著者
有田 要 玉置 元 堀田 博 奥山 清一 志村 豁 井口 喬 遠山 哲夫 堀田 和一
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.213-227, 1983

分裂病者同士の結婚についてはいまだまとまった研究報告はみられない.昭和大学付属烏山病院において, 1979年9月30日現在, 10年以上にわたって診療を続けている長期経過の分裂病者501例のなかで, 結婚したのは7組 (すべて恋愛結婚) である.そのうち5組が結婚生活を継続しており, 2組が離婚となっている.経過年数は3年から15年である.今回われわれはこれらの病者夫婦をとりあげ, 分裂病者同士の結婚について主として長期経過の病状とのかかわり (欠陥の程度) を中心に考察した.欠陥の程度については精神症状, 社会適応状況, 社会生活能力についてそれぞれ良好, 中間, 不良の3段階に区分したがいずれにしろこれら3項目は相関している.1) 夫の平均は良好群に属し妻のそれは中間群であるが, 夫はいずれにおいても妻と同程度, もしくはそれ以上の安定した能力を保持している.2) 結婚の成立および維持については夫婦単位でみた時, 中間ないし良好の状態に位置しているが, 必ずしも個々が上記の状態に位置する必要はなく, 不良群に属する妻とのペアで結婚生活を維持している例も存在する.3) 夫および妻ともに前記3項目の評価が中間に属する場合でも治療者や周囲の者の濃厚な援助や指導があれば, 結婚生活は維持できる.4) 結婚後3項目の評価が変動 (悪化) した場合は, 治療者のより積極的な介在が必要である.しかしそれが著しい場合は維持が困難である.5) 病状や生活能力等からも出産育児については相当に困難をともなう.6) 子供への遺伝については未解決な問題も多く, 慎重な配慮と指導が必要である.
著者
清水 泰雄
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.71-83, 1989

〈目的〉筋運動には従来より等尺性運動と等張性運動があったが, 最近, これらの運動の長所を取り入れ, 欠点を改善した等運動がスポーツ医学やリハビリテーション医学の分野で行われるようになったが臨床的にはいまだ不明な点が多い.そこで, 等運動機械により筋力測定を行い, 一流スポーツ選手の筋力特性を種目別に検討した.また, 一流スポーツ選手と一般人の膝関節損傷後のリハビリテーションに等運動訓練を行うと同時に筋力値, 仕事量, トルク加速エネルギー等の筋力要素などから筋力回復過程, スポーツやADLへの復帰について, 客観的に評価しうるか検討した.〈対象〉 (1) 各種目陸上競技選手39名 (2) 一般膝関節損傷例5名 (3) 一流スキー選手膝関節損傷9名である.〈方法〉等運動機器CYBEX II (サイベックス) 及びCYBEX data reduction systemを用いて膝関節運動の筋力測定を行った.〈結果〉 (1) 陸上競技選手の測定, 分析で, 膝伸展最大筋力 (Mean±SD) (FT-LBS) において低速群では投擲 (216.3±48.0) , 短距離 (178.5±36.7) , 跳躍 (174.6±35.0) , 中距離 (140.6±8.4) , 長距離 (132.9±18.4) で瞬発力を要する種目ほど高い値を示した.筋仕事量では高速群ほど高く, 40RPMで各種目の最高値を示し, 投擲 (612.6±192.1) が最も高く, 長距離 (292.8±34.1) が最も低かった.また, 筋仕事量耐久率 (30RPMにおいて) では遅筋線維優位型の長距離, 中距離が高く, 速筋線維優位型の短距離, 跳躍, 投擲では50%以下と低い値を示し, スポーツ医学への応用が可能であると考えられた. (2) 一般膝関節損傷例では膝伸展筋力, 屈曲筋力の最大筋が絶対値は訓練日数とともに直線的, 対数的増加を示し, 筋仕事量, power enduranceの要素も, 筋断面積の増加と単位断面積あたりの筋出力の増加とともに向上していた.また, 患側最大筋力が健側に対して30~50%に達したところでADLへの復帰も可能ではないかと考えられた. (3) スポーツ選手のリハビリテーションにおいては, 筋力絶対値の回復より健側に対する患側の筋力回復率を指標とした方が有効であり5RPM, 30RPMの伸展筋力回復率においては有意水準0.01で訓練日数と直線的増加を示したが, 5RPM, 30RPMの屈曲筋力回復率は訓練日数と相関はみられなかった.スキー選手の現役復帰には回復率が70%に達することが重要であり, また, 瞬発力を要するスキー選手の回復にはピークトルク加速エネルギー (PK-TAE) などの回復も重要な指標であると考えられた.以上よりCYBEX IIによる筋力測定からスポーツ医学, リハビリテーション医学への応用が可能であることが示唆された.
著者
大瀬戸 隆 惠 京子 神田 実喜男
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.32, no.8, pp.438-442, 1972-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
17

