著者
田中 愼一
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-20, 2006-06-08

明治10年代に,東京府南葛飾郡在住のくみ取り人が本所区在住の地主を相手どって東京裁判所に訴えでた民事訴訟が起こっていた。この事件は第一審で原告側くみ取り人が勝訴したものの,その判決に不服な被告側地主が控訴した第二審では逆転敗訴となったため,さらに上告したが,第三審で敗訴が最終的に確定したのであった。訴訟の前提となる事実関係を再構築したうえで,裁判の進行過程を復元しつつ,訴訟当事者の利害状況を明らかにしようとした。くみ取り人は下掃除代を差配人に前払いしていた。その差配人が地主に罷免され,その地主的所有地には別のくみ取り人が来るようになり,元のくみ取り人は代金を取り戻せないまま,その地主的所有地から排除されたらしく,約束が違うと地主を訴えたのであった。下掃除代を交換価値とする肥料の交換が行われており,訴訟当事者には譲りがたい利害対立が醸成されていったのだった。こうしたことを追究しようとした。
著者
内藤 隆夫
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.29-67, 2012-07-12

本稿では1980年代から90年代中期の石油政策について, 「安定供給」の追求から「安定的」かつ「効率的」な供給の追求への変化, という視点から詳細に考察した。本稿が対象とする時期の石油政策を対象とした歴史研究は, 管見の限りほとんど見出すことはできないが, その中で橘川武郎は, 1980年代後期から90年代中期までを「第一次規制緩和」期, 90年代中期から2000年代初頭までを「第二次規制緩和」期と規定している。しかしこの見方を強調した場合, 1980年代前期と, 80年代中期から90年代中期の固有の意義を軽視することになると考える。その意義とは, まず前者は第二次石油危機を経験した上で平時に戻った時期であるが故に, 何よりも石油の「安定供給」が追求された時期であり, 次に後者は規制緩和あるいはそれを通じた「効率的」供給という新たに浮上してきた目的と, 従来からの「安定供給」確保という目的とのせめぎ合いの中で, 両者に折り合いをつけるべく諸政策が実施された時期である, というものである。本稿では, こうした視角をもとに当該期の石油政策を考察した。
著者
小野 浩
出版者
北海道大学經濟學部
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.68-76, 1995-05
著者
長尾 克子
出版者
北海道大学經濟學部
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.30-45, 1995-06
著者
阿部 智和 宇田 忠司
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.97-135, 2015-06-11

本論文の目的は,質問票調査にもとづいて,国内のコワーキングスペースの実態を明らかにすることである。まず,コワーキングに関する世界規模の年次調査であるGlobal Coworking Surveyを中心に,関連する先行研究を整理・検討した。次いで,国内で稼動しているスペースのほぼ全数に対して質問票調査を実施した。さらに,場の開放性とメンバーの多様性が期待されるドロップイン利用が可能なスペースに着目し,①施設,②運営組織,③戦略,④活動,⑤利用者,⑥成果という6つの視点から相関分析の結果を示した。そのうえで,本調査にもとづくコワーキングスペースの実態に関する概観的な知見を提示した。
著者
須戸 和男
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.29-60, 2007-12-06

今日における経済のグローバル化は,財・サービスのクロスボーダーな取引の増大,高度な情報通信技術の発達により,巨額な国際金融取引・資本取引が可能になったことに伴い,アメリカの多国籍企業や大企業の国際的租税回避行為が増加してきた。 一方,1970年代以降の景気後退に直面したアメリカ連邦政府は,これに対応するため,従来の租税優遇措置を拡大し,さらに多くの新たな租税優遇措置を導入した。租税優遇措置の目的は国内経済の活性化を図り, 国内産業の国際的競争力を高める経済政策であったが, この政策目的を逸脱する租税優遇措置の濫用行為が急増してきた。国際的租税回避行為の増加と租税優遇措置の濫用行為の増加は, 連邦政府の税収減少をもたらし, 巨額な財政赤字を生み出す結果となった。 本稿は,このような国際的租税回避行為および租税優遇措置の濫用行為に対する政府の対抗措置とその効果とその測定について検討すると共に, 租税回避行為を防止するためのあり方について考察を試みるものである。
著者
中西 聡
出版者
北海道大学經濟學部
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.281-298, 1997-09
著者
岡田 美弥子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.229-258, 2014-01-24

本稿の目的は,コミックとアニメ,キャラクター商品の事業間関係に焦点を当てて,日本のマンガビジネスがどのように発展していったのかを明らかにすることである。本稿で提示したアニメ製作会社およびキャラクター商品企業の事例に加えて,本稿に先駆けて行ったコミック事業の分析をもとに考察した結果,日本のマンガビジネスは,3つの事業がそれぞれの強みと制約を補完し合うことでもたらされたシナジーによって発展してきたことが解明された。このシナジーを生み出したのは,コミック事業を担う出版社とアニメ製作会社,キャラクター商品企業が,マンガという資源を用いた事業で試行錯誤を繰り返しながら築き上げていった相互依存関係,すなわちマンガのビジネスシステムである。
著者
岡田 美弥子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.45-64, 2013-06

