著者
北原 英治 原田 正史
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.370, pp.21-30, 1996-03
被引用文献数
4

紀伊半島産ヤチネズミ個体群の分類学的位置を調べるため,その染色体を本州中部産ヤチネズミと比較した。その結果,紀伊半島産と本州中部産ヤチネズミの核型(2n=56,FN60)はほとんど同一であることが明らかとなった。すなわち,ヤチネズミ両個体群の染色体はとも2対のサブテロセントリック,1対のメタセントリック,24対のアクロセントリック,サブテロセントリックのX染色体とサブメタセントリックのY染色体からなっていた。また,供試ヤチネズミの染色体をClethrionomys rufocanus及びEothenomys smithiiと比較することにより,本ヤチネズミはC. rufocanusよりもE. smithiiに近縁であることが分かった。従って,ヤチネズミ両個体群は分類学的に同一種に属することが結論され,両者を一括してEothenomys andersoniとするAIMI(1980)の考えを一層強く支持した。
著者
阿部 学 北原 英治
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.356, pp.p29-45, 1989-12

新たに開発したヘリコプターセンサス法を用いて,群馬県の国有林2297haにおいてカモシカ等のセンサスを行った。1982~1984年の各々3月に実施したセンサスで,105個体,134個体,119個体のカモシカを数え,三者間に有意差はなかった。また,同調査地内の1314haで二日間にわたって行った再現性のテストでも,各々48個体,43個体を数え,互いに有意差はなく,当調査法の再現性の高いことが判明した。区画法との比較を行った結果,316haの中で地上では2.37~2.96個体/km2を,空からは5.7個体/km2を数え,空からの調査は地上調査の約2倍となった。三か年間の調査でカモシカをはじめノウサギ,ツキノワグマ,イヌワシ,ヤマドリなど13種の鳥獣が識別できた。ノウサギとヤマドリはカモシカと並行してセンサスを行い,各々74個体,54個体を数えた。この結果,当調査法はカモシカのみならず他の鳥獣への適用の可能性を示唆した。ヘリコプターセンサスの利点は,1)地形,植生,積雪などの地上条件に左右されない,2)動物に動きを与えるので発見が容易である,3)地上調査に比べて広範囲の調査が可能で,小面積調査に由来する誤差が小さい,4)再現性が高い,5)非積雪地帯でも適用可能で汎用性が高い,6)同時に複数の鳥獣のセンサスが可能,などである。
著者
金子 真司 後藤 義明 田淵 隆一 赤間 亮夫 池田 重人 篠宮 佳樹 今村 直広
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.259-264, 2018

福島県十万山(浪江町・双葉町)の森林火災(2017年4月29日~ 5月10日)の延焼地において、火災直後に山頂部のアカマツ林と谷部のスギ林で樹木と土壌の試料を採取して放射性セシウム(RCs: <sup>134</sup>Cs+<sup>137</sup>Cs)濃度を測定して火災の影響を調べた。樹木については、同一木の幹の燃焼側と非燃焼側から樹皮を採取した。土壌は燃焼地と隣接する非燃焼地から堆積有機物層と表層土壌を採取した。アカマツでは燃焼樹皮が非燃焼樹皮に比べて現存量とRCs 濃度とRCs 蓄積量が小さかった個体が存在した。また、アカマツ林、スギ林で調査したすべての堆積有機物層のRCs 濃度が燃焼箇所に比べて非燃焼箇所で高かった。
著者
高野 麻理子 服部 力 根田 仁
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.133-140, 2018

パルプ漂白菌の選抜に色素の脱色を利用するため、30 株の木材腐朽菌を、パルプとRBBR, Poly R-478, Poly S-119, Azure B の各色素を含む寒天培地で培養した。その結果、20 株がRBBR 脱色を示し、そのうちの15 株がPoly R-478 の脱色を示した。さらに、Poly R-478 脱色株のうちの6 株がPoly S-119 の脱色を示し、そのうちの 3 株が Azure B の脱色を示した。試験管中で、ラッカーゼ( Lac)、マンガンペルオキシダーゼ( MnP)、リグニンペルオキシダーゼ( LiP) の各酵素による RBBR、Poly R-478、Poly S-119、Azure B の脱色試験を行った。RBBR は、Lac、MnP、LiP の全酵素に対し、高い脱色性を示した。Poly R-478 は、Lac では脱色せず、MnP とLiP による脱色を示した。Poly S-119 とAzure B は、Lac とMnP による脱色性が低く、LiP による脱色性が高かった。これらの結果は、RBBR 脱色は、Lac のみを生産する株やリグニン分解酵素活性の低い株をも検出する可能性のあること、Poly S-119 およびAzure B の脱色は、LiP 生産株の検出に適することを示した。一方、Poly R-478 の脱色は、RBBR、Poly S-119、Azure B の脱色と比較して、MnP 生産株の選択的な選抜に適すると考えられた。MnP は、未晒しクラフトパルプの漂白に高い効果を示すことが報告されており、パルプ漂白菌の選抜には、Poly R-478 が最も適した色素であると結論した。
著者
服部 重昭
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.362, pp.p1-34, 1992-01
被引用文献数
28

