著者
奥村 隆
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.486-503, 2002

「社会」というリアリティが喪失している, という.では, いかなる状況において「社会」はリアルに経験されるのだろうか.そのひとつは, いわば「社会を剥ぎ取られた地点」を経験・想像することを通してであるように思われる.この地点から「社会」を認識・構想することを, これまで多くの論者が行ってきた.われわれは, この地点をどう想像できるだろう.そこから「社会」はどのように認識されるのだろう.<BR>本稿は, ルソー, ゴフマン, アーレントという3人の論者がそれぞれに描いた「社会を剥ぎ取られた地点」と「社会」への認識を辿るノートである.そこでは, 人と人とのあいだに介在する夾雑物を剥ぎ取った「無媒介性」とも呼ぶべきコミュニケーションに対する, 異なる態度が考察の中心となる.このコミュニケーションを希求しそこから「社会」を批判する態度を出発点としながら, 「同じさ」と「違い」を持つ複数の人間たちが「社会」をどう作るかという課題への対照的な構想を, 本稿は描き出すことになるだろう.
著者
帯谷 博明
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.52-68, 2002-09-30 (Released:2010-04-23)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本稿は, ダム建設計画を例に, 地域社会の対立の構図とその変容過程を明らかにし, 計画段階における〈開発問題〉を捉える新たな関係図式の提示を行う.高度経済成長期を中心に各地に計画された大規模開発の中には, 近年, 長期間の地域コンフリクトを経て計画の見直しや中止に至る事業が見られるようになっている.数十年間にわたって事業計画に直面してきた地域社会では, その過程でさまざまなアクター間の利害対立とその変容を経験している.本稿は, これを計画段階における〈開発問題〉として把握する.ではこの〈開発問題〉における利害関係のダイナミズムは, どのように捉えられるだろうか.具体的には, 機能主義を背後仮説とする受益圏・受苦圏論を再検討した上で, まず, 開発計画をめぐる受益と受苦が住民にどのように認識されていたのかを分析する.さらに, 主要なアクター間のネットワークに注目する.「よそ者的視点」をもつキーパーソンを結節点とするネットワークが, 運動の拡大のみならず, 住民の受益・受苦認識の変容を迫り, その結果, 利害対立の構図自体が変容していくことを見出す.結論部では, 本稿の分析から得られた関係図式として, 受益・受苦と運動・ネットワークとの「相互連関モデル」を示す.
著者
武笠 俊一
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.352-368, 1986

有賀喜左衛門が若いころ白樺派の一員であったこと、その後柳田国男と出会い、民俗学をへて農村研究へと進み、日本農村社会学の創設者の一人となったことは、よく知られている。しかし西欧的な個人主義への憧憬を基調とする白樺派からその対極にある柳田民俗学への転進は、まだヨーロッパ文化への憧れの強かった大正末期には、きわめて特異な出来事であった。そのギャップの大きさを考えると、この転進は有賀の学問形成史における一つの「飛躍」であったと言ってよいであろう。学説史の第一の課題は、画期となった「飛躍」の連続面と不連続面の二つを、統一的な視点で分析することにあるといわれる。本稿では、有賀喜左衛門の日本文化研究の出発点を、この二つの側面から再検討してみたい。
著者
花野 裕康
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.69-85, 2001-06-30 (Released:2010-04-23)
参考文献数
41

精神疾患の具体的認知過程は様々だが, 精神疾患認知の初期判断項目として行為者の社会的表徴が評価されるという点は, 具体的状況によらず共通である.精神医学は, この表徴から遡行して精神疾患の病因を特定しようとするが, そのような逆向きの実在論にはある種の逆理が不可避である.また行為の社会的表徴それ自体に精神疾患の根拠を求める物語論や構成主義的方法も同様に実在論としての逆理を孕んでいる.本稿では, 郡司ペギオ幸夫らが提唱する内部観測論を援用しつつ, 非実在論としての精神疾患論を展開する.内部観測論は, 観測者と観測対象との未分離性を前提としつつ, 局所の行為としての観測 (特定の言語ゲーム) を契機に普遍的な観測 (普遍的言語ゲーム) を感得させるための, 観測の存在論である.内部観測論的に言えば, ある社会的表徴を精神疾患のメルクマールとして評価しうるのは, 特定の言語ゲーム内における実行性に関してのみである.しかし精神疾患の実在論は, この特定の言語ゲームを普遍的言語ゲームと混同することで, 認知過程の「根拠化」を図ろうとする.かかる説明図式を脱構築しつつ, 精神疾患の内部観測論的モデルを提示することが本稿の目的である.
著者
成家 克徳
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.392-405, 1991-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
25