A 46-year-old woman noticed the muscle pain of the bilateral femur and diagnosed dermatomyosis.She was dead on July 1 1969 and diagnosed miliary tuberculosis including muscle tuberculosis by autopsy.
著者
重政 香代子 森山 浩志
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.549-556, 1999-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
10

ヒト顎二腹筋の前腹と後腹を結ぶ中間腱の詳細な形態を検討するためにその形状, 支持組織, 滑液包様構造, 角度, 舌骨からの距離などの観察を行った.前腹側の腱膜形態と中間腱の支持形態をそれぞれ4型に分け, 顎二腹筋の中間腱部分の形状と舌骨との関係についての形態計測学的な評価を行い, 滑液包様構造物が加齢に伴なって増加することを見出した.顎二腹筋の中間腱部分についての教科書の記述は加齢変化を含めて修正の必要がある.
著者
阿部 裕美子 青柳 順 安倍 徳寿 荒川 香 有馬 秀英 石田 千晶 渋谷 まさと
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.354-359, 2004-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
12

息こらえの学習効果の持続時間を8名の健康成人で測定した.連続して5回息こらえを施行した.毎回の息こらえ前, 5分以上安静状態を保ち, 一定の終末呼気CO2濃度から息こらえを施行した.また, 数日後, 1ヵ月後に同じプロトコールをくり返した.初日, 息こらえ時間は初回, 33.0±10.7秒, 5回目, 51.5±14.4秒であった.数日後, この学習効果は持続し, 初回の息こらえ時間39.1±14.4秒は初日の初回より有意に延長していた.2回目以降の息こらえ時間は初日と同等であった.1ヵ月後, どの回の息こらえ時間も初日と同等であった.息こらえに影響をおよぼしそうな因子 (健康状態, 食事量, 飲酒量, 睡眠時間, 喫煙, 服薬, 運動) はほぼ一定であった.息こらえ自体, および/または, その後の換気亢進が呼吸筋に作用して, その後の息こらえを延長させ, その作用は数日は持続するが1ヵ月は持続しないとの仮説が, 文献的検討からも, 可能と思われた.
著者
交野 好子 佐藤 啓造
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.448-457, 2001
被引用文献数
1

