著者
佐藤 眞一 下仲 順子 中里 克治 河合 千恵子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.88-97, 1997-07-30
被引用文献数
3

年齢アイデンティティのコホート差, 性差, およびその規定要因を生涯発達の視点からとらえるために, 8-92歳の一般住民女性1,026名, 男性816名の合計1,842名を対象に調査を実施した。年齢アイデンティティの指標として, 感覚年齢(実感年齢, 外見年齢, 希望年齢の3種類)および理想年齢の4種類の主観年齢を測定した。主観年齢の暦年齢からの偏差を年齢コホートの変化過程に沿って検討すると, 主観年齢が自己高年視から自己若年視へと転じる現象のあることが明らかとなった。男性ではその転換が青年期(18一24歳)前後でみられたのに対して, 女性では思春期G3-17歳)前後に生じていた。また, 感覚年齢では, 男性が成人前期(25-34歳)から成人中期(35-44歳)で変化が少なく, 女性では青年期から成人前期(25-34歳)にかけての変化が少なかった。理想年齢では, 男女とも青年期以降変化が少なくなる傾向にあったが, 男性の場合には成人後期(45-54歳)から, 女性では初老期(55-64歳)から再び変化が大きくなった。年齢アイデンティティの規定要因を検討したところ, 教育年数, 健康度, 自尊感情, タイプA, 女性性に何らかの有意な効果がみられたが, いずれの主観年齢においても暦年齢の効果が最大であった。このことから, 年齢アイデンティティあるいは主観年齢に対しては, 社会的な要因ばかりでなく加齢に伴う心理学的時間感覚ないし時間評価も同時に影響していると思われた。
著者
仲村 照子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.61-71, 1994-06-30
被引用文献数
6

この研究の目的は子どもの死の概念の発達を調べるものである。3歳から13歳までの男女205名の子どもたちに個別に面接し, 死に関する9の質問に答えてもらった。結果は, 幼児期の子どもは大人がもつような死の意味とは違ったものとして理解している。生と死は未分化であり, 現実と非現実の死の区別がなされておらず, その子ども独自の自由な死の概念を形成していると思われる。そして自分は死なないと思っている。児童期あたりから死の現実的意味である普遍性, 体の機能の停止, 非可逆性を理解するようになる。彼らは誰でもいつかは死ぬし, 死によって体の機能は停止するし, 再び生き返ることは出来ないことを理解する。これらの自覚から死は自分にも起こり得ると考えるようになり, それはやがて死後の世界ヘの想像, 願望, 希望が膨らみはじめると思われる。特に年齢が高くなるにつれて人間は死んだらまた生まれかわるという「生まれかわり思想」の増加が目立った。全年齢を通して変化のないものは死はいやな感じであるという感情であった。
著者
平川 久美子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.12-22, 2014 (Released:2016-03-20)
参考文献数
38

本研究では,情動表出の制御における主張的側面,とりわけ幼児期から児童期にかけての怒りの主張的表出の発達について検討を行った。調査は年中児,年長児,1年生の計110名を対象として行われ,仮想場面を用いた課題が個別に実施された。まず,主人公が友だちから被害を受ける状況で,主人公が友だちに加害行為をやめてほしいと伝えたいという意図伝達動機をもっているという仮想場面を提示し,そのときの主人公の表情を怒りの表出の程度の異なる3つの表情から選択し,理由づけを行うよう求めた。課題は,怒りを表出する際に言語的主張をせず表情のみで表出する表情課題(2課題),表情表出と併せて言語的主張を行う表情・言語課題(2課題)の計4課題であった。その結果,言語的主張をしない場面では年中児よりも年長児・1年生のほうが表情で怒りをより強く表出すること,1年生では言語的主張をする場合よりもしない場合のほうが表情で怒りをより強く表出することが示された。本研究から,仮想場面における怒りの主張的表出は年中児から年長児にかけて顕著に発達すること,また1年生頃になると表情と言語という情動表出の2つのモードの相補的な関係を理解し,情動表出を行うようになることが示唆された。
著者
川本 哲也
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.210-224, 2015

