著者
伊丹 敬之
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.11-21, 2008-03-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
4

市場メカニズムは経済的格差を拡大させるプロセスを内包している.したがって,市場メカニズムだけでは社会の中の二極化現象が起きやすい.その二極化現象がアメリカほど起きていない日本で,すでに格差についての議論がかなり注目を集めているのは,経済的格差への社会的許容度が日本ではアメリカなどよりもかなり小さいからだと思われる.
著者
高木 朋代
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.42-56, 2007-12-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
25

これまで団塊世代の大量退職の議論は,雇用促進施策に焦点が当てられてきた.しかし企業は全ての定年到達者を雇用継続できるわけではない.それゆえ雇用のマネジメントは,引退のマネジメントと表裏一体を成している.本稿は,雇用継続者,転職者,引退者の事例分析によって,制度設計だけでなく,雇用の可能性について自ら気づかせるような,働く側の心理に配慮した人事管理の仕組みが,円滑な高年齢者雇用に効果を持つことを示す.
著者
藤本 哲史 新城 優子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.19-28, 2007-12-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
23

本稿の目的は,ファミリー・フレンドリー制度に対して従業者がもつ不公平感について探ることにある.データ分析の結果,以下の点が明らかになった.⑴制度に対する不公平感の平均値に男女差はないが,子どもの年齢が高い者ほど不公平感が高い.⑵上司が部下の仕事と家庭生活の両立に関して支援的な場合,制度に対する不公平感が低下する.⑶不公平感は性別役割分業に対する価値意識の反映である可能性が高い.
著者
野島 美保
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.15-25, 2007-09-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
29

本稿は,仮想世界ビジネスについて,その価値と収益性の関係を中心に論点を整理し,研究上および実務上の今後の方向性を明らかにすることをねらいとする.仮想世界の一種であり商用サービスが早くから行われてきたオンラインゲーム業界を,実証調査の対象とする.ユーザーが知覚する価値として「新奇性」「コミュニティ」「アイデンティティ」が発見され,収益性に最も影響するのは「コミュニティ」であることが示された.
著者
根来 龍之
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.54-65, 2007-09-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
22

本稿は,ネットビジネスの特性を,「情報民主化」の圧力と「市場経済」の圧力の各時点における創造的均衡点として捉える.技術としてのインターネットの歴史は浅く,未だダイナミックな変化を続けている.インターネットはもともと分散型の民主的参加の世界として誕生した.ネットビジネスは,あとから持ち込まれた「市場経済」の論理と誕生の時点から存在する「情報民主化」の圧力の均衡点として存在する.この均衡点は,技術の変化によって変化する.2005年頃から出現したネット第2世代も,技術の変化を受けた新しい均衡点として出現したものだと捉えられる.
著者
延岡 健太郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.4-14, 2007-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
20

優れた技術や製品を開発できたとしても,競合企業に模倣され,持続的な業績に結びつけることが困難になっている.本稿では,模倣回避のメカニズムとして,特許などの法的・制度的な権利獲得と,組織能力の長年の積み重ねの2つがあり,持続的な業績のためには後者が特に重要であることを議論する.また,積み重ねる組織能力の内容として,技術者の学習および,ノウハウが蓄積された製造設備・実験機器,擦り合わせの組織ルーチンの3つが鍵を握ることがわかった.
著者
武石 彰 青島 矢一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.29-39, 2007-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
15

本稿は,製造業のあり方を考えるためのひとつの視点を論じるものである.製品をそれ単独で完結したシステムとしてみるのではなく,より上位のシステムで革新を実現し,個別の製品はその部分としてとらえなおすという視点である.そのような革新をなしとげた過去のいくつかの事例をみながら,この視点の意味合いを考えてみたい.
著者
河田 信
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.40-50, 2007-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
21

プッシュ型からプル型生産へのシステム転換には,組織能力や管理システム(MCS)の抜本的再設計が避けて通れない.とりわけ管理会計を,①プロダクト系のコントロールをピリオド系よりも優先する枠組みとし,②発生主義に基づく会計的利益よりも現金収支差額(キャッシュフロー)を評価尺度として重視し,③伝統的原価計算に「時間軸の要素」を加味してコストを再定義することが必要である.
著者
ハワード・E オルドリッチ
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.4-17, 2007-03-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
90

私は,企業家研究の領域において,社会関係資本と社会ネットワークの概念を用いた研究を行いたいと思う者達を対象にして,これらの概念や原理についての批判的なレビューを行う.私はいくつかの興味深い研究課題とそれに応える方法論について描く.第1に,社会ネットワークを介した社会関係資本の力を示したい.そして,社会ネットワークの潜在的な力は,社会文化的な制約条件のために実現されないことがあることも示す.同類指向,社会的境界,制限された合理性という概念は,社会ネットワークについてのこうした制約条件を検討し,一般的に捉える上で役立ち,そして実際の観察結果を経験的に理解する枠組を与えてくれる.私は,それぞれの概念について論じながら,社会関係資本論と社会ネットワーク論のこれまでの研究を振り返って,これまでの理論的貢献と実証的発見について検討する.
著者
和田 剛明
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.93-102, 2007-03-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
7

魅力的な新製品が開発されながらも,流通がそのリスクを忌避することにより,市場導入が失敗に終わる流通構造があるとするならば,市場機会の損失が起こるとともに,長期的には市場全体の製品バラエティと魅力が減じることとなる.本研究では,家庭用ゲームソフト市場をケースとして,流通におけるリスクとリターンの構造の変化を追い,流通構造が新製品の市場機会遺失を生み,市場全体へ影響を与えることを示す.
著者
中村 洋 岡田 正大 澤田 直宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.60-73, 2006-09-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
35

