著者
蜂須 貢 村居 真琴 田中 正明 瀬川 克己 武重 千冬
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.543-550, 1979-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
21

1.D-フェニルアラニンのペプチダーゼ阻害作用を生物学的に検定した.モルモット空腸の収縮はエンケファリンで抑制されるが, この抑制はペプチダーゼを含む脳の抽出液が存在する時は消失するが, D-フェニルアラニンを添加すると消失しないで, 脳の抽出液を熱処理して酵素活性を失わせた時と同じになる.2.ラットの脳室内に投与したエンケファリンによる鎮痛はD-フェニルアラニンの腹腔内投与によって著しく増強される.3.ラットの尾逃避反応の潜伏期を痛覚の閾値として, 針麻酔の刺激を加えると, 5%の危険率で有意の差のある鎮痛が現われるラットと現われないラットがあり, それぞれ針鎮痛有効群, 無効群とに区分できる.4.D-フェニルアラニンを投与すると, 針鎮痛無効動物の針鎮痛は著しく増強され, 有効群にD-フェニルアラニンを投与した時のわづかに増強された針鎮痛とほぼ等しくなり, 針鎮痛の有効性の個体差は消失する.5.針鎮痛有効群ラットは中脳中心灰白質刺激による鎮痛も有効で, 針鎮痛の有効性の個体差と中脳中心灰白質刺激による鎮痛の有効性の個体差はよく並行する.D-フェニルアラニンを投与すると, 針刺激ならびに中脳中心灰白質刺激無効群ラットの, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛は増強し, D-フェニルアラニン投与後わづかに増強された針刺激有効群ラットの中脳中心灰白質刺激による鎮痛とほぼ等しくなり, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛の有効性の個体差は消失する.6.モルヒネ鎮痛の有効性の個体差も針鎮痛の有効性の個体差と並行するが, D-フェニルアラニン投与後はモルヒネ鎮痛は増強され, 鎮痛の程度は両群ともほぼ等しくなり, モルヒネ鎮痛の有効性の個体差は消失する.7.針鎮痛, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛, モルヒネ鎮痛何れにも鎮痛性ペプタイドの内因性モルヒネ様物質が関与し, これら鎮痛の有効性の個体差はぺプチダーゼの活性の個体差に依存していると考察した.
著者
福留 厚
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.425-435, 1977

Fot the determination of lactose by galactose-oxidase peroxidase (GOP) method, it is necessary to measure the amount of galactose liberated after the hydrolysis of lactose.<BR>(1) Hydrolysis of lactose-Lactose was hydrolyzed with 0.2% H<SUB>2</SUB>SO<SUB>4</SUB>or with living cells of <I>Escherichia coli</I>3-MT (a mutbile-type variant which decomposes lactose but not galactose) . By H<SUB>2</SUB>SO<SUB>4</SUB>method, the calculated dose of galactose was liberated after 2 hours. By MT method, free galactose increased rapidly after 2 hours and reached maximum after 3 hours. The volume of lactose solution was diluted to 1: 4 in the procedures of acid hydrolysis and neutralization, but not in MT method.<BR>(2) Determination of galactose liberated from lactose after hydrolysis- (i) Free galactose in the H<SUB>2</SUB>SO<SUB>4</SUB>hydrolysate of standard solution of lactose was measured by GOP or a cup-plate method using M (galactose-sensitive mutant of enteric bacteria) as the test organism. The amount of galactose was measurable in the range of 25-200&gamma;/2 ml in the case of GOP method, and 1.25-10&gamma;/0.1 ml in the case of M-cup method. (ii) Galactose in the MT hydrolysate was measured by GOP or M-cup method. The amount of galactose could be estimated in the range of 25-100 &gamma;/2 ml by GOP method, but the volume of MT hydrolysate was diluted to 1: 8 because of the necessity of deproteinizing. On the contrary, the amount of 1.25-10&gamma;/0.1 ml could be estimated by M-cup method without the need of deproteinizing.<BR>(3) Determination of lactose in the biological material- (i) Free galactose in the H<SUB>2</SUB>SO<SUB>4</SUB> hydrolysate of milk was measured by GOP or M-cup method. Although deproteinizing of the hydrolysate was necessary, the determination of galactose in the range of 25-100&gamma;/2 ml was possible by GOP method. By M-cup method, 1.25-10&gamma;/0.1 ml of galactose could be determined without the need of deproteinizing. (ii) The amount of galactose in the MT hydrolysate of milk was measured by GOP or M-cup method. While the estimation of 25-100&gamma;/2 ml of galactose was possible by GOP method after deproteinizing, 1.25-10 &gamma;/0.1 ml of galactose could be estimated by M-cup method without deproteinizing.<BR>From these experimental results, the combination of MT hydrolysis and M-cup method proved to be most sensitive for the determination of lactose in the biological material.
著者
朴 東錫 神田 美喜男 石川 自然 STEDING Gerd
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.863-869, 1987

