著者
齋藤 祥乃 岡山 久代
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.396-404, 2014-07

本研究の目的は,分娩後の女性において,骨盤ベルト(トコちゃんベルト)着用が子宮復古を促進し,マイナートラブルを減少させることを仮説とし,解剖学的に,また質問紙調査によって検証することである。対象は,正期産で単胎を経膣分娩した分娩後3〜7日目の褥婦とし,骨盤ベルトを着用する介入群30名と非着用の対照群11名に分類した。評価方法は,縦型オープンMRを用いて分娩後1週間, 1か月, 2か月の各時期の内子宮口を撮像し,恥骨尾骨ラインまでの距離を計測した。また,同時期のマイナートラブルの発症数を検討した。結果,内子宮口の位置は,介入群では分娩後1週間から1か月(p<0.01), 1か月から2か月(p<0.05)に有意な下降を認めた。同様に対照群は, 1か月から2か月のみに有意な下降を認めた(p<0.01)。分娩後1か月の時点では,介入群が対照群よりも有意に低くかった(p<0.001)。一方,マイナートラブルは,両群に差がないことが示された。介入群において分娩後1週間から1か月の内子宮口の下降が促進されたことから,分娩後1ヶ月までの子宮復古における骨盤ベルトの有用性が実証された。ただし,マイナートラブルに関しては,効果が検証されなかった。
著者
下敷領 須美子 宇都 弘美 佐々木 くみ子 井上 尚美 嶋田 紀膺子 藤野 敏則
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.171-179, 2006-04
被引用文献数
3 2

奄美群島は,南方文化の影響を受けつつ独自の文化的背景をもち,合計特殊出生率・第3子以上の出生割合が高率であるという特徴を有している。本稿の研究目的は奄美群島の子育て環境の地域特性について明らかにすることである。まず,母子保健事業と保育施策について実績値の分析を行い,さらに奄美群島全市町村の母子保健担当保健師と母親を対象に,子育て支援の実態と課題について聞き取り調査を実施した。その結果,以下の結論を得た。(1)母子保健事業の実態としては,28週以後の妊娠届出率が高いなどの課題をもつが母子保健推進員が整備活用されている。(2)保育所が整備され,待機児童は実質的に0である。(3)保育師からみた子育て環境の地域特性は,家族・親族近隣からの豊富な子育て支援,大らかな子育て観,「子は宝」という価値観などがあげられた。(4)母親からの聞き取り調査からも,子育てに関して地縁・血縁による支援を受けていることが明らかになり,その背景には受け手側も支援者になる支え合いが存在していた。(5)子育て中の一番の支援者は夫であったが,複数の支援者から臨機応変に支援を受けており,多くの母親が楽しみながら子育てをしていた。
著者
松崎 愛 本多 千恵子 布施 明美
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.390-403, 2005-07
被引用文献数
1

比較的高強度の運動を定期的に行う若年女性の月経随伴症状の出現傾向を年代間で比較検討することを目的に, 部活動で陸上競技を行う中学生(J群), 高校生(H群), 大学生(U群)について, 身体的, 競技的背景, 月経現象, および月経随伴症状について調査し, 以下のことがわかった。月経周期が正常である選手は, J群50.9%, H群59.1%, U群71.0%であった。月経随伴症状は, 「下腹部痛」の頻度が最も高く, J群45.0%, H群51.5%, U群61.3%で, 加齢に伴い明らかに高頻度を示した。J群とH群は月経2日目に症状が集中した。一方U群は, 月経1日目に高頻度を示す症状が多く, さらに「イライラ感」や「乳房痛」が月経前に高頻度でみられた。U群は他2群と比較し正常周期が高率であったことから, U群の年代で女性ホルモンの分泌が安定する選手が多くなると推測される。U群の諸症状が月経1日目に高頻度を示すのは, 症状が月経前から月経前期まで持続する選手の割合が高かったことが影響していると考えられる。以上のことより, 若年競技者は大学生を境に, 月経随伴症状の出現に変化が現われることが示唆された。
著者
藤岡 奈美 村上 彩乃 山科 尚子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.86-94, 2014-04