近年,関西地域では,人工造林面積に占めるヒノキ植栽面積が高率で推移している。ヒノキ造林の拡大は,造林不適地にまで延びることが危惧されるので,造林適地区分法の開発や適地選定指針の提示が行われている。一方,ヒノキ林の表土流亡に起因する地力減退の防止については,林床植生やA0層の効果が指摘されているが,その効果の定量的評価は進んでいない。そこで,ヒノキ純林へのアカマツの混交と林床のササが,土砂とリターの流亡防止に及ぼす影響を定量的に把握した。これに加え,落葉堆積量と侵食土砂量の関数関係を実験的に検討し,リター堆積の効果を数量化した。ヒノキ純林にアカマツやササが侵入すると,年間侵食土砂量は1/4~1/8,流亡リター量は1~1/2程度まで減少した。また,A0層の一部を除去すると,侵食土砂量と流亡リター量が大幅に増加した。これにより,アカマツの混交やササの侵入は,土砂とリターの流亡防止に効果があることを実証した。土砂とリターの移動は,斜面を流下する地表流よりも降雨因子,特に10分間最大降雨強度と降雨エネルギーに強く依存すると推察された。つぎに,許容限界侵食土砂量の概念を提示し,花崗岩地帯のA層生成速度から,これを1~3t/ha/年と見積もった。これらの結果に基づいて,ヒノキ林の侵食防止を考慮した施業の目標を具体的に示すため,人工降雨実験から推定された侵食土砂量と落葉堆積量の指数関数式を援用し,ヒノキ・アカマツ混交林において許容限界侵食土砂量を維持するのに必要なリター堆積量が,5~7t/haであることを導いた。
著者
平川 泰彦 藤澤 義武 中田 了五
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.31-41, 2003-03
被引用文献数
16

水戸市の旧林木育種センター育種素材保存園に植栽されていた約30年生のスギの精英樹クローン、563クローン1060個体を対象に基礎材質を調べた。供試木のクローンは、関東育種基本区(関東、甲信、東海地方及び福島県と岐阜県)に成育していた精英樹から接ぎ木または挿し木により育成されたものである。供試木の地上高約1.8m部分から約50cm長さの短尺丸太を採取し、年輪幅、晩材率、密度、生材含水率、心材率、心材色、無欠点小試験体の曲げヤング係数と曲げ強度、仮道管長および仮道管の二次壁中層のミクロフィブリル傾角を調べた。また、地際から1.8m長の丸太の動的ヤング係数を調べた。個体間の変動係数は、心材の生材含水率、外側10年輪の年輪幅、晩材率およびミクロフィブリル傾角で30%以上と特に大きく、丸太の動的ヤング係数と小試験体の曲げヤング係数では17.5%と25.6%でやや大きく、密度、心材率、心材色及び仮道管長では15%以下と小さかった。本研究で示したスギ精英樹クローンの材質変動は、日本全国におけるスギの若齢造林木のそれをほぼ表しており、スギの間伐材の利用で問題になっている心材の高含水率や丸太の低ヤング係数に関しては、育種による改良効果が期待できるものと考えられる。
著者
杉田 久志 岩本 宏二郎 森澤 猛
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.81-89, 2008-06

御嶽山南東面の密なチマキザサ林床をもつコメツガ、トウヒ、シラビソ、オオシラビソの混交した亜高山帯針葉樹林において、50m×50mの調査プロットを設置し、林分構造と8年間の動態を解析した。林冠層は隙間が多く、その面積比率は32%であった。シラビソとオオシラビソはL字型の胸高直径階分布を示し、コメツガとトウヒは一山型の林冠木集団とL字型の被陰木集団とが分離する分布を示した。コメツガとトウヒは根返りマウンドや根張り上で定着したもの、あるいはタコ足形態のものが多く、地表で定着したものはほとんどなかった。シラビソとオオシラビソは地表で定着したものが比較的多くみられたが、その割合はシラビソで15%、オオシラビソで35%にすぎず、大半は根返りマウンド、根張り、岩の上に定着したもの、あるいはタコ足状形態のものであった。モミ属樹種の定着場所が地表以外の基質に偏ることは、密なチマキザサによる地表での定着阻害が林分構造に影響していることを示唆する。1998~2006年の林分全体の死亡率、加入率(胸高直径5cm以上)、胸高断面積の減少率、増加率はそれぞれ0.60%/年、1.44%/年、0.91%/年、0.96%/年であった。樹種別にみると、トウヒのみで死亡率・減少率が加入率・増加率を上回り、その他の樹種は逆の関係を示した。
著者
伊ヶ崎 知弘 石田 由美 毛利 武
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.235-240, 2002-12
被引用文献数
6