本研究は妊娠期の妊婦および胎児の父親を対象に, 妊娠の期待度や受け止め方, 胎児に対する思向等の胎児認知のあり方を明らかにするものである。その上で本研究は妊娠期の心的ハイリスクから, 将来の育児不安, 育児放棄, 虐待等の素因を, 早期診断できる測定具の開発を目指した基礎研究として位置づけられるものである.研究方法は質問紙を用いた自記式調査である.調査対象は妊婦429名, 回収率100%, 有効回答は418名 (98.1%) , 父親は230名, 回収率80.0%, 有効回答182名 (99.5%) であった.質問内容は (1) 年齢, 初妊・経妊別, 妊娠週数, (2) 妊娠の期待度および喜びの度合い, (3) 妊婦は父親となる夫が妊娠を喜んでいると感じているか, また逆に, 父親は妊婦が妊娠を喜んでいると感じているか否かである.さらに, (4) 妊婦および父親がどのように胎児・新生児ならびに出産後の育児等の状況イメージを描いているかについての質問22項目で構成されている.研究結果は妊娠の期待度, 妊娠の喜びの有無ならびに程度は, 妊婦と父親では異なるこが判明した.妊婦は妊娠の期待度・喜び度が高く, さらに父親になる夫が妊娠を喜んでいると感じている場合には, 胎児ならびに新生児の状況イメージが豊かに描けていた.それに対して父親は, 妊娠の期待度や妊婦が喜んで妊娠を受け止めているか否かでは平均得点に差は認められなかった.妊娠を喜んでいる場合のみ, 想像項目の中でも体内胎児および出産場面では想像の平均得点に開きが認められた.想像は妊婦の胎児認知の様相を表すには, 有効な方法であるが, 父親については今後検討していく必要性が示唆された.妊娠を父親が喜んでいると感じるか否かが想像得点を左右する点では, 妊婦が胎児を喜んで受け入れ, 愛情を注ぐことができるには夫の感情が大きく影響していると言える.鈴木の「子どもの虐待リスク因子」によれば, 虐待者は実母 (67%) が実父 (24%) をはるかに上回っている.一般的には, 「お腹を痛めて産んだこどもを母親は何故虐待するのか」と問われる.しかし, 本研究結果からみると, 妊婦の胎児認知は自分はもとより, 夫が妊娠を喜んでいるか否かに依拠していることが明らかになった.妊婦と胎児との関係にはその空間に夫の感情や夫婦関係が胎児認知のあり方に影響していることが推測される.妊娠中の心的ハイリスク因子は (1) 何らかの理由により妊娠を期待しない, (2) 自分も夫も妊娠を喜んでいないに加え, (3) 体内胎児や新生児ならびに出産後の育児等の状況イメージが描けないことにある.これらの妊婦に対応した場合, 継続的な心理的支援が必要であると考える.
著者
苅部 智恵子 佐藤 啓造 丸茂 瑠佳 丸茂 明美 藤城 雅也 若林 紋 入戸野 晋 米山 裕子 岡部 万喜 黒瀬 直樹 島田 直樹
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.349-358, 2012 (Released:2013-03-14)
参考文献数
19
被引用文献数
2