本研究の目的は成人形成期の人のアイデンティティと複数の社会的関係性がいかに関連するかを検討することであった。分析対象者は385名(男性:210名,女性:175名;<i>M</i>=22.4,<i>SD</i>=2.4,レンジ:18–29歳)であった。対象者のアイデンティティは多次元自我同一性尺度(MEIS;谷,2001)を用いて測定され,社会的関係性は,改訂版親密な対人関係体験尺度(ECR-R;Fraley, Waller, & Brennan, 2000; 島,2010)を用い,養育者・友人・恋人に対するアタッチメント・スタイルを測定した。対象ごとのアタッチメント・スタイル,年齢,性別を独立変数とし,アイデンティティの各側面を従属変数とした重回帰モデルを用いた共分散構造分析を行い,以下の結果を得た。「自己斉一性・連続性」は養育者に対するアタッチメント・スタイルからの効果が有意となった。「対自的同一性」は年齢からの効果が有意であり,「対他的同一性」は友人と恋人に対するアタッチメント・スタイルからの効果が有意となった。「心理社会的同一性」は年齢と,友人に対するアタッチメント・スタイルからの効果が有意となった。この結果から,主観的なアイデンティティの側面は養育者との関係性と関連し,社会的なアイデンティティに関しては友人や恋人との間の関係性が関連することが示唆された。
著者
山本 尚樹
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.183-198, 2014

本論文では,自己組織化現象に関する近年のシステム論の研究動向の観点から語られることの多かったEsther Thelenの発達理論を,George E. Coghillの発生研究を嚆矢とし,Arnold L. Gesell,Myrtle B. McGrawによって展開された古典的運動発達研究の延長戦上に位置づけ,再検討した。特に,Gesell,McGraw,Thelen,三者の発達研究・理論を比較検討し,類似点と相違点を明確にすることで,運動発達研究の基礎と今後の課題を明確にすることを目的とした。この検討により運動発達研究は,i.下位システムの相互作用から系全体の振る舞いの発達的変化を捉える,ii.発達的変化を引き起こす要因を時間軸上で変化する系の状態との関係から考察し特定する,という基本的視座をもつこと,さらにiii.系の固有の状態が発達に関与するという固有のダイナミクスの概念,iv.様々なスケールが入れ子化された時間の流れから発達を捉えるという多重時間スケールの概念,がThelenによって新たに加えられたことが確認された。最後に,このiii.,iv.の点について近年の研究動向を概観し,今後の課題を整理した。
著者
髙坂 康雅 小塩 真司
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.225-236, 2015 (Released:2017-09-20)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究の目的は,髙坂(2011)が提示した青年期における恋愛様相モデルにもとづいた恋愛様相尺度を作成し,信頼性・妥当性を検証することであった。18~34歳の未婚異性愛者750名を対象に,恋愛様相尺度暫定項目,アイデンティティ,親密性,恋愛関係満足度,結婚願望,恋愛関係の影響などについて,インターネット調査を実施し,回答を求めた。高次因子分析モデルによる確証的因子分析を行ったところ,高次因子「愛」から「相対性―絶対性」因子,「所有性―開放性」因子,「埋没性―飛躍性」因子にパスを引き,各因子から該当する項目へのパスを引いたモデルで,許容できる範囲の適合度が得られた。また,ある程度の内的一貫性も確認された。「恋―愛」得点について,アイデンティティや親密性,恋愛関係満足度,結婚願望,恋愛関係のポジティブな影響と正の相関が,恋愛関係のネガティブな影響と負の相関が確認され,また年齢や交際期間とは有意な相関がみられなかった。これらの結果はこれまでの論究からの推測と一致し,妥当性が検証された。また,3下位尺度得点には,それぞれ関連する特性が異なることも示唆された。
著者
水野 里恵
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.56-65, 1998-04-10
被引用文献数
8

254名の第一子の乳幼児期の縦断研究の結果, 乳児期の子どもの気質的扱いにくさと母親が子どもに対して感じる分離不安が, その子どもが幼児期に達した時の母親の育児ストレスと関連があることが明らかになった。幼児期に気質診断類型でdi拓cuhになる子どもは, easyになる子どもに比較して, 乳児期に新しい情況に消極的で順応性が低い子どもであった。そして, dimcuhの子どもを持つ母親は, easyの子どもを持つ母親に比較して, 育児ストレスを強く感じていた。乳児期と幼児期の気質次元に対する正準相関分析および乳幼児期の正準変数得点と母親の育児ストレスとの相関分析の結果から, 乳児期に世話がしにくく順応性が悪い子どもは, 幼児期に活動性が高く順応性が悪く持続性がない子どもになる傾向があり, それらの子どもの母親の育児ストレスは高いことが明らかになった。乳児期に子どもに対する分離不安が高い母親は, 分離不安が低い母親に比較して, 伝統的母親役割観を強く持ち, 子どもを預けての外出を控える傾向にあり, 幼児期に青児ストレスが強かった。
著者
大野 祥子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.287-297, 2012-09-20 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

