著者
加護野 忠男
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.50-59, 1988 (Released:2022-07-14)

この論文では,組織の変動を認識進歩の過程として分析する.まず,これまでの組織変動論が批判的に検討され,組織変動と認識進歩の多様な形態が識別される.さらに,既存の認識進歩の方法論のなかでの組織変動と,新しい認識進歩の方法論の獲得をともなうような組織変動の2種類が存在することが明らかにされ,ある種の組織変動の難しさは,認識進歩の新しい方法の獲得の難しさからもたらされることが明らかにされる.
著者
高瀬 武典
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.15-24, 1988 (Released:2022-07-14)

組織イノヴェーションを研究する際に,従来の合理主義的組織モデルの限界が多く指摘されている.しかし,合理主義の克服をねらった反合理主義的経営理論もまた,現状ではその内部に合理主義的な要素を内包せざるを得ない.自己組織系として組織をモデル化するにあたっても,ただ反合理主義を唱えるのではなく,合理性と非合理性の拮抗がもたらすダイナミクスも内包した理論の構築がのぞまれる.
著者
金井 壽宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.80-90, 1989 (Released:2022-07-14)

ネットワークは,理想型においては,階層性や専門性を奇妙に持ちこまない対等な相互依存関係である.懸案があると電話で呼び出すこともできるが,ネットワーク内の同輩が一堂に会する機会もありうる.そこでは,なんの遠慮もなく自由に発想を走らせ夢を翔ばせるような議論が生まれるのが理想である.そのような同輩間での懸案の真剣かつ共感的な議論を,ピア・ディスカッションと呼ぶ.その組織論的な意味を,「気づき」の共有や,集団レベルでの知識の生成として探るのが本稿の目的である.
著者
榊原 清則
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.71-79, 1989 (Released:2022-07-14)

職能制,事業部制,マトリックスと展開されてきた組織形態の変遷に新しい動きがみられる.それはサテライト組織(S型)とでもよぶべきネットワーク型の組織の台頭である.S型組織は「新しい成長戦略」の遂行の過程で現れてきたものであり,組織デザイン論にまったく新しい洞察を提供している.
著者
浅羽 茂
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.65-78, 1990 (Released:2022-07-14)

企業が長期的に成長するためには,既存事業の盛衰を越えて新規の成長機会を探索・実現しなければならない.本稿では,経営資源の蓄積に焦点を当て,企業と顧客との相互作用が生み出す産業の盛衰と企業成長のメカニズムを分析する.分析を通じて,既存事業の成熟化過程における経営資源のスラック化が企業の長期的成長にとって重要であることが主張される.さらに,企業の長期的成長の2つのパターンが導出される.
著者
金井 壽宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.46-59, 1990 (Released:2022-07-15)

組織研究における定性的研究方法には,多様なアプローチがある.本稿では,エスノグラフィーによって得られる多様な観察データに基づく比較ケース分析の方法論的奥行きを探る.ケースの選択における理論的サンプリングの意義,およびエスノグラフィーと臨床的方法の補完的相違についてもふれる.
著者
野中 郁次郎 紺野 登 川村 尚也
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.2-20, 1990 (Released:2022-07-15)

組織にとって有意義な知識は,成員が能動的に関与した暗黙知と形式知の相互作用によって固有に獲得される.組織的「知の創造」は,知の共有化から概念化に至る集団の対話プロセスである.その実証分析とモデル化の手法としては発語行為やメタファーなどの言語行為に着目した創造的対話の内容分析が有効である.今後の組織研究はこれに基づく新たなかつ普遍的な組織的知の創造の方法論の探求に焦点を当てる必要がある.
著者
沼上 幹
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.74-89, 1991 (Released:2022-07-15)

本稿の目的は,限られたデータから業界構造と企業の競争行動を解読する手法を開発することにある.具体的には,数量シェアを横軸に,金額シェアを縦軸にとったグラフから,業界の基本的な特徴と企業の競争構造を一歩ずつ読みとっていく.この手法の解読性能を明確にするべく,液晶ディスプレイ産業の事例が分析される.最後に,この手法のもつ意義と問題とを簡単に論じる.
著者
桑田 耕太郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.22-35, 1991 (Released:2022-07-15)

組織の長期適応を説明するためのキー概念として,「ストラテジック・ラーニング」の概念を導入し,そのプロセス・モデル,および意義について議論する.ストラテジック・ラーニングは,戦略行動をデザインする際の,基本的なものの見方・考え方を規定する組織の根源的知識が学習され,戦略的能力の刷新をもたらす組織学習である.それは,知識の有効性の評価を伴わない学習であり,戦略的知識蒸留過程を通じて行われる第2次学習である.
著者
榊原 清則
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.55-62, 1992 (Released:2022-07-15)

本稿では,企業組織のドメインをめぐる議論の概念的体系化を試みる.ここにドメインとは,組織体の活動の範囲ないしは領域のことであり,組織の存在領域を意味する.分析の結論として,ドメインの広がりを空間,時間,意味の広がりの三つの次元でとらえる,まったく新しい分析枠組みが提唱される.
著者
寒川 恒夫
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.56-61, 1992 (Released:2022-07-15)

