著者
河野 令二
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.203-214, 2004

After the war, art education aimed to acquire a wider perspective. This was reflected in the acceptance of modern art. Accepting modern art, art education moved toward a new approach. Practice through modern techniques was considered a new kind of art education. But such practice was misunderstood and severely criticized just because it was a new style. Noriaki Fujisawa and Morikazu Katsuta repeatedly put it into practice in order to remove the misunderstandings and to search for a new way of art education. Mr. Katsuta was searching for some significance as fundamental education in those practices. On the other hand, in connection with children, Mr. Fujisawa came to move towards a new art education that would lead to an improvement in children's expression, playing and imagination. In addition, he, on the basis of an idea of post-war democratic education, planned for art education with a wider perspective, and he went on practicing to make alterations in the former art education.
著者
徐 英杰
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.283-291, 2014

本研究は,中華人民共和国成立後,1950年代から60年代にかけて,初等・中等教育の急速な拡大普及を目指す改革期における美術教員養成の位置づけとカリキュラムの特色を明らかにするものである。建国初期の教員養成は,中華人民共和国教育部がソ連の制度をモデルにして作成した美術教員養成課程のカリキュラム(教学計画)に基づいて進められた。本研究ではそれらの新カリキュラムと中華民国時代の旧カリキュラムとを比較しながら,小学校教員養成(図画科目),初級中学校教員養成(芸術科),高級中学校教員養成(図画製図科)の,それぞれの段階における制度と内容を明らかにし,ソ連の影響と中国文化の伝統の中で独自の美術教員養成を模索した当時の状況を指摘した。
著者
栗山 裕至
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.205-212, 2017 (Released:2019-09-03)
参考文献数
12

青年期の絵画作品を分析対象とし,心理検査法の一つであるバウム・テストの解釈に用いられる空間図式による図像解釈や構図・構成の分析を行い,さらにインタビューを通した検証を行った。制作時の調査対象者の精神状況が空間構成に特徴的に反映していることが確認され,作者の意識のあり方と画面空間構成との関係を読み解く手がかりとして,空間図式が有効である可能性を示すことができた。
著者
本村 健太
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.245-255, 2002-03-30 (Released:2017-06-12)

With the idea of integration of art, unification of art and technology, and teaching the whole man, the historical Bauhaus is still actual today.The purposes of this study are as follows: - Rethinking of the Bauhaus as a design movement of social reform and practice of wholistic education through art. - Finding new subjects for art and education in the multimedia age. - Focusing not only on technological argument and methodology, but also on cultural argument and ideology for research of `the expression through multi media'.The view of `techno culture' (e.g. club-scene, Love Parade, VJ) shows a new life-style with the unification of art and technology. It is important for art education in the future that techno culture as `sub culture' is sensitive to the spirit of the times, encourages experimental trials and proposes a new life-style.
著者
池内 慈朗
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.65-79, 2009-03-21 (Released:2017-06-12)

本論考では,「感性」というあいまいさを含む概念を解釈すべく,海外の諸領域での異なったアプローチから感性を様々な角度より浮かび上がらせ検討を試みた。(1)「言語と思考」の研究からの解釈,サピア-ウォーフ仮説,文化と言語の関係,(2)J.J.ギブソンのアフォーダンス理論と,ネルソン・グッドマンの流れを受け継ぐガードナーの考えをもとに,シンボル・システム理論との関係について考察した。(3)アナロジー,メタファーは抽象的な情報を抽出し,その類似性を比較し事象の「見立て」「意味づけ」の対応づけである。アナロジー,メタファーは感性を引き出すのに重要な役割があり,イメージ・スキーマはそれらが働く前段階であり,カテゴリー化による構造化された知識と,それを創造的に用いようとする我々のimaginationが見出せる点が明らかになった。日本人特有の「感性」についても考察した。
著者
普照 潤子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.347-358, 2007

本論では,わが国においてこれまでほとんど知られることのなかった,ハンガリー人亡命者たちによる反ナチス運動に参加したモホリ=ナギの1940年代の活動を手がかりとして,彼の亡命体験の歴史的苦悩と,その中で,彼がいかに豊かな芸術の哲学と芸術教育学をアメリカに提示したのかを明らかにした。そしてそれらは,バウハウス教師たちの亡命体験を成功物語として一面的に解釈してきたこれまでのバウハウス受容研究の中では,解明できなかったものであった。
著者
牧野 由理
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.427-439, 2017