本研究は男性のワークライフバランスから抽出した「生活スタイルのタイプ」ごとに,夫婦間での職業役割と家庭役割の分担のしかたが彼らの生き方満足度にどのように影響するかを検討し,男性にとっての家庭関与の意味を再考することを目的とする。調査対象は3〜4歳の子どもを持つ育児期男性332名であった。仕事を生活の最優先事項とする2タイプ(「仕事+余暇型」・「仕事中心型」)と,仕事と家庭に同等のエネルギーを傾注する「仕事=家庭型」の下位分類2タイプ(「二重基準型」・「平等志向型」), 計4タイプについて,男性の生き方満足度を基準変数とする階層的重回帰分析を行った。「仕事+余暇型」の満足度は家庭関与の変数によっては説明されなかった。「仕事中心型」では休日家族と過ごす時間がとれ育児に関わる余裕のあることが満足度と関連していた。家庭志向の高い2タイプのうち「平等志向型」は自身の家事分担率の高さが生き方満足度を高める共同参画的な結果が見られたが,「二重基準型」では妻が性別役割分業に賛成であることのみが有意な効果を持っていた。これまで男性の家庭関与は妻子や男性本人の適応・発達にプラスの効果を持つとされてきたが,タイプごとに異なる意味を持つことが明らかになった。男性の家庭関与の議論は夫婦関係や労働環境など,より広い文脈の中で捉え,稼得や扶養は男性の役割とする男性性役割規範の見直しを伴うことが必要であろう。
著者
豊田 香
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.344-357, 2015

本研究は,専門職大学院ビジネススクール(以下,BS)の学びが,職業的アイデンティティ(以下,職業的ID)に与える変容とそのプロセスを,質的研究法TEAの分析枠組みを用いて可視化し,その結果を状況的学習論の視点から検討することで,個人と企業の共生の在り方の示唆を得ようと試みたものである。分析の結果,職業的IDの変容プロセスは5つの時期区分(第1期:職業的IDの獲得・確立期,第2期:職業的IDの展開/動揺期,第3期:職業的IDの解放期,第4期:職業的IDの拡張期,第5期:職業的IDの創造期)に分類でき,仕事観と仕事に対する信念の変容に伴い,企業組織の正統な職業実践者という職業的IDの確立から始まり,最終的に,社会科学を継続的に学び,それを企業組織に還元する生涯学習者という職業的IDが加わる生涯学習型職業的IDが確立されていることが確認できた。世界標準としての理論を学び続け,それを軸として,自らの職業実践そのものの道筋と,組織の発達の道筋の両方を積極的に創るという,創造性を特徴とするこの生涯学習型職業的IDの形成支援が,個人と企業の共生に有効であると結論づけた。具体的には,①BSなど学術界の「境界領域トラジェクトリー」の形成支援と,②BSなど学術界の境界領域から,企業組織の「内部トラジェクトリー」への往復に正統性を与える境界領域双方向性の「内部トラジェクトリー」と呼べるものの形成支援である。
著者
豊田 香
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.344-357, 2015 (Released:2017-12-20)
参考文献数
31