先天性心疾患の成因は, 現在のところ不明な部分が多く, 成因を明らかにするために, 種々の研究がなされてきた.先天性心奇形の原因として遺伝的要因および環境的要因があるが多因性生物学的閾域説が最も有力である.近年臨床ならびに病理学的研究, 疫学的調査, 実験的研究により次第に先天性心奇形の成因が解明されつつある.われわれは, その一環として機械的物理学的因子である電気shockを鶏胚心に加えることによって, 両大血管右室起始を中心とした一連の心奇形spectrumを作成してきた.今回, われわれは, 電気shockによる生理学的変動を観察するために, 心電図, 超音波, ドプラーおよびComputed Echospecを用いた.<BR>実験方法と結果; 受精後3日以内, 100C以下に保存された白色レグホン卵をIncubatorで孵卵開始した.孵卵後3~4日目にHamburger-Hamilton24~27stageに直径10×8mmの穴を開け, 血管に損傷を与えないように卵殻膜を除去した.卵殻の周囲の温度は38℃以下には下がらないように保った.心電計の特長として.脳波, 筋電図, 心電図をはじめ, 各種生体電気現象を観察するためのアンプが用いられたことである.また, 各測定用の低域フィルター, および高域フィルターを内臓している.さらに交流障害を排除するハムフィルターも内臓されている.もう一つは超音波を応用した.ドプラーProbeは, 連続波10mHzのものである.Probeを直接Conotruncusに当て血流変動をみた.血流の変動をComputed Echospecに連結し, パワースペトラムによる解析が行われた.電気shock後心電図の所見として心拍数は210/min.から120~100に低下しPRの間隔も0.16~0.18sec.に延長した.心拍数が低下するに従い, 心室性の期外収縮, ΩRSのvoltage低下が認められた.その他QT間隔の延長も認められた.これらの変化は電気shock後3~15分の間が著明である.ドプラーの流速変動をみると, 電気shock3分後, 平均4674Hzで上昇するが, 30分には低値を示した.もう一つのParameterとして%Windowを分析してみると, 電気Shock3分後著しい上昇を示し, 15分後から低くなって来る.<BR>結論; 従来, われわれは, 電気Shockによって, 組織学的変化として, 細胞壊死, 変性などがみられたことを報告し心奇形との相関を示した.今回の実験Dataとして, 生理学的に, 組織学的変動を反映する心電図, ドプラーの変化が認められ, これらの総合した所見が心奇形を作成せしめる要因になるものと示唆された.