柔道は,明治時代の初めに,嘉納治五郎がそれまでおこなわれていた柔術を,当時の欧米の中心的教育思想であった三育主義教育をモデルにして,独特の「近代教育的な日本のエスニック・スポーツ」に体系化しなおしたものである. 本論は,この柔道が国内に普及し,また世界に拡散して国際化してゆく過程を反省して,柔道が国際化しえた要因について考えようとするものである.
著者
沼上 幹
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.85-99, 1995 (Released:2022-07-15)

社会科学,特に経営学の領域でマクロ現象法則を確立できる可能性が非常に限られていることを,簡単なゲーム論の概念を利用して明らかにする.マクロ現象法則が確立困難であれば,法則定立的な実証研究の方法論が社会科学者に要求してきた信頼性・追試の可能性と外的妥当性という2つの評価基準が重要なものではなくなる.このような作業を通じて個別事例研究の擁護論を展開するのが筆者の最終目標である.
著者
西口 敏宏 辻田 素子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.4-15, 2017-03-20 (Released:2017-09-11)
参考文献数
38

境界とメンバーシップが明確なコミュニティーの営為を分析する概念として,多義的なソーシャル・キャピタルでは不十分である.本稿は,繁栄する温州人企業家やトヨタサプライチェーンの事例から,より限定的な中位の概念として「コミュニティー・キャピタル」を提唱する.機能するコミュニティーでは,成員への成功体験の「刷り込み」によって「同一尺度の信頼」が派生し,面識のない成員でさえ協力しあう「準紐帯」が醸成される.
著者
勝又 壮太郎 金 勝鎮
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.62-76, 2020-12-20 (Released:2021-01-14)
参考文献数
31

本研究は,とくに技術面,コスト面の制約がない環境下での製品に関する段階的な機能の変化を対象に,その要因を検証し,実証分析を行った.スマートフォンの画面サイズの変化に注目した事例分析から,消費者は,自分の認知している機種よりも適度に大きな製品を最も選好するという結果が得られ,このような選好が継続した結果として,段階的な大型化が実現したことが示唆された.
著者
土橋 力也 古澤 和行
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.78-90, 2022 (Released:2022-04-20)
参考文献数
33

本稿は,マッチング・プラットフォームにおいて,PFの社会的存在感がどのようにしてPF の信頼を生み出し競争優位の実現につながるのかを明らかにする.求貨求車におけるトランコムの事例分析から,「人」の介在が信頼をもたらすメカニズムとして,「曖昧さの許容」,「心理的安心感の創出」,「変更への対応」,「取引条件の擦り合わせ」の4つがあることを示し、信頼の正のフィードバックループの存在を明らかにした.
著者
尹 大栄
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.28-39, 2013

本稿では,南九州地域の焼酎(芋焼酎)産業における取引制度の事例分析から目的や利害を異にする人々間の協働の問題について考察を行う.南九州地域の焼酎産業では,芋焼酎の原料であるイモをめぐる取引において,本来はゼロサムの関係にあるはずの売り手(イモ生産農家)と買い手(焼酎メーカー)が相互に利益を高めるwin-winの取引制度を生み出している.このような取引制度は,取引ガバナンスを第三者(仲買人)に委ねるという制度的工夫や,自己利益の最大化の追求を自制する「強者」(焼酎メーカー)の節度ある取引行動によって支えられている。
著者
佐々木 秀綱
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.45-57, 2018-09-20 (Released:2019-01-17)
参考文献数
36

本研究の目的は,リスクを伴う意思決定に際して,社会的勢力感がいかなる影響を及ぼすのかを検討することである.質問紙を用いた場面想定法実験の結果から,次の2つの知見が明らかになった.第1に,勢力感の高い個人はリスク愛好的な選択を行いやすくなった.第2に,勢力感の低い個人は,リスクに対して単純に回避的な反応を示すというよりはむしろ中程度のリスクを好む傾向を強めた.
著者
谷口 真美
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.4-24, 2016-09-20 (Released:2017-08-28)
参考文献数
104
被引用文献数
4

多様性と成果の関係性,そこにおけるリーダーシップの影響過程は,曖昧で複雑である.そのため研究が少なく,いまだ実務の要請に応えきれていない.しかし,次の点で着実に研究が進んでいる.1)より精緻に現象を捉えるための方法論が洗練されている.2)多様性固有の局面を正確に捉え,それに対するリーダーシップの影響過程が探求されている.本稿では,個人,集団(チーム),組織レベルで,多様性と成果をつなぐリーダーシップの役割に関する既存研究を整理し,今後の研究課題を示す.
著者
渡部 俊也
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.27-37, 2012-12-20 (Released:2013-10-01)
参考文献数
22

最近の知財ライセンス契約の条項を詳しく検討することによって,その特徴と機能を明らかにすることを試みた.その結果,知財の共創と協働という面での共通の機能が見出された.この機能はオープンな知財マネジメントの一機能であるともいえる.このような観察結果は,オープンイノベーションの実行 における知財ライセンス契約の重要性を示している.
著者
伊藤 博之
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.4-17, 2021 (Released:2022-01-11)
参考文献数
82

本稿は,2つの統治パラダイムを対比することで,統治と経営が連動していることを主張する.第一の統治パラダイムは,現行の支配的な企業統治論である.それに従うならば,経営は「制作」となる.一方,経営を「実践」とするもう1つの統治パラダイムも構想できる.統治と経営のこうした連動性を再評価することで,企業統治論の研究が活性化され,経営学の諸論考と企業統治論の交流が促進されることが期待される.