安楽死・尊厳死について国民の意識がどうなっているか調査した報告は少なく,特に大学生の意識を報告した論文はほとんど見当たらない.少数ある報告も限界的医療全般について調査したものであり,安楽死について賛成か否かを表面的に調査したに留まっている.本研究では同じ生物学を中心に学んでいるが将来,安楽死・尊厳死に関わる可能性のある医学生と特にその予定はない理系学生を対象として同じ内容のアンケート調査を行った.アンケートでは家族に対する安楽死・尊厳死,自分に対する安楽死・尊厳死,安楽死・尊厳死の賛成もしくは反対理由,安楽死と尊厳死の法制化,自分が医師であるとすれば,安楽死・尊厳死について,どう対応するかなど共著者間で十分,協議をしたうえで,新しい調査票を作成し,これを用いた.医学生は安楽死・尊厳死について,ひと通りの理解をしているはずの99名から無記名のアンケートを回収した(回収率:87.6%).理系学生は医学生のほぼ同年輩の生物学系の博士前期課程学生に対し,第二著者が安楽死・尊厳死について,ひと通り説明した後,69名から無記名で回収した(回収率:71.9%).前記5つの課題について学部間,性別間の意識差について統計ソフトIBM SPSS Statistics 19を用いてクロス集計,カイ二乗検定を行い,p < 0.05を有意差ありとした.その結果,家族の安楽死については学部間で有意差があり,医学生は理系学生より依頼する学生の比率が低く,依頼しない学生の比率が高いことが示唆された.医学生,理系学生ともに家族の安楽死希望理由で「本人の意思を尊重したい」が過半数を越え,自己決定権重視の一端を示していた.尊厳死では両学部生とも希望しない学生より希望する学生が多く,特に理系学生で希望する比率が高かった.性別では自分の尊厳死を希望する比率で有意差があり,女性の方が多かった.家族の尊厳死でも希望する比率は女性の方が多かった.家族の尊厳死,自分の尊厳死を家族の安楽死,自分の安楽死と比較したところ,安楽死より尊厳死を希望する学生が両学部生とも多かった.家族の尊厳死希望理由で医学生,理系学生ともに「本人の意思を尊重したい」が60%以上を占めた.安楽死・尊厳死について法制化を望むか否かを調べると,学部間では有意差があり,医学生は大多数が安楽死・尊厳死の法制化を望んでいるのに,理系学生は両方とも法制化を望まない学生も26%を示した.性別間では女性で尊厳死だけ法制化を望む人が31%を占めた.自分が医師の立場になった場合,安楽死・尊厳死を実施するか否かを調べると,学部間で有意差があり,要件を満たせば積極的安楽死を実施するとしたのが理系学生で41%を示したのに対し,医学生では16%に留まった.性別間では積極的安楽死を実施するのは男性が10%上回ったのに対し,尊厳死を選択するのは女性が10%上回った.以上の結果から医学生は理系学生に比べ,安楽死・尊厳死の実施に慎重であり,両方とも法令のもとに実施を希望していることが明らかとなった.
著者
笠原 多嘉子 大槻 彰 坂本 浩二
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.621-627, 1987-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
14
著者
東郷 実昌 中山 徹也 荒木 日出之助 鈴木 和幸
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.215-232, 1988-04-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
12

6歳児 (男子95名, 女子104名) が一部17歳になるまで毎年, 身体・骨盤外計測し, その子の出生時身長, 体重, 両親の身長を信頼できるアンケート方式で求め, 小児・思春期における体格別骨盤発育, 両親の身長とその子の身長・骨盤発育を検討した.1) 6歳時の身長のM±SDを基準にして大, 中, 小 (L, M, S) の3群に分け, その後の発育を検した.身長も骨盤もL, M, Sそれなりに平行して発育する.一方, その子の出生時身長, 体重, 親の身長も一部の例外を除けばすべてL, M, Sの順であった.2) 出生時の身長のM±SDを基準にしてL, S2群に分け, その子の発育を検すると, 男女ともLの出生時体重, 父母の身長はSのそれより有意に大きいが, 6歳以後の身長, 骨盤発育では男子はほとんどLとS間に有意差はないが, 女子では12~14歳ごろまでLの値はSの値より大きい.3) 父母の身長のM±SDを基準にして父母をそれぞれLとS2群に分け, その子の6歳~17歳までの身長, 骨盤発育を比較すると, 父と男子の組合わせではLとS間に有意差はないが, 父と女子, 母と男子, 母と女子の組合わせではLの子の身長, 骨盤はSの子のそれより有意に大きい.その関係は父より母, 男子より女子に著明である.4) 以上のことは両親と子の重回帰分析でも示唆された.すなわち, 9歳ころまでの男子の身長・骨盤発育は両親の身長因子に若干関与するにすぎないが, 女子の身長には17歳まで両親の身長因子が有意に関与し, 同じく女子のTrとExt にも14歳まで母の身長因子が, それ以後は父の身長因子が有意に関与する結果であった.以上のことより, 女子は骨盤発育の面でも男子より遺伝的に定められた体格素因を受け継ぐことが強いようである.
著者
大原 鐘敏
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.151-158, 1991-04-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
20