本研究は,男子大学生の性行動・避妊行動の実態,およびこれらに影響する性意識,性的態度との関係について明らかにすることを目的とし, A県内の男子大学生318人(有効回答数277)に実態調査を行った。この結果,対象の平均年齢は, 20.9±1.2歳であり,性交経験「あり」と回答した者は186人,初交年齢の平均は17.6±2.1歳であった。性交経験者のうち,現在のパートナーの有無について,その人数は,「1人」89.7%,「2人」4.3%,「3人以上(最大8人)」6.0%であった。避妊行動は,「あり」と回答した者は178人で,避妊行動の頻度は,「毎回」140人,「ほとんど」8人,「半々」5人,「ほとんどしない」8人であったが,その一方で,避妊行動の必要性について「必要だ」と大半が認識しているものの,実行が伴わない状況であった。性的態度は,性交経験の有無において,性交経験がある者が性に寛容であり(P<0.001),とくに初交経験が早い者のほうが寛容であることを示した。一方,避妊行動を実施している者が性の責任感は強く(P<0.05),とくに毎回避妊している者が高かった(P<0.001)。
著者
山本 浩世 田中 美樹 高野 政子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.110-117, 2009-04
被引用文献数
2

本研究の目的は,母乳不足感を訴える母親の認識と,その認識が母乳育児の中断にどのように影響しているかを明らかにし,母親のニーズに基づいた看護職の支援のあり方について示唆を得ることである。調査対象者は1ヵ月健診を受診した異常がない母親および乳児で,無記名の19項目からなる自記式質問紙を用いて調査した。母乳不足感がある母親のなかには母乳育児への強い思いや,医療職からの励ましにより母乳育児を継続できている人がいた。一方で,「母乳をあげても児が泣き止まない」「母乳が足りないと思いミルクを補足したら児が泣き止んだ」という体験をした母親は「赤ちゃんが満足するのはミルクではないか」や「ミルクをあげれば泣き止むから,母乳より簡単」というような認識をもち,その認識が母乳育児の中断に影響を及ぼしたのではないかと考えられた。今回の調査から,母乳不足を感じた母親がミルクを補足するかどうか不安になる頃の支援が重要であり,母乳育児を継続できるよう,産後1週間頃に看護職が電話で様子をたずねたり,産後2週間健診などの看護介入の推進が示唆された。
著者
武田 江里子 小林 康江 加藤 千晶
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.86-92, 2013-04

産後1ヵ月健診を受診した母親177名を対象に,「現在のストレス内容」について自由記述によるアンケート調査を実施した。有効回答の得られた166名(有効回収率93.8%)を分析対象とした。SPSS Analytics for Surveys 4.0を用いてテキストマイニング分析を行った。全体では【今後の心配】【夫の協力がない】【子どもが寝ない】【子どもの泣き・ぐずり】【家事が大変】【寝不足】【思いどおりにいかない】【情報の混乱】【母乳の不足感】【育児が大変】【自分に対するやるせなさ】【自分の時間がない】【自分へのねぎらい】【複数の子育て】の14カテゴリーが抽出され,そこに【初産】【経産】というカテゴリーを加え16カテゴリーとし,カテゴリー間の結びつきをみた。初産婦・経産婦で同じストレスは多く,そのなかでも【思いどおりにいかない】ストレスは両方に多くみられた。それぞれに特徴的なストレスもあるが,いずれのストレスにおいてもそのストレスのみでなく,他のストレスとの結びつきをみることで,ストレスの本質的なものが察知できると考えられた。
著者
佐原 玉恵
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.132-141, 2007-04
被引用文献数
1

本研究の目的は高校生の性に関する知識,価値観,行動について分析し四国A県の高校生の性の実態を調査することである。四国A県の高校6校に通学する高校生630名を対象に性交,避妊法,妊娠,人工妊娠中絶,性感染症についてアンケート調査を実施し565名から回答を得た。四国A県の高校生の性の実態調査の結果,知識面の特徴は,1.性に関する基礎的な知識が不足していた。価値観の特徴は,2.性交については全体の約6割の人が容認していた。3.人工妊娠中絶について全体の約8割が否定的な意見であった。行動の特徴は,4.女子の性交率は全国平均よりも高く,避妊率は低い結果であり,全国平均に比して女子は性行動が活発であるという特徴が示された。知識,価値観,行動の関係の特徴は,8.性に関する価値観と行動にはずれが生じていた。9.コンドームの使用法の知識について男女間の差はみられなかったがコンドームでの避妊の実施率は男子より女子が有意に低かった。以上のことより,性に関する基礎的知識の教育,女子に対する避妊法,避妊することを要求できる行動の教育が必要であると考えられた。
著者
井田 歩美 合田 典子 片岡 久美恵
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.427-436, 2013-01
被引用文献数
1