本稿は明治初期に開設された島根県師範学校附属幼稚園(現・島根大学教育学部附属幼稚園)の図画教育について検討したものである。保姆による明治期の保育記録を読み解き,図画教育に関連する手本や絵画の分析を通して考察した。その結果,箸環排などの直線や曲線を用いた手技を関連させながら図画を行うことで輪郭線を理解させるような方法論をとっていたこと,談話や唱歌といった他の領域と画方を関連させようとしていたこと,浮世絵などの色鮮やかな図版を多数所有し,中には保姆による手描きの動物図・人物図が含まれていたことが明らかとなった。
著者
初田 隆
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.321-333, 2007-03-31 (Released:2017-06-12)

「大人のぬり絵」がブームとなっているが,出版されている塗り絵は,絵柄も多岐にわたっている他,脳の活性化や絵手紙,写佛などとつなかった展開も見せている。しかし一方で,子どものぬり絵は児童の創造性を損なうという理由で美術教育の立場からは批判にさらされてきている。では何故現在,大人のぬり絵が支持されているのだろうか。本稿では,大人のぬり絵ブームについて考察するとともに,子どものぬり絵について改めて検討し,今日におけるぬり絵の意味や意義を明らかにする。そしてそのことによって現代の「美術」および「美術教育」を問い直す視点を得ることを目的とする。考察の観点は以下のとおりである。(1)大人のぬり絵を支える層(2)大人のぬり絵の効果(3)子どものぬり絵についての諸見解(4)子どものぬり絵と創造性(5)ぬり絵概念の拡張(6)日本文化とぬり絵
著者
岡田 匡史
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.139-150, 2010-03-20 (Released:2017-06-12)

筆者は,A.アレナスが卓抜たる対話形成スキルをもって行い,日本では上野行一が主導的に理論整備し普及を図る,対話型鑑賞の妥当性の及びうる範囲・限界を検討し,その射程を越えた部分をカバーしうる指導形態として読解的鑑賞を考える。本稿目的は,この読解的鑑賞のための準備的論察を固めることである。メソッドを継ぐ1人,岡本芳枝の識見を参照する所から論を起こし,次いで作品鑑賞の年齢段階・習熟差を,A.ハウゼンやM.パーソンズの発達説を振り返り,実践者の考えも踏まえることで確かめる。その結果,創話主体の対話型鑑賞は,内省優位で言語能力・情報活用力を培うべき中学校段階では課題多き点が明らかとなる。網・螺旋状構造の対話型鑑賞と対照的な,E.フェルドマンの階梯型批評メソッドも吟味し,中学生を主対象とする読解的鑑賞(別稿準備中)の必要性を説く。
著者
石崎 和宏 王 文純
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-13, 1997-03-31 (Released:2017-06-12)

The purpose of this study was to analyze various problems of the definition concerned with the aesthetic development, of the methodology, and of the developmental stage model. The method of the consideration was the critical examination of the pertinent literature on the development of aesthetic sensitivity. The focal point of this study was the developmental issue of aesthetic sensitivity as a fundamental ability in the aesthetic development. With the methodology on the developmental study of aesthetic sensitivity, this study examined some problems of the methodology of Parsons. With the developmental stage model, two hypotheses of Parsons (1987) and Housen (1983) were compared. This study directed its attention to the interactive relationship between cognitive aspect and emotional aspect in the development of aesthetic sensitivity, and the sequence and the developmental factor in the developmental stage. Particularly, as for the developmental factor, recent investigations have suggested the viewpoint related to the inborn character, and the learned character. In the light of recent empirical researches, the influence of the inborn character appears remarkably until adolescence, and there is a high correlation between developmental stage and age. After then, the influence of the environment appears strongly, and it should be noted that culture, training, and learning promote the development of aesthetic sensitivity remarkably. From now on, how we evaluate the environmental factor in art education is thought the subject that should be discussed concerning the hypotheses of the development of aesthetic sensitivity.
著者
有田 洋子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.1-14, 2006

