著者
大藪 俊志
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.131-145, 2015-03-01

近年,地域社会における課題の発見や解決にその地域に住む市民が主体となって取り組み,行政と協働しながら住みやすいまちづくりを目指す地域内分権の試みが,各地の地方自治体で実施されている。その背景や理由は自治体により様々であるが,住民自治の拡充と併せ,人口減少や財政の逼迫などの社会経済情勢の変化,公共サービスに対する需要の多様化・複雑化,地方自治制度の見直し(地方分権,市町村合併)など,地方自治体を取り巻く様々な環境変化に対応する必要性が指摘される。本稿では,「持続可能な基礎自治体」の確立を目指し,行政の改革と並行して地域内分権を推進してきた愛知県高浜市の取組み事例を検討することにより,今後の地方自治体の運営の課題と方向性を探る。そのうえで,持続可能な地域社会を確立するためには,行政基盤と住民自治の両面を強化する必要があることを指摘する。
著者
大束 貢生 長光 太志 井上 未来
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.75-88, 2005-09-01

この小論の目的は,近年重要と考えられているボランティア活動やNPO・NGO活動などの自主的な市民活動の可能性を探るために,「子育てサークル」Aを事例として検討することにある。Aの設立者と参加者に自由記述およびインタビュー調査を行った結果,活動内容(理念),運営手段(場所の確保・毎回の参加・掲示板・勧誘・連絡係)双方とも,設立者の役割は大きいと考えられる。しかし,参加者はサークルの活動内容(理念)に共感しており,運営についても消極的な姿勢だけではないところが見受けられる。
著者
満田 久義 Mulyanto Rizki M.
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.79-96, 2008-03-01

マラリアは,毎年2億から3億人の患者と,150万から200万人の死者を出す人類にとって最悪の感染症の一つである。日本では稀な病であるからといって,21世紀の地球社会で,毎日3千人もが犠牲になる悲劇に無関心のままでよいだろうか。マラリア問題の解決は,アジアやアフリカだけではなく,人類共有の課題であり,先進国の責任は重い。マラリアは,感染経路や発症メカニズムの医学的研究が進み,治療や予防が可能となっている。ではなぜ,現在もエイズに匹敵するひどい被害が続いているのだろうか。マラリア問題の根底には,医学的な要因だけでなく,劣悪な衛生環境や栄養状態,経済的貧困,社会資本不足,ジェンダー差別,教育の欠如など,人間貧困の悪循環からくる生存権のはく奪状況があるのだ。インドネシアでは,2005年の異常気象で,雨期の11月から3月にかけて激しい集中豪雨が襲った。洪水はマラリア原虫を運ぶハマダラ蚊の大発生を引き起こし,マラリア感染がアウトブレイク(大爆発)した。森林やラグーン(潟湖)の乱開発,都市化と工業化など社会変化による複合要因もアウトブレイクの背景にある。われわれは2006年4月から3年計画で,インドネシア国立マタラム大医学部と国際共同研究「マラリア・コントロール・プログラム」を進めている。そして,バリ島の東にあるロンボク島で,マラリア感染の社会疫学的調査(CBDESS)を実施した。同島では05年のアウトブレイクで,千人以上が感染し多くの死者が出たといわれている。CBDESS調査では,マラリア被害のあった村々の一軒ずつを訪ね,992人の世帯代表者から聞き取り調査を行った。87%の世帯で,貧しさから5歳までの子どもを入院させることができずに亡くしていた。また,半数以上が学校に行っていないか,小学校すら卒業していないなど,教育が欠けている状況だった。マラリアの知識も6割になく,夜間にシャワーやトイレを屋外でするなど感染の危険に身をさらしていた。調査結果を統計解析すると,収入や教育レベルの低さとマラリア感染の危険性とが深く関連していることが明らかになった。これまでのマラリア対策は,発生源のハマダラ蚊の撲滅とマラリア患者の早期発見と治療が中心だった。しかし,今回のアウトブレイクに関する社会疫学的研究は,従来の対策を根本的に見直すことが必要なことを示している。マラリアの被害を抑えるためには,貧困な地域での経済対策や教育の向上によって,母子の健康状態を良くしたり,感染を防ぐ生活習慣を広めることが重要だ。これは人間社会の問題であり,マラリアに対抗できる地域力を高める「コミュニティ・エンパワメント」が求められている。異常気象は,地球温暖化の影響の可能性があると指摘されている。そうであるなら,集中豪雨がもたらしたマラリア・アウトブレイクは,豊かな先進国のしわ寄せを途上国の最も貧しい人々,とくに子どもが受けたことになる。日本ができることは,経済的支援以外にも,たくさんあると考えている。たとえば,自らが村に入って,マラリア教育の手助けをすることもその一つだ。自分たちの行動が子どもの命を救うことを実感できれば,生きる意味を見失っている日本の若者やシニアにとっても,得難い体験になるにちがいない。マラリアから子どもを守る活動への支援の輪を広げていきたい。
著者
上田 道明
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.19-42, 2014-03-01