1 0 0 0 OA 認知療法

著者
平島 奈津子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.26-29, 2003-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
9
著者
平沼 直人 藤城 雅也 佐藤 啓造
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.628-636, 2012

医療訴訟においては,いかにして適切な医学的知見や意見を取り込むかということが重要な課題である.従来,医療過誤を理由とする損害賠償請求訴訟においては,裁判所の選任した鑑定人による裁判上の鑑定がその中核をなしてきた.ところが,近年,裁判上の鑑定に代わり,訴訟当事者すなわち原告ないし被告の提出する,いわゆる私的意見書が重要な地位を占めるようになった.本研究では,医学的意見を訴訟に反映させる方法として,鑑定,私的意見書,専門委員,付調停,事故調査報告書,死体検案書,後医の診断書,ドクターヒアリング,聴取書を取り上げ,その運用の実態と優劣を検討する.筆頭著者が医療側被告訴訟代理人として一審判決を受け確定した直近の12件につき,事案の概要・争点,診療科目,裁判所所在地・医療集中部と通常部の別,判決年月日,患者側原告代理人の有無,患者側原告私的意見書提出の有無・有の場合の意見書作成者に対する証人尋問実施の有無,医療側被告私的意見書提出の有無・有の場合の意見書作成者に対する証人尋問実施の有無,鑑定実施の有無,判決結果,控訴の有無,特記事項をまとめて表にした.わが国の民事訴訟制度は,利害の鮮明に対立する当事者が主張・立証を闘わすことによって真実が明らかになるという当事者主義の訴訟構造をとっている.裁判上の鑑定が白衣を着た裁判官とも言うべき鑑定人による職権主義的な色彩を持つのに対し,私的意見書は当事者主義の訴訟構造によく適合している.また,鑑定には,公平・中立性を十分に担保する仕組みがない,時間がかかるといった問題があり,これを解決すべく創設された複数医師によるカンファレンス方式鑑定にも法律上の疑義が呈されており,やはり私的意見書を審理の中心に据えることにより解決すべきであることが12件の実例の検討により明らかとなった.このように訴訟は私的意見書を巡る攻防となるべきであるから,原告患者側は訴状提出の際は私的意見書を添付すべきであり,これに対し,被告医療側はまず,反論と医学文献による反証をなし,それで不十分な場合には私的意見書の提出を検討すべきである.双方から私的意見書が提出された場合,裁判所はこの段階で心証に従って和解を試みるべきであるが,和解不成立の場合には集中証拠調べに移行し,原・被告本人尋問に加え,原告側協力医の証人尋問を実施すべきである.鑑定はこうして万策尽きた際の伝家の宝刀たるべきである.このような私的意見書の役割に即して,今後はこれを当事者鑑定と呼称すべきことを提言する.
著者
武井 貢彦
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.261-268, 1997-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
18

慢性関節リウマチにおいて上位頚椎病変を合併することは少なくなく, 上位頚椎の亜脱臼による延髄及び脊髄の圧迫で急速な死の転帰をとることがある.突然死の原因として近年睡眠時無呼吸症候群 (Sleep apnea syndrome; 以下SAS) が注目されているが, RAにおけるSASの合併に関する報告は少ない.本研究では上位頚椎病変を有するRA患者に睡眠ポリグラフィー, 頚椎単純X線撮影及びMRIを施行し画像診断上の特徴よりSAS出現の危険因子を明らかにした.対象はRA患者7例で男性1例女性6例, 年齢は42歳から60歳, stage III: 5例, stageIV: 2例, class2: 1例, class3: 6例であった.1時間あたりの無呼吸回数 (apnea index) が5以上のものをSASとした.画像診断としてはatlanto-dental interva1 (ADI) , 残余脊柱管前後径 (space available for the cord; 以下SAC) , Perpendicular distance; 以下PD) , Redlund-Johnell値及rama1-height値を計測, MRIでは特に延髄腹側の状態を観察した.SASと診断された症例は3例で前方亜脱臼, 及び前方亜脱臼と垂直脱臼の合併が各1例ずつでいずれもMRIで延髄下部腹側の圧迫が認められた.また1例は顎関節破壊による2次性の小顎症を呈していた.延髄下部腹側の圧迫の認められない症例ではslee papneaは出現していなかった.前方亜脱臼を呈する患者ではSACが13mm以下, 垂直亜脱臼を呈する患者ではPDが7mm以下となり, MRI画像で肉芽などによる延髄下部, 上位頚髄の特に腹側の圧迫像が見られる場合にはSASを起こしている可能性が高かった.延髄下部腹側には呼吸リズム産生機構があることが示唆され, 亜脱臼の方向にかかわらずMRIでの延髄下部腹側の圧迫像の存在はSAS発症の危険因子と考えられた.
著者
東郷 実昌 中山 徹也 荒木 日出之助 鈴木 和幸
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.215-232, 1988

