著者
湯川 雅紀
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.523-533, 2014-03-20 (Released:2017-06-12)

ゲルハルト・リヒターの抽象絵画は美術教育に貢献することができるのか。本研究は,この点に関して考察を行う。絵画の終わりが喧伝される現代美術において,突然変異的に出現したリヒターは,今までのモダニズム絵画を百科事典的に網羅するスタイルによって,現代を代表する芸術家になった。本論考では,彼の様々なスタイルによる幅広い表現の奥に潜むコンセプトに迫りつつ,それが現代の美術教育にどういった意味をもたらすかを明らかにする。そして,授業実践を通じて彼の絵画は,抽象絵画を体験的に理解させるための有効な手段であることが確認され,さらに抽象絵画全般の理解につながる題材開発の可能性を示唆し,さらなる教育的広がりを予感させるものとなった。
著者
平野 智紀 鈴木 有紀
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.275-284, 2020 (Released:2022-04-01)
参考文献数
11

本研究では,対話型鑑賞のファシリテーションにおける「どこからそう思う?」という問いかけの意味について,「どうしてそう思う?」と比較する授業を小学校段階において設計・実践し,データをもとに検証した。教員と児童の発話分析およびふりかえりシートの分析から,「どこからそう思う?」という問いかけにより,子どもたちは作品の表現内容に根拠を求めることができるとともに,教員が子ども同士の発言をつなげてコメントする回数が増え,さらに鑑賞を深めることが可能になっていたことが示唆された。
著者
高林 未央
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.217-228, 2009-03-21 (Released:2017-06-12)

漫画表現において幾多も存在する漫画技法の中でも,背景技法は時間や空間,感情,雰囲気など多彩な効果を持ち,様々な方法で使われている。本論では漫画を鑑賞し,読み解くための手がかりとして,まず,漫画技法における背景の歴史と役割を考察し,現代の漫画で使われている背景技法の種類や特徴を示した。次に現代の漫画の四作品について,背景技法における作品ごとの傾向や割合を調べた結果,物語の方向性や傾向,時代,作者によって割合が違ってくることを明らかにした。そして附属中学での授業実践や大学院での予備的な模擬授業を踏まえ,漫画の背景に着目した中で,同一図柄に対し背景技法を変化させた資料を見せることで背景技法の効果を理解させ,制作へと移る授業モデルを提案した。
著者
平野 智紀 会田 大也
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.375-386, 2016 (Released:2019-08-26)
参考文献数
17

本研究では,六本木アートナイト2015をフィールドに,大都市型アートプロジェクトに「地域」という文脈を付与したガイドボランティア養成プログラムの成果を明らかにすることを目的とする。これまでアートプロジェクトにおいて,「地域」の視点と「アート」の視点はともすればコンフリクトを起こしうるものであった。本研究では対話型鑑賞のトレーニング手法を用いてこれにアプローチする。対話型鑑賞は美術鑑賞教育実践であると同時に,関係性の中から価値を見出すリレーショナルアートの実践でもある。養成プログラムを通してガイドボランティアは,六本木という「地域」について理解するとともに,対話型鑑賞の方法論を学び,「(リレーショナル)アート」に関する理解を深めることができていたことが示唆された。
著者
高橋 敏之
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.197-209, 2003-03-31 (Released:2017-06-12)

Most researchers are opposed to exhibitions or contests for children and students because of the educational inappropriateness, however, they are held in Japan all year round and also awardoriented or commercialism doesn't disappear. When an exhibition or contest is just for praising the expression activity, there is no problem. Therefore, an exhibition or contest which truly admires children's originality and informs the artistry of forming works and the diversification of expressive style should be held by the teacher who has good common sense.
著者
新井 哲夫
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.27-44, 2014-03-20 (Released:2017-06-12)