2007 年に成立した国民投票法は,その後施行され,現在では憲法改正の是非を問う国民投票の実施も制度上可能になっている。しかし,同法は成立時に18 項目にも及ぶ付帯決議がなされたように,未解決の多数の課題を積み残したままでもあり,その意味で,あるべき国民投票の姿をめぐってはなお議論を尽くす必要がある。本稿は同じ直接投票である住民投票の経験から,その国民投票の制度化論議に一石を投じようとするものである。
著者
瀧本 佳史 青木 康容
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.93-113, 2013-03-01

沖縄県における米軍用地は,今日いくらか返還の途上にあるとはいえなお相当な規模を占めている。戦後占領下において農耕地や宅地が接収されていったが,本稿は戦後それがどのように規模を拡大させてきたかについてその背景を探るとともに,地域によってどのような接収に違いがあるのかなどについて追究するものである。米軍の軍用地接収は沖縄戦終了後の占領とともに始まり,これを第1 期とすれば第2 期は国際環境の変化によって大規模かつ組織的な接収が行われる1950 年代半ばからであるということができる。接収地には地料が支払われ,その金額や支払い方法をめぐって住民と米軍との間の軋轢がやがて基地反対の「島ぐるみ闘争」となって全島を巻き込み戦後沖縄史を飾る戦いが繰り広げられた。その最中に米軍基地を自ら誘致したいという沖縄北部の農民たちが現れ,この闘争は分裂の経過を辿り終息していく。その背景には沖縄中部と北部における土地所有形態の相違があり,個人所有地の多い中部に対して北部の土地は殆どが入会地であり村有など共有地・杣山であったことである。共有地であることがかえって合意形成を容易にしたのである。入会地からの資源を保持する山経済よりは地料が確実な基地経済を選択することで貧困な村落社会の利益を守り維持していこうとしたのであろう。後半では杣山の歴史を俯瞰する。
著者
山本 奈生 長光 太志
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.61-75, 2015-03-01

本稿では個々の大学生が就職活動の経験を経てどのように内定先を決定し,その進路を受容しているのかを問題とする。すなわち就職活動の厳しさや「自己分析」の必要が語られる昨今の状況を,大学生諸個人はどのように経験し,最終的な進路へと至っているのかを分析した。ここで用いるデータは私立大学の卒業生に対するインタビュー・データである。本研究では社会学的な就職活動研究における,個人的な範疇の社会関係資本に関する議論や,就職活動過程の研究を踏まえながら,インフォーマントらは自身の進路をどのような合理性をもって選び取ったのかを明らかにする。本研究の含意としては社会関係資本の多様性が,就職活動の私的経験を相対化する作用を持つ可能性が示唆されたことや,それほど「自己分析」に拘泥せずに,過去の労働経験など具体的な経緯から内定先を決定する学生の範型が示されたことにある。
著者
大谷 栄一
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.1-22, 2012-03-01

戦後京都の宗教者平和運動は,1950年4月に結成された宗教人懇談会と1954年5月に設立された京都仏教徒会議の活動によって本格的に生起した。両団体は1954年3月の第五福竜丸事件を契機とする原水爆禁止運動に呼応し,京都の原水爆禁止運動の一翼を担いながら,運動を展開した。運動の担い手は仏教教団の指導者や大学関係者(教員・学生)が多く,この点は,各宗派の本山や多くの宗門系大学を抱える京都ならではの特徴であろう。1950年代を通じて,京都の仏教者・仏教系知識人たちは全面講和運動や原水禁運動に積極的に関わり,京都の労働組合や平和団体,地域組織との連携を通じて活動することで,戦後京都の秩序形成や府民たちの「平和」認識に対する一定の公共的役割をはたしたと評価できるのではないか。
著者
辰巳 伸知
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.21-36, 2010-09-01

アクセル・ホネットの最新の研究領域である物象化論は,承認論を通じてルカーチの物象化論を再構成しようとする大胆な試みである。しかしそれは,ルカーチの『歴史と階級意識』を「誤読」することによって,ルカーチの物象化論にあった批判的ポテンシャルの核心を骨抜きにしてしまっているのではないか。また,承認論を通じて再構成された物象化論自体は,以前の「承認をめぐる闘争』等で展開された承認論のような,「社会的コンフリクトの道徳的文法」を示すことによって,さまざまな社会的コンフリクトを説明し解決の展望を開くような切れ味や射程を,少なくともこれまで以上にはもっていないのではないか。
著者
丸山 哲央 山本 奈生 渡邊 秀司
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.1-18, 2011-03-01