本稿は,美術鑑賞教育において複数の解釈を検討させることに意義があることの証明を目指している。まず,複数の解釈の存在様態を分類表にして全体像を示し,さらに吉川と金子の所論を基に,複数の解釈を検討させる授業過程モデルを作った。次に,複数の解釈が共存する事例として,北斎「富嶽三十六景・駿州江尻」の構図解釈説を検討し,それを踏まえて行った実践の結果から,複数の解釈を検討させる鑑賞教育の意義を確認した。
著者
立原 慶一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.281-297, 2011-03-20 (Released:2017-06-12)

本稿はWebサイト上に公開されている鑑賞教育指導案を可能な限り調査・収集し,批判的に考察しようとする。その際,鑑賞体験を形づくる鑑賞行為の四要因が,分析するための視点として設定される。この四契機こそ学習指導要領美術編(以下「要領」と略す)〔2・3学年〕B鑑賞(1)が鑑賞体験の本質に対する洞察と,それに基づく鑑賞能力観を形づくっているものに他ならない。それは近接学問分野にはない,美術教育独自の見識を示している。それぞれの類型における典型的な指導案例を対象として,各契機の有無と教育作用の様態を究明することによって,各類型に分別されるべき根拠を明確にした。事例ごとに教育的有効性を論評するとともに,契機が欠落することによって起因する問題点,及び改良すべき点を明らかにした。
著者
高橋 愛
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.219-231, 2006

本研究では,中国文献を基にし,先行研究と兼ね合わせて,未だ日本では広く認識されていない連環画の変遷とその描写方法について考察している。連環画の特徴には,主に文学の発展とともに発達してきたため,描写よりも文が先行する場合があることが挙げられる。それは,国語的な要素が強く,教育性が高いと言えるが,そこに描写された挿絵は,白黒のものも彩色が施されたものも,挿絵の技法として非常に美しい。そういった挿絵は,美術的な流れを汲んでいるため,美的なものとして捉えることができる。こういった流れは,現代の中国の絵本にも共通点として見出せた。そして,このことは今後,中国の絵本を見ていく際の貴重な手がかりとなり得よう。
著者
上西 知子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.81-97, 2009-03-21 (Released:2017-06-12)

本稿は,美術教育が表現教育や鑑賞教育にとどまらず「自己理解」を担う教育であることを明らかにするために,コラージュ画制作後のインタビューの「語り」をテキストとする「制作経験調査」結果の考察から,コラージュがなぜ「自己理解」へとつながり易いのかについて検討する。コラージュの制作過程では,制作者が切断された不連続な「断片」を「試行錯誤」を通じて「再構成(綜合)」し作品を作る。その「作品」について制作者が「語る」中で,作品の中の「不連続性」を「創造的解釈」によって一つの「物語」としてつなげようとする時,自分の記憶や期待が浮かび上がり,その意味を理解しようとすることが「自己理解」につながることが明らかになった。
著者
高嶋 忍
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.253-264, 2015-03-20 (Released:2017-06-12)

需要減少や後継者難により伝統工芸産業全体が衰退しているといわれる現在,各地方自治体では様々な普及活動が行われている。産業として衰退しつつある「伝統工芸」を守り普及するための取り組みは,教育と文化に関わる現在的問題である。伝統工芸は,現行の学習指導要領で取り上げられているように美術教育における課題の一つであり,また地域文化の育成という意味では社会教育的課題である。本稿では伝統工芸の普及活動の事例として赤穂緞通を取り上げ,各地域の普及活動と比較する。そして目的は,中学生が職場体験として伝統工芸を体験する意義を探り,伝統工芸の現状と課題を考察することである。その結果,赤穂緞通の工房は技術の伝承に成功し,地域文化を学ぶ場を提供している一方で,普及活動を行う上で,行政との関係に改善の余地があることも明らかになった。
著者
奥本 素子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.93-105, 2006
被引用文献数
3

従来,感性的側面ばかり強調されていた美術鑑賞教育を教育科学的に分析し,協調的対話式鑑賞法の可能性を探る。対話式美術鑑賞法はアメリカの認知心理学者であり,美学者でもあるアビゲイル・ハウゼンが教育科学的に開発したプログラムが元になっている。ハウゼンの開発したプログラムを分析していくと,そこには対話式という学習法に必要不可欠な,協調と概念変化という視点が乏しい。対話式学習,そして鑑賞学習において協調と概念変化と言う学習視点の重要性を指摘し,その二点を組み込んだ新たな協調的対話式鑑賞法という仮説を提示する。