6歳児 (男子95名, 女子104名) が一部17歳になるまで毎年, 身体・骨盤外計測し, その子の出生時身長, 体重, 両親の身長を信頼できるアンケート方式で求め, 小児・思春期における体格別骨盤発育, 両親の身長とその子の身長・骨盤発育を検討した.1) 6歳時の身長のM±SDを基準にして大, 中, 小 (L, M, S) の3群に分け, その後の発育を検した.身長も骨盤もL, M, Sそれなりに平行して発育する.一方, その子の出生時身長, 体重, 親の身長も一部の例外を除けばすべてL, M, Sの順であった.2) 出生時の身長のM±SDを基準にしてL, S2群に分け, その子の発育を検すると, 男女ともLの出生時体重, 父母の身長はSのそれより有意に大きいが, 6歳以後の身長, 骨盤発育では男子はほとんどLとS間に有意差はないが, 女子では12~14歳ごろまでLの値はSの値より大きい.3) 父母の身長のM±SDを基準にして父母をそれぞれLとS2群に分け, その子の6歳~17歳までの身長, 骨盤発育を比較すると, 父と男子の組合わせではLとS間に有意差はないが, 父と女子, 母と男子, 母と女子の組合わせではLの子の身長, 骨盤はSの子のそれより有意に大きい.その関係は父より母, 男子より女子に著明である.4) 以上のことは両親と子の重回帰分析でも示唆された.すなわち, 9歳ころまでの男子の身長・骨盤発育は両親の身長因子に若干関与するにすぎないが, 女子の身長には17歳まで両親の身長因子が有意に関与し, 同じく女子のTrとExt にも14歳まで母の身長因子が, それ以後は父の身長因子が有意に関与する結果であった.以上のことより, 女子は骨盤発育の面でも男子より遺伝的に定められた体格素因を受け継ぐことが強いようである.
著者
高野 恵 佐藤 啓造 藤城 雅也 新免 奈津子 梅澤 宏亘 李 暁鵬 加藤 芳樹 堤 肇 伊澤 光 小室 歳信 勝又 義直
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.387-394, 2009-10-28 (Released:2011-05-20)
参考文献数
24