ヒトの大腿屈筋群 (大腿二頭筋長頭・短頭, 半腱様筋, 半膜様筋) の機能的特徴を明らかにするためにこれらの筋の筋線維構成を検索し, ヒトの他筋と比較, 検討した.材料は本学解剖実習に用いた10%ホルマリン水注入屍17体 (男性11体, 女性6体, 平均年齢64.1歳) から得られた大腿屈筋群である.各筋の最大幅部の筋横片を採取, セロイジン包埋, H・E染色標本を作製し, 筋線維構成を検索した.結果はつぎのごとくである.筋重量は大腿二頭筋が最大で, 屈筋群中約40%を占め, 以下, 半膜様筋 (約35%) , 半腱様筋 (約20%) の順であった.筋腹横断面積は大腿二頭筋長頭と半膜様筋が他二筋の倍以上を占めていた.筋線維総数は大腿二頭筋長頭が最多であったが, 各筋とも20万前後で筋間の差は小であった.筋線維の太さは半膜様筋が最大で, 大腿二頭筋長頭がこれに次ぎ, この二筋はヒトの他筋と比較しても大きな筋群に属していた.これに対し, 半腱様筋と大腿二頭筋短頭は他二筋よりはるかに小さく, 比較的小さい筋群に属していた.以上のことから大腿屈筋群では大腿二頭筋長頭と半膜様筋が他二筋より著明に発達し, 膝関節屈曲の主作働筋であると考えられた.
著者
島田 和幸
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.411-418, 1998-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
18
著者
長谷川 真紀子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.833-842, 1987-12-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
24
被引用文献数
8

股関節屈曲の主作動筋といわれる腸腰筋 (大腰筋と腸骨筋) の筋線維構成を観察し, 両筋を比較するとともに, ヒトの他筋と比較して, その機能的特徴を検討した.研究対象は10%ホルマリン水注入屍から得られた大腰筋左右11対 (男性: 6, 女性: 5) と腸骨筋6側 (男女各3) で, これらはセロイジン包埋, HE染色を施した.また, 45歳女性の未注入屍から大腰筋と腸骨筋を採取し, Sudan BlackB染色を施し, 筋線維を分別し, 前者と対比した.結果: 1.Sudan BlackB染色による所見1) 3筋線維型の比率は, 白筋線維が大腰筋では41.3%で最も高く, 腸骨筋では38.3%で中間筋線維 (40.5%) とほぼ等しく, 両筋とも赤筋線維が少なかった.2) 3筋線維型の太さの平均値は, 両筋ともに, 赤筋線維, 中間筋線維, 白筋線維の順に大で, 赤筋線維の太さは白筋線維の約3倍であった.3) 筋線維密度は, 筋線維型別に見ると大腰筋では赤筋線維が, 腸骨筋では中間筋線維がそれぞれ最も高く, 白筋線維の密度は低かった.これは本筋群の持続的収縮傾向を示すものである.II.HE染色による所見1) 筋腹横断面積は大腰筋では男性が女性よりも優ったが, 腸骨筋では性差を認め難く, 両筋問では男性では差がなかったが, 女性では腸骨筋が大腰筋よりも優る傾向が見られた.これは骨盤部形態の性差に基くものと考えられた.2) 1mm2中の筋線維数は, 大腰筋では性差なく, 腸骨筋よりも多く, 後者では女性の方が男性よりも優る傾向が見られた.3) 筋腹横断面における筋線維総数は両筋とも上腕二頭筋あるいは前脛骨筋に匹敵し, 男性では大腰筋が, 女性では腸骨筋がそれぞれ他よりも多かった.4) 筋線維の太さは腸骨筋が大腰筋よりも優り, 大腰筋は上腕二頭筋, 胸鎖乳突筋, 咬筋等に, 腸骨筋は僧帽筋尾側部, 小菱形筋, 肩甲挙筋等にそれぞれ匹敵し, 両筋とも男性が女性よりも優る傾向が見られた.その分布型は大腰筋では単峰性の左方推移型が, 腸骨筋では多峰性の右方推移型がそれぞれ多く, 大腰筋では退縮傾向が著明であった.5) 筋線維の密度は両筋とも80%前後で, 大腰筋では男性が女性よりも優り, 男女とも加齢的に低くなる傾向が認められた.6) 以上の事から, 本筋は主として股関節の屈曲位の維持に働き, それぞれ大凡上腕二頭筋に近い筋力を有し, 歩行に当って腸骨筋は大腿の外旋にも働き, その傾向は女性で著しいと考えられた.
著者
小出 良平
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.191-202, 2012 (Released:2012-12-14)
参考文献数
13
著者
大坪 天平
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.14-20, 2003-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
33
著者
角谷 徳芳
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.481-492, 1981
被引用文献数
1