本論文の課題は、現代の国際労働力移動を理解するための基礎的な概念枠組みを設定することにある。第二次世界大戦後、アジア、ラテンアメリカ等の第三世界から多数のヒトが先進国、産油国へ移民労働者として出国している。従来の枠組み (プッシュ=プル理論) では、第三世界と先進国との間にある格差 (賃金、就業機会等) が過大評価されてきた。この理論を批判し、(1)世界経済の無国境化 (borderless economy) という “構造” 転換モデル、 (2) トランスナショナル・アクターとしての民族集団 (ethnic groups) という “主体” モデルを提示する。前者において、先進国の直接投資は、第三世界の輸出向け工業化 (あるいは農業化) を促進したが、同時に潜在的な移民候補者をも生み出したと述べる。また国際労働力移動は世界的規模での労働市場の一体化であると指摘する。後者においては、前者のモデルの問題点 (i・eシステム決定論) を指摘し、相互補完的観点を導入する。とりわけ第三世界側のダイナミズムを強調する。それに加えて (1) と (2) の観点を総合し、国境横断的な民族の発展という視点をうちだす。
著者
菅原 祥
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.20-36, 2013 (Released:2014-09-10)
参考文献数
26

本稿は, ポーランドのクラクフ市・ノヴァ・フータ地区を研究対象として, 社会主義ポーランドにおけるノヴァ・フータがかつてそこの住民にとってどのように体験され, また現在ポーランドの言説空間の中でどのように扱われているか, また, ポスト社会主義と言われる現在において, 社会主義的「ユートピア」建設という過去とどのように向き合いうるかを検討することを目的としている. かつて「社会主義のユートピア」として讃えられ, 現在では社会主義の負のイメージを全面的に背負わされているノヴァ・フータという場所は, 当時の社会主義体制がめざした「ユートピア」像に対して実際にそこに住む住民たちはどのように反応・対処したのかを考え, さらに, ポスト社会主義の現在において, 社会主義の「過去」の経験がどのようなアクチュアルな意味をもちうるのかを考える際に格好のフィールドである. 本稿は, 雑誌資料や出版物などの二次資料をおもに扱いつつも, 適宜筆者が行ったインタビュー調査を参照しつつ, ポスト社会主義の「現在」における生の中でかつての社会主義的「ユートピア」の記憶と体験がもつ意味と, そうした過去を今あらためてアクチュアルなものとして問い直すことがもつ可能性を探求することをめざしている.
著者
山本 英弘 渡辺 勉
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.147-162, 2001-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

政治的機会構造論は, 現在の社会運動論において主流をなす理論の 1 つだといえるが, いくつかの問題点がみられる.本稿では, 政治的機会構造論の修正を試みたうえで, 1986~1997年の宮城県における社会運動イベントのデータを用いて計量的に検証する.分析から, 以下の2点を示唆することができる. (1) 社会運動に対する政治的機会構造の影響は, 運動の類型によって異なる.したがって, 政治的機会構造がそれぞれの社会運動の類型に対してどのように影響するのかを考慮しなければならない.従来の研究ではこの点が看過されていた. (2) 社会運動の類型によっては, 運動に対する政治的機会構造が機会として影響するのではなく, 政治体による政策が運動を誘発するという影響を及ぼす.そのため, 政治体と社会運動体の相互作用をより重視する必要がある.
著者
牛島 千尋
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.266-282, 2001-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