死後変化が進んだ死体において時に歯が長期にわたりピンク色に着染する現象が知られており,ピンク歯と呼ばれ,溺死や絞死でよく見られる.ピンク歯発現の成因として歯髄腔内での溶血により,ヘモグロビン(Hb)が象牙細管内に浸潤していくことが推測されているが,生成機序も退色機序も十分明らかになっていない.先行研究において実験的に作製したピンク歯では一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)や還元ヘモグロビン(HHb)によるピンク歯は6か月以上,色調が安定であったのに対し,酸素ヘモグロビン(O2Hb)によるピンク歯は2週間で褐色調を呈し,3週間で退色することを既に報告している.ピンク歯の生成・退色機序を解明するうえで,O2Hbによるピンク歯が早期に退色する現象を詳細に検討することは意義のあることと考えられる.う歯がなく,象牙細管がよく保たれた歯の多数入手が不可能であるため,本研究では象牙細管のモデルとして内径1mmのキャピラリーを用い,O2Hbによるピンク歯の退色について詳細に検討した.実際の歯とキャピラリーを用いてO2HbとCOHbの退色を比較したところ,キャピラリーはピンク歯のよいモデルとなることが分かった.キャピラリーを用いた詳細な実験で,O2Hbは酸素が十分存在し,赤血球膜も十分存在するという限られた条件において早期に退色することが明らかになった.このことはO2Hbに含まれる酸素が赤血球膜脂質と反応してHbの変性を来し,Hbの退色をもたらすことを示唆している.この退色は温度の影響をほとんど受けず,防腐剤の有無にも影響を受けなかった.死体では死後に組織で酸素が消費され,新たに供給されないので,極めて嫌気的な環境にあり,死後産生されたCOHbを少量含む主としてHHbによる長期的なピンク歯を生じやすいといえる.溺死体のような湿潤な環境で象牙細管へのHHbやCOHbの侵入と滞留があれば,ピンク歯はむしろ生じやすい現象といえるであろう.
著者
馬場 博康 宗近 宏次 古賀 靖 岩崎 統 高橋 久男
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.339-340, 1978

The typical radiological picture of ascariasis in the small intestine was demonstrated incidentally in a patient who came with abdominal tenderness.<BR>The small bowel follow through study after upper GI series is emphasized to be worth while on occassion.
著者
片桐 仁
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.269-279, 1997

骨折治癒過程における骨形成因子および仮骨の役割は, 先人により種々の方法で検討され, 近年明らかにされつつある.今回我々は, 骨折治癒過程における仮骨の役割と機械的刺激の影響を知る目的で, まず雑種成犬の腸骨に骨欠損を作製し, その部位に生じた3週目の仮骨を摘出して, 同犬の大腿骨に作製した横骨折内に移植した.さらに横骨折内に腸骨から採取した海綿骨を移植したモデルを作製し, 横骨折のみのものをコントロールとした.それぞれにつき骨折治癒過程を組織学的に検討した.その結果, 骨折後2週ではコントロールが他の2群より骨癒合が進んでおりwoven boneの形成がみられた.海綿骨移植群では, 未吸収の移植骨の壊死骨様骨片が認められた.仮骨移植群では移植部の細胞数の減少と血管腔の形成が認められた.骨折後4週においてはコントロールではgap内はwoven boneでみたされていた.海綿骨移植群ではwoven boneの配列がコントロールより多様である傾向がみられた.仮骨移植群では他の2群に比べwoven bone形成は遅れていた.骨折後7週において, コントロールではwoven boneは規則的に配列していた.海綿骨移植群においてもwoven boneの配列に規則性が見え, 骨折線もほぼ消失していた.仮骨移植群では移植部はwoven boneで埋まっているがまだ規則性に乏しい所見であった.次にこれらの犬の大腿骨の横骨折モデル (コントロール, 仮骨移植群, 海綿骨移植群) に対し創外固定器を用いて適度な固定を3週間行い, 固定器本体部のtelescoping mechanismを利用して軸圧負荷を加え, 骨折後7週目で組織学的に観察した.コントロール, 海綿骨移植群ともに骨折線は消失しており, 骨癒合はほぼ完成しているようにみられた.仮骨移植群でも骨梁の骨長軸方向への配列が見え始めていた.以上の結果より, 1) 骨折治癒過程の進展は2週では, コントロール, 海綿骨移植, 仮骨移植の順に優位であるが, 4週以後ではコントロールと海綿骨移植はほぼ類似の経過であった.2) 骨癒合促進には骨形成因子そのものより血管進入によるものの影響が強いものと示唆された.3) 仮骨は軟骨形成能も骨形成能も有しており, 環境因子により大きく影響を受ける.適度な固定ならびに軸圧刺激により骨形成能が促進され, 間欠的軸圧刺激 (dynamization) は通常の骨折治癒過程, 海綿骨移植の場合と同様に骨成熟を促進させることが観察された.
著者
岡本 太郎 武重 千冬
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-9, 1989