インドから中国,朝鮮・韓国を経て移入され,日本化された仏教(Japanized Buddhism)は日本固有の要素にすべての時代,地域に通底する普遍的要素を付加し,独自の体系を形成してきた。日本仏教に固有の要素でありながら新たな普遍性を備え,逆に外部に再発信しうる要素とは何かということの解明が,文化のグローバル化現象の根幹をなす問題である。本稿では,日本仏教のグローバル化について,特に布教活動である南米での海外開教を事例として取り上げ,その理論的分析方法について考察する。この際に浄土宗と浄土真宗の開教活動に焦点を当て,見仏体験にかかわる文化の実存的要素の伝播可能性についての究明を試みたが,文化伝播のメディアとの関連での分析が必要なことが明らかになった。
著者
丸山 美和子
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.195-208, 1999-03-01
被引用文献数
1

本研究は、「文字」と「数操作」の2領域における学習レディネスを具体的に明らかにし、教科学習に繋がる部分での就学期の発達課題を整理することをねらいとしている。文字学習開始のレディネスとしては、話しことばレベルでの一定の言語理解・表現能力、身振りと描画の表現力、音節分解・音韻抽出能力、視覚運動統合能力、空間関係把握・統合能力を提起した。数操作学習開始のレディネスとしては、10以上の数概念形成、系列化の思考、保存の概念等をあげた。合わせて意欲的側面の重視を指摘した。そして保育の課題として、「教科」の学習を幼児期に引き下げて行なうのではなく、幼児期の「発達の主導的活動」をふまえた遊びと生活を豊かにする中で上記の力の獲得を保障することの重要性についてふれた。
著者
山口 洋
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.105-119, 2003-03-01

個人間の社会ネットワークデータは,(1)主に質問紙(調査票)を用いて当事者に報告を求める,(2)研究者や調査員が当事者の行動を観察する,(3)既存の文献資料や記録を利用する,といった方法で収集されてきた。最も広く用いられてきたのは(1)の報告データである。しかし海外での方法論的実証研究を概観すると,通常の報告データは,客観的(行動的)紐帯および弱い紐帯を把握する際に,様々な問題をはらんでいることが分かる。しかも,その種の紐帯は一定の理論的意義を持つ。したがって客観的紐帯および弱い紐帯を把握すべく,通常の報告データだけでなく観察・記録データを併用したり,特殊な調査方法を工夫したりすることが,方法論的課題となるだろう。
著者
崔 銀姫
出版者
佛教大学社会学部
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
no.53, pp.1-18, 2011-09

本研究は,日本でテレビ放送が始まった1950年代から現在にいたるまでの約60年間の,アイヌを素材としたテレビドキュメンタリー放送の歴史を概観しつつ,アイヌ表象の文化的言説の特徴と変容を考察する目的で行われている「テレビドキュメンタリーにおけるアイヌ表象と他者性の問題にかかわる考察 : 戦後60年間の軌跡と変容」の一部である。本稿はそのうち,1899年(明治32年)に制定された「北海道旧土人保護法」をはじめ,明治時代に施行され始めた同化政策の政治的な成功の裏で,「消された他者」としてのアイヌのアイデンティティが現代の映像ではどのようにイメージされていたのかを考察したものである。戦後の1950年代,アイヌの同化は政策的には既に完了したと言われたが,果たして放送におけるアイヌをめぐる表象は完了されていたのか。テレビドキュメンタリーでアイヌ問題を初めて取り上げた「コタンの人たち:日本の少数民族」(1959年・NHK全国放送)におけるアイヌの表象を分析することで,1950年代日本の社会におけるアイヌと「他者性」について検討を行った。アイヌドキュメンタリー他者性エスニック表象
著者
瀧本 佳史 関谷 龍子 谷口 浩司
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.33-50, 2010-03-01

社会調査の継続性を課題としている。2003年全国自治体首長アンケート調査で得られた知見を確かなものにするため,2004年以降ヒアリング調査を継続して実施している。2007年度までに延べ13の自治体を訪問した。2008年8月に,新潟県胎内市・柏崎市・上越市を訪問,2009年2月に愛媛県内子町,8月に北海道伊達市・栗山町を訪問,調査している。第1章では,胎内市の黒川地区の「自立のための村営事業の苦心と苦悩」の事例が報告される。第2章では,柏崎市高柳町の「既存の資源を生かした交流・観光の地域づくり」の事例が報告される。第3章では,上越市安塚地区の「大型合併と地域ガバナンス-住民自治とNPO組織の試み-」の事例が報告される。いずれの政策の取り組みも,画一的なものではなく,地域の現状から独自の施策を展開し,合併の荒波にも対応策を模索している。全国の小規模自治体の生き残りにとって,示唆的な事例である。