著者
高瀬 恵子 吉留 厚子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.134-137, 2006-04

わが国では,看護学・助産学の成書および一般の育児書のなかで,哺乳瓶消毒に関して煮沸消毒,次亜塩素酸ソーダによる消毒が多く紹介されている。一方,アメリカでの哺乳瓶の取り扱いは,われわれの使用する食器と同様でよいとしている。今回,家庭における哺乳瓶消毒方法の実態を明らかにし,哺乳瓶消毒と児の消化管疾患との関連性を検討することを目的として調査を行った。対象者は産後1ヵ月健診を受けた母親72名で,調査項目は児の健康状態,栄養方法,哺乳瓶消毒方法など12項目であった。結果,栄養方法は72名中,母乳栄養22名(30.6%),混合栄養が48名(66.7%),人工栄養が2名(2.8%)で,消毒方法は複数回答で50名中,電子レンジは23名(46.9%),煮沸消毒は14名(28.6%),ミルトンが14名(28.6%)であった。湯を満たすは4名(8.2%),特に何もしないは1名(2%)であった。単独の方法は44名,併用は6名であった。以上より98%の母親が成書に記載され,病院で指導されている方法を遵守していることが明らかになった。消毒方法が原因と考えられる児の疾患は認められなかった。
著者
頼経 かをる 永山 くに子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.120-128, 2011-04

<目的>生後3ヵ月間における乳児の泣きをめぐる母親の体験を記述すること。<方法>初産婦1名の語りからナラティブ・アプローチを活用し質的記述的に分析を行った。データ収集は生後2週間,1ヵ月半,3ヵ月前後に半構成面接と参加観察を行った。<結果・考察>【泣きへの戸惑い】【乳児の欲求・感情の汲み取り】【泣きへの対処】【泣きの特徴をつかむ】【泣きやまないことへの自分なりの解釈】【泣きに対する余裕の自覚】【乳児の成長・発達への気づき】【自分の欲求や否定的感情との葛藤】の8つのカテゴリーを抽出した。そして,3ヵ月間の乳児の泣きをめぐる母親の体験を1つの物語として記すことを試みた。そのなかでは,母親は乳児の泣きに対し混乱や葛藤を抱えつつも,乳児の要求に応えようとさまざまな対応を試みながら母子相互に成長していく過程がみられた。
著者
井田 歩美 猪下 光
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.471-478, 2014-07

本研究の目的は,ソーシャルメディア上の発言内容を分析することで乳児をもつ母親の予防接種に対する不安・疑問の詳細を明らかにすることである。研究対象は,株式会社ベネッセコーポレーションが管理する口コミサイトに2011年4月から2012年3月までに書き込まれた乳児をもつ母親の発言42,325件とした。発言内容を「予防接種」に着目して係り受け頻度解析を行った結果,係り先単語には「受ける」「行く」「予約」「予定」という単語が高頻度に出現し,「受ける+ない」「受ける+?」「考える」「悩む」「相談」など困惑している状況を表す単語の出現が目立った。一方,係り元単語には「肺炎球菌」「ヒブ」「インフルエンザ」という具体的なワクチンの種類に関する単語が高頻度に出現した。現在,ワクチンデビューは生後2カ月からとの啓発がなされているが,乳児の母親は我が子に予防接種を受けさせるべきか,受ける場合には何をいつからどの順序で受けるのかなど多くの自己決定を迫られている。その際,母親は同じ月齢の子どもをもつ母親のアドバイスを求め,ソーシャルメディアを利用していることが明らかになった。
著者
笹田 麻由香 岩田 銀子 河口 明人
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.92-98, 2010-04
参考文献数
20
被引用文献数
1

背景:低出生体重児は将来的に生活習慣病を発症する頻度が高いことが指摘されている。一方,わが国では母親の低栄養状態との関連が示唆される低出生体重児の増加傾向が続いている。このため胎児発育にかかわる妊婦の体重管理の定量的な評価は重要な課題である。方法と結果:単胎妊婦33名を対象として,母親の体重変化を,母親実質体重増加量(子宮・皮下脂肪・循環血液増加量など).胎児体重,胎盤重量,羊水量に細分化し,胎児の発育に影響を及ぼす因子を検討した。母親の非妊時体重と非妊時BMIは,週あたりの児の体重増加量(非妊時体重:r=0.42,p<0.05,非妊時BMI:r=0.41,p<0.05),および週あたりの胸囲増加量と有意な正相関を示した。児の体重増加量は,週あたりの母親体重増加量と有意な関連を示さなかったが,週あたりの母親実質体重増加量と有意な正相関を示した(r=0.50,p<0.01)。結論:胎児発育は,妊娠前の母親の栄養状態,および妊娠中の母親白身の栄養状態を意味する実質体重増加に依存し,妊娠可能年齢女性の妊娠前からの栄養・体重管理と,妊娠中の母親の十分な栄養摂取に基づく代謝環境の形成は,良好な胎児の発育のために極めて重要である。
著者
中塚 幹也 安達 美和 佐々木 愛子 野口 聡一 平松 祐司
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.543-549, 2006-01
被引用文献数
6