視覚は生後発生する感覚であることは視覚領における視覚ニューロン活動の生後の発達が閉眼の影響をうける事から知られている.視覚の発達には視覚領のみならず, これを認識する過程の発達を無視することは出来ない.視覚の誘発電位を指標とすると, 視覚領における第1次の誘発電位と, これを認識する過程に関係する第2次の誘発電位から, 両者の発達の過程を別々に経日的に検索することが可能である.本研究は誘発電位から視覚発達の過程を検討した.視覚誘発電位 (visual evoked potential, VEP) は生後間もない仔ネコを用いて, ヒトの脳波誘導の10/20法の, Pz (頭頂極) およびInion (後頭極) に相当する部位から双極性に誘導し, 無麻酔, 無拘束の状態で、暗箱の上孔から閃光刺激を与えて誘起した.VEPは, 潜時100ms以下のものを第1次誘発電位, 潜時100ms以上のものを第2次誘発電位とした.第1次誘発電位は, 光刺激による特殊投射系を経た視覚領の誘発電位であるので, 視覚そのものの発達の指標となり, 第2次誘発電位は非特殊投射系を経た誘発電位であるので, 視覚の認識の発達に関する過程の指標となると考えられる.視覚の発達に決定的な影響を与える時期は, 視覚ニューロンの検索では生後4週の始めの数日にあると報じられているので, 生後3週の終わりを基準にして3種の閉眼を行った.すなわち, 生後1) 2-4週の問, 2) 4週以降から, 7週から11週までの間, 3) は1) と2) にまたがる2-6週までの間とした.第1次誘発電位は生後2.5週で初めて出現し, その後振幅を増し, 5週にはほぼ一定の振幅で出現して安定に維持された.これに反し, 第2次誘発電位は不安定で出現の有無も振幅も一定せず, この傾向は生後何れの時期においてもみられた.第1次誘発電位は, どの期間の閉眼によっても, 一時的に減少はしたが, 開眼後は徐々に回復し, 最終的には正常と同程度の振幅に復帰した.これに反して, 第2次誘発電位は閉眼と同時に出現しなくなったが, 1) と2) の閉眼では開眼すると徐々に回復し, やがては閉眼しなかった時と同じように出現するようになった.しかし, 3) の2-6週の閉眼では閉眼中はもとより, 開眼後も実験の期間中の開眼18週後まで全く出現しなかった.以上の結果から, 閉眼の効果は第1次誘発電位よりも第2次誘発電位の方に決定的な影響が現われ, かつ3) の閉眼が第2次誘発電位の発現の阻止に必須であることが明らかとなった.したがって仔ネコでは視覚認識の過程が視覚発達上極めて重要であることが示唆された.
著者
吉野 貴順
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.450-459, 1997-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
28