本研究では,競争優位をもたらす内部経営資源の蓄積・活用と業界構造変化の相互作用を,経時的に変化する業界の利益率の水準及びその分散というフレームワークの下で考察し,業界構造の安定性についての分析を行う.また,事例及びデータ分析を用いて検証を行う.そして,内部経営資源を重視する経営資源・ケイパビリティ理論と業界構造に重点を置くSCP 理論は動学的に補完関係にあることを示す.
著者
浅川 和宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.13-25, 2006-09-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
64

自国の環境劣位を克服し,世界規模で競争優位を確立するには数多くの困難が待ち受けている.本稿ではメタナショナル経営遂行上避けて通れない7つのジレンマを整理し,それらへの対応の重要性を示唆している.またメタナショナル経営に関する今後の研究課題を提示している.理論的基盤が未成熟なメタナショナル研究は,今後関連学問領域からの英知を取り込んだ学際的アプローチが必要となろう.
著者
崎山 治男
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.39-47, 2008-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
26

本稿は,組織と感情との関連で問われてきた,感情労働と自己への否定的効果という疎外論モデルの再検討を通して,感情労働へと人々が動員される機制を分析するものである.まず,感情労働は三者関係で捉えられるべきものであり,クライエントも「感情労働者」として振る舞わざるをえないこと,ならびに,組織が感情を要求しつつ/拒絶するということが,感情労働を職務の魅力と感受させる機制を持つことが示される.
著者
水越 康介
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.83-92, 2006-03-20 (Released:2022-08-05)
参考文献数
28

本稿では,沼上(2000)において提起された間接経営戦略の可能性が考察され,その精緻化が試みられる.その結果,間接経営戦略は,意図せざる結果を意図的に取り込む戦略としてではなく,意図せざる結果を利用することによって可能になる戦略として捉えなおされる.この認識は,消費者を企業にとっての決定的な他者として捉えるマーケティングの視点を強調し,またその意義をふまえることで導かれる.
著者
楠木 建 阿久津 聡
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.4-18, 2006-03-20 (Released:2022-08-05)
参考文献数
16

コモディティ化の本質は,競争によって製品やサービスの価値が,価格というもっとも可視性の高い次元に一元化されているということにある.そうであれば,価値次元の可視性を意図的に低下させ,競合製品との比較が困難な状態を構築すればコモディティ化を克服することができるという発想が出てくる.こうした脱コモディティ化の思考に立脚したイノベーションとして「カテゴリー・イノベーション」の概念を提示し,既存研究が主張しているさまざまなイノベーションの概念と相対化する.
著者
金井 一賴
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.15-24, 2005-03-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
23

これまで産業クラスターや産業集積の議論において企業家活動の視点から統一的に分析された研究はほとんど存在しない.既存の産業クラスターや集積の分析において企業家活動は正当な地位を与えられてこなかったということができる.本稿では,企業家活動の議論を再検討することによって,企業家活動と産業クラスター(産業集積)の創造・展開のプロセスとの関係を統合的に分析できることを示す.企業家活動の視点から産業クラスターの創造・展開のプロセスを分析することによってダイナミックな議論が可能となり,産業クラスターに関する新たな理論展開への道を拓くことができる.
著者
齋藤 靖
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.56-65, 2004-09-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
26

本稿では,日米のセメント産業の比較を通じて,技術転換に対する既存企業の適応力に関する日米間の差を説明するためのメカニズムを提示する.既存企業が技術転換に適応できずに競争力を低下させる米国の事例と同じ産業に関して,日本の場合では既存企業が技術転換に適応し競争力を維持している.既存の議論とは異なる「創発的に形成される技術環境」という“産業レベルの視点”を用いることで,日米間のこのような差を説明する.
著者
清水 剛
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.44-55, 2004-09-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
40

本稿では,戦後日本における企業システムの形成・発展過程について,企業の安定性という視点から検討することを試みる.日本の企業システムの特徴が企業とステイクホルダーとの長期的関係にあるとすれば,そのようなシステムの発展・形成過程の背後には企業の存在の安定化があると考えられる.本稿ではまず企業の安定性の変化を把握した上で,労働システムと企業年金システムという二つのシステムを取り上げてこの点を検討する.
著者
小川 進 水野 学
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.52-63, 2004-06-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
16

本稿では,これまでコンビニエンス・ストアの成功要因として信じられてきたものの実際の効果について検証した.「トップと店舗指導員が行う直接対話の頻度」や「ドミナント出店」といったこれまでコンビニの成功要因として語られてきた活動は実際には店舗業績(店舗平均日販)と関係がなかった.以上の発見に加えて,本稿では,大手チェーンが規模優位を発揮して,高日販を実現している可能性を示唆した.
著者
築達 延征
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.24-32, 2004-06-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
25

本稿では,従来の正統的ビジネス・エシックス研究としての規範理論・制度化の限界を指摘し,ヨーロッパ社会哲学・思想を土台にするアプローチを提唱する.具体的には,現象学・社会的構築主義・ハーバーマス・フーコーの方法論による実践診断理論の必要性を説く.実践診断を導く包括概念としてcollective myopia(集合近眼)を提唱する.さらに,組織の現象 学・社会的構築主義的エピステモロジーと規範によるコントロールについても言及する.