近年,核家族化や地域連帯感の希薄化による子育ての孤立が指摘されている。一方で,インターネットの急速な普及により,乳幼児の母親世代でのインターネット利用は日常化していると推察される。そこで,専門職者としての具体的な支援のあり方を検討するため,母親の子育て情報に関するインターネット利用の実態を調査し,その特徴と課題を明らかにすることとした。方法は,平成22年3〜4月に乳児を対象とした市町村主催の『子育てふれあい教室』に参加した乳児の母親を対象とし,無記名自記式質問紙を用いた実態調査研究を行った。調査内容は,対象の属性,インターネットの利用状況などである。131人から回答を得(回収率92.9%),有効回答数は127人であった。結果,子育てに関連しインターネットを利用している母親は約8割であった。その利用状況は頻度および時間ともに健全で,メリットやデメリットを理解したうえで利用していた。専門職者は,母親の多くがインターネット上で情報収集や意見交換をしている現状を認識し,積極的に関心を寄せる必要がある。さらに,今後は母親の望むインターネット情報について把握し,分析する必要がある。
著者
宮内 清子 望月 好子 石田 貞代 佐藤 千史
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.433-441, 2009-01
被引用文献数
1

目的:中高年女性の就業形態が更年期症状にどのように影響しているかを明らかにし,今後の健康支援において主たる対象とすべき集団の特性とその課題をみつけることを目的とした。方法:対象者は40〜65歳までの女性とし,都内および近郊に在住の某女子大学学生の母親および大学関係者から公募した。調査協力に同意の得られた220名を対象として,自己記入式質問紙調査を実施した。調査内容は,属性,生活習慣,健康情報入手方法,健康相談相手,将来の健康不安,更年期症状とした。更年期症状は簡略更年期指数(SMI)を用いて調査した.また,医学中央雑誌で先行研究を検索し,SMIの得点を比較した。結果:SMI得点は先行研究における一般女性とほぼ同様の結果であった。SMIの得点を就労形態別に5群で比較したところ,就業形態によってSMI得点に有意な差がみられた(p=0.049)。症状別にみると,自営業群は他の群と比較して「怒りやすくいらいらする」「くよくよしたり,憂うつになったりする」「頭痛・眩暈・吐き気がよくある」などの精神的症状が有意に高かった。結論:就業形態別に更年期症状を検討した結果,就業形態によってSMI得点に有意な差がみられた。特に自営業群の精神的な症状が,他の群に比べて有意に高かった。このことから自営業の中高年女性に精神面の支援の必要性が示唆された。
著者
伊藤 綾夏 杉浦 絹子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.189-197, 2010-04
被引用文献数
1

本研究では,女子大学生が月経周辺期にどのようなポジティブおよびネガティブな心身の変化を経験しているのか,またそれらの変化と月経に対するイメージとの関連はどうであるのかを明らかにし,月経教育のあり方について考察することを目的に無記名自記式質問紙調査を実施した。看護学を専攻する女子大学2,3年生129名の回答を分析した結果,以下のことが明らかとなった。1.1項目あたりの平均尺度得点の比較では,ポジティブ変化尺度得点はネガティブ変化尺度得点に比べ有意に低かった(p<0.001)。2.ポジティブ変化尺度は,因子分析の結果,「気力因子」と「活動性因子」の2因子で構成されていた。1項目あたりの平均得点の比較では,「活動性因子」が「気力因子」よりも有意に高く(p<0.001),「活動性因子」の項目である「食欲が増す」と「便秘が解消する」は他の項目に比べて高得点であった。3.ネガティブ変化尺度の1項目あたりの平均得点は高いものから「下腹部痛」「腰痛」「いらいら」「疲れやすい」「肌荒れ」「憂うつ」の順であった。4.月経イメージ尺度は,因子分析した結果,「肯定的イメージ因子」と「否定的イメージ因子」の2因子で構成されていた。1項目あたりの平均得点の比較では,「肯定的イメージ因子」が「否定的イメージ因子」よりも有意に高かった(p<0.001)。5.ポジティブ変化尺度得点と肯定的イメージ下位尺度得点間には有意な相関はみられなかったが,ネガティブ変化尺度得点と否定的イメージ下位尺度得点間には有意な強い相関がみられた(p<0.001)。以上より,この年代の女性に月経周辺期におけるポジティブな変化に関する情報を伝え,これらの変化を意識化する働きかけをしていくことの重要性が示唆された。
著者
水野 千奈津 山本 栄
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.549-555, 2009-01
被引用文献数
1 1