本稿の目的は,日本のマンガビジネスを牽引し,アニメやキャラクター商品,およびマンガ以外のエンターテイメントに素材を提供してきたコミック事業に焦点を当て,コミックのビジネスシステムがどのように誕生し,どのような機能を有するのかを解明することである。日本におけるコミック事業の歴史および代表的な少年コミック雑誌編集部の事例から明らかになったのは,日本のコミック事業におけるビジネスシステムが2つの仕組みから成り立っていることである。1つめの「マンガ家の発掘・育成の仕組み」は,誌上で実施される作品公募や編集部への作品の持ち込みによって,誰にでもマンガ家になれる機会を与えて潜在的マンガ家の裾野を広げるという機能をもっていた。2つめの「競争による選別・淘汰の仕組み」は,コミック誌上で行われる人気投票すなわち読者の評価にもとづいて,マンガ家を競争させ,質の高い作品を生み出していた。また,これらの仕組みには,コミック雑誌と読者の双方向関係における,読者の評価や読者から生まれるマンガ家志望者の存在が欠かせないことも解明された。
著者
宇田 忠司 阿部 智和
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.67-95, 2015-06-11

本論文の目的は,質問票調査にもとづき,国内のコワーキングスペースの実態を明らかにすることにある。まず,コワーキングに関する世界規模の年次調査であるGlobal Coworking Surveyを中心に,関連する先行研究を整理・検討する。次いで,われわれが国内で稼動しているスペースのほぼ全数に対して実施した質問票調査の結果を,6つ(①施設,②運営組織,③戦略,④活動,⑤利用者,⑥成果)のパートに分けて記述する。そのうえで,先行研究の知見との比較を行いながら本論文の知見について考察する。
著者
岩本 誠一
出版者
九州大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:0022975X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.25-50, 2003-03-31

本論文では、テニスを2項過程として考える。ゲーム、セットおよびマッチを制する確率をそれぞれ直接法および再帰的方法で求める。両プレーヤーの戦力が均衡しているとき、1ゲームは平均して63/4ポイントで決着することになる。
著者
外川 健一
出版者
九州大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:0022975X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.125-140, 2001-05

循環型社会の構築は現在の日本において大きな政策課題である。その意味では自動章のリサイクルに関しても、いわゆる「3R」の「再使用」に関する現状分析が必要となろう。本論文では自動車分解整備業・自動車車体整備業の現状について概観した。近年自動車分解整備業者は、「改正車両法(道路運送車両法の一部改正)」により、定期点検項目の大幅な削減が行われたことや様々な方面からの新規参入の影響を受け、競争が激化している。新規参入者には自動車用品店やGSSなどが多く、その特質としては自動車用品販売をも含めたトータルサービスの一環として整備業(分解整備・車体整備いずれをも含む)を位置づけていることである。自動車車体整備業は大手自動車ディーラーの下請け的な存在として捉えられることが多かったが、ポストバブル不況の深刻化によって多くのディーラーが車体整備部門に内製化を進めた。また、分解整備業同様各種のチェーン形式の企業の参入とサービスの多様化とも相まって、車体整備業も大きな構造変化の中に立たされている。なお、分解整備工場・車体整備工場とも、その立地に関してとくにある特定地域への集中は観察できない。また、本論文では自動車のリース、レンタルについても概観した。自動車リース、レンタルビジネスは、財そのものの所有から、財の持つ「機能」の所有へという発想の転換をバックに今後成長が期待される部門であるが、そのような発想の転換はいまのところ観察されていない。なお、リース事業所およびリース車両数の地域別比較をみると、リース車両台数に関して言えば、関東地域とくに東京都の比重が群を扱いて高い。一方レンタカー事業所およびレンタカー車両数の地域別比較をみると、北海道、沖縄の特化係数の高さが目立つが、これは観光需要によるものが大きい。
著者
宇田 忠司
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.115-125, 2013-06-11

本稿の目的は,コワーキング (coworking) をめぐる議論の整理・検討を通じて,当該概念の規定を試みたうえで,理論的発展の方向性を提示することである。具体的には,まず,近年国内外で注目度が高まりつつあるコワーキングの実践的な展開を概観する。次いで,いまだ理論的考察がほとんどなされていないコワーキングとはどのような概念なのか,関連する既存の概念とどのように異なるのかについて,コワーカーという働く個人とコワーキング・スペースという働く場の二つの概念を用いて検討する。そのうえで,理論的発展に向けた課題として,働く個人や働く場に関する既存研究の系譜にコワーキングを位置づけ,精緻な理論枠組みの構築を図ることと,コワーキングという概念を援用しながら働き方やそれにまつわる実践の再定義を試みている対象に注目し,その実態とメカニズムを把握することを提示する。
著者
諏訪 竜夫
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.243-255, 2014-01

環境経済学の多くの文献では自然環境が持つ生物多様性,独自の生態系・景観等はレクリエーションとして「利用価値」だけなく,それらを利用せずとも認める価値である「非利用価値」も有すると述べられている。一方で最近の環境評価研究では,明確なミクロ経済学的背景を持つクーン・タッカー・モデル(KT)等の顕示選好法の発展が著しい。しかし顕示選好法は弱補完性の前提から,非利用価値を評価することが困難である。それを踏まえ本研究では表明選好法であるCVMを北海道東部の知床国立公園に適用し,この住民の「知床国立公園へのレクリエーション目的での立入が禁止された状況下で,公園内の自然環境を保全する政策」に対する支払意志額を評価した。この調査結果から地域住民は知床の自然環境保全にその利用が不可能な状況下でも価値を認めていることが示された。この結果は自然公園での弱補完性の不成立と非利用価値の存在の正当化を意味している。よって今後の自然公園等に関する環境評価研究では,KT等の最新の顕示選好法にCVM等の表明選好法を援用することによって,非利用価値の評価を行うことが重要であるといえよう。