本稿の目的は,創造美育運動に関するイメージの混乱を整理し,事実に即したより正確な定義を導くことにある。そのために,これまでに流布している創造美育運動に関する代表的な4つの言説を取り上げ,文献資料及び先行研究の成果に基づいて検証することにより,事実関係を明らかにすることを試みた。その結果,「(1)創造美育運動とは,創造主義美術教育を啓蒙,普及しようとする明確な意思に基づいて行われた,戦後の日本における美術教育の改革運動であり,その組織や運動の形態には創造美育協会設立の前と後とで質的に大きな相違がある」こと,及び「(2)創造美育運動の基本理念である創造主義美術教育は,久保貞次郎が欧米と日本の児童画の比較研究から得た知見をもとに,ホーマー・レイン,フランツ・チゼック,北川民次らの思想や実践に学び,構築したわが国固有の児童中心主義の美術教育である」ことを明らかにした。
著者
石山 徹 田中 彰夫 池田 るり子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.79-91, 2014-03-20 (Released:2017-06-12)

美術との係わりが強い描画学習は,他の教科学習と比べて個人差が大きな傾向にあり,そこでの能力差は,個々人の才能や感性の要素で語られることが少なくない。学習科学の分野でも,描画学習を科学的に分析・考察することは難しく,科学的な描画研究はなかなか進展していない。本研究は,近年の科学的な絵画・描画に関する知見を基に,描画学習が他の学習と比べて,どのような特異性を有するかについて考察するとともに,描画学習の機能的な展開可能性について検討する。
著者
奥本 素子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.93-105, 2006-03-31 (Released:2017-06-12)

従来,感性的側面ばかり強調されていた美術鑑賞教育を教育科学的に分析し,協調的対話式鑑賞法の可能性を探る。対話式美術鑑賞法はアメリカの認知心理学者であり,美学者でもあるアビゲイル・ハウゼンが教育科学的に開発したプログラムが元になっている。ハウゼンの開発したプログラムを分析していくと,そこには対話式という学習法に必要不可欠な,協調と概念変化という視点が乏しい。対話式学習,そして鑑賞学習において協調と概念変化と言う学習視点の重要性を指摘し,その二点を組み込んだ新たな協調的対話式鑑賞法という仮説を提示する。
著者
烏賀陽 梨沙
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.123-135, 2014

本稿の目的は,近年のアメリカの美術館教育の現状を文化的,教育的,社会的枠組みの中で位置付け,美術館教育の発展にはどのような要因が影響しているかについて,社会的・経済的視座もいれ多角的に分析・考察することである。1990年代以降を中心に,筆者の過去の調査・研究をもとにニューヨークの美術館の実例や先行研究の例から分析する。事例に即して検討した結果,1980年代後半から1990年代の財政困難期,美術館はその脱却方策を模索したが,そこに二つの方向性がみられた。一つは外部資金(公・民)を積極的に取りにいくこと,二つ目は教育的プログラムやサービスの充実に美術館の焦点が移行することである。こうして美術館教育の発展に,資金援助側の戦略的助成方針など外的要因も関係するようになる。また,近年の認知心理学の進歩も相乗し,美術館に関連した新しい学習理論がうみだされ美術館教育の方法論の充実へとつながり発展を助長した。
著者
市川 寛也
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.43-56, 2015

本稿は,アートプロジェクトによる学びの有効性について考察することを目的としたものである。アートプロジェクトの現場では,鑑賞者が制作のプロセスに参加することによって,一人ひとりが創造的な主体性を獲得していく事例を見ることも少なくない。ここでは,完成された作品を視覚的に鑑賞することとは異なる新たな美的体験が生み出されている。本論では,参加型芸術の理論的な背景を明らかにするとともに,アートプロジェクト《放課後の学校クラブ》の運営を通して実践研究を行った。現代美術家の北澤潤によって構想されたこのプロジェクトでは,子どもが主人公になる「もうひとつの学校」がつくられていく。その結果として出現する場は,アートによる開かれた学びの可能性を提示する。
著者
髙林 未央
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.199-211, 2020 (Released:2022-04-01)
参考文献数
46

