著者
池上 和範 田川 宜昌 真船 浩介 廣 尚典 永田 頌史
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 = Journal of occupational health (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.120-127, 2008-07-20
参考文献数
18
被引用文献数
2 6

<b>積極的傾聴法を取り入れた管理監督者研修による効果:池上和範ほか.産業医科大学産業生態科学研究所精神保健学研究室―</b>今回,我々は従業員数1,900名の電子機器製造業A事業場の管理監督者に対し,積極的傾聴法を取り入れたメンタルヘルス研修(以下,管理職メンタルヘルス研修と略す)を実施した.本研究の目的は,この管理職メンタルヘルス研修の管理職への効果,及び職場への効果について検討することである.対象は,A事業場において一般労働者を直接管理する全ての者とした.管理職メンタルヘルス研修は2006年9月から11月に実施し,調査は2006年5月から2007年2月に行った.研修内容は,「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(2006年厚生労働省)の"管理職への教育研修・情報提供"に掲げられている項目を,2回に分けて実施した."労働者からの相談対応"の項目として積極的傾聴法を掲げ,1回目にその解説,2回目に発見的体験学習による実習を行った.更に,産業保健スタッフが作成した積極的傾聴法や研修に関する資料を研修実施1ヶ月後配布した.研修の効果指標として,全受講者に対し,積極的傾聴態度評価尺度(ALAS)を研修実施前後に実施し,他に研修内容に関する質問票調査,研修後の積極的傾聴に関する意識・行動変容に関する質問票調査を行った.更に,A事業場の従業員を対象に職業性ストレス簡易調査表(BJSQ)12項目版を管理職メンタルヘルス研修実施前後に調査を実施した.ALASは,有効な回答が得られた124名の結果を用い,BJSQ12項目版は協力が得られた約1,300名のうち,有効な回答が得られた908名を分析対象とした.ALASは,調査時点の主効果で有意差は認められなかったが,「傾聴の態度」,「聴き方」ともに平均値の上昇を認め,特に,「聴き方」は有意傾向であった.BJSQ12項目版では,「仕事の量的負担」,「上司の支援」,「同僚の支援」は調査時点の主効果で研修実施後に有意に上昇していた.特に「上司の支援」について,所属課毎の比較で研修開催後に有意に上昇していたものは全47課中8課認められた.今回の結果より,研修受講者が職場において積極的傾聴を実践し,相談対応の充実を図ることで,「上司の支援」が強化された可能性が示唆された.<br> (産衛誌2008; 50: 120-127)<br>
著者
松本 悠貴 石竹 達也 内村 直尚 石田 哲也 森松 嘉孝 星子 美智子 森 美穂子 久篠 奈苗
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 = Journal of occupational health (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.154-164, 2013-09-20
参考文献数
32
被引用文献数
2

<b>目的:</b> 睡眠は単に睡眠時間のみで良好か不良かを判断できるものではなく,睡眠の導入や維持といった睡眠の質,就寝時刻や起床時刻といった規則性まで考慮しなければならない.しかしながら,それらすべてを一度に評価できる指標は現在のところ存在しない.本研究は睡眠の規則性・質・量の3要素を評価するための質問票を独自に開発し,その信頼性と妥当性の検証を行うことを目的とした. <b>対象と方法:</b> 対象は製造業およびサービス業に従事する日勤労働者563名(男性370名,女性193名)で,平均年齢は40.4歳であった.先行研究および専門家との討議を参考に,規則性・質・量それぞれ7項目,計21項目からなる質問紙を作成・編集した.まず項目分析を行い,その後因子分析にかけて構成概念妥当性を検証した.信頼性はクロンバックα信頼性係数を算出して求めた.また,主成分分析およびクラスター分析にて標準化・分類を行い,生活習慣や日中の眠気,ストレス,持病の有無などを比較することにより,判別的妥当性の検証を行った. <b>結果:</b> 項目分析および因子分析にて,21項目中6項目が除外対象となったが,予測通り規則性・質・量の3因子構造が得られた.α信頼性係数はそれぞれ0.744,0.757,0.548であった.量因子として作成した2項目が規則性因子として抽出されていたが,それ以外は予測通りの因子として抽出された.入眠困難,熟眠障害,中途覚醒,早朝覚醒はすべて質因子として一定の負荷量を示していた.判別的妥当性については,最も点数の高いグループで健康意識が高くストレスや日中の眠気を感じていない者の割合が有意に高かった.一方で,最も点数の低いグループではストレスや持病などの睡眠障害リスクファクターを有している者の割合が有意に高かった. <b>考察:</b> 今回我々が開発した質問票にて,睡眠の規則性・質・量における構成概念妥当性が示された.しかしながら,分析過程にて不適切と判断され除外された項目や,予測していた因子とは異なる因子として抽出された項目が存在し,信頼性および内容的妥当性については課題が残った.今後これらの質問項目について再度編集・改訂し,より信頼性・妥当性を高めていく必要がある.また,年齢や性等による影響を除いたより詳細な判別的妥当性の検討も要する.
著者
森 美穂子 堤 明純 高木 勝 重本 亨 三橋 睦子 石井 敦子 名切 信 五嶋 佳子 石竹 達也
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 = Journal of occupational health (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.113-118, 2005-05-20
参考文献数
13

交代勤務経験の有無と退職後の生活の質,特に睡眠の質との関連性を明らかにするために,ある製造会社の退職者777名を対象に質問紙調査を行った.質問内容は,既往歴,現在の健康状態,食習慣,アルコール,喫煙,運動,睡眠,在職中の勤務状況(職種,交代勤務経験,交代勤務経験年数,副業),現在の就業状況,社会参加,学歴,性別,年齢,退職後の年数であった.「現在の健康状態(オッズ比4,318,95%信頼区間2.475-7.534)」「交代勤務経験(2.190,1.211-3.953)」「現在の就業状況(1,913,1.155-3.167)」「食習慣(1.653,1.055-2.591)」が多変量解析によって退職後の睡眠障害と有意に関連した.退職後の睡眠障害を防ぐには正しいライフスタイル,良好な健康状態を保つことが,特に交代勤務経験者において大切である.