が得られた。油無添加では塩味が強く感じられ、油の使用により味がまろやかになることが示唆された。切干ダイコンでは、全ての項目で油添加の方が好ましいという評価であった。白和えは油の有無による顕著な違いは見られなかったが、油を加えることによって塩味が抑えられる点では同様な傾向を示した。
著者
嶽本 あゆみ 前原 弘法 渡邉 敏晃 伊東 繁
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成20年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.50, 2008 (Released:2008-08-29)

音速を超える速度で伝播する圧力の波である衝撃波は、きわめて高い圧力を瞬間的に負荷することができる。水中衝撃波の場合は秒速およそ1300メートル、圧力は数百メガパスカルから数ギガパスカルに及ぶ。伝播速度が速いために、対象物に圧力が負荷されるのは、一瞬である。 また、衝撃波は伝播する媒体物質の密度境界面においてスポーリング破壊を引き起こす。媒体物質に入射した衝撃波は、密度差面で音速を保ったまま衝撃波として通過する透過波と、音速以下の速度となり反射する膨張波とに分かれる。衝撃波がこのように透過波と膨張波とに分かれる際に、密度差面では負圧力が生じ、引っ張り力によってスポーリング破壊と呼ばれる高速破壊現象を引き起こす。植物においては細胞質と細胞壁との密度境界面や、細胞組織に含有される気泡の膨張が原因で細胞壁の一部がスポーリング破壊を受けると考えられる。 衝撃波を野菜や果物などの食品に負荷することで、スポーリング破壊が細胞や組織に作用し、軟化作用を引き起こす。また衝撃波の圧力負荷時間がきわめて短時間なため、熱変成を生じず食品は非加熱の状態で軟化する。本発表では、衝撃波の強さと軟化効果について報告する。
著者
馬場 景子 中野 典子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成20年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.34, 2008 (Released:2008-08-29)

「正月のとろろ飯」習慣を単に郷土食としてではなく、東西文化の分岐の指標と規定できる食習慣であることを今までの調査で明らかにしてきた。さらに「正月のとろろ飯」の東西分岐地域は愛知県知多半島であることを聞き取り調査により推定した。知多半島の市町村の教育委員会の協力を得て、各中学校の父兄および郷土研究会の会員を対象に2006年8月から12月の期間にアンケート調を行った。今回の発表では、アンケート調査の結果をもとに、「正月のとろろ飯」習慣が集中的に現存する知多半島での、当該習慣の推移、伝播経路、とろろ飯に付随する行事食の発生を報告する。
著者
前田 文子 早瀬 明子 蓮沼 良一 永嶋 久美子 黒川 理加 小澤 陽子 大坂 佳保里 陳 美慧 福永 淑子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成20年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.10, 2008 (Released:2008-08-29)

【目的】 今回提案の調理方法はオーブンを使い、60~90℃の範囲に保ち、温度管理を行ってセミドライ食品を製造する方法である。一般にはセミドライとは、常温で乾燥する方法を言うが、今回の提案した方法では、温度70~100℃の中温で乾燥する方法なので、中温乾燥セミドライ乾燥方法と名づけた。今回の発表ではこの方法により、各種の肉・果物・野菜についてその好適な温度設定などについて明らかにするために行ったことについて報告する。 【方法】 食材には肉類として鶏肉、豚肉、牛肉を、野菜としてトマト、キュウリ、ダイコンを、キノコ類としてエノキ茸、しめじ、エリンギを、果物としてりんご、パイナップル、キュウイを選び実験に供した。実験装置としては日立オーブンMRO-BV100型を改造して温度設定が可能ものを使用した。今回は70~100℃に設定し、90~120分間処理した。 【結果および考察】 全般的に生鮮食材の40~50%の水分量にすると、食材の味は損なわれずに旨味を引きだせることがわかった。肉類の好適な温度は水分の多い果物と比べてやや低い温度の方が良質のものが仕上がることが分かった。ささみ鶏肉の場合は添加物を一切使わなくとも冷蔵保存の場合より、数十倍長く保存できることがわかった。一部の素材では食塩で下処理することにより食味の向上、変色防止に効果があることがわかった。 【まとめ】 食材の味をそのまま生かし、旨味を引き出すことができること、温度設定だけで簡単に美味しい加工食品が出来、食塩を添加しなくても日持ちがよいセミドライ加工が製造できることがわかった。
著者
北尾 悟 籾谷 奈保子 安藤 真美
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成20年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.48, 2008 (Released:2008-08-29)