近年口蓋裂手術は, 言語改善並びに顎発育への影響を考慮する傾向にある.現在われわれの国において主流をしめる手術法はDorrance, Wardill等の開発したpush-back法であるが, これは口蓋への手術侵襲が骨膜下層である為, 顎発育への影響が大きいとする意見があり, Perkoが開発した骨膜上層での手術法を推奨する者が現われてきた.そこでわれわれは, 実験的に正常幼若ラットを使用し, 片側口蓋粘膜を骨膜下に切除したもの50匹, 骨膜上で切除したもの50匹, 侵襲を加えないで成長させたもの50匹を1カ月ごと5カ月間各々10匹づつ断頭し, 乾燥骨としたものの, 口蓋縫合線の変化及び臼歯間横径を測定した.その結果は下記の通りである.以上口蓋裂手術時において現在主流をしめる手術法において骨膜下層での侵襲と骨膜上層での手術侵襲の二通りの方法が存在するが, 単に外科的侵襲のみについてその発育影響を比較するという意味で, ラット口蓋への実験を進めた結果, 骨膜下層までの侵襲は縫合線への影響は大きいが, 口蓋全体の発育に影響を及ぼすほどの侵襲ではないという結果を得た.
著者
稲葉 宏 笠井 史人 國吉 泉 飯島 伸介 東 瑞貴 和田 真一 渡辺 英靖 佐藤 新介 水間 正澄
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.596-601, 2011

〔目的・方法〕回復期リハビリテーション病棟(以下回復期リハ病棟)には,入院に当たって発症・受傷・手術から入院までの入院時発症後日数(発病・受傷・手術より急性期病院を経て回復期リハ病棟へ入棟するまでの期間)が厳密に定められており,一定の入院時発症後日数を超えた患者は入院が困難となっている.そのため,リハビリテーションによる回復が見込まれる患者においても,入院時発症後日数の延長によりその機会を奪われてしまうと想像される患者の存在が以前から危惧されていた.そこで今回,われわれは,回復期リハ病棟設立以前に当院当科へリハビリテーション目的で入院した患者の入院時発症後日数・入院時発症後日数延長の原因・回復期リハ病棟在院日数と転帰(在宅復帰率)の調査を行う事により,入院時発症後日数の予後に及ぼす影響を検討・考察した.〔結果〕在院日数・転帰(在宅復帰率%)は,入院時発症後日数が設定期間内の患者群(I群73症例)91.7±64.8日・80.1%が,設定期間超過の患者群(II群34症例)109.7±58.8日・67.6%より良好な結果を示した.しかしながら,何れの結果も有意差を認めるまでには至らなかった.しかも,II群の多く(34症例中,原因判明は25症例・73.5%)は,再手術・併存症や併発症の治療等が入院時発症後日数延長の原因となっていた上に,II群においても十分なリハビリテーションの効果が発揮され,在宅復帰な症例が34症例中23症例(67.6%)存在した.これらの結果より,定められた入院時発症後日数を超過した事のみによる判断にて患者の回復期リハ病棟への受け入れが困難となる事は,大きな問題であり,入院後の医療体制を含めて改善の余地が大いにあるものと考えられた.