妊娠に伴う身体の変化は,身体の保持をすることが難しいことが知られている。本研究は,妊婦の歩行時における特有な姿勢調節のメカニズムを明らかにする。そこで,妊婦体験ジャケットを着用した被験者に3次元運動分析装置を用いて妊婦の歩行を調べた。つまづきに関係するToe Clearance(以下,TC:床面〜つま先間距離)に着目し,履物のヒール高の違いとTCについて検討した。本実験では妊婦体験ジャケットを健康な日本人女性である被験者15名(20±1.1歳)に着用することで,妊娠後期と想定し実験を行った。妊婦体験ジャケットの着用時では,全被験者においてTCが小さくなり,さらに,ヒールが高いほどTCが小さくなった。歩幅においても同様に狭くなった。頭部の上下の揺れは,着用時ではヒール高を問わず3.0cm台でほぼ安定していた。しかしながら,非着用時にはTCおよび歩幅の減少とともに頭部の上下の揺れも減少していた。結果より妊婦は歩行をする時,床面からあまり脚を挙げず,歩幅を小さくすることによって,歩行時の安定を作り出していることがわかった。
著者
植村 裕子 榮 玲子 松村 惠子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.107-113, 2008-04

少産少子の現在,看護学生にとって身近な赤ちゃんの存在は稀少となっている。そのため,学生は母性看護学における対象の理解が困難な状況である。そこで,今回は赤ちゃんの特徴の理解を促す演習教材として育児擬似体験人形を活用し,その学習効果を明らかにすることを目的とした。体験人形の活用前後で赤ちゃんイメージの自記式質問紙および活用後の変化を調査した。その結果,体験人形活用後は肯定的イメージが有意に高く,項目別では肯定的な「かわいい」などで高かった。一方,否定的な「怖い」は低かった。活用後の変化の内容分析では,6サブカテゴリーから【技術の向上】【対象の理解】【愛着】の3カテゴリーが抽出された。このことから,学生は赤ちゃんを肯定的に受容することで,苦手意識を克服することができ,看護実践の際の自信になるといえる。また,赤ちゃんの身体的,生理的な側面だけでなく,母親の気持ちも理解していた。さらに,看護技術を自身で確認しながら実践することで技術を向上させることができたと考える。ゆえに,体験人形を活用することは実習につながる有用性の高い演習であることが明らかになった。
著者
泉澤 真紀 山本 八千代 宮城 由美子 岸本 信子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.347-356, 2008-07
被引用文献数
2

わが国の学校教育では,小学校で行われる初経教育から高等学校まで継続した月経教育が実践されているが,教育現場における時間数,教育内容の問題などが指摘されている。そのため,月経のメカニズムの理解や月経時のトラブル,月経痛への対処の知識の不十分さ,月経をネガティブにとらえる生徒への課題がある。本研究の目的は,学校現場における月経教育の実態と,「月経痛」「月経知識への満足感」「月経知識への関心」と関連ある内容を明らかにすることである。中学および高校の女子生徒216名に質問紙を配布し回収,協力の得られた210名の結果を分析した。「月経痛」は,「月経痛緩和法の知識」「友達と話すことがある」「月経知識への関心」「月経痛があるのは当然とする考え方」と有意に関連があった。また,「月経知識への満足感」は「学年」「薬の服用」と,「月経知識への関心」は「学年」「基礎体温の知識」「低用量ピルの知識」「月経痛と病気との関連の知識」「相談者の存在」「薬の服用」と有意に関連があった。さらに「月経知識への満足感」「月経知識への関心」の両者も強い有意な関連性を示した。これらから月経教育の課題が明らかになった。
著者
吉田 倫子 篠原 ひとみ 兒玉 英也 成田 好美 杉山 俊博
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.472-480, 2012-01

味覚センサにより,乳腺炎を発症した母親の母乳の味の変化について検討した。母乳育児中で産後2ヵ月まで乳房トラブルのない母親18人(対照群)と,乳腺炎で外来を受診した産後1年以内の母親14人(乳腺炎群)を対象とした。対象から採取された母乳は,味覚センサ(味認識装量SA-402B)を用い,酸味,塩味,苦味,旨味,渋味の5種類の味覚項目について分析した。対照群の母乳の味は,初乳から成乳への移行に伴い苦味の増加(p<0.01),塩味と旨味の減少(p<0.01,p<0.05)がみられ,成乳となってからは変化がなかった。乳腺炎群は対照群と比較すると旨味の増加(p<0.01)と渋味の低下(p<0.01)が認められた。また,患側の母乳は健側に比べて塩味と旨味が増加(p<0.05,p<0.01)し,酸味が低下(p<0.05)していた。そして,治癒後には苦味と渋味が増加(p<0.01,p<0.05)していた。以上より,乳腺炎時の母乳は塩味や旨味が増加し,酸味や苦味,渋味が低下することが考えられる。乳腺炎群の8割の児に授乳を拒否する行動が観察され,児は鋭敏にこのような味の変化を認知していると推定された。