本研究は,専門職大学院ビジネススクール(以下,BS)の学びが,職業的アイデンティティ(以下,職業的ID)に与える変容とそのプロセスを,質的研究法TEAの分析枠組みを用いて可視化し,その結果を状況的学習論の視点から検討することで,個人と企業の共生の在り方の示唆を得ようと試みたものである。分析の結果,職業的IDの変容プロセスは5つの時期区分(第1期:職業的IDの獲得・確立期,第2期:職業的IDの展開/動揺期,第3期:職業的IDの解放期,第4期:職業的IDの拡張期,第5期:職業的IDの創造期)に分類でき,仕事観と仕事に対する信念の変容に伴い,企業組織の正統な職業実践者という職業的IDの確立から始まり,最終的に,社会科学を継続的に学び,それを企業組織に還元する生涯学習者という職業的IDが加わる生涯学習型職業的IDが確立されていることが確認できた。世界標準としての理論を学び続け,それを軸として,自らの職業実践そのものの道筋と,組織の発達の道筋の両方を積極的に創るという,創造性を特徴とするこの生涯学習型職業的IDの形成支援が,個人と企業の共生に有効であると結論づけた。具体的には,①BSなど学術界の「境界領域トラジェクトリー」の形成支援と,②BSなど学術界の境界領域から,企業組織の「内部トラジェクトリー」への往復に正統性を与える境界領域双方向性の「内部トラジェクトリー」と呼べるものの形成支援である。
著者
宇良 千秋 矢冨 直美
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.34-41, 1997-04-30
被引用文献数
1

本研究では高齢者に笑いを誘う刺激を提示し, その間に起こった笑いの表情の表出度(頻度・持続時間・強度)に対する年齢と認知能力の影響について検討を行った。サンプルは高齢者福祉センターに通う60歳以上の男女54名であった。実験は個別に行った。被験者に対して笑いを誘発する2つのピデオ刺激を提示し, その間の被験者の表情をビデオカメラで撮影した。被験者はそれぞれの刺激に対して感じたおもしろさの強度を評定した。さらに, 認知能力を測定するテストとして絵画配列課題を施行した。2名の研究者が独立に笑いの表情の判別および表出度の測定を行った。分析の結果, 認知能カによって笑いの表出度に有意な差はみられなかった。しかし, 刺激の種類によって笑いの表出度に有意な年齢差がみられ, 場面展開の速い刺激において前期高齢者より後期高齢者の笑いの表出度が小さかった。また, 笑いの表情が表出されているにもかかわらずおもしろいと感じなかった者や, 逆に, 笑いの表情が表出されていないのにおもしろいと感じた者が相当数おり, 表出と主観的情動経験との間に有意な相関はみられなかった。表出の傾向として, 約半数の被験者の表出強度が口角や頬がわずかに動く程度のごく弱いものであったこと, いったん表出された笑いが消失されずに保持される者が少なくなかったことが示された。
著者
藤戸 麻美 矢藤 優子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.135-143, 2015 (Released:2017-06-20)
参考文献数
24

本研究では,幼児を対象にうそ行動の前提要因となる認知的基盤について検討した。4~6歳児75名を対象にうそ課題と誤信念課題,葛藤抑制課題,反事実的推論課題を実施し,うそ課題とそれぞれの課題の成績間の関連をみることで,うそ行動に必要な認知的基盤を検討した。重回帰分析の結果,誤信念課題と月齢の交互作用および反事実的推論課題の交互作用が認められた。誤信念課題との関連は,4歳児のみでみられた。誤信念の理解がうそ行動の前提要因として不可欠であるという従来の知見とは一致せず,誤信念理解はうそ行動に必要不可欠な認知的基盤であるとはいえない。また,全年齢群で反事実的推論課題との関連が認められたが,特に6歳児ではその関連がもっとも強かった。この結果は,年齢が上がるにつれて,うそ行動の前提要因としての認知的基盤が,誤信念理解から反事実的推論能力へと推移していくだろうことを示している。つまり,年齢範囲によって,うそ行動の認知的基盤が異なる可能性が明らかとなった。この可能性からは,4歳児にとってのうそ行動とは,他者のこころの状態の推測に基づいて行われる行動だと考えられる。誤信念理解ができている年齢時期だと考えられる6歳児では,現実とは異なる仮定を想定し,それに基づいて結果を推論するという反事実的推論の能力を支えとして,うそ行動を行うようになると考えられる。
著者
的場 由木
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.450-459, 2012

