著者
藤川 なつこ
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.5-17, 2015-03-20 (Released:2015-06-19)
参考文献数
29
被引用文献数
1

高信頼性組織研究には,組織事故に対して,2 つの対立する見方がある.ノーマル・アクシデント理論では,高度な技術を有した複雑なシステムは組織事故が避けられないという悲観的な見方をするのに対し,高信頼性理論では,組織事故を防ぐことができるという楽観的な見方をする.本稿では,高信頼性組織研究の理論的展開を概観することで,高信頼性組織に内在するジレンマを明らかにする.その上で,理論的統合の方途を検討する.
著者
野中 郁次郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.76-85, 1996 (Released:2022-07-22)

企業組織は,これまでのように情報を処理する構造としてではなく,知識を創り出すプロセスとして概念化されなければならない.組織的知識創造の基本モデルを提示し,暗黙知と形式知のスパイラルを促進する要件について,新たにそのメカニズムを明らかにする.また,今後は一組織の枠をこえて展開されていくであろう知識創造理論の今後を展望し,なぜこの理論が日本から発信されなければならなかったかについても考察する.
著者
中西 和子 立本 博文
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.18-31, 2018-09-20 (Released:2019-01-17)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本研究は,製薬産業における産学共同研究成果の評価を目的として,特許の技術品質(被引用特許数)および開発プロセス品質(出願国数,特許登録)に対する発明形態・出願形態別の効果を回帰分析により検討した.その結果,技術品質は開発プロセス品質に対して強い正の効果を有している事,産学共同発明は技術品質に対して負の効果を有する事が明らかになった.一方で,対象とする疾患領域・技術タイプを選ぶことによって技術品質の高い成果を生み出す可能性がある事も明らかとなった.
著者
嶋口 充輝
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.44-55, 1992 (Released:2022-07-15)

企業が必ずしも利潤や成長に関係しない社会問題にもコミットすべきだという考え方はビジネス界で浸透しつつある.しかし,限られた経営資源の下で,すべての社会的要求に対応することは困難である.本論では,今日,なぜ企業が社会的かかわりを明示化すべきかの根拠を明らかにした上で,多様な社会責任を基本責任,義務責任,支援責任と分け,それぞれの責任分野への社会的かかわり方をマーケティングのコンテクストから議論する.
著者
難波 和明
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.44-50, 1997 (Released:2022-07-22)

軍事用語としての支援は,さまざまな場合に用いられる.軍の部隊は,直接戦闘部隊と支援部隊にわけられ,しだいに支援部隊の比重がたかまっている.西側諸国の軍隊は支援重視型の軍隊ということができ,ロシアの軍隊は中央統制型の軍隊であるといえる.この違いは,政府または支配者が自国の軍隊を信用できるかどうかによると思われる.次に支援―被支援関係が成り立つためには,相手を信用できることが必要であり,相手を信用できなければ,相手の自由を制限し,自立性を低くする統制,服従になる.これは,支援を考察する際の重要な点であると思われる.
著者
深見 真希
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.4-14, 2012-06-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
26

アメリカにおいて危機管理という学問を形成し概念化を進めてきたのは,組織論を中心とする管理科学だが,日本ではそのような理論構築はされていない.そこで,アメリカ危機管理の枠組みを援用して組織の構造と設計の観点から検討すると,危機管理の実行能力を向上させるならば,現場レベルにおける道具的組織設計および,政府レベルにおけるラインの創出が必要であることがわかった.
著者
福島 真人
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.15-24, 2012-06-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
49

本論文の目的は,急患対応システムである救急医療を,危機管理の一つの具体的な組織モデルと見なし,その特徴と問題点を探ることである.従来の臓器別分業体制を超えた救急医療は,緊急時の初療に限定しつつ広い病態をカバーし,他科との協働をその本質とする.だがその内部では,その対象や組織構造について異なる意見が存在する.これらを詳細に分析することで,危機管理型組織が実践面で持つ問題点を指摘し,解決法を探る.
著者
藤本 隆宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.25-35, 2012-06-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
12

東日本大震災によるサプライチェーン寸断に対し,在庫増加,標準部品採用,供給のデュアル化,海外移転などが提案されているが,災害のショックからの心理的過剰反応も目立つ.本稿は,グローバル競争時代の広域大災害に対するサプライチェーン強化策は,競争力(competitiveness)と頑健性(robustness)の両立を目指すべきだと主張する.相対的に小さなコスト負担で,災害からの復旧速度(たとえば2-3週間での全面復旧という目標)を確保する代替的方策として,設計情報の可搬性(design portability)を基礎とした「サプライチェ ーンのバーチャル・デュアル化」を提案する.
著者
谷口 勇仁
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.47-55, 2012-06-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
28

本稿の目的は企業事故研究の構図をもとに,安全文化の理論的特徴を明らかにすることである.企業事故研究の分析アプローチの前提を検討した結果,安全文化は,事故を引き起こさない理念的な組織を想定し,そこから規範的に導出された組織文化を概念化したものであるという理論的特徴を持つことが明らかになった.
著者
長瀬 勝彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.56-65, 2012-06-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
18