Populus albaの茎切片にバイナリーベクターpSMAB704を保持するAgrobacterium tumefaciens、GV3101(pMP90)を感染させ形質転換体を得た。pSMAB704はT領域にビアラホス耐性遺伝子(bar)とβ-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)を保持しているバイナリーベクターで、bar遺伝子の発現はノパリン合成酵素遺伝子のプロモーターで制御されている。また、ポリA付加シグナル領域(ターミネーター)配列としてアラビドプシスのリブロース-1、5-二リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼのスモールサブユニットRbcS-2B遺伝子由来のものを用いている。ビアラホス存在下で形質転換処理した組織片よりカルスが生成・増殖し、植物体が再生・成長すること、植物組織のGUS染色およびゲノミックPCR解析により形質転換の成功を確認した。この形質転換法では、形質転換細胞を厳密に選抜することができるので、エスケープ(非形質転換体)やキメラ個体は出現しなかった。また、形質転換体の外観は、元の個体と同様で形態異常は見られなかった。
著者
末吉 昌宏 前藤 薫 槙原 寛
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.171-191, 2003-09
被引用文献数
7 2

茨城県北部の温帯落葉樹林の二次林、混交林、自然林に調査地を設定し、皆伐後の二次林回復時における有弁類を除く双翅目短角類の種数・個体数を通年で調査した。その結果、41科441種余りを見い出し、それら短角類群集の種構成は森林の成熟に伴って変化する傾向にあることが明らかになった。植食性、菌食性、腐食性、捕食性および捕食寄生性といった短角類の多様な食性を代表する分類群としてミバエ科、トゲハネバエ科キイロトゲハネバエ属、ハナアブ科、クチキバエ科、キアブ科、キアブモドキ科、アタマアブ科が挙げられ、それぞれが森林の遷移に対して異なった応答を示すことが明らかになった。また、本研究では森林に生息する主要な短角類として、オドリバエ科、ハナアブ科、シマバエ科が挙げられ、そのうちハナアブ類群集の種構成は遷移の進んだ林齢の似通った二次林および自然林間では殆ど変化は無く、皆伐地、混交林、壮齢林のように異なる森林タイプで大きく異なっていた。そのため、ハナアブ科は様々な森林タイプを含む景観の多様性を評価するのに有用であると考えられる。
著者
松岡 茂 工藤 慈
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.149-155, 2009-06

2007年2月15日,北海道札幌市の落葉広葉樹林で,入り口が氷とざらめ雪に覆われたねぐら樹洞内で,ハシブトガラの死体を発見した。氷は透明で,その上をざらめ雪が覆っていたことから,最初に雨氷が降って木に氷が付着し,後にざらめ雪が降ったものと考えられた。ねぐら穴の入り口の方向と,氷の付着方向から,南から南南西の方向の風による着氷,着雪と考えられた。調査地近くで観測された気象データからは,着氷雪の発生は2月14-15日にかけての真夜中ごろと推察された。また,鳥類病院の検査部門に委託した病理解剖の結果は,ハシブトガラは消耗による死亡ではなく,内臓器官の状態からみて,窒息による死亡所見と矛盾しないことを示した。これらの状況証拠から,ハシブトガラが14日の夕方にねぐらに入った後に着氷雪が発生し,入り口を塞いだために通気がとまり,窒息死に至ったと推察された。
著者
松岡 茂
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.65-69, 2007-03

キバシリは、ユーラシア大陸に広く分布する種であるが、極東地域での生態研究は少ない。この報告では、北海道札幌市の落葉広葉樹林で観察された冬期間のキバシリのねぐら場所およびねぐら入り行動を記載した。キバシリは、調査地の日の入り時刻前後に、樹幹に掘られた浅い穴に体を埋めるようにねぐら入りしたが、体が隠れるような樹洞や樹皮下へのねぐら入りは観察されなかった。個体識別された個体は、観察された限りではそれぞれ同じねぐらに入った。ねぐら場所の特徴やねぐら入りの行動に大きな変異は認められなかった。