日本の公的医療機関では, 精神神経学会の性同一性障害(GID)治療ガイドラインに従い, ホルモン療法は18歳以上に施行しているが, 年齢制限には検討の余地がある。このため, GID症例自身が, 説明, ホルモン・手術療法を何歳ごろ受けたかったかを調査した。対象はGID症例181名で, FTM症例117名, MTF症例64名であった。FTM症例の初経は12.8±1.6歳, 乳房増大の自覚は12.2±1.7歳であり, MTF症例の変声は13.6±1.7歳, ひげは15.3±2.5歳にみられた。中学生以前に性別違和感の生じた症例に限って検討すると, GIDについて知った年齢は, FTM症例で22.0±6.6歳, MTF症例では27.0±9.8歳であった。FTM症例では, GIDの説明は12.2±4.2歳, ホルモン療法の開始は15.6±4.0歳, SRSは18.2±6.0歳にしてほしかったとしていたが, MTF症例では, いずれも二次性徴の起こる前の各10.7±6.1歳, 12.5±4.0歳, 14.0±7.6歳と早期の治療を希望していた。現在のGID治療ガイドラインの年齢制限の緩和が必要であるが, 学校教育の中でのGIDの概念の解説, 思春期における適切なGID診断システムの確立などが重要となろう。
著者
平岡 友良
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.500-506, 2006-01
被引用文献数
1

1994年5月に開院後, あおもり協立病院で2003年12月までに3,700件の分娩を取り扱った。そのうち, シングルマザーは71名(1.9%)であった。この71名のシングルマザー群と婚姻妊婦群(対照群)3,629名について, 医学的および社会的リスクファクターを比較検討した。調査項目は, 初産, 早産, 低出生体重児, 低アプガースコア, 臍帯動脈血のアシドーシス, 新生児搬送, 若年妊娠, 帝切分娩, 吸引分娩, 死産, 双胎, 後産期出血, クラミジア・トラコマチス陽性, 腟内B群溶連菌培養陽性, 細胞診異常, マイクロゾームテスト陽性, 入院助産制度の活用, 飛び込み分娩, 経済的問題を抱えた症例(入院助産制度活用者+支払い延期者)の19項目の出現頻度である。このうち両群間で有意差を認めたものは, 入院助産の活用, 飛び込み分娩, 帝王切開, 経済的問題, 若年妊娠, クラミジア・トラコマチス陽性, 細胞診異常の7項目である。シングルマザーの分娩例については周産期において社会的および医学的ハイリスクであり, より個別的なケアが必要であると思われた。
著者
谷口 初美
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.569-577, 2011-01

本研究の目的は, ホノルルに移りまだ異文化社会に慣れない時期に母になった日本人女性の出産経験が彼女たちの人生にもたらした意味を探求し記述することである。本研究は対象者の生きた経験の意味を理解し対象者の主観的な意識に焦点を当てる記述的現象学を用いた。対象者は10名でデータ分析はColaizziの分析方法を使用した。分析の結果, 次の4つのカテゴリーで表された。『外国で暮らすことへのチャレンジ』『母となることへのチャレンジ』『母になるゴールへ向かって』と『他者との新しい関係』であった。外国での出産経験は異文化適応だけでなく多くの身体的精神的困難をまねいた。ハワイの家族中心の社会環境は日本人カップルにとっては好都合であり, 夫とともに初めての出産を経験したことでより強い夫婦の絆を培い, 新しい命である児からの励まし, そして親や周囲への再認識と感謝の念が表された。また, 母になることで自分自身が新しい家族にとってかけがえのない存在であることを認識した。ホノルルでの出産経験は彼女たちの精神的な成熟を促し, 母親になったことを肯定的に受け止めさせていた。