本稿では成人期および老年期における貧困者支援の全体状況と課題,提言されている解決の方向性等について整理し,今後の貧困者支援にとって必要と思われる論点について検討するために文献レビューを実施した。データベースにCiNiiを用い,2002年〜2011年の10年間に発行された文献について検索し,「若年」「高齢」「障害」「就労」「自立」「支援」と「貧困」「生活保護」「低所得」「ホームレス」「野宿」「路上」「困窮」のキーワードを掛け合わせ,それぞれが重複する文献を抽出し,日本における成人期および老年期の貧困者支援に関する88編の内容を「ライフステージから見た貧困者の実態と支援」「自立支援に向けた取り組み」「社会包摂のための支援」に分類してレビューした。また,文献レビューを通じて共通の論点として見出された「支援に求められる家族的機能」「貧困者支援におけるメンタルヘルスの課題」「生涯発達における貧困の意味」の3点について考察した。
著者
菅野 幸恵 岡本 依子 青木 弥生 石川 あゆち 亀井 美弥子 川田 学 東海林 麗香 高橋 千枝 八木下(川田) 暁子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.74-85, 2009-04-20

本研究では子育て・親子関係を正負双方の側面をもちあわせたダイナミックなプロセスとしてとらえ,はじめて子どもを産む女性を対象に,子どもに対する不快感情についての説明づけを縦断的に検討した。具体的には子どもが2歳になるまでの間3ヶ月ごとにインタビューを行い,そこで得られた子どもに対する不快感情についての説明づけを分析することを通して,母親たちのものの見方を明らかにした。母親たちのものの見方は,目の前のわが子の育ち,子育ての方向性,母親自身の資源とが,せめぎあうなかで成り立っていることが考えられた。生後2年間の変化として,子どものことがわからないところから子どもの行動をパターン化し,1歳の後半には人格をもった一つの主体としてとらえるようになるプロセスと,世話・保護の対象から親の影響を受けるひとりの主体として子どもをとらえ,ソーシャライザーとしての役割を認識するようになるプロセスがあることが明らかになった。そのようなものの見方の変化は子どもの発達と不可分であることが示された。
著者
川田 学
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.157-167, 2011-06-20

乳児期における他者理解のひとつの形式とされる同一化(identification)について検討するため,擬似酸味反応(virtual acid responses)と呼ばれる現象について実験的に検討した。擬似酸味反応とは,例えば他者が梅干を食べようとしているところを見るだけで,(他者が酸っぱそうな顔をしていないのに)自分が酸っぱそうな顔になってしまうといった現象で,久保田(1981)によって6か月児の一事例が報告されていた。本研究には,43名の乳児(生後5か月〜14か月の乳児をyounger群[5〜9か月]22名,older群[9〜14か月]21名に分割)が実験に参加した。材料にレモンを用い,事前にレモンを食する経験をした乳児(Le群)とそうでない群(N-Le群)に分け,両群に対して実験者が真顔のままレモンを食する場面を呈示した。最終的に9個の行動カテゴリを抽出した。主要な結果として,(1)Le群>N-Le群でより多くの行動カテゴリの生起が見られること,(2)顔をしかめたり,口唇の動きが活発になるなどの典型的な擬似酸味反応はLe-younger群で多く見られるが,Le-older群では手のばしや発声のような外作用系の活動が多いこと,(3)他者が真顔のままレモンを食す場面を呈示されたLe群と,他者がいかにも酸っぱそうな表情でレモンを食す場面を呈示されたN-Le群では,反応が変わらないかむしろLe群においてより活発であった。以上の結果に基づき,生後1年目後半の乳児の意図理解や三項関係の発達と関連づけて議論した。
著者
奥村 優子 池田 彩夏 小林 哲生 松田 昌史 板倉 昭二
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.201-211, 2016

<p>評判は,人間社会における利他行動の促進や社会秩序の維持に重要な役割を果たしている。評判を戦略的に獲得するために成人は"評判操作",つまり,他者に見られていることに敏感となり,他者の自分に対する印象や査定を操作する行動をとることが示されている。一方で,就学前の子どもにおいて,幼児が場面に応じてどのように評判操作をするのかは不明な点が多い。そこで本研究では,幼児の評判操作に関して2つの検証を行った。1点目は,5歳児が他者に観察されている場合に良い評判を得るように,また悪い評判を付与されないように評判操作をするかどうかであった。2点目は,5歳児が目のイラストのような他者を想起させる些細な刺激によって評判操作をするかどうかであった。研究1では,幼児が自分のシールを第三者に提供することで良い評判を得ようとするかを検討した結果,観察者,目の刺激,観察者なしの3条件で分配行動に有意な違いはみられなかった。研究2では,幼児が第三者のシールを取る行動を控えることにより悪い評判を持たれないようにするかを検討した結果,観察者条件では観察者なし条件に比べて奪取行動が減少した。一方,目の刺激条件と観察者なし条件とでは,行動に違いはみられなかった。これらの結果から,5歳児は悪い評判を持たれることに対して敏感であり,実在の他者から見られている際に戦略的に評判操作を行うことが示された。</p>
著者
平山 順子 柏木 恵子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.89-100, 2004-04-20
被引用文献数
1

