著者
山下 暁子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.511-522, 2014-03-20 (Released:2017-06-12)

美術科教育の目標に含まれる「情操」とは何を意味しているか。「情操」を豊かにするための,人間の基本的な機能である「感性」について,風景,環境世界,自己形成をキーワードに,哲学や教育心理学,乳幼児精神医学の文献を参照して考察を行う。自己形成や自己変容の能力を人間が生れながらに本来備えている能力であるとする,D.N.スターンの「自己感」という概念から「感性」の機能を捉え,風景や環境世界の捉え方と関連づけて説明することで,自己形成や自己変容に働きかける「自己感」の機能と,感性や芸術の感受との関係について明らかにした。
著者
新井 哲夫
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.27-44, 2014

本稿の目的は,創造美育運動に関するイメージの混乱を整理し,事実に即したより正確な定義を導くことにある。そのために,これまでに流布している創造美育運動に関する代表的な4つの言説を取り上げ,文献資料及び先行研究の成果に基づいて検証することにより,事実関係を明らかにすることを試みた。その結果,「(1)創造美育運動とは,創造主義美術教育を啓蒙,普及しようとする明確な意思に基づいて行われた,戦後の日本における美術教育の改革運動であり,その組織や運動の形態には創造美育協会設立の前と後とで質的に大きな相違がある」こと,及び「(2)創造美育運動の基本理念である創造主義美術教育は,久保貞次郎が欧米と日本の児童画の比較研究から得た知見をもとに,ホーマー・レイン,フランツ・チゼック,北川民次らの思想や実践に学び,構築したわが国固有の児童中心主義の美術教育である」ことを明らかにした。
著者
日野 あすか
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.319-330, 2005-03-31 (Released:2017-06-12)

There are few people who understand about the fine arts and the molding education currently performed in the schools for the visually impaired. There are two reasons for this. One is the subconscious that blind children and plastic act are not connected. Another is that there is little information about them. In this research, a questionnaire to survey the lesson was administered to the person in charge of fine arts and molding education in schools for the visually impaired all over the country. Moreover, a questionnaire and other investigations were conducted also for the blind. By comparing the two, I would like to grasp the actual conditions and consider the future of fine arts and molding education of the visually handicapped children.
著者
岡田 匡史
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.135-149, 2009

本稿では,西洋=異文化を基本観点とし,旧版より新版が引き継ぐ,『中学校学習指導要領』第6節美術B鑑賞(1)ウの「美術を通した国際理解」を主たる根拠に,絵を指導媒体とした西洋理解の在り方を考える。生活形態の欧米化,衣食住の均質化(グローバリゼーション)が進むと,何となし西洋(The West)が解った気になるが,深層は掴みがたい。深層とは,キリスト教的精神性(メンタリティ)(信仰態度に換言可),つまり"Christianity"で,依然異文化である(米国留学体験[1982-85年]でそう痛感した)。そこで,キリスト教美術にかつて求められた教化的働きを教育機能の一種と捉え,「キリスト教美術(殊に宗教画)による西洋(異文化)理解」を提起することが,本稿眼目となる。リップハルト男爵説によりレオナルド帰属がほぼ確定した,瑞々しさ溢れる初期傑作,「受胎告知」を鑑賞対象とし,テキスト(宗教画ゆえ新・旧約聖書)とキリスト教図像学を両輪とした諸解釈を調べ,筆者自身の解釈も示しながら,教材研究を構築。そこを経,フェルドマン提起の4段階批評方式に則る"Instructional Resources"を参考に,指導範例を述べる。
著者
初田 隆
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.321-333, 2007

「大人のぬり絵」がブームとなっているが,出版されている塗り絵は,絵柄も多岐にわたっている他,脳の活性化や絵手紙,写佛などとつなかった展開も見せている。しかし一方で,子どものぬり絵は児童の創造性を損なうという理由で美術教育の立場からは批判にさらされてきている。では何故現在,大人のぬり絵が支持されているのだろうか。本稿では,大人のぬり絵ブームについて考察するとともに,子どものぬり絵について改めて検討し,今日におけるぬり絵の意味や意義を明らかにする。そしてそのことによって現代の「美術」および「美術教育」を問い直す視点を得ることを目的とする。考察の観点は以下のとおりである。(1)大人のぬり絵を支える層(2)大人のぬり絵の効果(3)子どものぬり絵についての諸見解(4)子どものぬり絵と創造性(5)ぬり絵概念の拡張(6)日本文化とぬり絵
著者
王 文純 石崎 和宏
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.465-476, 2009-03-21 (Released:2017-06-12)

本研究の目的は,1)鑑賞スキルの熟達化は学習によってどのくらい促されるかの検証,2)習得した鑑賞スキルが作品探究の方策として機能するかについての検証,3)鑑賞スキルの熟達化における転移のかかわりの明確化である。方法は,大学生への学習プログラム(5ユニット)を開発し,その調査結果の量的分析と事例分析による考察である。その結果,学習プログラムによる鑑賞スキルの熟達化は,熟達化の三つの指標値の有意な高まりで示された。また,鑑賞スキルは,その学習後に支援がなくても能動的に活用され,作品を探究する方策としての機能が確認された。そして,鑑賞スキルの熟達化か認められた場合,全体として鑑賞スキルの転移もうまくいっていた。ただし,学習者の資質に応じて転移の詳細は事例ごとに異なるものであった。
著者
下口 美帆
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.241-254, 2004-03-31 (Released:2017-06-12)