「女中不足」は性別分業によって特徴づけられる「近代家族」誕生の背景の一つと見なされる.女中不足は, 戦間期の東京における新中間層の増加とどのように関連していたのであろうか.女中の雇用は新中間層の郊外化とどのように結びつき, そして, 東京郊外にどのような意味をもたらしたのであろうか.本稿は, これらのテーマを国勢調査と女中に関する調査データによって検討することを目的とする.第二次世界大戦以前, 女工とならんで女中は多くの若い女性が従事した典型的な仕事であった.女中不足は, 「女中奉公」の目的が行儀見習いから収入の獲得に変わった明治末からすでにあった.地域的に分断されていた労働市場が戦間期に統一されると, 東京は地方から大量の労働力を吸収した.女中は, 農村からの出稼ぎ労働者によるこの流れの一端を担った.戦間期には女中の実数は増加したが, それを上回る新中間層の増加は, 求人側と求職側の間の思惑の不一致を引き起こし, 女中不足をいっそう深刻化させた.新中間層の多くは一人の女中しか雇うことができなかったので, 妻も家事に従事しなければならなかった.結果として, 世帯内の夫と妻の間に明確な性別分業を引き起こした.このようにして, 戦間期に新中間層が増加した東京の西・西南部の郊外は, 産業化の過渡期に生まれた「女中」と近代家族の誕生とともに生まれた「主婦」からなる「二重構造」を呈する都市空間になった.
著者
長松 奈美江
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.476-492, 2006-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
21
被引用文献数
1

近年, 雇用調整や労働強化などにみられるように, 被雇用者の管理のあり方が変化している.被雇用者がもつ仕事の自律性の「水準」と, 被雇用者間での仕事の自律性の「規定構造」の変化に注目することで, 近年の雇用関係の変化を検証した.被雇用者がもつ仕事の自律性の「水準」は, 業務遂行において, 被雇用者と雇用主のどちらの意思がより貫徹されやすいかを表す.仕事の自律性の「規定構造」は, どのような特性をもつ被雇用者が, 雇用主との関係においてより有利な立場にあるかを表す.1979年の「職業と人間」調査, 2001~02年の「情報化社会に関する全国調査」を用いて, 仕事の自律性の「水準」と「規定構造」が変化したのかどうかを, 仕事の自律性の多母集団同時解析による検証的因子分析と, パス解析によって確認した.その結果, 男性被雇用者の仕事の自律性の「水準」は低下し, 「規定構造」に関しては, 学歴の効果の低下, 職業威信と年齢の効果の増大がみいだされた.職業威信の仕事の自律性への効果は, 職業威信による技能 (仕事の非単調性) の違いと, 解雇されやすい立場を表すパート・アルバイト率の違いによって媒介されていた.被雇用者の管理のあり方が変化し, 被雇用者の仕事の自律性の水準が低下するなかで, より解雇されにくく, 専門性の高い仕事をする被雇用者が, 仕事の自律性を奪われない有利性をもつようになったといえる.
著者
藤田 結子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.519-535, 2013-03-31 (Released:2014-03-31)
参考文献数
35
被引用文献数
1

本稿は, 文化生産におけるナショナル・アイデンティティの構築について考察することを目的とする. 考察のため, 「欧米都市のアート・ワールドにおいて, どのような要因により『日本らしさ』の構築が促されているのか」という研究の問いを設定し, ファッション, インダストリアル・デザイン, 現代アートの各分野を対象に調査を行った. 調査方法にはマルチサイテッド・エスノグラフィーを用い, パリ, ロンドン, ニューヨーク, 東京などで参与観察とインタビューを実施した.調査の結果, 欧米都市のアート・ワールドでは異なる職業・役割をもつ人々を結びつける弱い紐帯が, さまざまな利益を生む活動に影響を及ぼしていた. しかし国境を越える人のフローが活発化し, アジア系のデザイナーやアーティストの活動が顕著になっている現在でも, バイヤーやコレクター, 記者・編集者など重要な判断や権力を行使する職業・役割においては, 白人が多数派を占めていた. この状況のもと, 白人性を「標準」とした価値観を基に, 日本出身のデザイナー, アーティストとその作品が本質的な「日本らしさ」と結びつけられていた.結論として, 制作者の「日本らしさ」への愛着によってナショナル・アイデンティティが再生産されているのではなく, アート・ワールドの職業・役割に見られる特徴的な人種関係と, その人種関係に基づく作者・作品への評価のあり方が「日本らしさ」の再構築を促していることが明らかになった.
著者
藤田 哲司
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.364-377, 1994-12-30 (Released:2009-10-13)
参考文献数
28