【目的】 近年、様々な食品や食品素材の抗酸化能が評価されている。食品に調理操作を施し料理になる過程において抗酸化能は変化すると思われるが、その詳細を検討した事例は比較的少ない。また、砂糖は一般調理で最も使用頻度の高い甘味料であるが、調理過程における抗酸化能への関与については明らかにされていない。そこで、砂糖を用いた料理としてりんごのシロップ煮を取り上げ、その調理過程の抗酸化能の変化を調べた。さらにそこで得られた知見から、スクロースによるアスコルビン酸の抗酸化能保護効果についても検討した。 【方法】 りんごのシロップ煮の各調理過程における抗酸化能の変化を、AAPHペルオキシルラジカルのルミノール化学発光に基づくAAPH-CL法にて測定した。さらにモデル系として、アスコルビン酸添加の有無、スクロース濃度(0、30、60%)、加熱時間(0分、10分、20分)の組み合わせを変化させ抗酸化能を測定した。 【結果】 りんごのシロップ煮の各調理過程において、シロップとりんごそれぞれの抗酸化能の和と比較して、りんごのシロップ煮の抗酸化能は約3倍となった。一方、モデル系の場合、アスコルビン酸単独溶液は、加熱とともに顕著に抗酸化の減少が見られたが、同濃度のアスコルビン酸にスクロースが共存すると、抗酸化能の減少が有意に抑制された。スクロース自身も弱いながら加熱により抗酸化能は上昇するが、このスクロースによる抗酸化能の減少抑制効果は、相乗的かつ濃度依存的であった。以上の結果、スクロースは加熱により影響を受けやすい抗酸化成分に対してその保護効果を有することが示唆された。
著者
福永 淑子 船山 敦子 高崎 寿江 永嶋 久美子 臼井 照幸 蓮沼 良一
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成20年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.11, 2008 (Released:2008-08-29)

【目的】 冷蔵庫を用いて強性通風した庫内において肉、魚および野菜を低温で乾燥させることより新鮮さを保ちつつ保存性が高まった美味しいセミドライ食品製造する方法を開発した。セミドライ食品は一般には野外の通風のよい所にさせるものであるが、本開発技術では冷蔵庫内の低温乾燥した空気より食材を乾燥させてセミドライ食品を製造する方法であり、この方法を冷風乾燥法と名づけた。 【実験】 材料としては、肉類、魚類、野菜類、キノコ類および果物類を選び、その効果を検討した。今回は市販(日立R-SF60XM型)に強制通風させて8~12℃に設定した、約25cm×15cm×12cmのプラスチック性箱を製作し、この中に網棚を設けた。上記の食材をこの網棚に並べ約一日から二日間乾燥させた。 【結果および考察】 この操作により、個々の食材によって風味や色および味が異なるが、従来の常温乾燥セミドライものと比べて全体的に以下のような優れた特徴を持つ食品を製造できることが明らかになった。_丸1_常温乾燥のものと比べて、全体的にも元の生の色に近く、肉類については特に透明感と光沢感が強いこと、_丸2_特に肉類では生臭みはなくなり、野菜類ではその特有の風味が強まること、_丸3_一部の食材では熟成作用もあることが感じられ、果物と野菜では濃縮した美味しい味とともに、テクスチャーが変わり、新たな食感の食品となること、_丸4_キノコ類では水で戻すと速やかに旨味成分が溶出し、しかも濃いだしがとれること、エノキ茸ではそのまま食すると非常に美味しい新たな食品となることが、わかった。以上のように低温乾燥セミドライ法により新しい特徴を持った加工食品・食材が製造できることがわかった。
著者
三森 一司 小澤 昌子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成20年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.5, 2008 (Released:2008-08-29)

【目的】 カット野菜はその鮮度が重視され、消費期限が来たものは大量に廃棄処分されている。本研究では、資源の有効利用と消費期限設定の妥当性を探る目的で、カット野菜の冷蔵に伴うビタミンC含量の変化を調べ、野菜の種類によってビタミンの損失量に違いはないか、保管条件がビタミン残存量に及ぼす影響等について検討を加えた。 【方法】 試料のカット野菜は、個人向けの300g包装の商品を秋田市内で購入後、速やかに冷蔵庫に入れ、7℃で0~7日間保管し、経時的にビタミンC含有量を測定した。総ビタミンCの定量はヒドラジン法、還元型ビタミンCは、インドフェノール法を用いた。 【結果】 カット野菜に使用されている個々の野菜100g当たりの総ビタミンC量を比較したところ、キャベツでは、製造直後から製造後4日目にかけて急激に減少し、22.8mgから10.7mgと半減した。これに対し、もやしでは冷蔵期間を通してあまり減少しなかった。にんじんは、製造直後7.3 mg 、4日目7.2 mg、7日目 7.1 mgと更に変化が少なかった。キャベツの還元型ビタミンCを測定した結果、製造直後の還元型ビタミンC量を100%とした時、4日目85%、7日目63%と、還元型ビタミンCは総ビタミンCと異なり4日目から7日目にかけて大きく減少していた。このことからカットキャベツの製造直後から4日目にかけては、還元型ビタミンCの酸化も進むがそれ以上に、酸化型ビタミンCの2,3ジケトグロン酸への酸化が進行するため総ビタミンCの定量値が低くなったものと考えられた。にんじんのビタミンC減少が少ないのは、にんじんに含まれるカロテノイドの抗酸化作用によるものと考えられた。カット野菜の消費期限は製造日から4日間と短く設定されているが、本研究の総ビタミンC量の分析結果からも、妥当であると考えられた。