本研究の目的は, 間欠的に繰り返される短時間超最大運動のパフォーマンスに及ぼす重炭酸塩摂取の影響を検証し, あわせて血液における酸緩衝能力の低下と運動パフォーマンスとの関連性について検討することであった.400mlの水で溶解した0.2g/kgのNaHCO3 (NaHCO3試行) あるいは1gのNaCl (コントロール試行) 液摂取の1時間後, 6名の大学アイスホッケー選手が, 4分30秒間の休息期を挟んで, 30秒間のウィンゲート・テストを7回繰り返す実験運動を遂行した.運動パフォーマンス関連の変数は, 動輪1/2回転毎の電気信号から算出した.また, 肘前静脈より定期的に採取した血液から, pH, HCO3-および乳酸濃度を分析した.なお, 被験者は各試行を, 7日の間隔をおいて, クロス・オーバー法により行った.NaHCO3摂取の1時間後, pHおよびHCO3-濃度は摂取前およびコントロール試行と比較して有意に上昇した.NaHCO3試行における実験運動期中のpHおよびHCO3-濃度は, コントロール試行と比較して, より高い値で維持される傾向にあった.合計7回の運動で発揮された平均パワー (7.10±0.60vs7.70±0.28W/kg) は, コントロール試行と比較して, NaHCO3試行で有意に大きかった.これは, 主にNaHCO3試行における4, 6, 7回目の運動時の平均パワー, および5~7回目の運動時のピーク・パワーが, コントロール試行時の値を有意に上回ったことに由来する結果であった.一方, 各被験者ごとの△HCO3-濃度と△平均パワー, ならびに被験者全体としてみたpHおよびHCO3-濃度の減少量と平均パワーの減少量との間には, それぞれ統計的に有意な相関関係が観察された.また, それらの関係は指数関数的であり, pHおよびHCO3-濃度が, それぞれ0.20および15.0mM程度低下した付近からの, 平均パワーの減少が加速的に大きくなる傾向が観察された.両試行を比較すると, 血液pHおよびHCO3-濃度の, このレベルへの到達はNaHCO3試行において遅延されていた.そして, このことがNaHCO3試行における, 相対的により高いパワーでのATP供給を可能にし, 結果として実験運動期後半のパフォーマンスを有意に高めたものと考察された.以上のことから, 血液pHが7.20以下にまで低下するような状況では, 運動パフォーマンスの加速的な減少が生じることから, 間欠的に繰り返される短時間超最大運動においては, 運動前に重炭酸塩を摂取し, 血液における酸緩衝能力をより高いレベルに維持することによって, 運動パフォーマンスの向上がもたらされると結論された.
著者
佐藤 伸弘 門松 香一 保阪 善昭
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.481-489, 2009-12-28 (Released:2011-05-20)
参考文献数
18

今回われわれは顔面骨骨折の中でも眼窩下神経に障害を及ぼす可能性が大きく,全顔面骨骨折中20~40%と比較的発生率の高い頬骨骨折を研究対象とし,過去16年間で当院を受診した頬骨骨折患者で神経障害残存をきたした症例とその骨折のタイプについて研究した.結果に関しては骨片の転位により分類されたKnight & North分類を用いた.頻度,男女比,左右差,手術比率をそれぞれ調査し,過去の当科疫学統計報告と比較して同様の傾向であった.新たな知見として骨折線の眼窩下神経孔通過の有無により分類(通過群:A群,非通過群:B群)を行い,いずれの骨折も有意差なく存在することが判明した.さらに神経障害の出現はA群に有意に多く,その中でも頬骨回旋転位群により多く出現していることが判明した.また,神経障害改善率はA・B群間では有意差を認めず,それぞれ転位を伴わない骨折の場合は高率であったが,骨片が転位するか粉砕するような場合,改善率が低下することが判明した.加えて,神経障害の出現に関しB群では眼窩下神経孔より近位での損傷が予想され,今後神経障害の改善率を向上させるため,精査や手術操作に関しさらなる研究が必要と思われた.
著者
志村 豁
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.481-492, 1983-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
21