The purpose of this study is to consider Hans Hofmann's view of art education. His art theories and practices had a great influence on American Abstract Expressionism in the 1930's〜1940's. I considered the interrelationship between his art theories and artworks as an artist and his educational practices as a teacher. In addition, he taught his students how to acquire their way of thinking to find their own expression. As a result, his students developed their own expressions and became principal members in the American art scene represented by Abstract Expressionism.
著者
木村 英憲
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.199-210, 2010-03-20 (Released:2017-06-12)

生徒が自分なりの表現を探求することを促すために,鑑賞活動と連携した実技指導について考察する。鑑賞活動と表現活動の連携では,鑑賞活動において主題と表現形式を結び付ける作家の方法を学び,表現活動で自分なりの方法を模索することが重要と考えられる。美術作品の変遷を鑑賞することで,作家の探求した主題と表現形式の関連は理解が容易になる。本稿では,モネ《睡蓮》連作を題材に鑑賞し,複数の水彩風景画制作へとつなげる教材の開発を試みた。授業実践の結果,生徒はモネの主題表現の探求を活かし,主観的な表現で試行錯誤して主題の探求を行うことができた。
著者
平野 智紀 三宅 正樹
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.365-376, 2015-03-20 (Released:2017-06-12)

本研究は,対話型鑑賞で観察される鑑賞者の成長という現象と,それがどのようにして促されるのかを,ヴィゴツキー以降の学習理論,具体的には正統的周辺参加理論(レイヴとウェンガー)と認知的徒弟制の理論(コリンズ)に基づいて明らかにした。鑑賞場面で生起する参加者の全発話をテキスト化し,先行研究をもとに学習支援に関する発話カテゴリを設定して定性的に分析した結果,対話型鑑賞場面ではファシリテーターの学習支援が徐々に鑑賞者に移譲され,さらに鑑賞者同士でお互いに学習支援を"わかちもつ"ことで鑑賞者が成長する現象が確かめられた。さらに対話型鑑賞場面では個人の美的能力の発達よりも"場"としての共同的な発達が促されている様子も明らかになった。
著者
田中 幸子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.301-313, 2016

本稿は拙論『映画と芸術教育の接近(1)』に続く実践報告である。高校の芸術教育での映画作品の鑑賞の教育的意義を明らかにし,検討・作成した授業案をもとに,実践した内容を考察する。授業は,映像・映画史入門パートと鑑賞・分析パートで構成される。考察では,二つの仮説を検証するために,分析パートで実施した生徒たちのスケッチと文章記述を比較データとした。仮説は,(A)鑑賞及び分析を通して語彙は拡大する,(B)鑑賞及び分析を通して着眼点の多様化・拡大が見られるとした。映像用語の活用が見られるか,自らの美意識によって作品の全体から一部を選び出しその表現について制作者の意図・映像表現技法・鑑賞者側へ与える印象や影響について記述をしているか,という点を前・中・後期で比較する。
著者
谷口 幹也
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.245-257, 2006

本論文では,「今を生きる私」の多層性に着目した美術教育の重要性を提案している。「近代の自由な個人」に関する検討を行った後,砂澤ビッキ,川俣正ら二人の作家の営為の比較から,美術教育における主体イメージの変更の必要性を導きだしている。そこで「アイデンティフィケーション」に着目することを通して,美術における体験を「境界空間」として問いただし,他者とともに新たな現在を創る協働作業に取りかかるための基礎的な場として,美術教育を再定義する必要があると結論付けている。
著者
笠原 広一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.159-173, 2012

多様な価値観や差異が増大する社会では,理性的コミュニケーションが有効である一方,近代の理性中心的な合理主義の弊害を越えるべく感性的コミュニケーションが求められる。理性と感性の統合は美的教育の歴史的重要テーマであった。それには単に操作的統合ではなく,矛盾する概念相互の動的緊張関係を伴う統合の具体的方法が必要である。近年の感性研究の中で,気持ちの繋がりを質的心理学的の視点から「感性的コミュニケーション」として研究する理論に注目した。それに依拠することで,「気持ちの繋がりと喜びを感じる実践」「自発性と遊びから始まる実践」「感性と理性を往還する多様な共有方法」「実践者の感性的かつ理性的な省察」が芸術教育実践の新たな指標として導きだされた。
著者
ふじえ みつる
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.383-397, 2004

The National Visual Arts Standards formed in 1993, changed art education in the U.S. The standards have been promoted by NAEA, supported by the Federal Government. Those standards are constructed of both the contents standards and the achievement standards, and have discipline-centered features derived from DBAE. The 18 abilities, acquired through art learning, proposed by the Getty Center and based on the standards, show some specific artistic abilities for available assessment. Bat, the division is too complicated. The issue of operation of the standards should avert interfering with local autonomous traditions and the individuality of each child's development.