社会現象としての権威持続の中核は, 権威的指示の受容原理にあるものとして理解可能である。 そして, 本論文の目的は, 権威的指示の受容に関して敬意という要因を組み込んだメカニズムを想定し, 権威の安定を説明することである。権威の長期的安定 (権威的指示受容の長期的安定性) は, 1) 権威源泉の正統性にもとついて受容者個々人が自発的に受け入れるという側面と, 2) 受容者集団や社会圏内部で生ずる相互規制 (役割転換) によって受け入れを継続させられるという側面に分析できるが, いずれにおいても担い手に対する受容者の敬意が大きく関わっている。 つまり, 1) では, 二重の依存状態 (権威源泉-受容者, 担い手-受容者) の下で担い手が受容に関して何の期待もしないときに生じる敬意が, 源泉に対する正統性信念を喚起することによって, 受容を促進する要因となる。 2) では, 役割転換が受容継続を生み出すが, そこにも受容者個々人がいだく敬意がはたらいている。 受容者たちが自発的に逸脱者と敵対して受容圧力をかけるとともに, 通常時にも逸脱そのものを押さえることによって, 権威安定が結果する。 この権威の安定には, 自発性が深く関与するのに対し, 変化には源泉の優越的価値への合理的依存が関与している。 状況変化に伴う受容者期待分岐による役割転換の遅滞が, 権威現象変化の契機となる。
著者
保坂 稔
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.70-84, 2002

本稿は, 『権威主義的パーソナリティ』を踏まえて, 権威主義的性格と環境保護意識の関係について検討することを目的とする.権威主義的性格の多くの側面のうち, どのような側面が環境保護意識と関係しているのだろうか.検討にあたっては, 権威主義的性格の「過同調と潜在的破壊性との共存」といった特徴に着目する.まず「過同調」と「破壊性」が, 環境保護意識とそれぞれどのような関係にあるかを検証した.結果は「過同調」については負の, 「破壊性」については正の相関関係が, それぞれ環境保護意識と見られた.次に, 「過同調」と「破壊性」が共存した場合の権威主義的性格と, 環境保護意識の関係をみた結果, 権威主義的性格の人々が高い環境保護意識を持つことが判明した.最後に, 権威主義的性格の人々が持つ環境保護意識について, ナチズムにおける環境保護への取り組みを参考にして検討した結果, 「権威主義的な環境保護意識」が今日存在することが明らかになった.
著者
細谷 昂
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.2-15, 2005-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
23
被引用文献数
3 2
著者
小林 久高
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.392-405,478, 1989-03-31 (Released:2010-05-07)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

権威主義の基本概念は、弱者に対する攻撃を意味する権威主義的攻撃と強者に対する服従を意味する権威主義的服従の結合にある。アドルノ、ロキーチ、アイゼンクの研究を検討すると、この権威主義の基本的な意味と保守主義とが密接に関係していることがわかる。この事実を説明するために、一つの図式が提出される。この図式は、概念的な観点から、権威主義と保守主義の密接な結合を明らかにしたものである。次に、シルズのいう左翼権威主義の問題が検討される。そこでは、左翼の位置する体制の違いを考慮する必要性、体制に対する態度と党派に対する態度の違いを考慮する必要性、態度とパーソナリティのレベルの違いを考慮する必要性が述べられ、自由主義・資本主義体制内の左翼は、過激主義的ではあるが、右翼に比べて権威主義的ではないという指摘がなされる。
著者
藤竹 暁
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.446-460, 1990-03-31 (Released:2010-02-19)
参考文献数
62

清水幾太郎は、「経験」を基礎にして考え、行動した思想家であり、社会学者であった。清水幾太郎の人生とその業績を明らかにするためには、清水にとって経験とは何であったのかを、探らなければならない。本稿では、清水が社会学を志望するにいたり、そして三〇歳代前半に、環境と人間に関する清水独自の理論の骨子を形成するまでの、清水の初期の経験を考察する。まず、清水が成長過程で遭遇した個人的、社会的事件を整理し、これらの事件が、清水の思想形成において、どのような経験となったかを考える。次いでマルクス主義が支配する時代状況の下で、ドイツ形式社会学に没頭し、その非現実性に飽き足らず、オーギュスト・コントの研究へたどりつき、さらにアメリカの社会学、心理学、哲学を知るにいたって、コントの人類に関する観念を、清水独自の社会学的な人間の理論へと発展させた過程をたどりながら、清水が経験の概念を確立してゆく経緯を論ずる。それはまた、思想家そして社会学者としての清水幾太郎が、人生と社会に対して示した姿勢を明らかにすることでもある。