精神病者の自殺に関し, 諸家の報告があるが, 開放管理下の自殺についてのものはない.現下, 精神医療は開放療法, 地域医療の時代にあり病者の生活圏は拡大している.この状況下で精神病者の自殺の実体を知ることは自殺防止の観点からも重要なことである.昭和大学烏山病院における開放療法20年間の在院者の自殺28例 (うち分裂病25例) 通院者の自殺36例 (うち分裂病20例) であった.本研究では分裂病の自殺例について年齢, 季節, 開放体制との関係, 自殺の場所, 手段, 動機について分析, 検討した.正確なデータはないが, 一般に精神病者の自殺率は一般人 (0.015~0.02%) の20倍あるいはそれ以上という報告に比べると当院在院者のうち10数%に自殺未遂歴のある者が年々漸増しているにもかかわらず, 自殺者は調査期間中年間0~2名とかなり少い.自殺者の年齢は20歳~30代に多く, 罹病期間でみても5年未満と15年未満に多い.これは分裂病の初発時の不安定期と, 妄想型, 緊張型の発病時期, 再発型分裂病の自殺が関連している.閉鎖体制から開放体制となり生活圏が拡大しても自殺数は変らなかった.開放療法当初に, 閉鎖病棟での自殺が見られたが, 開放体制の完成した昭和42年以降は閉鎖病棟での分裂病の自殺は0である, 季節との関係については, 春秋が多いとされる一般の自殺が分裂病の場合は特徴はみられなかった.自殺時間では開放病棟の場合は昼間帯に多く, 閉鎖体制の病院との違いを示し, 自殺場所については, 開放下では外出, 外泊の盛んな関係もあり院外の自殺が多く, 手段は交通機関, 墜落などがみられた.これは死を決した病者がおかれた環境下で選べる手近で確実な手段を実行した結果であり, 閉鎖環境の縊死の多いのとの差が見られた.手段と年齢, 疾病とには特徴的関係はない, 自殺の動機は (1) 精神病状による自殺 (2) 了解可能な自殺, (3) 了解不能な自殺に分類した.通院者の自殺は, 1例の了解可能な自殺以外は精神病状による自殺で地域での治療体制が重要なポイントであることが明らかとなった.精神症状の改善により自殺の危険性は減ずるが, 了解可能な自殺例では家族をはじめ病者をとりまく人々の協力が重要であり, 了解不能な自殺は病者の直前の言動を分析すると何らかの「自殺のサイン」がみられ, 看過することなく対応することが最重要であることが判る, なお, 今回の調査以降, 烏山病院のデータによると自殺事故はない, 他方, 外来通院者の自殺事故が増加する傾向にあることは地域精神医療の重大なテーマであろう.
著者
石野 尚吾
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.5-14, 2004-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
6
著者
齊川 真聰 小口 勝司 中山 貞男
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.360-369, 2006-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
11

接触性皮膚炎やアトピー性皮膚炎の治療に臨床的に使用されている漢方薬 (黄連解毒湯: OGT, 温清飲: USI, 十全大補湯: JTT, 当帰飲子: TI, 荊芥連翹湯: KRT, 四物湯: SMT) の塩化ピクリル (PC) およびオキサゾロン (Oxa) で誘発した遅延型過敏性皮膚炎 (DTH) の急性ならびに慢性皮膚病変に対する影響を検討した.PCを感作・誘発物質とした急性皮膚炎はBALB/c系雌マウスを用い, PC感作7日後に1回チャレンジで誘発した.Oxaを感作・誘発物質とした急性皮膚炎はBDF1系雌マウスを用い, Oxa感作後7日後に1回のチャレンジで誘発した.Oxa誘発慢性皮膚炎はOxa感作7日後から7日ごとに4回のチャレンジを行い誘発した.6種類の漢方薬はPC誘発耳介腫脹を抑制したが, OGT, USI, JTT, TIの抑制は用量依存的作用ではなかった.KRT, SMTは用量依存的抑制作用を示した.Oxa誘発耳介腫脹に対しても6種類の漢方薬は抑制作用を示したが, 用量依存性は認められなかった.Oxa4回チャレンジによる耳介腫脹に対してはOGT, USI, JTT, KRT4種類の漢方薬の作用を検討した.4種漢方薬の用量依存性はないが耳介腫脹の抑制を示した.耳介組織のサイトカインはOxa対照で減少し, OGT, USI, JTT, KRTの投与で減少が強められた.Oxa対照で増加した耳介組織のIgEはOGT, USI, JTTで抑制された.以上の結果から, OGT, USI, JTT, KRTは急性および慢性皮膚炎に対して有効であり, その抑制作用にはIgE産崖抑制が関係することが示唆された.