本稿は、核家族世帯の中年期夫婦277組を対象に,夫婦間コミュニケーション態度をもとに夫婦のコミュニケーション・パターンの特徴を明らかにし,その様態が夫・妻それぞれの心理状態とどう関係しているか,またコミュニケーション・パターンの差をもたらしている要因を夫婦の経済生活及び結婚観との関連で検討した。主な結果は次のとおりである。(1)対象夫婦は,双方がポジティブな態度でコミュニケーションをしている「共感親和群」(36.5%),平均的で中立的なコミュニケーションをしている「平均中立群」(35.7%)、双方がネガティブな態度でコミュニケーションしている「威圧回避群」(27.8%)の3群に分類された。(2)共感親和群及び威圧回避群では,妻は夫に比べて夫婦関係満足度が低く,離婚思念度が高いことが明らかにされた。特に威庄回避群では夫と妻との得点差が他の2群に比べて大きかった。(3)夫婦の経済生活はコミュニケーション・パターンの違いと関連しており,片働き夫婦では平均中立群が多いこと,一方、妻の年収100万円以上の共働き夫婦では共感親和群が多いことが見出された。(4)夫婦のコミュニケーション.パターンと結婚観との関連を検討した結果,共感親和群の夫は平均中立群・威圧回避群の先に比べて,<相思相愛>及び<夫の妻への理解・支持>が顕著に高いことが明らかにされた。
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.86-95, 2009-04-20

本研究の目的は,不思議を感じとりそれを楽しむ心の発達について明らかにすることであった。研究1では,幼稚園年少児29名,年中児34名,年長児33名に3つの手品を見せ,そのときの幼児の顔の表情,探索行動,言語回答を観察し分析を行った。その結果,年少児では手品を見せられても顔の表情にあまり変化がなく,手品の不思議の原理を探ろうとする探索行動も全く見られなかったのに対して,年中児では軽く微笑んだり声をあげずに笑うなどの小さい喜び反応が増加し,探索行動も現れるようになり,さらに年長児では声をあげて笑ったりうれしそうに驚くなどの大きい喜び反応が増加し,探索行動も増加するといった一連の発達的変化が確認された。研究2では,研究1に参加した幼児86名に対して空想/現実の区別課題を行い,研究1の手品課題における反応との関連について検討した。その結果,空想/現実の区別を正しく認識している幼児ほど,手品を見たときに喜び反応をより多く示していたことがわかった。以上の結果から,不思議な出来事に遭遇したときに生じる,出来事の不思議に気づき,それを楽しみ,探究するといった心の動きが幼児期において発達すること,そしてその発達の背景には空想/現実の区別についての認識発達が存在することが示唆された。
著者
原田 新
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.95-104, 2012-03-20

本研究の目的は,青年期から成人期への発達的移行に伴う自己愛と自我同一性との関連の変化について検討することであった。青年期として18歳〜25歳の大学生・大学院生の371名,成人期として26歳〜35歳の352名に対して,自己愛と自我同一性の尺度を含む質問紙調査を実施した。発達段階ごとに自己愛と自我同一性との関連について検討した結果,特に「注目・賞賛欲求」と「共感性の欠如」に関して,青年期と成人期における注目すべき関連の差異が示された。さらにそれら自己愛の2変数を説明変数,「中核的同一性」,「心理社会的自己同一性」の2種類の自我同一性を目的変数とするモデルを両発達段階に対して仮定し,多母集団同時分析を実施した。その結果,青年期よりも成人期の自己愛の方が自我同一性に対してより強い負の影響を及ぼすことが示された。これらの結果から,「注目・賞賛欲求」や「共感性の欠如」という自己愛的心性を解消することは善年期の発達的課題であり,そのような課題が解決されなかった場合,成人期におけるそれらの高さは自我同一性の形成に負の影響を及ぼすことが示唆された。