本研究は,美術教育における漫画の扱い方について,観相学を応用したキャラクター造形を軸として検討し,提案するものである。 はじめに,美術教育における漫画の立ち位置を確認し,これまでの研究を振り返り,成果と課題を確認した。 次に,テプフェールの『観相学試論』を読み解き,現代のキャラクター造形にもその思考が生きていることを確認した。そして学習マンガの中により顕著にキャラクター造形手法が使われていることを,学習マンガの人物描写から明らかにした。 最後に,キャラクター造形手法から学校教育への展開として,ロマン主義の絵の読み解き,マンガのリテラシー,社会科歴史分野との接点の計3種類の応用方法について提案した。
著者
烏賀陽 梨沙
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.123-135, 2014-03-20 (Released:2017-06-12)

本稿の目的は,近年のアメリカの美術館教育の現状を文化的,教育的,社会的枠組みの中で位置付け,美術館教育の発展にはどのような要因が影響しているかについて,社会的・経済的視座もいれ多角的に分析・考察することである。1990年代以降を中心に,筆者の過去の調査・研究をもとにニューヨークの美術館の実例や先行研究の例から分析する。事例に即して検討した結果,1980年代後半から1990年代の財政困難期,美術館はその脱却方策を模索したが,そこに二つの方向性がみられた。一つは外部資金(公・民)を積極的に取りにいくこと,二つ目は教育的プログラムやサービスの充実に美術館の焦点が移行することである。こうして美術館教育の発展に,資金援助側の戦略的助成方針など外的要因も関係するようになる。また,近年の認知心理学の進歩も相乗し,美術館に関連した新しい学習理論がうみだされ美術館教育の方法論の充実へとつながり発展を助長した。
著者
笠原 広一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.159-173, 2012-03-25 (Released:2017-06-12)

多様な価値観や差異が増大する社会では,理性的コミュニケーションが有効である一方,近代の理性中心的な合理主義の弊害を越えるべく感性的コミュニケーションが求められる。理性と感性の統合は美的教育の歴史的重要テーマであった。それには単に操作的統合ではなく,矛盾する概念相互の動的緊張関係を伴う統合の具体的方法が必要である。近年の感性研究の中で,気持ちの繋がりを質的心理学的の視点から「感性的コミュニケーション」として研究する理論に注目した。それに依拠することで,「気持ちの繋がりと喜びを感じる実践」「自発性と遊びから始まる実践」「感性と理性を往還する多様な共有方法」「実践者の感性的かつ理性的な省察」が芸術教育実践の新たな指標として導きだされた。
著者
吉川 登
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.441-452, 2011-03-20 (Released:2017-06-12)

鑑賞学の基礎理論として筆者が提示した研究論文「行為としての鑑賞-鑑賞学の序章としての鑑賞行為の分析-」(平成4年度)の内容を再検討することによって,鑑賞学の基礎理論の充実・補強を図る。特に,第5章鑑賞の思考レベル:「考えること」では,具体的な画像読解の手法を提案した。また,平成4年から平成22年までに公表された「鑑賞学実践研究」の成果を背景にして,鑑賞学の特色および有効性について論究した。
著者
相田 隆司
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-12, 2000

This thesis is to consider the standing of comics in art education in junior high school through examples from the classroom from which I was able to catch a glimpse of the students expressively describing their daily lives using comics. In trying to achieve richness in children's creative expression by allowing them to use comics, it is important, first of all, to give them a positive perception of comics and make them realize they can express themselves through this medium. I would further like to emphasize that art education should extract the overwhelming breadth and depth from the so-called "comic culture" and define its status as well, centering around the theme of the expression of children.
著者
長井 理佐
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.265-275, 2009-03-21 (Released:2017-06-12)

本研究では,中学生以降の対話型鑑賞における目的を再検討するとともに,その目的に向けどのように対話鑑賞の場を構築すべきかについて提言する。目的の見直しに際しては,ハーバーマスの「生活世界」の概念を援用し,対話型鑑賞の場を,日常知のストックとしての生活世界を組み替える場として位置づけた。鑑賞の場の構築については,主に,テート・モダンにおける鑑賞プログラムや筆者の授業実践に基づき,(1)従来の美術の枠内でのジャンル分けを脱構築したテーマ別鑑賞の有効性,(2)学習者とは異なるコンテクストを対話の場に導入する必要性を論じた。