本論文では,組織に存続の危機をもたらすようなリスクが過小評価される現象について,リスクを外敵などのリスク1と天災や現代社会のリスクであるリスク2に分類することで説明を試みた.リスク1に適応した人間の認知のシステム1がリスク2には適切に対応できず,人間の認知の中で論理と分析を司るシステム2もまたリスク2に適切に対処できるには至っていないことが原因のひとつである可能性が見出された.
著者
江夏 幾多郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.80-94, 2012-03-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
38

人事システムがある方針を反映する際の首尾一貫性の程度が組織パフォーマンスに及ぼす影響について,統計的に解明した.人事施策の充実度における正規従業員と非正規従業員の間での均等度に着目し,その程度における「基本システム」と「個別の管理分野」のマッチングが中程度の時に組織パフォーマンスが最大化する,という傾向が見いだされた.人事システムにおける首尾一貫性の追求に際しては,機能と逆機能が同時に現われる.
著者
小松 威彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.87-100, 2011-12-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
25

本稿では取引費用理論と資源ベース理論の観点から,半導体製造における統合と分業の問題を取り上げ,両理論の妥当性とその関係について実証分析を行う.データは2006年世界の半導体企業118社387製品を対象としロジット分析により検証を行った.分析結果より,両理論による仮説は支持されその有効性が確認されたが,それぞれの理論による説明力は事業年数別のサブサンプル間で大きな違いがあることが示された.
著者
大木 清弘
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.101-113, 2011-12-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
29

本稿は,多国籍企業における本国拠点の優位再構築が,国際的な機能配置選択に伴う拠点間競争によって促されること,その優位再構築が企業全体の能力向上に貢献することを明らかにするものである.本稿は,これらの論理の妥当性を日産自動車の追浜工場の事例研究から検証した.
著者
水野 学 小川 進
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.35-44, 2011-09-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
22

本稿は,企業間競争を「資源吸引」という視点から議論する.資源吸引とは,当該企業が相手先の限りある経営資源を,どれだけ優先的に自社に配分してもらえているかを表す言葉である.本研究ではコンビニエンス・ストアのセブン-イレブンの事例を通じて,この資源吸引がビジネス・パートナーとの長期的な協調関係から生み出されることを明らかにする.また理論的な課題をビジネス・エコシステムとの比較を通じて議論する.
著者
根来 龍之 釜池 聡太 清水 祐輔
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.45-57, 2011-09-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
28

本稿では,複数のエコシステムからなる製品システムを,パラレルプラットフォーム市場と呼び,その市場特有の戦略的観点について事例分析を通じて論じる.事例分析から抽出されたポイントは以下の5つである.⑴ネットワーク効果のマネジメント,⑵利益格差のマネジメント,⑶セットとしてのプラットフォーム製品のマネジメント,⑷結合プラットフォームのマネジメント,⑸マルチホーミングのマネジメント.
著者
木村 誠
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.58-68, 2011-09-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
17

デジタルゲームは,アーケードゲームとコンシューマゲームに大別される.本稿はコンテンツの権利関係および継承関係と階層性の観点から,デジタルゲームのコンテンツ間関係モデルを導出し,原作・補完コンテンツの移行オプションのパターン化を試みる.デジタルゲームの事業者側が原作・補完コンテンツの移行オプションのデザインの視座を持つことは,エコシステムの構造把握や断続的な業績変化の予測に役立てることができる.
著者
貴志 奈央子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.69-78, 2011-09-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
29

研究開発の対象を拡大することは,変化の激しい業界において不確実性を吸収する機能を強化し,組織の存続可能性を高める.しかし,経営資源の制約により,市場の変化に対し機動性が鈍化する可能性もある.分析では半導体メーカー10社をサンプルとして,米国特許の取得状況から研究開発における探索の範囲と機動性の関係を検証した.その結果,探索範囲の拡大によって,組織に蓄積される知識は多様化していること.しかし,探索範囲の広い組織は,研究開発の機動性を低下させていることが明らかとなった.
著者
鈴木 竜太
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.26-38, 2011-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
47

本論文は,集団レベルのタスクと目標の相互依存性,集団凝集性の個人の進取的行動(proactive behavior)への影響を,研究開発部門を対象とした調査によって明らかにした.調査結果からは,仕事の相互依存性と集団凝集性が高い集団では,そこに所属するメンバーの進取的行動が促されることが示された.また,自律的に仕事が設計されている人ほど,進取的行動が促されるが,目標が集団で設定されている集団であるほど,その影響が強くなることが示された.
著者
井上 達彦 真木 圭亮 永山 晋
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.67-82, 2011-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
41

プラットフォーム・リーダーであるハブ企業は,ニッチのどのような行動を促せばエコシステムを繁栄させられるのか.エコシステムの繁栄のメカニズムを解明する上で鍵となるのが,マルチプラットフォーム環境下におけるニッチの多様な行動で ある.本研究では,相互補完的にエコシステムの健全性に貢献しうるニッチを,プラットフォームへの依存度の動態的な変化から四つに分類し,ニッチの望ましい行動とそれを促すハブ企業の戦略を複眼的に分析した.
著者
奥村 昭博
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.15-25, 2010-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
27

組織学会の活動を振り返り,それが日本企業の経営にどのように貢献してきたかを,戦略論及び組織論の研究と経営実務との関係から考察した.経営知が経営実務家と研究者およびコンサルタントとの交流から発展するとすれば,日本は米国に比べるとその創出性は薄い.今後,日本の組織学会はさらに経営実務との交流を深め,新たな日本の経営理論を作り出すことに努力すべきである.